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なし

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Tea at holy night

リアクション公開中!

Tea at holy night
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リアクション

 エールヴァント・フォルケンが料理のレシピを榊 朝斗やベアトリーチェ・アイブリンガー、神楽坂 有栖から聞きまわっていると、ツリーの下のプレゼントが山のようになっているのに気がついた。

「本当にたくさんあるんだなぁ」
「なんですって!!」

 甲高い声が聞こえたかと思って振り向くと、四谷 大助(しや・だいすけ)がドレスアップしたグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)に怒鳴りつけられていた。

「落ち着きなよ、グリム」

 四谷 七乃(しや・ななの)白麻 戌子(しろま・いぬこ)が一生懸命力を込めて抑えるが、ドレスが引きちぎれんばかりの勢いで、手にした扇で張り倒そうとしていた。

「わ、私たちがどんな思いで!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。せっかくの可愛らしい顔が台無しだぜ? レディ」

 花瓶から拝借したバラを手に、アルフ・シュライアがそんな風に声をかけると、グリムゲーテ・ブラックワンスにウィンクした。そして、口を何度か動かした。
(いいから、話をあわせて)
 それをみて、最初はより一層瞳の奥の怒りの炎を収めた。

「そうですわね。もうこんな男知りませんわ!」
「そうそう。こんな男は放って俺と一緒に映画でも行かない?」

 アルフ・シュトライアがグリムゲーテ・ブラックワンスの腰に手を回そうとする。だが触れないようにしながら、アルフ・シュトライアが耳打ちする。

「(まぁ、適当なところで向こうがついてきたら成功かな?)」
「(なぜ、こんなことを?)」
「(なぁに、こういうおせっかいもナンパ師の楽しみさ)」

 にっこり笑って、外へと連れ出す。そんな2人を見送って、四谷 大助が肩を振るわせる。その様子を見て知っていた白麻 戌子と四谷 七乃は声をかける。

「マスター」
「大助」
「……すまない、オレ、ちょっと行ってくる」

 背中を押すまでもなく追いかけてくれたパートナーに、2人は少し嬉しそうに笑った。

 雪が降っている外で立っていたのは、グリムゲーテ・ブラックワンス一人だった。

「あれ? グリム?」
「大助……」
「……悪い、さっきのは、嘘だ。これ……」

 そういって、ポケットから取り出したのは小さめの包み。開くと、そこにはブラックパールをあしらった銀の髪飾り。翼の形をあしらっており、上品な仕上がりだった。

「お嬢様には安っぽいプレゼントだったかもな……」
「大助……最近のバイトは、もしかしてこのために?」
「ち、違う、そんなんじゃ……これは、その、ほら、いま空京のモールでやってる福引で」
 
 しどろもどろになりながら誤魔化すが、福引は年明けからだと言うのを知っている。
 グリムゲーテ・ブラックワンスはにっこり笑った。

「ええ。ありがとう。この髪飾り、大事にするわね。大助」
「それじゃ、もどろう。ここじゃ、冷えちまうだろ」
「……いつもね、迷惑なんじゃないかなって思ってたの」
「え?」
「振り回してばっかりで……御免なさい」
「……そのくらい、元気なほうがいいさ」

 小さく呟いた言葉に、グリムゲーテ・ブラックワンスは思わず頬を赤らめた。会場に戻るなり、パートナーたちは何事もなかったような顔で出迎えた。

「あ、遅いよ。ほら。そろそろゴスペルが始まる」
「その前に、マスターにプレゼント!」

 白麻 戌子が差し出したのは、最新デザインのスニーカー。四谷 七乃は、手作りのお守りだ。はた、と気がついて、この二人にプレゼントがないことを思い出した。だが、既に察している2人はにっこりと笑った。

「こういうのは気持ちだからね、気にしなくていいよ」
「マスターのために作ったお守りを、マスターに使ってもらえるだけで幸せですっ」

 グリムゲーテ・ブラックワンスは二人のその言葉に、少し恥ずかしくなってしまったが自分もプレゼントの包みを差し出す。

「私からは、時計です。アンティークの品物ですが、使用に耐えられるように直してあります」
「ありがとうな、ワンコ、七乃、グリム……」
「あとで紅茶で乾杯しよう。みんなの息災を願って」

