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伝説キノコストーリー

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第1章 キノコ狩りツアーは各所開催中? 5

「うー」
 ずるずる……ずびー、ちーん!
 なにやら、ぶるぶると震える一人の若者が、ティッシュを片手に鼻をかんでいた。垂れてくる鼻水に苦しんでいるようで、顔色はすこぶる悪い。いかにも、風邪をひきましたといった様子だ。
 そんな若者に、マルコの心配そうな声がかかった。
「おい、侘助、大丈夫か? 無理して出てこんでもよかったんじゃ……」
「だーいじょうぶだいじょうぶ。依頼も達成できて、俺も元気になれる! けほっ、一石二鳥だろ?」
 言うほど大丈夫に見えないからこそ声をかけているわけだが、久途 侘助(くず・わびすけ)はかかかと笑うばかりだった。しかも、その笑いも鼻水と咳に遮られ、途端にいまにもぶっ倒れそうになる。
「ほ、本当に大丈夫? ねえ、香住さんからも何か……」
「俺も散々言いましたけど、このとおりですよ……。きっとこの人には何を言っても無駄なんでしょうね……」
 榊 朝斗(さかき・あさと)の言葉に、侘助のパートナーである香住 火藍(かすみ・からん)ははあっとため息をつきました。巣の中に入る前も、心配して何度も進言したのです。それでも、自由奔放というかわがままというか……結果はこのとおりである。
「まあ……風邪引いてても、腕は確かですから安心してください」
「そ、そんなものなの……」
 呆然とする朝斗に、火藍はうなずいた。
 それに、もしものことがあったときは自分が……。そんな思いを火藍が反芻していたときである。前方でうごめく影を見つけたのは。
「あれ……サンドワームじゃ……」
 朝斗の緊張を含んだ声がマルコたちの間に広がった。
 またしても戦わなくてはならないのか。いったい、今度はどれほどの数が……。誰もに緊張の糸がつむがれたそのとき。彼らはふと違和感に気づいた。
「ん……?」
 茶色い体、ミミズのような軟体形、もぞもぞと動くさま。確かにサンドワームのようではあるのだが……いかんんせん、小さい。一瞬、子供のサンドワームか? とも思われたが、それにしては不自然な動きや見た目であった。そう、どこか学芸会で子供が扮する衣装のような……。しかも、明らかに着ぐるみのように人の顔が出ている。
「…………」
 呆然と見つめるマルコたちに、学芸会サンドワームはびくびくとし始めた。どうやら、こちらが怪しんでいるということも気づいたようだ。そして、曲がり角の影からそんな学芸会ワームを見守る娘の影。
「ヒ、ヒラニィちゃん……」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)は、サンドワームのハリボテに扮する南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)を見守りながら、出るに出られない状況であった。なんとかヒラニィにその場をごまかしてもらうことを期待するのだが。
「さ、さんどわーむ……」
「…………」
 どこの世界に自分の名前で鳴く生物がいるだろうか。仮にいたとしても、そんなにはっきりとしゃべるはずがなかった。ああ、マルコたちの視線が痛々しい。
「…………」
「わーむ……」
 マルコの出刃包丁が引き抜かれた。
「んじゃ、さっそく退治――」
「わあああぁぁぁ、待って待ってえぇ!」
 さすがに退治されるのを黙って見ているわけにはいかず、慌てて鳳明は飛び出した。
「む、なにを出てきておる、鳳明! そんなことしたらバレてしまうではないかっ」
「もうとっくにバレてるんだってば、ヒラニィちゃん〜!」
