天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

リアクション公開中!

酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

リアクション


第10章 ドゥルジと謎の石

「おにーちゃん、石というだけじゃ漠然としすぎて、いろんな事件がありますー」
 それこそ線路に置石とか、お店に石投げてガラス割ったとか。
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、検索で何百と出てきたタイトルを見て、悲鳴のように声を上げた。これらに全部目を通していたら、10年経っても終わりそうにない。
 後ろでパソコンをつついている影野 陽太(かげの・ようた)に、降参とばかりにパッと手を挙げて見せた。
「ここ2年程度に絞って。それより前は、大事件以外は見ないでいいよ。発見したとか発掘したとか、写真付きの記事を優先的に探してみて」
 モニターに釘付けになったまま、手も止めず、陽太はぼんやりと返事を返す。
 ノーンは知識がないため、もっぱら一般紙面での記事検索を担当しているが、陽太は蒼空学園内の内部資料へのアクセスを試みていた。
 だが、メール事件や洞窟への少女救出作戦の報告書はあるが、そこで発見された不審物を持ち帰った記録はない。メール事件は、一部生徒によるただのイタズラ事件で終結している。
(削除された?)
 ファイルの更新日付は両方ともメール事件の10日後だ。
 なんらかの発見があって、石は機密のランクが上がったと見るべきだろう。
 念のため、ざっと検索をかけてみたが、石に関する記述は一切見つからなかった。
 宝物室に保管されている物品一覧にも記載はない。とはいえ、ここに表示されているのは外部資料として公開してもよいとされた一部であって、全部ではないだろうが。
 ふむ、と腕を組む。
 メインコンピュータへのアクセスは、校内のパソコンではまず無理だ。あちらは別系統のコンピュータで、ほぼ完全に外部からのアクセスはシャットアウトされている。空調基盤等末端から接触しようとしたところでたどりつけるとも思えない。玄関を使わず窓から侵入しようとするのと同じだ。有無を言わさず蹴り出される。
 ではここまでか?
「力の消失した石と、力を保っている石と…」
 洞窟で発見された時点では、石は謎の物ではあったものの力が失われていたせいでただの石でしかなくなり、機密にはならなかった。証拠物品として提出された物は、どこへ行くか? 保管庫だ。そこで一定期間保管されたあと、処分するか引き続き保管するか選別されるのだろうが、まだ石は保管期間だったはずだ。
 数カ月後のメール事件では、力が失われていない状態で発見された。ここで初めて、石の機密が上がったわけで。
「……宝物室と保管庫の管理は、同じ部署でされてるのかな」
 あっちは最重要機密でこっちはただの記録簿。その可能性は低い。
 保管庫の記録データにアクセスしてみると、こちらは宝物室ほど厳密な処理はされていなかった。石との記述はないが、洞窟事件の同日に何かが保管された記録がある。ナンバーD-0055681。
「D-0055681についてサーチ、と」
 保管室の管理者がずさんな人であることを願いながら、陽太はその線で追ってみることにした。
「おにーちゃん、おにーちゃん、こんなのあるよー?」
「んー? ちょっとあとにしてくれる?」
 陽太はすっかり自分の捜査に没頭していて、ノーンにとりあおうとしない。あとでこのやりとりを言っても、覚えていないだろう。
「ぷーっ」
 頬を膨らませて、ノーンは部屋の反対側に腰かけている正悟に走り寄った。
「正悟ちゃーん。これ見てー。
 あっ、電話のお邪魔だった?」
 ピ。携帯を切る正悟。
「いや、留守だったから大丈夫」
 シラギさん、神主さんほか、祭りで知り合ったおじさんおばさんたち。1人もつかまらない。
 妙に留守が多い気がしたが、平日だからあり得ないことでもないだろう。もう少し時間が遅くなったら、もう一度かけてみよう。
 嫌な予感を、正悟は意識的に押しつぶした。
「それで、何?」
「うん。これ」
 プリントアウトした記事を見せる。
 それには、12年前にアトラスの傷跡付近であった大規模な戦闘について書かれていた。
「これがどうしたの?」
「ここにね、変な文章があるの。えーと「山頂近くで謎の男が龍騎士らしき一団と戦っていたのを目撃したという者がいる――」ようはね、その男の人は、龍騎士たちの放った魔法でバラバラに砕かれて、散っちゃったんだって。「一団が去ったあと、わずかに破片が残っていたけれど、どう見てもそれはその辺りに転がっている石と区別がつかなかった――」
 これって、関係あると思う?」
「大アリだろうな」
 というか、謎がさらに増えただけに思えて、正悟は椅子に背を押しつけた。そのままズルズル背凭れをすべる。
 机の上には、割れた2つの石。
「その謎の男がドゥルジとしたら、龍騎士並の力がないと倒せないってことか。――いや、倒してないか、こうして現れてるんだから」
「違うよぉ、正悟ちゃん」
 ち、ち、ち、とノーンが立てた指を振った。
「砕かれて、散っちゃったんだよ、アトラスの傷跡から。たぶん、風に乗ってシャンバラ中に。
 ドゥルジくんは、その石を探してるんじゃないかな?」