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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

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雲のヌシ釣り~対決! ナラカのヌシ!~

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第四章



「――どうでしょうか?」
「今年も美味しいですぅ!」
「うん、悪くないわね」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が作ったトマトフォンデュの味を見たエリザベートとミツエの二人は、微笑を浮かべて頷いた。
「よかったー! これね、私も作ったんだよー」
自慢げな小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、これも食べてーとつみれ汁や漁師鍋、刺身を差し出す。
「淡白だけれどこういうものにも合うのね」
「去年とはまた違って、美味しいですぅ」
「これも、美味しいじゃない」
「でしょでしょ! 腕によりをかけたんだからー!」
「お口に合ってよかったです。私、皆さんにも持っていきますね」
ベアトリーチェも安心したように胸をなでおろして、鍋を抱えると皆が集まっている方へと持っていく。
「ミツエさーん」
そして、それと入れ違うように朝野 未沙(あさの・みさ)がやってきた。
「ねぇねぇ、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「何?」
「うん、少しだけミツエさんに手伝ってもらいたいんだー」
「私にできることならいいわよ」
「ヌシをお刺身にしたんだけどね、どの器もしっくりこないの。だからね、ミツエさんに器になってほしいんだ」
「へっ?」
とんでもない未沙の提案に、思わず頓狂な声を上げるミツエ。
けれど未沙は冗談のつもりはないらしい。お願い、と両手を合わせると、窺うように首を傾げて見せた。
「ミツエさんならきっと刺身も美味しそうに見えるだろうし……食欲も上がると思うんだよね。ね?」
「な……」
「何を言ってるんですか、ダメです」
絶句するミツエの代わりに答えたのは優斗だった。
「こんな屋外で、しかも人がこんなにいるところでそんなことはダメですよ」
「な、何よぉ。私はミツエさんに……」
「ミツエさんも同意するはずないでしょう。それにせっかくの新鮮な刺身なんです。そのままが一番に決まっています」
「だから、もっとおいしくするためにミツエさんに……」
「諦めるですよぅ、お刺身はともかくそんなミツエは見たくないですぅ」
「引っかかる物言いね。……でも、悪いけど私も同意だわ。折角だから新鮮なままの美味しいお刺身が食べたいもの」
「えー、つまんないなぁ」
不満げに口をとがらせた未沙は、けれど渋々納得したように普通の皿に刺身を盛ることにしたらしい。
「やはり止められたでしょう?」
苦笑しながらそう問うたのは孫 尚香(そん・しょうこう)
「だから言ったのに」
「でも、ヌシを釣り上げたテンションでいいって言ってくれると思ったのになぁ」
「まぁまぁ、それでは私は劉備様たちにお料理を振舞ってきますね」
盛り終わった刺身をさっと取り、軽い足取りで劉備たちの元に向かう尚香に未沙は再び口をとがらせる。
「自分だってゲンキンなくせに……」

「はい、できましたよ」
「サンキュー」
「これでしばらくの間安心だね!」
ベアトリーチェに捌いてもらった魚を氷術で持ち運べるようにしながら、エヴァルトは礼を言った。
これだけ人数がいても食べきれないほどのヌシやクモサンマを、持ち帰り用にしてもらったのだ。
「悪いが次は俺のもやってくれないか」
「はい、少しお待ちくださいね」
牙竜もクモサンマを指しながらそう頼み、いつの間にか灯っているキャンプファイヤーの傍にいる雅を見てため息をつく。
「ったく……気楽なもんだぜ。誰のせいではるばる釣りに来てると思ってるんだ」
「ふふふ、仲がよろしいんですね」
「そう見えるか?」
「はい。あ、時間がかかりますのでよかったらお鍋でも食べながら待っててください」
「あ、悪いな」
「さっきアンノーンさんも色々作ってくれていましたから、いっぱい食べて行ってくださいね」
「ああ、そうする」
「ベアトリーチェちゃん、これ持ってくね」
「あ、はい、お願いします」
すでに作ってあった料理を運んでいた美羽が、最後の大皿を抱えてみんなのところへと足早に持っていく。
「みんなー! お刺身の追加できたよー!」
そう、美羽が笑顔で告げたその時、潮風が吹き抜けた。
両手もふさがっている、その状況でミニスカートが踊るのを押さえることができるはずもなく。
それを目の当たりにしてしまった男性陣は一様に目を逸らした。
けれど、美羽はにっこりと笑んで皿を置くと、可愛らしい笑みを浮かべて低く言い放った。
「見た奴、あとで鉄拳制裁ね」
うふふ、と笑う美羽に、今度は底冷えするような風が吹き抜けた、ように感じた。

「さ、皐月。刺身は『活け造り』で食べるのが美味しいと聞きました! よかったら食べてください!」
皆と料理を楽しんでいた皐月の元に来た雨宮 七日(あめみや・なのか)は、ずいっと皿を差し出した。
「活け造り? すごいなぁ、食べる食べる」
嬉々として箸を伸ばした皐月は、けれど一切れ持ち上げたところで動きを止める。
それは確かに『お造り』だった。形状こそ刺身だった、のだが。
不自然にびくびくと動いていたのだ。
「これは……」
「生きているように動く刺身、ということだったので……ネクロマンサーとしての力を使って作ってみたのですが……」
「うーん、七日。これはちょっと違うかな……」
「えっ!?」
「活け造りっていうのはな……」
皐月から本物の活け造りについて聞いた七日は、途端慌てた様子で頭を下げた。
「え、そ、そうだったんですねごめんなさい! うううううう……」
小さくなる七日に苦笑した皐月は、箸で掴んだままの刺身を口へと運んだ。
「え、さ、皐月?」
「んー、動くのはちょっとあれだけど、美味いよ。頑張ってくれたんだろ? ありがとな」
「あ、ありがとうございます……!」