 白麻 戌子がそう呟くと、丁度良く歌声が響き始めた。

「おい、ナンパはほどほどにしろって」

 エールヴァント・フォルケンが、壁際でにこやかに微笑む4人を眺めていたアルフ・シュトライアに声をかける。少しだけその背中がさびしそうだったから、近くのテーブルにあるケーキと紅茶を持ってから話しかけてやることにした。
 おおかたナンパに失敗して落ち込んでいるのだろうが、それでもとりあえず励ましの言葉くらいはかけてやろうと思った。今日は、聖夜なのだから。









 沢渡 真言(さわたり・まこと)は、ティーセットをフル活用してお茶の用意をしていく。出来上がったお茶を運んでいるのは、メイド姿の朝野 未那と朝野 未羅だった。

「紅茶はさすがに大人気ですね」

 浅葱 翡翠が声をかけると、沢渡 真言はにっこりと笑った。

「珈琲もあって助かっています。乾杯のあとは珈琲もたくさん出ているみたいですし」
「ありがとうございます。あ、そういえばマナさんたちが呼んでいました」
「え? わかりました。では、ここをお願いしてもいいでしょうか?」

 頷いた浅葱 翡翠に後を任せ、沢渡 真言はゴスペルをするためのメンバーが集まっている控え室へと向かった。

 そこではティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)のドレスの着付けと、髪型を造りえ終えたマナ・マクリルナーン(まな・まくりるなーん)がいた。
 上品なメイクを施されたティティナ・アリセはまさしく歌姫のような姿だった。

「さて、今度は真言だな」

 タキシードをきっちりと着こなし、髪の毛を撫で付けているマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)が、見慣れないドレスを取り出した。
 深海を思わせるような青いドレスは、マーメイドラインが美しく浅めのスリットが入った品だった。光が当たるとわずかに緑色に輝く。

「ええと。なんですかそのドレスは」
「なにって、真言ようのドレス」
「……何を言ってるのか理解できませんが?」

 若干不機嫌そうな顔になるのをマナ・マクリルナーンがにっこりと笑って鏡の前まで引っ張り、座らせる。

「せっかくのパーティですから、楽しまなくては」

 その笑顔に負けてしまい、おとなしくメイクを受ける。華美になりすぎず、上品な青いシャドウ。薄桃色のリップ。目を開ければ、まるで別人のような沢渡 真言がいた。
 仕方なさそうにドレスに着替え、二の腕の半ばまである長い手袋をはめて、大事にしているペンダントで胸元を飾った。ドレスは綺麗で、自分もきれいにしてもらったが、ため息を漏らさずにはいられない。

「はぁ、裏方をやると言ったのに」
「まぁまぁ、エスコート役立ってそろってるんだ。ゴスペルをみんなに混じって楽しもうぜ、美しいお嬢さん」

 腕を取れるように構えたマーリン・アウブロジウスの腕に手を添えて、パーティ会場へと戻った。







 パーティを盛り上げるためのピアノ曲を終えたテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)は、今一度会場へと目をやった。

 主催である機晶姫の姉妹は、せわしなくあいさつ回りをしていた。先ほどもこちらへ来て何度も頭を下げてお礼を言っていった。
 ティティナ・アリセが壇上へと現れる。テスラ・マグメルはにっこり笑って二人で並ぶ。

 ピアノがやんだからか、会場内の参加者達は壇上を見上げた。

 テスラ・マグメルがヒールで出だしのリズムを取った。
 そして、会場を包み込む賛美歌。透き通るような歌声は、会場に使われている氷よりもずっと透明で、美しかった。二人の歌姫の歌声は、参加者達をうっとりとさせる魅力に満ち溢れていた。




「すごい……」

 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は壁に背中を預けながら、神聖なる歌声に聞きほれてため息を漏らした。配られる紅茶を片手に、隣にいるドレス姿のコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)を盗み見た。
 三つ編みをおろしただけでもいつもと違って見える。そして可愛らしく着飾ったパートナーにどきどきしながら、紅茶を口にした。

「賛美歌は、旅立つ人に贈るものもいくつかあるそうですね」
「詳しいんでありますな」
「すこし、聞いたことああって……遠く離れた人を思うことができるこのお茶と、似ていますね」
「いつも、助かっているであります」

 賛美歌を聴きながら、大洞 剛太郎は呟いた。コーディリア・ブラウンは顔を赤くしてちいさく頷いた。こそ、と手渡すのは髪飾りとシュシュ。

「これは?」
「たまには、三つ編み以外のときもあるだろうから、使うといいであります。シュシュは、三つ編みのときにも使えるとおもい……」

 さらに赤くなったコーディリア・ブラウンは、意を決して横を向いて、大洞 剛太郎の肩に手を添えると頬に唇を押し当てると、小さく囁いた。

「あ、ありがとう」

 ゴスペルに夢中な会場内の誰もそれを見ることはなかったが、大洞 剛太郎は紅茶を零しそうになった。
 そこへ、ティーセットをもったメイドさんが2人が立つ傍のテーブルに、いくつかセットをおいていく。照れ隠しだからか、すぐにそこへかけて行ったこーディリア・ブラウンは、手早く紅茶を入れて大洞 剛太郎の手にあるものを新しいものと交換する。
 
