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すいーと☆ぱにっく

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すいーと☆ぱにっく

リアクション

 プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)はきょろきょろと周囲を見回した。しかし、自分以外に人気はなさそうだ。
「……ということは、やっぱりこれって」
 と、目の前にある等身大毒島大佐(ぶすじま・たいさ)チョコレートを見つめるプリムローズ。
 何が起こったのかは分からないし疑問だが、とりあえず『ファイアプロテクト』と『氷術』で溶けないようにする。
 すると、タイミング良くライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる)アルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)が部屋へ入ってきた。
「……何これ」
 と、呟くライラック。
「本人のようです」
 しばらく大佐を見つめていたライラックだが、すぐに別の部屋へ行ってパソコンを開いた。事態を把握するためにも情報収集するのが早い。
 プリムローズは美味しそうな匂いに惑わされ、そっと大佐の頭に手を伸ばした。惜しげもなく裸体を晒す大佐を見ていたアルテミシアがはっとして叫ぶ。
「そこ、食べようとするな!」
 びくっとしたプリムローズが大佐から手を離し、聞きつけてきたライラックにアルテミシアが言う。
「食べないよう、縛って」
「……食べようとしてたの」
「ちょ、ちょっと髪の毛の先を齧ろうとしただけです!」
 そしてあっという間に簀巻きにされるプリムローズ。それをライラックが別室へずるずると運び込んでいく。
 改めて大佐と向き合ったアルテミシアは、上から下までまじまじと眺めた。
「……」
 全く同じ顔、同じ背丈の等身大のチョコレート像。しかし、一カ所だけ違う箇所がある。
 アルテミシアはしゃがみ込むと、大佐の股間に手を伸ばした。自分には付いていないそれを握り、ぐっと力を入れた。

「お姉ちゃん?」
 がちゃりと扉を開けた荀灌(じゅん・かん)芦原郁乃(あはら・いくの)がチョコレートにまみれて固まっているのを見て驚いた。
「お、お姉ちゃん!? 何で、こんな……お姉ちゃん」
 動揺のあまり、ぐすっと涙をこぼし始める荀灌。郁乃に泣きついてみたが様子は変わらず、ふいにはっとする。
「そ、そうだ……マビノギオンさん!」
 と、待ち合わせ場所で待っているであろう蒼天の書マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)へ連絡を入れた。
「ま、マビノギオンさん、お姉ちゃんが、お姉ちゃんがっ、ちょ、チョコレートになっちゃって、動かなくてっ」
 と、声にならない声で必死に状況を伝えようとする。電話の向こうでマビノギオンは冷静に言った。
『待って下さい、すぐにそちらへ向かいます。泣いていても解決しないから、いろいろ手を尽くして助けてあげましょう』
「っ、ひっく……は、はい」
 十数分後、駆けつけてきたマビノギオンはリボンでぐるぐる巻きにされた郁乃を見て、思わず呆れた。
「また、随分なイベントに巻き込まれましたね……」
 着ていたと思われる服は上から下に至るまで、呪いのせいか溶けて駄目になってしまっている。よく見ていくと、身体の表面も溶けかかってきていた。慌てて『氷術』をかけるマビノギオン。
 荀灌は泣き止むのに精一杯で、ただ不安げに郁乃を見ていた。
「とりあえず周囲に連絡をとって、解決方法を調べましょう」
 と、マビノギオン。荀灌は「はい」と、頷いた。

 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)はメッセージカードに書かれた差出人を見て呆れた。
「アルトリアちゃん……、こんな怪しいもの食べちゃうなんてダメですねぇ」
 それはルーシェントからとなっていたのだが、当の本人には全く身に覚えがない。つまり、誰かが自分の名前を騙ったということになる。
 カードを机の上へ戻し、チョコレート化してしまったアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)に目をやるルーシェント。
「うーん……」
 と、首を傾げ、考えを巡らせる。
 元に戻す方法を探すのも大事だが、アルトリアはチョコ化して身動きの取れない状態にある……ということは。
「これをこうして……うーん、この服の方が似合うでしょうかぁ?」
 ふりふりひらひらの女の子らしい服を何着も持ってきたルーシェントがアルトリアに服を合わせ、あれやこれやと悩んでいる。
 チョコ化しながらも意識のあったアルトリアは彼女の行動にびっくりし、恥ずかしさでいっぱいになっていた。
 そんなことも知らずにルーシェントは服を着せて、にっこり微笑む。
「うふふ、かわいくなったですぅ。アルトリアちゃんも普段から、こんな風にかわいくしてればいいですのにぃ……せっかくだから、写真も撮っておくですかぁ」」
 と、いそいそとカメラを取り出し構えるルーシェント。
 カシャリとシャッターが切られ、アルトリアは意識の中だけで身悶えた。

