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合法カンニングバトル

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「そう言えば……こんな問題、どうやって作ったんだろう」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が口にしたその疑問は至極当然だった。
 問題はエリザベート校長に関する事ばかり……それもかなりプライベートな領域のものが多い。
 カンニング用に回答が用意されている以上、出題者は校長のプライベートを熟知している必要がある。
 ということは……つまり……
「まさか……山田先生、あなたはロリコン、しかもストーカーですね!
 未だに武術部の3人と死闘を繰り広げている山田を指差す詩穂。
 『犯人はお前だ』と言うときの探偵のポーズだ。
「は、はいぃ? 何を突然、わけのわからぬことを……」
 呆れ返る山田……そこへ近づく足音……武術部か?……警戒する山田。
「先生、出来ましたぁ!」
 しかし、そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべた明日香だった。
 答えを書き終え、解答用紙を提出すべくやってきたのだ。
「一個もカンニングせずにやり遂げました、今回は自信ありですっ!」
 キラキラとした目で山田を見つめながら用紙を手渡す。
「おお……素晴らしい! よくがんばりましたね」
 山田の顔が綻んだ。
「はい、すっごくやり応えのあるテストでした、ありがとうございます」
「そうでしょう、そうでしょう……私も作った甲斐がありました」
 こういった優秀な生徒達の為に山田は一流大学レベルを意識して問題を用意したのだ。
 それがようやく報われ……
「? なんだこの答えは……に、にんじん?」
(おかしい……どうやったらあの問題からこんな答えが……この生徒はふざけているのか?)
 明日香を見返す……明日香は尊敬の眼差しで山田を見ていた、とても悪ふざけには見えない。
(この私さえ引っかかりそうになったあの問題をこの人が……まさかこんな所に同士がいたなんて……)
「山田先生、ぜひ今度じっくりとご教授お願いしますっ」
 そういって明日香は自分の席へと帰っていった。
 ひとり取り残された山田に、周囲からブーイングの声がかかる。
「この変態教師! ロリコン!」
「お前こそ社会のゴミじゃないか!」
「セクハラ教師はクビになれ!」
 次々に浴びせられる罵声。
「だ、誰がセクハラ教師ですかっ! まったく、口だけは達者な……」
 何が起きているのか山田にはさっぱりわからなかった。
「どこまでもしらばっくれる気ね、この問題は、山田先生が、作ったんでしょ!」
 問題用紙を手に詩穂が詰め寄る。
「確かにそれは私が作りましたが……いったいそれと何の関係が……」
 何か誤植でもあったのだろうか……問題に目を通す山田……
「……」
 ……固まった。
「こんな問題を作るなんて、ロリコンにも程があるわ!」
 ……ロリコン……ロリコン……ロリコン……
 詩穂の言葉が山田の中で反響していった。
「別にロリコンだからと気にする必要はない、ロリコンだからなんだと言うのだ、ロリコン……ロリィータコンプレックスッ! 実に結構ではないか」
 密かな性癖を暴露されショックを受けたに違いない、と山田を気遣い、変熊が熱弁する。
「ちち、違います! これはきっと誰かが……」
「問答無用! 天誅だよっ!」
 高く振り上げたステッキが唸る。
 古代シャンバラ式杖術だ。
「くっ……そんな攻撃が私に通用するとでも……」
 内心の動揺を抑え、冷静に詩穂の攻撃に対処しようとする山田……だが……
「ここです、動揺している今が、チャンス……」
 山田が隙を見せるのをずっと伺っていた朱宮 満夜がついに動いた。
 床が一気に凍りつく……
 山田が氷の魔法を使うたびに自分も氷の魔力を少しずつ、展開していたのだ。
「な……ほァっ!!」
 詩穂の攻撃を避けようとして踏み出した足がズルッと滑る。
「山田先生……これが摩擦係数ゼロです」
 ダメージこそないものの大きく体勢を崩した山田……後は満夜が手を下すまでもない。
 間一髪、山田を掠めたステッキがそのまま床を砕く、飛び散る破片が山田を打ち付けた。(山田のHP:253→230)
 そこへ……槍を抱えた美央が突っ込んでくる。
 盾を失った分、その突進速度が上がっていた、もちろん威力も比例する。
 そのまま山田に刺さった槍を上へ振るう、空中に放り投げられる形になる山田。(山田のHP:230→165)
