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番長皿屋敷

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番長皿屋敷

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    ★    ★    ★
 
「らん、ら、ら〜」(V)
「ただ飯はいいなあ。このお店は、この先もずっと頑張ってほしいですねえ」
 ノーン・クリスタリアの歌を聴きつつ、黙々と食事を続けながら長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が言った。
「そうですよねえ。まうまう」
 込んできたので相席となっていた忍住 京花(おしずみ・きょうか)が相づちを打った。
「美味しいですものね。でも、アストリアたちはちゃんとお代は払っていきますよ」
 うまうましつつも、アストリア・西湖(あすとりあ・さいこ)がきっぱりと言う。
「凄いですねえ。お金持ちー。たかっちゃおうかなあ」
「あら、それは聞き捨てならないわねえ」
 いつの間にか長原淳二の後ろに立っていたリネン・エルフトが腰に手をあてて言った。
「あははははは……、副団長、なぜここに……」
 長原淳二が、ちょっとひきつる。
「さあ、長原も、食べた分はキリキリ働いてシャーウッド空賊団の資金稼ぎをしてもらいましょう。フェイミィ、連れてきなさい」
「あいよ、メイド服着せるんですね。任せてくだせえ。てめえら、連れてけー!」
「ええっ!?」
 あっと言う間に、ヤンキー娘たちに長原淳二が連れ去られて厨房の奧へと姿を消した。
 
    ★    ★    ★
 
「葵ちゃんも楽しそうですね。これでは、あの噂もただの噂に過ぎなかったのでしょうか」
 ちょこまかと働く秋月葵の姿をカメラに収めながら、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)がつぶやいた。
「噂って、なんなんだもん?」
 相席していたセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、訊ねた。
「豪快食堂のことですよ」
 エレンディラ・ノイマンが説明を始める。
「御注文の品、お持ちいたしました」
 そこへ、ペコ・フラワリーが、注文された料理をマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)と共に運んできた。
「へえ、そんな奴らがここを狙ってるんだ」
 ちゃっかり話を聞いたマサラ・アッサムが言った。
「あくまでも噂ですけれどもね」
 エレンディラ・ノイマンが、つけ加える。
「なあに、もしそんな奴らが殴り込んできたとしても、俺たちがなんとかしますよ。ココたちの手はわずらわせません」
 すぐそばの壁際に立っていた紫月唯斗が、ペコ・フラワリーに言った。
「逆に、もめ事が起きたときはシェリルさんに頼んで、ココさんを押さえてください」
 言われて、ペコ・フラワリーとマサラ・アッサムが軽く顔を見合わせて苦笑いする。
「なあに、何かあった場合は、腕っ節自慢の者がたくさんいるんだ。任せてくれればいい」
 隣の席のエヴァルト・マルトリッツが、振り返って顔を見せることもせずに言った。
「そうですね。ここを壊してしまっては、女将さんに申し訳ありませんですものね」
 そう言うと、ペコ・フラワリーがマサラ・アッサムに目配せして奥へと消えていった。
 
    ★    ★    ★
 
「ほんとだ、あのゴチメイがちゃんとメイドしてやがるぜ」
 言ってしまってから、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)があわてた事務員たちに口を押さえられた。
「聞かれては大変ですぜ」
 従者のヤンキーが、小声で雪国ベアに耳打ちする。
「まったく、ベアったら、何をしているんです」
 困ったものだと、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が溜め息をつく。
「でも、なんて平和なんでしょう。これも、アルディミアクさんがゴチメイに加わったせいでしょうか」
「かもな。とにかく、なんか食べようぜ」
 感心するソア・ウェンボリスに答えると、雪国ベアが封印の巫女白花を呼んで注文を告げた。
「さてと、どんな料理を出してくるか、この俺様が品定めしてやるぜ」
 雪国ベアは、美味しい店リストのある「パラミタみしったん」を開いて、にわか評論家をやる気満々だ。
「ふむ、この店か……」
 そのとき、ウエスタン扉を開けて悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が入ってきた。その手には、「パラミタみしったん」がかかえられている。
「兄貴、あれは……」
 悠久ノカナタの姿を見たヤンキーがざわめく。
「うろたえるんじゃねえ」
 雪国ベアが、従者を一喝した。
「しかし、ライバルにお店紹介を書かれてしまいますと、こちらの損失が……」
「先に感想を載せられてしまいますと、インパクトが落ちます」
 事務員たちが、素早く損得勘定を計算する。どうやら、お店のレビューを書いて報酬をせしめようということらしい。
「もしもし、ベア、何をしているんですか?」
 おいおいと、ソア・ウェンボリスが突っ込んだ。
「ふっ」
 そんな雪国ベアたちを一笑にふすと、悠久ノカナタが葉月可憐に案内されたテーブルに座る。
「では、あれとあれとあれを頼む」
「かしこまりました、お嬢様」
 壁に貼られたメニューを指さして、悠久ノカナタが注文をすませた。
「こっちも負けちゃいられねえぜ。それとそれと……」
 負けじと、雪国ベアがミルディア・ディスティンに注文をしていく。
「ふっ、そんな注文で大丈夫かな?」
 その様子を見た悠久ノカナタがほくそ笑んだ。
「大丈夫だ問題な――、いや、一番いい料理を頼む!」
 ちょっと考えなおした雪国ベアが、大声で叫んだ。
「もしもーし、ベア……。普通に食べようよー」
 ちょっと困ったようにソア・ウェンボリスが口をはさんだが、軽く無視されてしまった。
「お待たせしました、アトラスの傷跡プレートです」
 ほぼ同時に、同じ料理が悠久ノカナタと雪国ベアに運ばれてきた。
「ううむ、これは……」
「うまいぜ。ほら、御主人たちも食ってみなよ」
「せっかくのパラパラとしたチャーハンが、麻婆豆腐のせいでべっとりとしておる」
「この刺激的な辛さがたまんねえ。それに、餃子に唐揚げと、盛りだくさんだぜ。まさに山だ」
「どういう取り合わせでこんな料理を。料理人は何を考えておるのだ」
「このごった煮の闇鍋感覚こそがB級グルメの醍醐味だぜ」
「おかしい、もっと美味しく素朴な料理がメインだと聞いておったのに……」
「うまい!」
「変だな」
 真っ向から逆の意見を勝手に言い合って、悠久ノカナタと雪国ベアが激しく視線で火花を散らす。
「もしもーし」
 蚊帳の外のソア・ウェンボリスが、そっと雪国ベアにささやいたが無駄だった。
「シェフを呼べ!」
 悠久ノカナタと雪国ベアが、奇しくも声を揃えて叫んだ。
「えっとー……な、なんかえらいことになってますぅ!?」(V)
 ソア・ウェンボリスが、顔を引きつらせた。
「なんなんだ、忙しいっていうのに」
 呼び出された本郷涼介が、後を樹月刀真に任せてやってきた。あっと言う間に、二人の批評合戦に巻き込まれていく。
「騒がしいですね」
 ちょっと迷惑そうに、道明寺玲が言った。
「大丈夫どすえ。気にせんといたら、食べるのに邪魔にはなりませんえ」
 黙々とマイペースで料理を平らげながら、イルマ・スターリングが言った。