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【2021正月】羽根突きで遊ぼう!

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【2021正月】羽根突きで遊ぼう!

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第12章 兵卒「レオン戦線異常無し……?」

「あ〜、ちっきしょう。さすがに疲れてきたな……。オレ、今日の間、体もつかなぁ……」
 個人戦、ダブルスと、新入生トリオの中で最も試合をこなしているレオンだったが、ここに来てさすがに体力の限界が見え始めていた。
 だがそんなレオンをさらに疲れさせようとする刺客は後を絶たない。
「ようレオン、遊びに来たぜ!」
「……なんとな〜く来ると思ってたんだよな、北斗よ」
 やってきたのは天海 北斗(あまみ・ほくと)。もちろんパートナーの天海 護(あまみ・まもる)も一緒だ。
「早速だが勝負だ、レオン! オレが勝ったらレオンの唇はいただくからな!」
 北斗がこのハイブリッド羽根突きに参加した理由は、全てこの言葉に集約されていると言っても過言ではない。
「ほう、やけに気合が入ってるなぁ。だが――」
 羽子板を握りなおし、レオンも言い放った。
「オレの唇は、そう安くはないんだぜ?」
「あちらこちらに引っ張りまわされる私はただ働きですけどね」
 カッコよく決めたレオンだったが、割り込んだテスラに混ぜ返されてしまう。
「いや〜、悪いな。バイト代出なくってさ」
「いえ、別にそれは構いませんよ。必要だからやってるだけですし。……というわけで審判をやらせていただきます」
「じゃ僕は近くで観戦してるね。どっちも頑張れ〜」
 体力派ではない護はテスラの近くで両者の試合を観戦することに決めた。
「それでは、試合開始」
 北斗を先攻に、試合が始まった。
「絶対に勝ってやるぜ!」
「おもしれえ、やってみな!」
 北斗の打った羽根をレオンが返す。まずはスキルを使わない、体力のみの勝負だ。同じ教導団員ということもあってか、2人の実力は同程度といったところだ。
 だがいつまでも普通に打ち合っているだけでは勝負にならない。これはあくまでも「ハイブリッド羽根突き」だ。つまり、何らかの形で必殺技として羽根を打つ必要があるということだ――もちろん、それらしい技を使わずに勝てる者もいるにはいるのだが。
 そんな勝負を、両者を応援しながら護は複雑な表情をしていた。それを審判のテスラが見やる。
「心配ですか?」
「え?」
「これは勝負なのだから、どちらかが負けるのはわかっていても、どっちにも勝ってほしい。そんな顔をしていますよ」
「……北斗には勝ってもらえたら嬉しいんだけどさ、ただあいつの企みは大体わかってるつもりだし、さっきの宣言を聞いてやっぱり的中してたから、ちょっと複雑というかなんというか……」
「……大変ですね、色々と」
「ホント大変だよ、色々と」
 そんな会話が行われている間に、勝負は転機が訪れる。レオンが仕掛けたのだ。
「いい加減体力限界なんだよな。だから、決めさせてもらうぜ!」
 飛んできた羽根に照準を合わせ、的確なポイントで打つ。シャープシューターの応用で打たれた羽根は北斗の左脇をすり抜けていこうとする。
「行かせるかよ!」
 もちろん北斗も黙って見ているわけではない。通り抜けるはずだった羽根を何とか打ち返す。
「残念だな。それだけじゃ、いくらオレが疲れてるからって勝てねえよ」
 少し高めに返ってきた羽根をもう1度狙い打つ。飛び上がって打ったその羽根は角度が付いて、北斗の足元に着弾した。
「勝負あり。勝者、レオン・ダンドリオン」
「そ、そんなぁ……」
 テスラの声が聞こえると同時に、北斗はその場で両手を床についた。
「あのな、北斗。お前、ハイブリッド羽根突きでなんにも対策とかしてこなかっただろ」
「え……?」
「大方アレだろ? オレに勝ってバツゲームでキスしてもらって、とかそういう勢いばっかりで、具体的な作戦とか考えてませんよ〜、とかそんなんだろ」
「あっ……!」
 そう、北斗はこれがハイブリッド羽根突き――つまりスキルをふんだんに使う羽根突きであるということを失念していた。レオンと死闘を演じ、最終的に勝つ。そのつもりでいたのだが、そのための具体的な策は一切考えていなかったのだ。ただ「勝ちたい」という意思だけが先走り、欲する結果に行き着くための努力を怠ったことになったのだ。
「惜しかったな。ま、もし次があるなら、どうやって攻めるかとかその辺を考えといた方がいいぜ。……次やるかはわからないけどな」
「……善処するぜ」
「それじゃあ、この教訓を忘れないために顔に墨だ!」
「げっ!」
「なんだその意外そうな顔は。まさか忘れたとか言うんじゃあないだろうなぁ〜?」
「……その『まさか』って言ったら?」
「よし、全力で塗ったくる」
 そのすぐ後、北斗の悲鳴が響き渡った……。