「朔! なぶら!」
 美央が二人に合図を送る。
 しかしその合図よりも先に、二人は動いていた。
「OK、これで終わりだ、山田ぁ!」
 山田の着地地点に先回りしていた朔が山田目掛けて飛び上がる。
 更に高く飛び上がったなぶらが、剣を叩きつける。
 上下からのサンドイッチだ。(山田のHP:165→13
「がはっ!」
「よっしゃ! やれば出来るもんだな」
 仲間達とガッツポーズを決めるなぶら、武術部の完全勝利だ。
「はぁ……はぁ……眼鏡が……メガネめがね……」
 満身創痍の山田……ボロボロになりながらも、衝撃で吹き飛んだ眼鏡を探していた。
 その眼鏡は魔術具であるだけではなく、普通に視力も矯正していたらしい。
 そこへたまたま? エヴァルトが放り投げた生徒が飛んでくる。
「!! うぐぅ……」
 下敷きになった山田。(山田のHP:13→0
「おっと、お寝んねの時間にはまだ早いのぅ、このロリコン教師が!」
 青白磁が山田を掴みあげる……
「オラ! なんとか言わんかい!」
 しかし意識を失っているのか、山田の返事はない。
 そんな山田を青白磁がトドメの一撃とばかりに背負い投げの体勢に入る……
「もうやめて、山田先生の……きゃっ!」
 止めようと駆け寄る江利子……しかし、ツルツルの床に滑ってしまう。
「と、止まらない! 誰か!」
 そのまま真っ直ぐ進む江利子、なんとか止まろうと近くのものにしがみ付く。
 ……それは山田のズボンだった。
「オラッ! 飛べやっ!」
 そのまま青白磁が山田を外に放り投げる……その瞬間『ぶち、するっ』と二つの音が聞こえた。
 前者は急な加重に耐え切れなくなったベルトが切れた音……とくれば、後者は当然……
「あれ? なんでズボンが?」
 江利子はその手のズボンを不思議そうに見ていた。
「あ、それより山田先生は……」
 周囲を見回す江利子だが、山田の姿はなかった。
 そんな江利子に近づく者がいた……涼介と終夏だ。
「あんなに意地悪をされた山田先生を助けようとするなんて……」
 山田はきっと恩なんて感じないだろうに……終夏がため息をつく。
「でもそれが二ノ宮先生の良い所ですよ、ね」
 涼介の言葉に頷く終夏。
「あ、あなた達っ、こんな所にいたら危ないわ……と、と……」
 江利子が二人に気付いたようだ。
 滑る床に転びそうになりながら二人の方へ近づいてくる。
「江利子先生ったら……ほら、捕まってください」
「あ、ありがとう……」
 終夏が差し出した手に捕まる江利子……その瞬間。
「おお! やりましたね、二ノ宮先生!」
 そう言って涼介が拍手する。
「へ?」
 ……目が点になる江利子。
「今、カンニングをした生徒を捕まえたじゃないですか、さすがです」
「あーバレちゃったーつかまっちゃったーくやしいなー」
 涼介の意図を察して犯人役を演じることにした終夏が悔しがってみせる……三文芝居だった。
「そ、そうだったの?!」
 しかし、江利子は信じたらしい。
「連行しないといけませんね、二ノ宮先生、手伝います」
 そう言って江利子に付き従う涼介。
 せっかくうまくいった作戦だ、江利子のドジで台無しには出来ない。
「でもこれで、クビは回避出来ますね」
「あ、あはは……そ、そうね……」
 引きつった笑顔を浮かべる江利子……きっとクビの話など忘れていたに違いない。
「二ノ宮先生……私は先生みたいな人も必要だと思いますよ」
「そう……かな……でも私、いっつも失敗してばかりで……」
「いつも私達生徒の為に一生懸命です、今日だって、一生懸命がんばってたじゃないですか」
 江利子の目をまっすぐ見据えて、語りかける。
 ……隣では現在連行中の終夏がしきりに頷いていた。
「……それが結果に繋がったんです、もっと自信を持ってください」
「ふふっ、ありがとう……なんだか、私が教えられちゃったわね」
「そういうものですよ、生徒だろうと教師だろうと、どっちかだけが一方的に教える関係じゃないんです」
「じゃあ今度は私が教えられるようにならないといけないわね」
「その意気です、楽しみにしてますよ、先生」
 そう言って席に戻る涼介……答案はまだ白紙だった。
「この分だと、さっそく補修で教われそうですね……」
 その時を楽しみにする涼介だった。


 一方、校庭では……
「おい、なんだあれ?」
 男の生足が2本、突き立っていた。
 上半身は綺麗に埋まっている……変わり果てた山田だった。
「事件だ! きっと遺産相続とかがあるに違いない!」
 なにやらミステリー研が騒いでいる。
 それが明日の校内新聞の一面を飾ることになるのは、想像に固かった。