「ど、どうぞ」
「あ。ありがとう。あ、それじゃ……俺も入れるであります」

 といって、すぐさまもう一つのセットでティーカップに注いでいく。

「え、いつの間に」
「さっきから、いろんな人に聞いて回ってたんであります」
「でもちょっと危なっかしいですね」

 手元がぎこちないのは、不慣れだからだろうということで少しだけ笑うと恐る恐る注がれた紅茶に口をつける。

「今日は、良く喋るんでありますね」
「パーティですし、今日は絆を深めるための日です」

 にっこりと笑うパートナーが、女性であることを改めて認識した。熱くなる頬に振れながら、カップで改めて乾杯をする。

「剛太郎様の未来の光があらんことを」
「コーディリアが来年も息災でありますように」

 互いに笑いあう2人を、綺麗な歌声が今も包んでいた。








 歌声をうっとりと聴いていたのは、彼らだけではなかった。北郷 鬱姫(きたごう・うつき)も、にっこりとしながら紅茶を楽しんでいた。

 時折食べ散らかしガ発生すれば、メイド服姿に犬耳と犬の尻尾を出したリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)がその尻尾を用いて綺麗にしていく。その姿を見るなり、パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)が飛びついた。

「綺麗なおにゃの子〜!」
「え、あの、困るよ。今お仕事中だからっ」
「パルフェ……もう、へんなことしちゃだめです。ごめんなさいね」

 北郷 鬱姫はため息混じりにパルフェリア・シオットの首根っこを掴む。丁寧にお詫びをしてからその場を離れると、今度は青いドレス姿のエレアノールが向かってくる。

「楽しんでいらっしゃいますか?」
「おおー! モミ甲斐のある○っぱい!!」
「え?」

 パルフェリア・シオットがエレアノールの胸に飛び込もうとすると、それをぐーで殴り飛ばす、タルト・タタン(たると・たたん)の姿。

「すまぬのぅ。ようくいいつけておく」
「いえいえ。どうか、楽しんでいってくださいね」

 にっこりと笑みを浮かべたエレアノールは、別のところへと挨拶へ向かった。
 殴られてようやく反省したのか、パルフェリア・シオットはしゅん、と落ち込んだように座り込んでのの字を書き続けている。

「パルフェ、どうしたの?」

 優しく声をかけてくる北郷 鬱姫の顔を見るなり、パルフェリア・シオットは飛びついて、頬ずりをし始める。急に甘え始めたパートナーに、困惑気味で問いかける。

「え? え? どうしたの?」
「む、わらわだって……主とっ」

 くっついているのをみてむすっとした顔で睨むと、タルト・タタンも北郷 鬱姫に頬を摺り寄せる。

「ええ〜、どうしたの、2人とも」

 困ったように笑う北郷 鬱姫は2人の型を抱きかかえて、近場の椅子に座り込む。
 離れる気配のない二人を牛ット抱きしめて、漂ってくる紅茶の香りに目を閉じた。

「また来年も、みんな仲良く過ごせますように」






 ゴスペルが終わりを告げると、拍手が巻き起こる。そして、小鳥遊 美羽が壇上に立つ。
 マイクを持ち、アイドルらしくポーズを決めて場を盛り上げると、可愛らしい声が会場に響き渡る。

『皆さん、今日はきてくださってありがとうございます。実は先ほどお願いしてあったと思いますが……今日、このパーティは百合園女学院校長、桜井 静香さんと、ルーノ・アレエ、ニーフェ・アレエのおかげで開くことが出来ました。まずは、3人に大きな拍手をお願いします!』

 名前が出てくると、三人は驚いて周りからの拍手にお辞儀をしまくっていた。そして、その拍手をやませると、テスラ・マグメルの代わりにベアトリーチェ・アイブリンガーがピアノの前に座り、曲を奏ではじめる。
 その曲名は、『ハッピーバースデイ』

『実は、ルーノ・アレエは先日誕生日パーティを開いたのですが、最後まできちんとお祝いできませんでした。今日この日に、改めて彼女のために歌を贈りたいと思います。どうか、ご協力をお願いします』