「あら、チョコレートですね」
 と、箱を開けた志方綾乃(しかた・あやの)は呟いた。メッセージカードから察するに、送り主はシャローン・レッドアイ(しゃろーん・れっどあい)とあるが。
「シャローン・レッドアイ? どちら様でしたっけ?」
 思い出そうとしたが、綾乃はすぐに考えるのをやめてチョコレートをつまんだ。
「志方ないね、食べないのももったいないし」
 と、口へ放り込む。
 そして綾乃が全てのチョコレートを食べ終えた時、呪いは発動した。
「あ、きゃあ……っ!?」

 そのメッセージカードは点字で書かれていた。
「……千百合ちゃん、から」
 嬉しそうににっこりして、如月日奈々(きさらぎ・ひなな)はその包みを開けると、中のチョコレートを口に入れた。甘くて美味しい普通のチョコだ。
 しかし、すぐに日奈々は異変を感じた。身体が動かなくなってゆく!
「っ、た、たすけ……っ」
 助けを呼ぼうと扉の方へ足を踏み出したところで、日奈々の身体は完全に固まってしまった。悲痛な表情と伸ばした右腕が状況を物語っていた。
「日奈々、大丈夫!?」
 勢いよく扉を開けた冬蔦千百合(ふゆつた・ちゆり)は、床に何か重たい物が落ちた音を聞き、そちらへ目をやった。
「……にゃー!? え、え、これ日奈々!?」
 目の前には右腕がなくなった日奈々のチョコレート像。足元に転がるのは、右腕。
「え、うそ、やばいやばいやばいやばい!? と、とりあえずくっつけ直さないと!?」
 慌てて右腕を拾い上げる千百合。しかし、パニック状態に陥っていて頭が上手く働かない。
「あ、なんだかすごく美味しそうな匂いが……って、溶けないようにしないと!? いや、それよりも腕ぇ!!」
 日奈々の右腕を見て、日奈々を見て、そしてぎゅっと右腕をくっつける千百合。だが、まだ固まっている状態のチョコレートが容易くくっつくことはなかった。
「え、え、どうしたらいいの!? くっつかないよ、日奈々!」
 それから溶かすという方法に気がつくまで、千百合は必死で腕をくっつけようと試行錯誤するのであった。

「おや、恥ずかしがり屋さんも居るのですね。可愛い字ですね……誰からでしょうか?」
 と、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は何の疑いもせず箱を開けた。メッセージカードをろくに読みもせず、チョコレートを口へ放る。
「……?」
 何か様子がおかしいとエッツェルが気づいた時には遅く、呪いが全身をチョコレートに変えてしまった。

「……えっと」
 清泉北都(いずみ・ほくと)は困惑した。クナイ・アヤシ(くない・あやし)のチョコレート像が部屋に立っていたのだ。
 ネタか何かではないかと疑う北都だが、その近くに身に覚えのないメッセージカードがあることに気づいた。差出人は自分の名前だ。
「ってことは……呪い?」
 チョコレートになってしまう呪いの話は、ちらっとだけ耳にしていた。
 携帯電話を使って情報を得ようと思い立つが、その前に北都は冷蔵庫からいくつもの保冷剤を取出し、クナイのそばへ置いた。お菓子やケーキを買った際に付いてくる保冷剤を、貧乏性の北都は全て取って置いていたのだ。
 クナイが溶けないようにしてから、携帯電話を開く北都。
 一方、チョコレート化したクナイには意識があった。呪いに掛かってしまった自分のために、北都があれこれとしてくれていることに嬉しさを感じながら、同時に身動きが出来ないことをもどかしく思う。

 テーブルの上に榊朝斗(さかき・あさと)からのチョコレートを見つけたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は、嬉しくなった。
「朝斗ったら……」
 と、何の疑いも持たずに包みを開け、チョコを口にする。
「……!?」
 異変を感じたルシェンはチョコを吐き出そうとしたが、時すでに遅し。何の抵抗も出来ない内にチョコレートになってしまった。
 ――その数時間後。
「ルシェン……?」
 帰宅した朝斗は等身大のルシェン像を見つけて駆け寄った。
「チョコレート……料理は苦手なはずなのに」
 ふと床に落ちた包みとメッセージカードを見つけて、朝斗は状況を理解した。
「……ふざけやがって。ルシェンにこんな事した奴、絶対に捕まえてやる!」
 差出人は朝斗になっていたが、それは全く身に覚えのないものだった。カードをぐしゃっと握りつぶし、朝斗はルシェンを見上げる。
「絶対に犯人捕まえて、解除方法を聞き出してくるからな」
 と、彼女が溶けないように『氷術』で全身を凍らせてから、朝斗は外へ飛び出していった。