「なんか、ようやく単独で勝った、って気分だな」
「今までの試合、負けなかったものといえば、相手の反則かノーゲームでしたしね」
「北斗も大概強くなってるから、本気で作戦とか考えてたら負けてたかもしれねえしな」
 テスラと共に――もちろんテスラは勝負はしていないが――勝利の喜びに浸るのも束の間、次の相手がやってくる。朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。
「ようレオン、元気してたか?」
「げっ……」
 途端にレオンが嫌そうな顔をする。何を隠そう、レオンはいつかの騒動で垂に【教導団メイド科】に連れて行かれ、そこで「特訓」させられたという――本人にとっては嫌な過去があるのだ。
「そう嫌そうな顔すんなって。アレだけ特訓してやったんだから、もう大丈夫だろ?」
「はあ、まあそれなりに……」
 実際は逆に特訓させられたせいで女性が苦手になったのだが、垂にとってそのような事実はどうでもいい。
「ま、今日来たのは羽根突きをやるためだ。相手になってくれるだろうな?」
「……了解。相手させていただきます」
 引き続きテスラを審判とし、試合が始まる。先攻は垂であった。
「あらよっと」
 垂はまず小手調べといわんばかりに軽く打つ。
「こうなったら、最初から決めにいった方がいいかもしれない……」
 疲れが見えているレオンは、早速飛んできた羽根をシャープシューターの併用で打ち返す。狙いは足元。いくらなんでもこれに対抗するのは難しいはず。
 だが垂はあっさりとこれに対抗した。サイコキネシスを使って羽根の動きを止めてから打ったのである。
「甘い甘い!」
 これを続けられてしまえば、レオンはいくら打っても返されるということになる。しかも垂はフェイタルリーパーの心得があるため、まっすぐ飛んできた羽根でも「ブレイドガード」の動きで対処できるのだ。
 それをしばらく続けられ、さらに疲弊したレオンは羽根を打ち上げてしまった。
「おっと、打ち上げたな? これを待ってたんだぜ!」
 言うと垂は鬼神力を発動しその身を強化すると、足に力を入れ高く跳ぶ。打ち上がった羽根と同じ高さになると、そのパワーに加え「スタンクラッシュ」を羽根に叩き込む。高高度からの角度をつけたショットは何人も行ったが、垂のような鬼の力で打たれたものはそうそう無い。
「うおわっ!?」
 打たれた羽根は高速でレオンの足元に着弾する。床には防護結界が張られてあるので壊れることは無かったが、当たった衝撃だけは消すことができず、それに吹き飛ばされてレオンは数メートルを転がった。
「勝負あり。勝者、朝霧垂」
 転がるのが止まった頃に、テスラの宣言が聞こえた……。

「さ〜て、勝ったことだし命令させてもらおうかな」
「何なりとどうぞ……」
 負けたこと自体はともかくとして、強力なショットで跳ね飛ばされたことと、また【教導団メイド科】に連れて行かれるんじゃないかという不安で、レオンはげんなりしていた。
「いや、いくらなんでもまた連れて行くとかそんなのは無いぞ? 単なる質問だけだ」
「というと?」
「お前のパートナーって魔鎧だったよな? 俺たちに魔鎧の存在を教えてくれたっていうのに、お前のパートナーを紹介しないって、おかしくないか?」
「あ〜……」
「だからいい加減パートナーの魔鎧を紹介してくれよ」
「さっきも似たような質問されましたっけ。そうしたいのは、やまやまなんですけども……」
 そこでレオンは言いよどんだ。
「まだ無理なんですよ」
「はあ?」
「色々と事情があって、連れてくるのはちょっと難しいんですよ。名前と外見だけは大体わかってるんで、ひとまずはそれで我慢してもらえませんか?」
「……いつかは紹介してくれるんだろうな?」
「もちろん」
 ひとまず、この話は保留となった。