 あの状態でいまだにバレていないと思っていたのか、ハリボテの中から怒ってくるヒラニィをなだめる鳳明。あ、やっぱりハリボテだったのか、とマルコたちの視線が突き刺さった。
「うむ、バレてしまっては仕方がない。他にもキノコ狙いの輩がいるようだな。……争奪戦はライバルがいた方が燃えるというもの。ここは一つわしが胸を貸してやろう」
 今さらながらな気がするが、ヒラニィははりぼてのサンドワームをかぶったままでびしっとマルコたちを指差した。
「くふふふふっ、伝説のキノコはパラミタ有数の美食家たるわしにふさわしい食材! 手に入れるのはこのわしだ」
 こうしているとマスコットキャラのようにかわいらしいのだが、本人はいたって本気である。
 マルコはしばし呆然としていたが、あえて乗ってやることにした。というか、どうやらヒラニィ的にはそうしないといけないようだ。
「な、なにうぉ、き、貴様もキノコを狙っているんかっ!?」
「ふふふ、さて、どちらが先に手に入れるかな。こちらには最終兵器琳 鳳明がいるのだぞ」
「へっ、そっちが最終兵器なら、こっちは汎用人型機動兵榊 朝斗がいるってもんじゃ」
「最終兵器っ!?」
「勝手にロボットにしないでよ……」
 無理やり引き合いに出されてライバル同士の図に巻き込まれた鳳明と朝斗が同時にツッコんだ。保護者のお母さんさながらに、ヒラニィをなだめる鳳明。
「ほら、ヒラニィちゃん。いつまでも遊んでないで話を進めようよ」
「むう、これからよいところだと言うのに……わびさびが分からんのか」
「まったくじゃ」
「なんで二人同時に責められないといけないのっ!?」
 圧倒的に鳳明が正しいのであるが、二人にはどうやら通用しなかったようだ。しくしくと泣き出す鳳明を慰めて、朝斗が穏やかに進言した。
「まあまあ……とりあえず、ここは協力といこうよ、ヒラニィさん」
「うんむ、ひとまず協定というやつだな。よかろう」
「そうじゃな。冗談はこれぐらいにしておくか」
 と、そのときであった。
 ぐいぐいと、ヒラニィのはりぼてサンドワームを誰かが引っ張ったのだ。イモムシ状態のヒラニィは、怪訝そうな顔で文句を言う。
「ん、何者だ?」
 しかし、返事はない。
「えーい、何者だと聞いてい――」
 それでも何度も引っ張られたことで、しびれを切らした彼女は背後に振り返った。すると、そこにいた何者かを見て、彼女の声が途端に止まった。
「お、おい、マジか……」
 侘助の茫然とした声が静かに響いた。
 そこにいたのは、ハリボテでもモノマネでもない、まごうことなきサンドワームの姿だった。しかも……三匹。サンドワームのハリボテを仲間だと思ったのか、ぐいぐいと引っ張っていたらしい。しかしそれも、仲間ではないと分かって、今は敵意をむき出しにしている。
 えーと……。
「こ、これは……」
「非常事態、ってやつかな」
 侘助の冗談めいた声に、巨大な口をあけてサンドワームが咆哮で答えた。さすがに、三匹同時に戦うのはつらい。ましてや、侘助にいたっては風邪の真っ只中だ。
 逃げるしか。そう判断したときには遅かった。敵の口はマルコたちめがけて襲い掛かってきたのである。
 その刹那。
「…………ッ!」
 銃声が鳴った。
 途端にサンドワームは苦痛の叫びを上げ、頭部を振り回すように苦しみだす。銃声が敵の頭部に弾丸を撃ち込んだ証拠であるのは間違いなかった。
「こんなところに人とはな……」
 呟きが聞こえたのはそのときだ。
 武器を構えたマルコたちの前に、颯爽と降り立った影があった。それも、二つである。
「尾はこちらに任せてください。アシャンテは頭部を」
「……ああ」
 アシャンテの構えた片手銃“黒龍(クーロン)”“白龍(パイロン)”が火を噴いた。咆哮とともに、時間を切り裂かんとばかりの速さで銃弾がワームの頭を穿つ。マルコたちを飲み込まんとする寸前のところで、なんとか功を奏した。