 と、小鳥遊 美羽が言ったところで歌が始まった。
 会場内にいたほとんどの者たちが、歌を口ずさむ。そして、歌を終えるとルーノ・アレエにおめでとうと言う言葉と、花びらのつまったクラッカーを向けた。

「小鳥遊 美羽……みんな……こんな。こんな素敵なこと……」

 榊 朝斗が、クリスマスケーキとは違うケーキを持ってきた。蝋燭が立てられ、その中央には、チョコプレートに名前が入れられていた。
 その文字には、見覚えがあった。

「せっかくのパーティを過ごせなくって、みんな残念がっていたんですよ」
「途中では意味がありませんから」

 榊 朝斗の言葉に、アイビス・エメラルドが付け加える。以前あったときより柔らかな言葉に、ルーノ・アレエは思わず笑みを漏らす。

「あたしと葱も、この日をずっとずっと楽しみにしてたんだからね!」
「ですですっ」

 にっこり笑う九条 蒲公英と九条 葱がわくわくした表情で見つめる中、ミルフィ・ガレットがろうそくに火をつける。

「それじゃ、願い事を思い浮かべながら消してくださいね?」
「はい、ミルフィ・ガレット」

 すうっと息を吸い込んで、ろうそくを消す。一息で消すことに無事成功し、毒島 大佐はばっちりそのシーンをカメラに残す。

「うんうん、いいね」
「ありがとうございます。皆さん……」

 感動のあまり涙を流すルーノ・アレエに、惜しみない拍手を送る。
 そして、遅ればせながらと榊 朝斗はプレゼントをルーノ・アレエに手渡した。

「これは、地球で昔から流行っているクリスマスソングが入った音楽ソフトと、オルゴールです。歌がお好きと聞いたので」
「ありがとうございます、榊 朝斗」
「私からは、ぬいぐるみ。クリスマスにちなんで、トナカイのぬいぐるみをプレゼントしますね」

 ルシェン・グライシスが差し出した抱きかかえるほどの大きさのトナカイに、ルーノ・アレエはにっこりと笑った。アイビス・エメラルドが、それを見てポツリと呟く。

「今はサンタですから、丁度良い贈り物でしょう」
「ええ。ありがとうございます。こんなにたくさんの人に祝福していただけて、本当に、本当に嬉しいです!」




 そんな感動のシーンを拍手をしながら眺めていた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は深々とため息をついた。

「いいわね。こんな幸せを見ることが出来るなんて……」

 少し遠くを見つめながら、紅茶を口にする。遠いあの人は、思い人とうまく行っているのだろうか。

「願わくば、この幸せで世界が満ちますように……」

 願いを口にすれば紅茶にぽちゃん、と一滴垂れていく。

「あら、この紅茶……さっきからだんだんしょっぱくなってきていますわ……」

 止まらない涙が、紅茶の中に滴っていく。それにハンカチを差し出したのは、リアトリス・ウィリアムズだった。

「あ……」
「紅茶、新しいの入れますね」

 にっこり笑ったリアトリス・ウィリアムズに、秋葉 つかさはこくん、と小さく頷いた。





 サプライズを終えると、神楽坂 有栖はパートナーを連れて外へでた。本物の雪が、降り始めていた。

「わぁ、素敵ですね。お嬢様」
「ミルフィ。これは私からのプレゼントです」

 差し出されたのは、手編みのマフラーだった。それは、ミルフィ・ガレットの青い瞳と同じ毛糸で編まれていた。

「お嬢様……! あ、あれ?」

 感動し、早速巻いてみると少し長すぎたようで、危うく地面についてしまうところだった。ミルフィ・ガレットはそれをすかさず拾い上げ、神楽坂 有栖の首にも巻きつける。

「こうすればちょうどよいのですわ♪」
「ミルフィ……ごめんなさい、編むのに夢中になってて……」
「いいんですの。お嬢様がプレゼントを下さるだけで、幸せです」

 にっこり笑うミルフィ・ガレットの手を神楽坂 有栖はぎゅうっと握り締めて雪を見つめていた。






 イシュベルタ・アルザスは、サプライズが終わるなりすぐに窓から出て行こうとする。

「まてよ」

 その声に振り返ると、雪国 ベアが仁王立ちをしていた。

「政敏からも言われてるだろ? 逃げるなって」
「ぐ、何でそれを知っている」
「一応、俺様も逃げないように見張ろうと思っててな。アイツらもうすぐ来るから、我慢しろよ」
「……で、その手に持っているのはなんだ」