 もしかしたら最後の挑戦者になるかもしれない人物が、今レオンの前にやってきた。
「ようレオン、大変だな。えらくお疲れのようで」
「ええ、まあそれなりに……」
 目の前に現れた男――橘 カオル(たちばな・かおる)が気さくに話しかけてきた。
 だが実際は「それなり」どころではなかった。立て続けの羽根突きで、肉体的にも精神的にもかなりダメージを受けていたのだ。もちろん休憩はあったが、それだけでは解放されたとは言いがたい。
「ま、そうだろうな。悠ちゃんにルカさん、それに今シズリとも勝負したんだよな。確かにこりゃ、オレだって疲れるわ、うん」
「それで、ご用件は?」
「用件? そりゃもちろん――」
「勝負、ですね。お相手します」
「そうこなくっちゃ」
 最後もテスラが審判役を買ってでてくれた。これでテスラもようやく解放されるだろう。
「周りはもうほとんど終わってるようですし、こちらも多分最終戦になるでしょう。これが終わったら撤収作業ですから、やりすぎないようにはしてくださいね」
 もちろん対戦する2人に依存は無かった。
「では、試合開始」
 レオンを先攻に羽根突き勝負が開始された。
 レオンはこれが最後になるだろうと踏んで、最初からシャープシューターを併用して羽根を打つ。だがカオルも負けてはおらず、すぐさま「超感覚」を発動し狼の耳と尻尾を体に生み出し、羽根を打ち返す。
「疲れがたまりすぎてんのか? 割と止まって見えるぜ?」
 カオルの言う通りである。度重なるダメージと疲れにより、レオンの動きにキレが無くなっているのが傍目にもわかった。
「ま、だからといってこれをやめるわけにはいかないんだけどな」
 言うなりカオルはレオンに「その身を蝕む妄執」を叩き込んだ。相手に恐ろしい幻覚を見せるフェルブレイドの技で、カオルはレオンのトラウマ――【教導団メイド科】に連れて行かれたこと――を呼び覚まそうというのだ。
 だが残念ながらその作戦は失敗に終わる。実は「その身を蝕む妄執」によって見せられる幻覚とは「本人が恐ろしいと思っているもの」に限られ、映像の指定はできないのだ。つまりカオルがいくら頑張っても、レオンに「【教導団メイド科】に連れて行かれたシーン」を見せるのは、本人がそれを最も恐ろしいと思っていない限り不可能なのである。
 そして実際にレオンは【教導団メイド科】を恐怖の対象に入れていなかった。いつぞやのハルピュイア騒動のラストを思い出していただきたい。無理矢理特訓させられて「数日間」のトラウマである。あの騒動が起きたのは12月半ば。すでにトラウマからは立ち直っていてもおかしくはないのだ。
 そして実際にレオンが見ている映像は、「戦場」の1シーンだった。
「な、なんでいきなり弾が飛んでくるんだ!?」
 さすがに軍人であるとはいえ、戦場で銃弾に晒されるというのは恐ろしいものであろう。
 だがここで驚くべきことが起きた。レオンはその映像に対して確かに恐怖はしたが、その反動か、全力で羽子板を振ってきたのである。
「球の代わりに弾が飛んでくるなら、全力でブッ叩いてやるだけだ!」
 これはカオルにとって予想外であった。トラウマを呼び覚まし闘争心を失わせた後で、アルティマ・トゥーレや乱撃ソニックブレードを上乗せした羽根を叩き込む予定だったのに、それが狂ってしまったのである。
 そしてその一瞬の隙をつかれ、レオンが放った最後の「クロスファイア・ショット」がカオルの足元に炸裂した。
「ああっ、しまった!?」
「勝負あり。勝者、レオン・ダンドリオン」
 程なくしてレオンの幻覚も治まり、カオルは完全に予定外の出来事に見舞われた。顔に墨を塗られたのである。
「……まさか幻覚を見せられた状態で逆に本気を出すとはねぇ」
 人間、窮地に陥ると何をしでかすかわからないものである。