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リアクション
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)と紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)は、貴重なお茶を分けてもらったお礼を言いに、百合園の雪見庭園に立てられたパーティ会場を訪れていた。その手には、市販品ではあるがケーキを持っていた。
そこで出迎えてくれたのは、赤毛の機晶姫と、緑の髪の機晶姫。今日はクリスマスだからか、2人ともそれらしい装いだ。ニーフェ・アレエは緑色のワンピースに、白いボアで縁取られた可愛らしい姿に頭にはトナカイのヘアバンドをつけている。
姉のルーノ・アレエはその妹に隠れながら、ぎこちない笑みを浮かべていた。
「あの、お茶のお礼がてら参加させていただきました。これは、今日のみなさまでお召し上がり下さい」
「ありがとうございます。緋桜 遙遠、紫桜 遥遠」
「まだ始まったばかりです、ゆっくりしていってくださいね」
にっこりと笑う緑の装いのトナカイは、さっと姉の傍から離れると、ルーノ・アレエは泣きそうになりながら胸元と足を隠そうとした。
珍しいミニスカート姿に、2人はにこやかに微笑む。
「よく似合ってますね」
「素敵ですね、ルーノさん」
「は、はい……あ、あ、ありがとう、ございます……」
黒い頬を真っ赤に染めながら、お礼を言う姿は機晶姫と言うよりも年相応の女性の姿だった。
「そういえば、宴とはどんなことをするのですか?」
「宴と言っても、本当にささやかなものなのです。紅茶で乾杯をするというだけの、ほんの些細なもので、文献にもお姫様と騎士様が互いにカップを掲げて、挨拶をした、としかないんですよ」
説明をはさんだのは、エレアノールだった。髪の毛と同じ青いドレスに身を包み、白いボアで縁取られていた。2人の機晶姫とならぶと、本当に姉妹のように見えた。緋桜 遙遠はにっこりと微笑むと、メモを閉じた。
「そうなのですか。何かこう、もっと色々あるのかと思いました」
「難しいのは、紅茶の製法です。飲み方も普通の紅茶と同じで……こんなにたくさん作ったのに、全部配っちゃうんですもの。作った本人も、それを望んでいたようですからどうかだいじに飲んであげてください」
「ええ。勿論!」
紫桜 遥遠も赤い瞳を細めて微笑む。しきたりについて一通り聞いて回ると、それ以上のことはえられなかった。
乾杯の仕方と、丁寧な入れ方程度。本当に、気持ちが大事なイベントなのだ。
「恋人だけではなく、家族としてという逸話は驚きでしたね」
「うん。でもお姫様と騎士様はやっぱり兄弟より、恋人のほうがいいです」
くすくす、と笑っている紫桜 遥遠に、緋桜 遙遠も微笑んだ。
そして、あ、と声を漏らすとパーティ会場を後にした。
「もう、帰るのですか?」
「ええ。ですが、帰る前に皆さんにプレゼントをいたしましょう」
緋桜 遙遠の微笑みに、紫桜 遥遠も思い当たり、にっこりと笑った。
氷術を空高々と2人で打ち上げると、それにさらに魔法を打ち付けて細かい氷を空から降らせる。風邪の魔法もあわせ、柔らかな雪を作り上げて空から降らせていく。
「わああ!! 見てください、ベア! 雪ですよ、雪!」
「ん? ああ、こりゃ遙遠たちがやってるみたいだな」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が氷の窓の外にある雪景色に偉く感動していると、サンタ姿の雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は空に魔法を打ち上げている2人の姿を見つけた。
それを、エレアノールとルーノ・アレエもにっこり笑って見つめていた。
「すてきなプレゼントね」
「ええ。本当に綺麗です」
「このくらい打ち上げれば、小一時間は大丈夫でしょう」
「ええ。それじゃ、家でゆっくりこの紅茶を味わいましょう」
ゆっくりと降り積もっていく雪を満足げに眺めながら、二人は家路へと急いだ。
一刻も早く、2人の絆をより深める子のお茶を、味わいたいと思っていたのだ。
パーティの人の数も増えてくる中、ニーフェ・アレエとルーノ・アレエの下に見慣れた少年、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が懐かしい魔法学校の制服姿で駆け込んできた。
その後ろには、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と、『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)も一緒だった。
「遅くなった、すまないな」
「ケイさん! あれ、その制服……」
「ああ、実はこの間転校したんだ。もともと、メイガスの修行がメインだったから、それが終わってすぐに転校して……」
「そうでしたか、それはお疲れ様でした。もう学校で会えなくなるのが寂しいです」
少しさびしげにルーノ・アレエが笑うのを見て、緋桜 ケイは申し訳なさそうに頭をかいた。
「悪い、二人もばたばたしてて、言い出しづらくって」
「そんな」
「ケイ、今日は宴だ。あまり長くそのような話をするものではないぞ。これらは、交換会用のプレゼント。こちらは、おぬしら2人にな」
そういって、背後のつつみではなく小さなディスクを二つ、それぞれに渡した。
「エレーネの驚愕という同人CDでな、教導団におる機晶姫のCDよ。おぬしらのような存在であっても、人々とつながりあい、パラミタ各地で日々たくましく生きておる。このCDは、その一つの照明であろう?」
