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【2021正月】羽根突きで遊ぼう!

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【2021正月】羽根突きで遊ぼう!

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 テスラにルール説明を終えたレオンのもとに、救護班の志願者がやって来た。それぞれはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)とそのパートナーのアイス・ドロップ(あいす・どろっぷ)、そして南 鮪(みなみ・まぐろ)である。
「ダンドリオン准尉、教導団第一師団のクレア・シュミット中尉だ。今回、救護班としての活動を許可願いたい」
「え、第一師団のシュミット中尉といえば……、西ロイヤルガードの!? ええ、それはもちろん、よろしくお願いします!」
 目の前に現れた中尉に向かってすぐさま敬礼し、クレアも敬礼を返す。学校ではあるが軍隊組織であるシャンバラ教導団ならではの挨拶だ。
「それにしても、ロイヤルガードのシュミット中尉が来られるとは、思ってもみませんでしたが……」
「私は衛生科の人間だからな。昨年はロイヤルガードとしての仕事やら、昨今の大事件やらで動くことが多かったが、今日ばかりは本業に務めさせてもらおうと思ったわけだ。新年早々、はしゃぎすぎて怪我をするのもつまらんだろう?」
「そうですね。っと……」
 思わずレオンは苦笑してしまうが、すぐに顔を引き締めた。いくら今は軍事行動の最中ではないといっても、目の前にいるのは自分の上官だ。失礼な態度をとることはできない。
「今日は別に構わないぞ。せっかくみんなで遊ぼうというのだ。あまり固くなるな、いいな?」
「はっ、了解いたしました」
「……ところで准尉、実は救護班と同時に審判役もやろうと思っているんだが、構わないか?」
「申し訳ございませんが、審判役はすでに決まっております。中尉には救護班としての活動にご専念いただければと存じますが、いかがでしょうか」
「そうか、それでは仕方ない。治療に専念するとしよう」
 そう言うとクレアはその場を背後にいた3人に譲り渡した。そのままレオンの隣に立つ。
「鏡氷雨だよ。で、こっちはボクの姉様」
「アイス・ドロップ……です……」
「そこのクレアさんと同じでボクたちも救護班になろうと思うんだけど、いいかな?」
「おう、もちろん構わないぜ。救護所は……あっちに観戦席があって、そこと共用だ。適当に居座って、適当に動いてくれ」
「オッケー、じゃ行ってくるね〜」
 氷雨とアイスがその場を離れると、隣のクレアを除けば最後の救護班志願者――鮪が挨拶してきた。ただし、その相手はレオンではなくフィリップにであったが。
「ようフィリップ。俺が南鮪だ。今日はよろしく頼むぜ、ヒャッハァ〜!」
「は、はあ……」
 威勢よく挨拶してくるこのモヒカン男を前にして、フィリップは気の抜けた返事をする。
「なんだなんだ、その気の抜けた挨拶はよぉ〜? そんなんでこのハイブリッド羽根突きを生き残れるとでも思ってんのかぁ〜?」
「い、一応、怪我しない程度には頑張るつもりですが……」
「ふん、まあいいさ。仮に怪我しちまっても俺がいるから大丈夫だよな。な?」
「……そうなんですか?」
「あのな、俺だってそれなりに治療の心得っつーモンは持ってんだぜ? 俺が大丈夫と言うからには絶対に大丈夫だ」
 やたら自信たっぷりに胸を張る鮪だが、今彼が持ちうる「治療の心得」といえば、せいぜいアリスキッスだけである。
「まあおまえみたいに『怪我しない』ってのが一番だが、今回はハイブリッド羽根突き。つまり、敗北者は高確率で怪我をしている可能性があるわけだ。怪我をしたんなら、救護班で最低限の治療ってやつを受ける必要、いや義務がある。自覚無き負傷で後日ぽっくり、なんてのは嫌だろ? 俺はそれを可能な限り回避させてやろうと思って、救護班に立候補してんだよ。だから俺に任せろって、な?」
「なんて言うか、やたら正論ですね……」
「パラ実生だって正論の1つや2つくらい言うに決まってんだろうが」