「だ、誰か分からんが、すまん。助かった」
「礼はいい。それよりも今は……こいつをなんとかする」
 マルコに早々に返答して、傷穴から泥のような体液を散らしてけたたましい悲鳴とともに暴れたサンドワームに、アシャンテ更なる追撃の手を加えようとする。
 しかし、そこに邪魔立てをしようとしてきたのは残り二体のサンドワームだった。
「チッ……」
 舌打ちと同時に、敵の攻撃を避けてアシャンテは体勢を取り直した。そこに、侘助と火藍、そして朝斗が加わって敵に立ち向かう。
「こっちも負けてられねぇぜ」
「そうだね……!」
 気合の入った声を発して、朝斗はすばやい動作で二挺拳銃を抜いた。二つの曙光銃エルドリッジが弾丸の装填される音を鳴らした。普段は温和な彼であれど、いざ戦闘となればその目は鋭く研ぎ澄まされる。
 彼は、床にひとつの不思議な砂時計を置いた。
 二挺拳銃を手にした朝斗に一体のサンドワームが襲い掛かってきた。が、しかし、その攻撃を避けると同時に、朝斗の拳銃が打撃用の武器ともなって敵を打ち払う。
「これでもテクノクラートだけどね……【冒険屋ギルド】として名を恥じぬ戦いはさせてもらうよ!」
 次いで、発声とともにエルドリッジは咆哮した。銃弾に穿たれるサンドワームの悲鳴がとどろく間もなく、朝斗の足が敵の傷跡を蹴りつけた。
 これほどまでの速さを可能とするのは、床に置かれた砂時計の効力もあってのことだった。一定時間の速さを向上させる黒檀の砂時計を用いて、朝斗はサンドワームを翻弄する。
 ある意味で、マルコ名称「汎用人型起動兵」も間違いではないのかもしれなかった。
「やるなぁ……榊のやつ」
「感心してる場合じゃないですよ!」
 朝斗の活躍を見ていた侘助に、もう一体のサンドワームが襲い掛かってきた。猛獣のそれよりもぬめりがあって不気味な口が、彼を飲み込もうとする。
「実力行使でいくぜ?」
 それに軽口を飛ばして、にやっと不敵な笑みを浮かべた侘助は二刀の刀を抜いた。
「おりゃ、くらいやがれっ!」
 気合の声とともに、刀がサンドワームの唇に値する場所へと深くめり込んだ。そのまま、わずかに力に任せて体躯を切り裂く。雑といえば雑だが、むしろそれは巨体と戦うには有効な手立てだ。
 そして、そこに追撃の手が加わる。
「こちらも……いきます」
 きわめて冷静に、それでいて烈気を込めて、ウィングの槍が飛んだ。いや、飛んだように見えたというべきか。ウィングの駆け抜ける速さはまさに閃光のそれであった。
 瞬間――侘助の切り裂いた傷から深く槍がねじりこまれる。
 サンドワームは叫びとともに地に伏すと、びくびくと痙攣して動かなくなった。これで、まずは一体目だ。
「よっし、まずは一体…………あ」
 侘助は視線の先にあるものを見て、間の抜けた声をあげた。それは、決して侘助だけに限られたことではない。
 視線の先にいたのは、数体の新たなサンドワームたちであった。
「ずず……あれだな、Gを思い出すな」
「悠長なことを言ってる場合じゃないですよ!」
 のんびりと鼻をすすりながら口にする侘助に、数体のサンドワームが一斉に押し寄せてくる。再び二刀流を構えなおすが、いかんせん、どうにも風邪がひどくなってきているようだった。それまでの頭重が余計に重くなってきていた。
「くっそ、いく……っくしゅん!」
 二刀流を振りかざしたところで、くしゃみをトリガーに思わず氷術が発動した。寒々とした氷の風が敵の頭部をカチコチに固めるが、横合いからの攻撃が避けきれずに侘助は叩き飛ばされてしまった。
「ったく、あんたはどうしていつも無茶ばかりするんですか!」
 それを、必死で受け止めたのは火藍だった。
 いずれ無茶するのではないかと思っていたが、やはり案の定だ。
「やっぱり依頼を受けるのは俺だけでよかったのに……!」