「……そんな素敵なものを、ありがとうございます。悠久ノ カナタ」
「いつか、逢いにいって話しをしてみるのも良いかも知れぬ」
「はい! いつか必ず!」
にっこり笑うニーフェ・アレエの笑顔は、眩しいばかりだった。
交換会用のプレゼントを持ち、たくさんのラッピングされた本の束をくつしたに入れていく。
『同人誌新刊詰め合わせ2020(コミケ○日目仕様)』
「丸の中は、おぬしらの好きな数字を入れるがよいぞ」
「カナタ、誰と話してるんだ?」
遠い目をしているパートナーに声をかけながら、見知った4人の姿を見つける。
「ケイ!」
「お、やっと来たな」
「ケーイ!」
ソア・ウェンボリスと雪国 ベア、ヴァーナー・ヴォネガットが緋桜 ケイに向かってかけていく。セツカ・グラフトンは、改めてルーノ・アレエとニーフェ・アレエにお辞儀をしてから歩み寄る。
「ずるいです、ケイ! 先にルーノさんたちに挨拶するなんて! お2人にプレゼントがあるんですよ!」
ソア・ウェンボリスは唇を尖らせると、提げていた紙袋から二つのつつみを取り出して手渡す。
「紅茶のお話を聞いてから、選んだんです。おそろいのティーカップですよ」
早速開くと、中に入っていたのは赤い花柄のティーカップ、そして緑の蔦柄のティーカップだった。デザインは全く一緒で、上品且つ可愛らしい物だった。あまりの嬉しさに、ニーフェ・アレエはソア・ウェンボリスにぎゅうっと抱きしめる。
雪国 ベアはサンタの格好に相応しい巨大な布袋を下ろして、ため息をつく。
「俺は、イシュベルタにも用意してきてやったんだが、あいつはどこにいるんだ?」
「会場にいると思います。緋山 政敏から釘を刺されていたようだったので……」
「ならしょうがねぇか。そら、2人にはイニシャル入りの特別仕様だ」
そういって、差し出されたのは雪国 ベアがプリントされた防止、マフラー、手袋の三点セットだった。
「ありがとうございます、雪国 ベア」
「クリスマスおめでとうなんです。ルーノおねえちゃん、ニーフェおねえちゃん」
ヴァーナー・ヴォネガットから差し出されたのは、大きなつつみと、五つのつつみ。
「え、これは」
「家族みんなで使えるように、早く家族みんなそろうよう祈りを込めたですよ♪」
にっこり笑うヴァーナー・ヴォネガットが贈ってくれた包みの中には、とても長い金銀チェックのマフラーそれとおそろいのクッションカバーや、帽子、手袋などだった。
一人ひとり違うものを作ってあり、ルーノ・アレエは嬉しくてヴァーナー・ヴォネガットの手をとって微笑んだ。
「ありがとうございます。凄く嬉しいです」
「私たちにも、マフラーなんですよ」
「色が似てるな」
「わらわとケイは黒と銀。ソアとベアは金と白だからな」
そういって自慢げに見せてくれるのは、二人一緒にまけるほどの長さのマフラーだった。
これだけたくさんの編み物と、それ以外にも交換会用にかなりの数をそろえてくれていた。中身は見ていないが、きっとあちらも編み物であろう。
ニーフェ・アレエは涙をぽろぽろ流しながらヴァーナー・ヴォネガットに抱きつく。
「ありがとうございますっ」
「喜んでもらえて、すっごく嬉しいですよー」
「それじゃ、俺からのプレゼントもいいかな?」
そういって声をかけてきたのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)だった。パーティらしい盛装をしている姿は、彼らの品のよさを改めて感じさせる。
「はい。気に入ってもらえたら嬉しいんだけど……」
二人にそれぞれ渡されたのは、花のアレンジメント。赤いバラと、白いガーベラ。それに、ヒバと柊をあわせて見事なクリスマスカラーになっていた。
一緒の包みの中には、キャンドル。ガラス製のキャンドル立ては金の縁取りのものと、銀の縁取りのものがそれぞれ入っていた。
「素敵です。いつもこんな素敵なものを、ありがとうございます。エース・ラグランツ」
「それと、ほら。今日は自分で渡すから」
にやりと笑ったエース・ラグランツが腕を引っ張ってきたのは、ぶすっとした顔のメシエ・ヒューヴェリアル。わずかに、頬が赤くなっていた。
「仕方ないから付き合っただけだ。それに、パーティなのにプレゼントなしと言うのも問題だから仕方なく……」
「いいから早くしろってば」
「それにだ、私は兵器に贈り物はしない主義なんだ。兵器は所詮兵器だ。だからお前たちは……ええい、いいから受け取れ」
めずらしくしどろもどろになっているメシエ・ヒューヴェリアルが差し出した小さな箱の中には、金と銀の出来たティアラ。
上品な品物は、小さな宝石がちりばめられていて、身につけるのがもったいないくらいの品だった。
だが、その箱を開けた2人の頭に、メシエ・ヒューヴェリアルはそっとのせてやろうとする。二人は顔を見合わせて、互いの頭についていたものを取った。
身につけていたドレスが、一気に上品なものへと帰られたかのようだった。
「これは、古王国時代、貴族階級の姫たちに人気だったデザインでな……か、勘違いしないように。エースのプレゼントがいつもは名ばかりだから、それでは芸がないからアクセサリーを用意したのだ」
「うんうん。わかっているよ」
「メシエ・ヒューヴェリアル」
名前を呼ばれて、咳払いをしてから振り向く。にこやかに微笑むルーノ・アレエの笑顔を見て、珍しく視線をはずした。
「ありがとうございます」
「……受け取った思いをだいじにしてくれれば、それでいい」
そういって、背中を向けたメシエ・ヒューヴェリアルの表情が困ったようなものになっているのをエース・ラグランツは見逃さなかった。
急に価値観を帰ることは不可能だが、きっとあの姉妹に対しては歩み寄れているのではないか、と。エース・ラグランツは思った。