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 イルミンスールの森を歩いている時に、
 洒落たベストを着たクロネコさんを見つけたら、大急ぎ。

 
 
 
 
 クロネコ通りへいらっしゃい
 
 
「クロネコ! あれを捕まえれば好きなときにクロネコ通りに行けるじゃん」
 イルミンスールの森でクロネコさんを見かけた如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は、大急ぎで追いかけ始めた。
「ふん、なるほどな」
 それも面白そうかと、ジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)は光学迷彩で姿を隠すと、玲奈とは別方向からの回り込みを狙う。
 クロネコさんは追いかけられていることに気づいているのかいないのか、脇目もふらずに走ってゆく。
 ほってりとした体つきをしているのに、その足は速い。
 懸命にその後を追いかける玲奈とジャックにレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)はやれやれと思った。レーヴェ自身はクロネコさんに特に興味はないのだけれど、この2人を放っておいたら何がしでかしそうで心配だ。
 仕方なく、クロネコさんを追う2人の後をレーヴェもついていくことにした。
「よし、行き止まりに追いつめた。捕まえちゃうもんね〜」
 玲奈が念の力で押さえ込みにかかると、ジャックはクロネコさんを捕獲しようと飛びかかった。
 けれど、クロネコさんは茂みにすっぽり飛び込んで姿を消してしまう。
「たしか……何だっけな?」
 クロネコさんを追いかける時の呪文があったはず、と考えて、ジャックは大声で叫んだ。
「トランプ! スランプ! クランプ!」
 そのまま茂みに飛び込めば、いやというほど小枝に引っかかれた。
「ジャック、それ間違ってるよ。ワープといったらあれしかないよね!」
 玲奈は自信満々に唱えて飛び込む。
「テレポ! テレポート! テレポーテーション!」
 がさがさばきばき。
「痛いよ〜」
 やっと追いついたレーヴェは、茂みから這い出てきた玲奈の髪に刺さった小枝を取ってやりながら教えた。
「どちらも間違ってますよ。正解は『トラップ、トリック、トリップ!』です」
「分かった。『トラップ! トリック! トリップ!』」
「ああ、レナ、もう遅いで……」
 レーヴェの忠告よりも早く茂みに飛び込んだ玲奈は、再度茂みに引っかかれることになったのだった。
 
 
 空気が冷たく澄んだ森では、何か面白いことが起きそうな気がする。
 散歩がてらに面白いこと探しをしようとイルミンスールの森に来た七刀 切(しちとう・きり)は、目の前を走ってゆく変な黒猫ゆる族に出会った。
 そんな話をどこかで耳にしたことがあるような……と切が考えていると。
「トラップ・トリック・トリップ!」
 トランス・ワルツ(とらんす・わるつ)がそう唱えて、切と黒之衣 音穏(くろのい・ねおん)の腕を取った。
「なんだ?」
 音穏は面食らっているけれど、切はクロネコ通りの噂を思い出した。
 そうだ、確かあれは。
「トラップなんとかかんとか? ……いてぇ!」
 トランスに引っ張られて茂みにつっこんだ切は、盛大に顔をひっかかれて慌てて身を起こす。
「あれ?」
 起きてみれば、さっきまで腕にあったトランスの手の感触がない。どころか、トランスも音穏も見あたらない。
「おかしいなぁ」
 付近を探してみたけれど、やはり2人の姿はなかった。
「やっぱりクロネコ通りの噂は本当だったんだねぇ」
 呪文を間違えた自分は置いて行かれてしまったらしい。
「まぁ、そのうち戻ってくるかねぇ」
 切はのんびりと言うと、近くにあった木に身体を凭せ掛けた。2人がいつ戻ってくるのかは知らないけれど、それまでここで昼寝でもして待っているとしよう。
 
 
 イルミンスールの森でクロネコさんを見かけたエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は、追いかけながら呪文を思い出そうと必死に考えた。
 けれど元来の無口。それを口に出す前にクロネコは茂みに姿を消してしまう。
「……あ」
 足をゆるめかけたエメリヤンだったけれど、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)がその腕を取った。
「トラップ・トリック・トリップ!」
 軽やかに唱えると、そのまま茂みへとつっこむ。
 反射的に目をつぶったけれど、茂みは2人を傷つけない。
 目を開ければそこには、見知らぬ通りがあった。
「……ここに来たかったんでしょ?」
 弟の願いは出来るだけ叶えたいのがお姉さんだから、と結和はきょとんとしているエメリヤンに笑いかけた。
「さて、一緒にお買い物しようかっ。何を見に行く?」
 魔法の本、衣類、装飾品等々欲しいものはたくさんある。
 結和とエメリヤンはさっそく、目に付いた店へと入っていった。