 にんまり笑う雪国 ベアの手には、サンタコスチューム一式があった。

「お前によく似合うぜ? ちゃんと別でイニシャル入り俺の防寒グッズを持ってきた」

 親指をぐっと立てて歯をキランと輝かせる白熊に、吸血鬼は顔を引きつらせた。次の瞬間には首根っこを掴まれ、今着ている服の上からサンタ服を着させられてしまった。

「おうおう、かわいいじゃねぇか」
「くぅ……」

 青白い肌に真っ黒な髪の吸血鬼が、今はただのサンタコスプレをする一青年になっていた。

「交換用のプレゼントを配って回らなきゃならねぇんだ。手伝えよ」
「……ああ、仕方ないな」

 深々とため息をついて、白熊に付き合うことにした。




「はい、ケイにはこの帽子、それからヴァーナーさんには、雪国ベアクリスマスバージョンですっ」

 にっこり笑ったソア・ウェンボリスは、2人に包みを手渡した。緋桜 ケイの包みの中には、魔法使いらしい帽子。魔法文字の刺繍入りだ。だが、実は黒うさ耳がついているという可愛らしい一品だ。
 ヴァーナー・ヴォネガットのつつみには、ソア・ウェンボリスの手作りと思われる雪国ベアのぬいぐるみ、サンタさんヴァージョンが入っていた。本人がそのまま縮んだような精巧さに、ヴァーナー・ヴォネガットは満面の笑みをうかべてソア・ウェンボリスに抱きつく。

「ソアちゃん、ありがとうですっ!」
「ふふ、気に入ってもらえてよかったですっ ヴァーナーさんのマフラーも、大事にしますね!」
「これは、交換会用のプレゼントだ」

 そういって会話に入ってきたサンタ姿のイシュベルタ・アルザスが、三人にくつしたを差し出す。だが、緋桜 ケイは驚いて目を丸くする。

「い、イシュベルタ……その格好は」
「あの白熊にいわれてな」
「ええええ! すみません、ベアがご迷惑をかけちゃったみたいで……本当に御免なさい」
「いや、いいから早く受け取ってくれ。そう驚かれるのも恥ずかしいし」
「イシュベルタおにいちゃん、すっごく似合ってます♪」
「そうやって褒められるのも辛いんだ……」

 緋桜 ケイは苦笑しながら受け取ると、それは音楽プレイヤーだった。緑色は、目の前のヴァーナー・ヴォネガットの髪の色と同じだった。少し嬉しいな、と思って微笑むと、ヴァーナー・ヴォネガットのくつしたの中も同じ型の音楽プレイヤーだった。しかも、ソア・ウェンボリスの瞳の色と同じ、青色。
 まさか、とおもいソア・ウェンボリスがくつしたをひらくと、全く同じ型の音楽プレイヤー。緋桜 ケイの髪の色と同じ、黒だった。

「三人仲良く、おそろいのものだ」
「こんな、いくつもいろんなの良く集めたなぁ」
「あいつからだ。暇があったら、礼を言うといい」

 イシュベルタ・アルザスが指を刺したのはアルフ・シュライア。今は何故か辛い食べものに囲まれて涙を流していた。

「それじゃあな」

 そう短く言葉を告げると、今度は浅葱 翡翠たちがいるところへ向かった。そこにはルーノ・アレエも混じっていた。どうやら、北条 円と挨拶をしているようだった。

「これからも、よろしくね。ルーノさん」
「はい。よろしくお願いします。北条 円」
「そこのチビたちに、プレゼントだ」

 ため息混じりにそう言い放つサンタの視線の先には、九条 葱と九条 蒲公英がいた。目をきらきらとさせてプレゼントを心待ちにしているようだった。
 その手に渡したのは、かなり大き目のぬいぐるみ。一つはうさぎ、一つはクマだった。どちらもクリスマスらしくサンタの帽子をしていた。

「わぁわぁ、本当にサンタさんがきた!!!」
「凄いわよ葱!! サンタって本当にいるのね!」
「パパにも教えてあげなきゃー!」
「パパ?」

 イシュベルタ・アルザスが小首を傾げると、九条 葱が指を差した。その先には甘いケーキに囲まれて若干うんざりしている様子の浅葱 翡翠の姿だった。

「……確かあいつは……わかった。じゃあ、そのパパとやらにもプレゼントをやろう」
「サンタさん太っ腹ですよ!」
「さすがね!」

 2人がだい興奮しているのに対して、北条 円は頭を下げてお礼を言う。

「ありがとう」
「いや、たくさんあるからな。気にしなくていい。あと、あちらのテーブルにはプリンが並んでる。たしか、プリンが好きだったと記憶している」
「え?」
「連れて行ってやるといい。サンタからのプレゼント、とでも言ってな」