 ぜいぜいと呼吸を荒くしてぐったりとしている侘助を見下ろして、苦渋の顔の火藍が歯を食いしばった。それほどまでに、彼を傷つけた責任は重かったのだろう。
 火藍の目に、鮮烈な怒りの光が色づいた。
「これ以上、侘助さんには指一本触らせません!」
 火藍の振るう大鎌が、次々と侘助に向かってくるサンドワームを斬り払った。
 と、彼のよく知る声がかかったのはそのときだった。
「香住さん! 助太刀するであります!」
 火藍を助けるように、突然横合いから光条兵器の刀で斬りかかったのは、侘助の後輩である草刈 子幸(くさかり・さねたか)だった。
「草刈さん! なんでこんなところに!?」
 その疑問は恐らく彼の手が握るどんぶりが物語っているのだろう。おひつを片手に、子幸のパートナーである草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)がひょっこりと顔を出した。
「ったく、ここまで来ておひつ係かよ、やってらんねぇぜ!」
「草薙さんも……」
「よう、香住。俺だけじゃねぇよ。ほら、バカツキだって一緒だ」
「ほっほ、久しぶりじゃけぇ、らんらん」
 莫邪の声を受けて、獅子のたてがみのような髪をばさっと後ろに流し、アオザイのような服を着込んだ鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)が大笑しながら声をかけてきた。
 二人とも、侘助の後輩である子幸のパートナーだ。
「あんだぁ? 久途の野郎、風邪でも引いてやがんのか」
「う、うるへぃ」
 ずびーっと鼻をすすって、侘助が力のない声で答えた。
「病人は養生するのが一番じゃけぇ。おとなしくやすんどきぃ」
「はっ……バカツキもたまには良いこと言うじゃねぇか」
 侘助を抱きしめて介抱する火藍を守るように、二人はサンドワームに立ちはだかった。
「ふ、二人とも……」
「ま、子幸がどうせ食えるもんは食っちまおうとするしな。そのついでだ。それに……俺たちだけじゃねぇ」
「え……」
 その言葉が示したのは、莫邪たちを抜いてサンドワームに飛び掛った影であった。
「いっくよー、あ、そーれ!」
 軽く遊ぶような声をあげて、燃えるような赤髪の少女が拳を叩き込んだ。炎をまとったその拳の威力は、あの巨体のサンドワームが一撃で殴り飛ばされたことからも想像ができる。
 少女――霧雨 透乃(きりさめ・とうの)の炎舞が、気高く唸りをあげた。
「ふっふーん、太陽のキノコとサンドワーム、2種類の食材を是非とも手に入れて、食べてみたいね!」
「ほ、本当に食べるつもりなんですか? 透乃ちゃんが食べたいなら、止めませんけど……」
 控えめな声で進言しながらも、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はその手から轟音を鳴り響かせる雷撃を放った。魔法――“サンダーブラスト”である。体躯を焼き尽くさんばかりの電気の渦が、サンドワームたちの敏感な聴覚さえも刺激する。
 莫邪が言っていたのは、彼女たちのことなのだろう。確かに、これだけの実力を持った者がともに戦ってくれるならば、心強い。
 若干――子幸のようにじゅるりとよだれをぬぐっているのが気になるが。
「それにしても、このサンドワーム大きいねー。噂ではキノコを食べても大きくはならないってことだけど、ワームが巨大なのはもしかしたらキノコを食べてるからかも。なんかワームってゲームなんかではお馴染みだけど、外見が男の股間のアレに似てること多いよね……」
「男の股間?」
 透乃にしてみればなんてことのない呟きだったのだろうが、それに反応して、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)の目が熱く燃えた。