「……ほら、輝夜。頑張ってください」
「で、でも」
「らしくないですねぇ。ほら、行ってらっしゃい」
皐月と七日のやり取りを遠巻きに見ていた緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、エッツェルに促されて皐月の前へと歩み出た。
「さ、皐月」
「あ、輝夜。どうしたんだ?」
「私も作ってみたんだけど、味見してくれないかな」
「マジで!? せっかくだから食うよ」
「あ、うん」
「へぇ、フリッターか……うん、美味いよ」
「ほ、本当か!?」
「うんうん、頑張ったな。それともまぐれか?」
「なっ、一言多い!」
そんなこと言うなら食うな! と皐月から皿をひったくった輝夜に、皐月は慌てたように笑顔を向ける。
「冗談だって、普通に美味いよ!」
「お世辞はいらない」
「お世辞じゃねーって! ……あ、ほら、せっかくうまいんだからみんなで食おうぜ!」
な? と陽太たちを振り返るが、陽太とエリシアは首を振った。
「経過報告の途中で寄っただけなので、今回は辞退します」
「あれ、帰っちゃうんですか?」
「ええ、せっかくですけど、みなさんだけで楽しんでくださいな」
「そっか、残念だな。でも用事の途中なら引き留めるわけにもいかないか。気をつけてな」
「はい、それじゃあまた」
「お気をつけて」
皆の誘いを丁寧に辞去すると、陽太たちは踵を返す。
「あれっ、帰るのですかぁ」
焼き魚を手に皆の輪に戻ろうとしたエリザベートに声をかけられ、陽太は振り返る。
「はい、今回はお暇します」
「すぐナラカにとって返す予定ですの」
「……ナラカに、ですかぁ」
「はい! 俺は絶対に環菜を地上に連れ戻します!!」
だから今は休んでいる暇などない、と。
強い眼差しで告げた陽太に小さく頷いて、エリザベートは小さく手を振った。
「気をつけて行くですよぅ」
「はい!」
大きく頷いて頭を下げ、その場を後にする陽太たちを、エリザベートはしばらく見送っていた。
「……何をしてるのよ?」
そんなエリザベートの背後から、ミツエの声が問いかけた。
「別に、何でもないですぅ」
「そう? せっかくなんだから輪に戻った方がいいんじゃない、校長さん?」
「…………」
そう言われ、エリザベートは皆の方へ視線を移す。
日が落ち、キャンプファイヤーに照らされる皆の顔はいつになく充足感に満ち、楽しそうだ。
学校やクラスなど関係なく、酒やジュースを注ぎ、鍋をつつき合っている。
それを見て、エリザベートは小さく口角を上げた。
たまにはこういうのも悪くない。
「……ま、たまにはこういうのも悪くないわよね」
口にしようとした瞬間ミツエに同じことを言われ、エリザベートはぱっと視線を上げる。
「こっちの台詞ですぅ」
「何よ、こういうのにこっちもそっちもないでしょ」
つん、として視線を逸らしたミツエは、ぽつりと呟いた。
「まぁ、今回はみんなでヌシを釣り上げたから引き分けってことにしてあげるわ」
「なっ、何ですか偉そうにぃ!」
「来年は!」
憤慨するエリザベートにビシッと人差し指を突き付け、ミツエは不敵に笑って見せた。
「……来年は私が勝つわよ」
「望むところですぅ」
その台詞にエリザベートもにっと口角を上げる。
そして二人は暫く見つめ合ったかと思うと、同時に顔を逸らしてそれぞれパートナーやみんなの元に戻るのだった。


『実在したナラカのヌシ、それはどうして訪れたのか。深い謎が取り巻いている。
……けれどヌシは釣り上げられたのだ。今はただ、戦士たちの休息。
大きなそのヌシを味わいきるまで、夜通し宴は続くのだった……』

大げさなBGMが割り入り、リリィの無駄に雰囲気をつくった声でのナレーションが入る。
BGMの余韻が残ったままカメラがフェードアウトし、雲海を写す。
そして最後に、沈んだ太陽の代わりに現れた一番星が、静かに皆を見守っているのだった……。



担当マスターより

▼担当マスター

奏哉

▼マスターコメント

こんにちは、奏哉です。
まずはじめに、リアクション公開が遅れてしまって申し訳ありません。

今回はみんなで釣りをするシナリオでしたね。
エサの人も釣り人も、いろいろなアクションがあって楽しませてもらいました。
サイコロ判定は目の大きさによって大物が釣れるというものでしたが、狙った大物には出会えたでしょうか。
狙ったように釣れるのも、釣れないのもまた釣りの楽しみというもの。
みなさんそれぞれ、楽しんでいただけたら幸いです。
今回も楽しい執筆でした、ありがとうございます。