 確かに鮪のそれは正論だが、フィリップとしてはどうも気が乗らない。目の前のこの男が本当にその正論に従って救護班に名乗り出たのか、どうにも判断がつかないのだ。
 そこに助け舟を出したのはレオンであった。
「シュミット中尉、申し訳ないんですがこの男の事、お任せしてよろしいでしょうか」
「というと?」
「いえ、西ロイヤルガードにして第一師団中尉の『睨み』があれば、どうにかなるんじゃないかな、と……」
「監視、というわけか……。なるほどな」
 クレアにその申し出を断る理由は無かった。元々救護班と同時に審判役も希望――「ルールを破ろうとする者」が引き起こすトラブルを調停するつもりでいたのだから。
「わかった。引き受けよう」
「ありがとうございます」
「ヒャッハァ〜。まあ大丈夫だって。なんたって俺は博愛主義者だからなぁ〜」
 明らかに下心が見え見えの鮪は、許可が出たと理解するや否や、救護班の待機場所へ向かって行った。
「ところで、噂で聞いたぞ? 『教導団流の新年の遊び』は嫌だとかなんとか」
「げっ」
 その言葉を聞いて新人の准尉は冷や汗をかく。まさかあの発言が上官の耳に入るとは思っていなかったのだ。
「いや、私も同意見だ。確かにあのセンスはどうかと思う」
「そ、そうですか……」
「だがまあ、勉強にはなるぞ? 士官ともなれば、危険な場所で部下を動かし、同時に部下の安全を確保しなければならない。『危ない場所には近づかない』という選択ができるとは限らんという、な……」
「…………」
 どんなイベントであれ作戦であれ、それを裏方で支える者がいなければ成立しない。レオン・ダンドリオン准尉も、いずれ将来的には支える側、見守る側の立場に立たなければならないこともある。という意味を込めた中尉からのアドバイスである。
「とはいえ、今日のところは特に訓練ではないのだし、楽しむといいだろう。盛り上げてこい」
「はっ」
 ちょっとしたアドバイスを残し、クレアは救護所兼観戦席に向かった。

「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺はハイブリッド羽根突きを全国放送しようと思ったら、いつの間にか単なる個人撮影になっていた。な……、何を言ってるのかわからねーと思うが、俺もどうなったのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。ダブルアクションで没だとか、確定ロールだから行殺だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
 そんな恐ろしいものの片鱗を味わうことになった彼の名は武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。目の前でデジタルビデオカメラを構える重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)をパートナーに持つ、【ケンリュウガー】というヒーローとして知られる男である。
「なあライザー、お前関係各所に手配頼んだよな? スポンサー集めやってくれたよな?」
「……ええ、もちろんやらせていただきました」
「じゃなんで、こんないかにも『身内だけに見せますよー』みたいな撮影になってんだ!? シャンバラ中にハイブリッド羽根突きを全国放送するんじゃなかったのかよ!?」
「……断られたんですよ」
「は?」
「ですから……、何もかも失敗したんですよ……」
 つまりはこういうことである。
 ハイブリッド羽根突きを行うと聞いた牙竜は、試合に出るよりも面白そうな参加方法を思いついた。それは「試合当日の様子をカメラで撮影し、シャンバラ中に全国放送する」というものである。
 そのために必要なのは、まず資金源としてのスポンサーの確保、そしてテレビ局に対する売り込みである。企画は牙竜が担当し、リュウライザーが関係各所への連絡と手配を行う。これが成功すれば、結果的に面白いことになりそうだと彼らは思った。