「もしサンドワームの巨大さがキノコを食ってることだったら、私の熱くて立派な股間の一物も、太陽のキノコを食えば更に熱く立派になるはずだ! でかけりゃいいってものじゃないのはわかっているが、やはり巨根に憧れるのが男ってもんだろう! 探しに来た他の野郎共もそうなんじゃないのか!?」
「おお、男の夢じゃなぁっ」
「俺の息子は風邪でしゅんとなってるぜ……けほっ」
「ぼ、僕はよく分からないけど……」
 賛同するマルコに息子を慰める侘助。唯一まともなのは苦笑する朝斗か。
「なあ、透乃ちゃんもそう思う――」
「お話はおしまいですか?」
 熱く演説のように語りつくした泰宏が振り返ると、透乃の前にいた陽子がにこっと笑顔を浮かべていた。ただし、ものすごく冷徹な目で。
「……はい、すみません」
 当たり前の謝罪である。人はきっと、あれだけ冷たい目で見られる経験はそうないのでは。
 が、それはともかく、だ。
「サンドワームの巣にキノコが生えるという事は、サンドワームの腹の中はキノコがいっぱい! かもしれないです!」
 どんぶりが語るのは、大飯食らいの子幸の行動目的そのものだろう。普段からどんぶりを片手に飯を求めて練り歩くような青年だ。彼の褐色肌の上に浮く濃い眉が、サンドワームを睨んでぎりっと引き締まった。
「うーん、体内のほうが攻撃しやすいかなー」
 それに同調するのは、のんびりと恐ろしいことを口にする透乃だった。
 彼女たちはお互いに顔を見合わせると、サンドワームが巨大な口をあけて襲い掛かってきたのを、あえて無抵抗で受け止めた。
「と、透乃ちゃん……!?」
 心配そうな陽子の声が届いた届いていないか。
 呆気にとられたマルコたちが見つめる中で、もぐもぐっと透乃たちを飲み込もうとするサンドワーム。
 しかし、それもしばしの間だけだった。
「う〜りゃっ!」
 透乃の声がぼんやりとサンドワームの体内から聞こえたかと思えば、その瞬間。
 敵の体を真っ赤な激烈が走った。
「ぬあああああぁぁぁ!」
 次いで、泰宏の声が聞こえたかと思ったら、彼の槍がサンドワームの体内を中心から尾までえぐっていくではないか。透乃の光条兵器である赤き戦斧――“緋月”が亀裂を作ったところで、そこに泰宏が決定打を与えていっているのだ。
「お、おい、子幸は? うちの子幸はどこだー! こらバカツキィッ! お前、ちったあ役に立てよ!」
「心配せんでも大丈夫じゃけぇ。ほれ、みてみい」
 暁が指し示したその先で、子幸はやはりどんぶり片手に光条兵器の刃でサンドワームを切り裂いていた。無論、体内からに他ならなかった。
 となれば、残るサンドワームは少ない。
 一体のサンドワームを倒したウィングが、残りの敵を見据えた。
「アシャンテさん、頭部のほうを……」
「無論――そのつもりだ」
 ウィングの声が聞こえるよりも早く、アシャンテの足は動き始めていた。
 背中の栄光の刀“緋桜”を抜き放つと、さきほどのウィングに対する疼きを感じてか、まるで刀自身が喜ぶかのよう刀身の音が鳴った。右手に握るは拳銃、そして、左手に握るは栄光の刀。飛び上がったアシャンテは、サンドワームが苦痛に慣れる前に、頭上からいくども銃弾を撃ち込んでゆく。
 のた打ち回るサンドワーム。そして、アシャンテは引き金を何度も絞りながら落下し、敵とぶつかるその瞬間――剣線が宙に走った。
 同時に、アシャンテの横……サンドワームの尾のほうで、ウィングの槍が敵の体躯を穿つのが視界にわずかに映る。
「…………」
 頭部と尾をそれぞれに潰されて、もはやサンドワームは暴れる力すらなくしたようだ。地に伏した敵がぴくりとも動かぬことを確認して、ようやく……アシャンテたちは武器を収めた。
 ようやく終わった。そう息をついて休むマルコたち。
「よーし、じゃあ解体始めようー」
「自分も手伝うであります! サンドワームの味が気になるのです!」
 その横で、透乃たちはまだまだ元気に食料解体を始めようとしていた。