 鼻で笑いながら、イシュベルタ・アルザスはその場を立ち去った。ポカン、としてしまった北条 円だったが、すぐに浅葱 翡翠を呼び止めて、言われたテーブルへと案内をする。

 そこには、ニーフェ・アレエが用意したプリンのテーブルがあった。中央には、『浅葱 翡翠さん専用』とかかれた大きなプリンが置かれていた。直後、ニーフェ・アレエが「いま呼びにいこうと思っていたんですよ」と声をかけてくる。
 目をきらきらさせている浅葱 翡翠を尻目に、北条 円は微笑んでニーフェ・アレエに言った。

「サンタさんが教えてくれたのよ」と。




 リアトリス・ウィリアムズと秋葉 さつきが語らっていると、イシュベルタ・アルザスは2人の脇にくつしたを置いていった。
 なにやら真剣な話しそうだったので、声をかけるのはやめておいた。

 その後、ポインセチアと、赤白チェックのクッションカバーは、2人を笑顔にしたのだ。







 ゴスペルで見事な歌を披露した2人には、拍手と抱えきれないほどの花束が送られた。すぐに、テスラ・マグメルのメイクを落としたマナ・マクリルナーンは、その背中を押した。

「さ、行きたいところがおありなんですよね?」
「え? あ、いいの?」
「せっかくの百合園でのパーティですからね」

 にっこりと笑うパートナーに背中を押されて、テスラ・マグメルは校舎へと向かった。
 沢渡 真言も、ドレスアップした姿を執事服にもどして、少しずつ片づけをはじめた。そこへ、白熊サンタが靴下を手渡す。

「え?」
「手伝ってくれて、ありがとうな」
「いや。こちらこそ、貴重なお茶をくれて感謝している」

 にっこりと笑って、くつしたをあけるとでてきたのはワイバーンのぬいぐるみだった。首に、赤と緑のリボンが巻きつけられたクリスマス仕様になっていた。
 くす、と笑みを零すと、汚してしまわないように鞄にしまいに向かった。











 パーティ会場でプレゼント交換会が行われようとしていた頃、緋山 政敏(ひやま・まさとし)は一目散にパーティ会場へと走っていた。
 その後ろを追いかけるのは、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)だ。

「せっかくのクリスマスに、どうして予定を煎れるんですか!!」

 珍しく目を吊り上げて怒っているのは、カチュア・ニムロッドだった。幾度目になるかわからない問いかけに、緋山 政敏はもう一度答えた。

「だから、仕方ないだろ? 『彼女と過ごしたい』だんなんて言われたら断れないだろう。独り身としては」
「私が言っているのは、ルーノさんたちとの約束も、私たちとのクリスマスと言う時間を、勝手に一人で浪費したことについてです!」

 速度を一層上げて、隣にならんで走りながらまっすぐに緋山 政敏を見つめる。
 怒りはあるが、その怒りのまっすぐさに緋山 政敏はため息をつく。そして小さく「悪かった」と呟いた。


 アルバイトを代わってくれ、と言われたのが昨日の夜。
 朝一番から、昼過ぎまでの予定だった。もともとそのくらいの予定だったし、話していくほどのことでもないと思い黙って家をでた。

 だが、思いのほか仕事が立て込み、すぐに抜けられず、連絡も出来なかったので、今この走りに至るわけだ。

 前々日から携帯でイシュベルタ・アルザスに連絡だけはいれておき、そして綺雲 菜織たちに贈り物も天御柱学院経由で待機させた。

(リーンにほとんどやってもらったけどな)

 ケイラ・ジェシータの思いつきもあってとのことで、茶葉は無事に天御柱学院経由で、無事に受け取られたようだった。
 あの馬鹿(イシュベルタ・アルザス)はクリスマスに使えそうなオーナメント一式を贈ったらしい。恐らく、手作りの品物だろう。相変わらず顔に似合わないことをする男だ。

 そんなことを考えていると、丁度良く受け取り完了のメールが綺雲 菜織から届いた。頬を緩ませる。そして、イシュベルタ・アルザスにも『届け物完了』と、そして『今朝も送ったが、逃げるなよ?』と付け加えた。

