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酷薄たる陥穽-シラギ編-(第2回/全2回)

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酷薄たる陥穽-シラギ編-(第2回/全2回)

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■エピローグ

 治療を受けて回復した六黒は、記憶のほとんどを失っていた。ぼんやりと、水を通して見る景色のように、断片的なシーンがときおり浮かぶだけで、意味を理解しきれない。
「わしは……一体…」
「むくろ、わるく、ない…」
 沙酉が上着の端を握って首を振っていた。
 その頬にも服にも土がついている。六黒を止めようとして、何度も蹴られ、殴り飛ばされた跡だ。
「わしがしたのか……すまん」
 沙酉は懸命に首を振る。
「むくろ、エネルギー、つかわなかった。ころしたり、しなかった」
 どんなに邪魔をしても、自分にだけはあの力をふるったりしなかった。
 沙酉は、しっかり六黒にしがみつく。
「そうか」
 軽く頭をなで、そして途中でその手を止める。
「ふん、わしもまだまだであったわ。
 だが、わしはわしの修羅道を、決して捨てはせぬ…」

『ただ貪欲に力のみを欲する。何のために? そのことにどんな意義がある?』

 六黒はふと、そんな言葉を聞いた気がして、海を見た。
 海はただきらきらと水面を輝かせているだけだ。
 首を振り、彼はこの地を去った。


「本当にここに落としたのか?」
「この辺りだったと思うんだけど…」
 シラギから船を借りて、ルカルカ、ダリル、垂は海を覗き込んでいた。
 なにしろ教導団の石は、力を使い切ってしまった。それ以外にも持ち帰ると約束してしまった以上、なんとしても手に入れるしかない。機密品の無断借用がバレたら銃殺ものだ。
「あっ、あれじゃない? あの棒みたいなやつ!」
「……よかった…」
 垂が、一気に脱力した。
 そして今度は、冬の海に素もぐりするのはだれか? で互いに押しつけあい始めたのだった。


 そんな海の上での騒ぎを尻目に、崖の上。
「〜〜〜〜〜♪」
 六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)は上機嫌で、鼻歌を歌っていた。
 その手元には、しっかりちゃっかり森でドゥルジが砕けたときにかすめ取った小石が置かれている。
 ちらとそちらに視線を投げ、手袋をした指でころころさせると、再び沖の方を向く。
 午後の風が心地よく、髪を吹き流していた。



 ほかの者たちは、海岸を離れ、まず神社に向かった。
 六黒から、彼がそこで何かしたらしいことを聞いていたからだ。
 そこで怪我をして気絶している正悟や綺人たちを連れ、岩山へと移動する。
 岩山付近の空き地では、レキやイチルたちが忙しく村人の治療を続けていた。
「シラギさん!」
「みんな、わしのせいでしんどい思いをさせたの」
「いいえ、いいえ」
「もとはといえば、私たちのせいで起きたことですから…」
 シラギはあっという間に村人に取り巻かれてしまった。
 ずっと手を握って歩いてきたミシェルは、ちょっとさみしげに人の輪を見つめている。
「僕たちはあちらでみんなのお手伝いをしよう」
「はい、佑一さんっ」
 ヒールやナーシングが使える者、救急箱を持参してきていた何人かが中心となって、救急活動に参加する。
 村の再建を申し出る者も何人かいたが、今からでは本格的な冬には間に合わないということで、冬の間村人たちは町に出た子供や孫の家に身を寄せることが既に決まっていた。
「じゃあ暖かくなったら、お手伝いに来ます」
「待っとるよ」


 全てが終わった。
 みんな、戦いの緊張から解放されて、陽気になっている。
 だれも、ドゥルジのことを口にしない。
 だが、口にしないだけで、何人かはドゥルジの最後について考えているのをオルベールはうすうす気づいていた。
(ドゥルジ……「お父さん」って、ちゃんと呼べたじゃない…)
「死なないで、ドゥルジ…」
 オルベールは世界中に向かって祈る思いで、ぎゅっと胸の前で手を握り締めた。



 はたしてドゥルジは、死んではいなかった。
 体の各所が砕け、結合もうまくいっておらず、その姿は到底人とは呼べないものと化していたが。
 例えるならば、クモの巣状の亀裂がいくつも入った石膏像とでも言うべきか。
 そんな姿で、遺跡の通路を、どうにか歩いていた。
 パラパラ落ちる石の破片も、ドゥルジの体を引きずるような歩みにすら追いつけないほど戻りが弱い。

 遺跡の入り口をくぐってから、何時間もかけて、ようやくアストーのいる玉座の間にたどりつくことができた。
「石を、持ってきたよ、母さん…。これで復活できるかも、しれない…。
 そうしたらまた、3人で……一緒に…」
 もう何も見えないが、母はきっとうれしそうにほほ笑んでくれているだろう。
 そう確信し、足元で力尽きて倒れるドゥルジ。



 アストーがほほ笑んでいたかは、だれも知らない。
 なぜなら、その玉座に座る石像は、胸部から上が崩れ去ってしまっていたのだから…。

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 今回、初の前後編を書かせていただきました。
 テーマは伝わっていただけたでしょうか?

 いろいろ書きたいことはあるのですが、それはまた後日マスターページでさせていただくことにします。
 いまは書き終わったばかりでなんだかとりとめのないことしか浮かんできません。


 それでは。
 ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回もまたバトル物になりそうですが、そちらでもお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。