 まず第1の失敗として、確保対象となるスポンサーの存在自体が問題だったのだ。彼らが対象に選んだのは、【ハルピュイア保護団体】【DT魔法使い協会】の2つ。リュウライザーは探した。それはもう色々と探したのだが、そもそも上記の団体は「存在すらしていなかった」のである。前者は可能性としてはあってもいいかもしれないが、ハルピュイア――人間の女性の上半身と、鷲の翼と下半身を有する、人語を解する友好的な亜人種のモンスター――というのは「絶滅危惧種」だの「保護対象希少種」だのに指定されているわけではない。そのため保護団体が設立されることは無きに等しく、当然ながら存在は確認できなかった。後者に至っては、そもそも「DT」なる言葉が全国に広まっているわけではないため、やはり存在しなかった。仮にこの2つがあったとしても、全国放送を行うには資金が足りないだろうし、ましてテレビ局に対するコネクションにも欠けるだろう。
 第2の失敗は、まさにそのコネクションである。彼らはシャンバラで生きる契約者ではあるが、所詮は「いち学生」に過ぎない身分である。ロイヤルガードであったなら多少はどうにかなるかもしれないが、やはりテレビ局とのコネクションには弱い。
 第3に、企画自体に問題があったことだ。その説明として、この後のテレビ局の職員とリュウライザーの電話での会話を聞いていただきたい。
「申し訳ございませんが、お断りさせていただきます」
「……バラエティ番組としては、通用すると思っているのですが、やはり駄目ですか?」
「はい。スポンサー問題や、コネクションの問題については先ほど述べた通りです。そちらの言うスポンサーは私どもは全く存じ上げませんし、仮に存在していたとしても資金源について疑問が残ります。ですが、それらをクリアしたとしても、我々としてはやはりお受けするわけには参りません」
「その、理由をお聞かせ願えますでしょうか」
「結論から申し上げます。誰も見ないからです」
「はい?」
「そちらのおっしゃる『ハイブリッド羽根突き』ですが、確かにそれ自体は面白そうではあります。ですが、果たして全シャンバラの住人がそれを楽しんで見るものでしょうか」
「契約者同士による、派手な羽根突きのバトルですよ? 学生であれば見ると思いますが」
「学生であれば、ね。では『学生でない人』ならどうでしょうか。私はともかく、そういった人たちにとっては、別にどうだっていいものではないでしょうか」
「し、シャンバラの学校に通い始めた美男子新入生トリオが全国に映るんですよ? 絶対うまくいくはずです」
「お言葉ですが、私はその美男子新入生トリオを全く知りませんし、第一その彼らを見て、一体誰が得をするんですか?」
「…………」
「あなた方にとっては、それはもう大事な友人たちであり、ある意味ではアイドルなのでしょう。ですがその彼らを知らない学生にとっては? 学生じゃない人たちにとっては? 全シャンバラにとっては?」
「…………」
「シャンバラの2人の代王や、シャンバラ女王が参加する。あるいは海京の天御柱学院を含めたシャンバラ9学校が大々的に行うというのであれば、それなりに見る人は出てくるでしょう。ですが今回の対象は、どちらかといえばあまり世に知られていない新入生の方々。誰も見ないという結末しか想像できません。もちろんお金とかそういうのは抜きにしてもです」
「駄目ですか……」
「お話それ自体は面白そうではあったんですけどね。今回は条件が悪すぎた、ということで……」
 結局のところテレビ局は、その企画にネタとして取り上げる価値を見出せなかったのである。
「ということがありまして……」
「根本的なところで駄目だったのか〜!」
 シャンバラにおいてテレビ放送はある。それは、かの「ろくりんピック」の聖火リレーの中継や、かつて世間を騒がせた鏖殺寺院の犯行声明を考えればわかる話だ。
 システムとして空京放送局――ラジオ局としての印象が強いが、実は空京に唯一あるテレビ局でもあるのだ――があり、ツァンダなどの主要都市にその支部とテレビ塔が存在する。そのため全国放送それ自体は可能ではある。しかも日本と同じようにニュースやバラエティ番組も放送されている。
 もし彼らにいいスポンサーが見つかっていれば、そのスポンサーないしは自分たちに空京放送局との明確なコネクションがあったならば、また結果は変わっていたかもしれない。
「まあマスター、今回はもう諦めて、身内での鑑賞会に切り替えて撮影を続けませんか?」
「はぁ……、そうだな……」
 せっかく「ハイブリッド羽根突き! 新入生の美男子3人組が脱ぐ!?」と題して放送してもらおうと思ったのに。そう毒づきながら、牙竜とリュウライザーはビデオカメラを回し続けた……。