「大体ですね、『わかってくれるだろう』なんて言って何もしないのは、『甘え』なんですよ?」 
「はいはい、二人が仲良しさんなのはわかったから、急ぎましょう

 リーン・リリィーシアが苦笑しながら割って入る。既にカチュア・ニムロッドの言葉を半分聞いていないとわかれば、彼女はかえって落ち込んでしまうかもしれないと思ったからだ。
 にっこり笑うリーン・リリィーシアに言われて、カチュア・ニムロッドも小さくため息をついて走る速度を上げると、頬に何か冷たいものが当たって足を止める。

「これは、雪?」
「わぁ……綺麗」

 二人の足が止まったことにようやく気がつき、緋山 政敏も空を見上げる。小さな雪の精霊たちが祝福しているような、ダンスをしているような、そんな錯覚に見舞われる。
 そんなことをおもっているとたくさんの仲間の顔が浮かんできた。

「お願いは、叶ってるのかもね」
「そう、かもしれませんね」

 パートナーである女性二人が互いに微笑みあっているのを見て、緋山 政敏は首をかしげる。

「さ、全力で走るわよ!」
「政敏、遅れないで下さいねっ」

 勢いよく飛び出した二人に、今度は緋山 政敏が追いかける形になった。
 パーティ会場に着いたときは、丁度良くプレゼントの交換会が行われているところだった。

「良かった、間に合った!」
「カチュア・ニムロッド、リーン・リリィーシア!」

 氷でできた扉が開き、出迎えてくれたのはサンタルックのルーノ・アレエだった。だが、いつもよりずいぶん露出度の高い格好に、一同は目を丸くした。
 それをいまさらながら思い出したのか、ルーノ・アレエは顔を真っ赤にしてしまう。

「あ、あ、あの。あんまり、見ないで下さい……」
「似合ってます! ルーノ、そういう格好も素敵ですよ」
「うんうん。スタイルいいから、すっごくにあってる」

 にこやかに女性二人から言われて、ルーノ・アレエは小首をかしげながら微笑んだ。
 間に合って何より、と思いながら会場に入ると、これ以上にないほど盛り上がっていた。
 その中心には、サンタコスプレをしたイシュベルタ・アルザスと、雪国 ベアがプレゼントを配っていたのだ。

「ぶっ」
「ぬ、ま、政敏! 貴様、遅れてくるとは……」
「おう! ちゃーんとこいつにはサンタ役やらせといたぜ。かわいーだろー♪」

 雪国 ベアはにんまり笑ってイシュベルタ・アルザスの肩を抱き寄せる。すっかり子供達の人気者になったイシュベルタ・アルザスは、交換用のプレゼントの中でも有害そうなものは除外して配っていると言うてってい振りだった。

「シスコンだけじゃなくロリコンも、相変わらず顕在か」
「違うと言っている!!!」
「あのー、兄さん、この枕ってどう使うのでしょうか?」

 ニーフェ・アレエがクリスマスッぽいデザインの小さな枕を取り出して問いかける。顔をしかめてよく見れば、表にYES、裏にNOとかかれたデザインの枕だった。
 意味を理解してそのプレゼントを取り上げると、コンビニスイーつもりあわせが入ったくつしたと交換した。

「シスコンだな」

 それをカメラでばっちり撮影していた毒島 大佐が、ボソ、と呟く。その後ろに立っているランドネア・アルディーンはにっこり笑ってその光景を眺めていた。

「イシュベルタ君は相変わらずだなぁ」
「まぁまぁ。それより大変おいしいものをゲットしたのだが、いるかね?」

 にんまり笑う毒島 大佐は、デジカメで撮影した画像を見せる。そこには、バルコニーで寄り添い紅茶を飲み交わすエメ・シェンノートとルーノ・アレエの姿だった。表情を引きつらせるイシュベルタ・アルザスに、プリムローズ・アレックスが割って入る。

「……ほう」
「大ちゃん。隠し撮りしてたの?」
「なんだ? みんなしてあの時はバルコニーをこっそーりのぞいていたくせに」
「姉さんとエメさんが仲良くなれて、よかったですよ。ね、兄さん」

 にっこりと笑うニーフェ・アレエに、イシュベルタ・アルザスはため息をついてその頭をなでてやった。

「仲がいいのは、いいことだな」
「ニーフェさん、これは私が作ったんですけどプレゼントです!」

 虎模様の猫の編みぐるみを、ニーフェ・アレエに差し出す。可愛らしい様子に、ニーフェ・アレエは満面の笑みで頬刷りをした。

「ありがとうございますっプリムローズさん!」
「さ、体が冷えないうちに戻りなさい」

 にこやかに毒島 大佐が言うと、ランドネア・アルディーンをつれてパーティ会場へと戻っていった。






「これは、私からのプレゼントです」

 そういって、カチュア・ニムロッドは小さな緋山政敏人形のついたストラップ。そして、同じように小さいリーン・リリィーシアのついたストラップも取り出して渡した。

「私にも?」
「ええ。勿論です」

 にっこり微笑むカチュア・ニムロッドに、リーン・リリィーシアも微笑んだ。そして、二つのつつみを取り出して手渡す。

「こっちは政敏、こっちはカチュアね」

 緋山 政敏の箱の中には、シックなデザインの腕時計。大きめで頑丈そうな、いかにも男性向けの時計だが文字盤にイニシャルが入れられている。どうやら、彼女の手作りのようだった。同じくカチュア・ニムロッドの手の中に入っているのも時計だった。こちらは懐中時計で、蓋を開けると中に太陽のマークと月のマークが見えていた。どうやら、午前と午後がそれでわかるようになっているみたいだった。

「すごいです。ありがとうございます、リーン」
「私こそ、カチュアからも手作りもらえるなんて思ってなかった……用意して正解だったわ」
「……」
「政敏?」
「……あんた。まさかとはおもうけど」
「ん? プレゼントのこと、忘れてたな」

 2人は盛大にため息をついて、代わりに緋山 政敏の腕を両サイドから取った。

「なら、今日はとことん付き合ってもらうわよ」
「ええ。遅れた分、今から思いっきりパーティを楽しませていただきますからね!」

 気合を入れる二人を横目に、携帯をもう一度開いた。そこには『現在ご自宅にて荷物お預かり中』の文字。差出人は、緋山 政敏。
 二人へのプレゼントは、既に家に送ってあるのだ。回りくどいやり方だが、彼にはこうすることくらいでしかうまく表現できなかったのだ。

 


 寒空の下でそれを眺めていたイシュベルタ・アルザスは、一層低い声で毒島 大佐に声をかけた。

「よく、あの女を連れてこれたな」
「校長にお願いして、何とかね。彼女の中は、確かに今のところ問題なさそうだ」
「その確認のためか」

 毒島 大佐は小さく頷いた。「それと、この間の二の舞になってほしくなかったしね」
 よく見れば、盛装ではなく身軽な格好をしていた。恐らく、武器などもすぐ取り出せるようにしてあるのだろう。
 警護役の生徒は何人かいるが、パーティの中で浮かれているだろう。

「まぁ、無事に終わりそうで何よりだ」
「大ちゃん、とりあえず表は大丈夫そう。あとは片づけまで気を抜けないけど……」
「彼がいるなら問題ないだろう? な、アルザス」
「……期待されているなら、こたえてやる。まぁ、とりあえずプレゼントを配り終わったらだが」

 その一言に、2人は噴出していた。
 パーティが終わりを告げるのは、日付が変わってからを予定していた。まだまだ終わらないパーティを、三人は警戒しながら過ごしていた。
 そのなかで、毒島 大佐はこっそりプリムローズ・アレックスのポケットにプレゼントを入れておいた。

 黒い鈴つきのチョーカー。それに気がつくのは、朝になるかもしれない。






 パーティが終わりに近づいた頃、緋桜 ケイはセツカ・グラフトンに頭を下げてヴァーナー・ヴォネガットを呼んでもらった。

「ヴァーナーを悲しませないで下さいませね」

 にっこりと笑われて、緋桜 ケイは苦笑した。パーティ会場を出て、大きなマントにヴァーナー・ヴォネガットを包み込むと、箒で空に舞い上がった。

「わぁ。雪がたくさん降ってます」
「百合園にいる間、本当にお世話になった。ありがとう、ヴァーナー」
「ケイのためなら、なんともないですっ♪ あ、これ、お疲れ様のプレゼントです」

 そういって、箒に乗りながら手にはめてあげたのは手袋だった。黒と緑のチェックは、2人の髪の毛の色で出来ていた。
 
「じゃ、俺からも」

 そういって懐から出したプレゼントを渡す。中には、ペンダントが入っていた。それも、シルヴァードラゴンの鱗がついたお守りになっていた。
 嬉しそうに微笑むと、後ろからぎゅうっと緋桜 ケイに抱きつく。

「ロイヤルガードとして、これからも一緒にがんばるですっ」
「俺は、ヴァーナーも護ってやりたいんだ」

 その抱きしめた手に、手袋をはめた手を重ねて祈った。