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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

リアクション

 白竜の持っている情報を元に、どう砦を攻めるか意見を出し合っている間、生徒が続々と駆けつけてきた。中でも小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は理子の顔を見るなり飛びつかんばかりに喜んだ。美羽の姿に目を丸くしたのは理子も同じだった。ぎゅうっと握りあった手をぶんぶん大きく上下に降りながら、美羽は笑いかけた。
「リコ! 話は分かったよ! 私も協力する」
「ありがとう。あたしも美羽がいてくれると心強いよ」
「うんうん、まっかせて! 私たちが居れば蛮族なんか何人来ようがちょちょいのちょいよ」
 美羽は胸を張って見せる。そして懐かしそうに目を細めた。
「一緒に冒険できるのも久しぶりだよね」
 2人は蒼空学園の一般生徒だった頃から親友であり、ライバルでもあった。しかし理子が代王、美羽がロイヤルガードになってからと言うもの、すっかり一緒に冒険をする機会が無くなってしまったのだ。仕方の無い事とは言え、やっぱり少し寂しく思っていた。
 それがまた昔の様に、名も無い冒険者の様に大暴れが出来るなんて! こんな時に申し訳ないと思いつつも、嬉しくって、わくわくするのを抑えられない。
「美羽、冒険って……」
「言われなくても分かってるわよ!」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はライルに聞こえやしなかったかと肝を冷やした。楽しいこと大好き! 目立つ事も大好き! な美羽のこと、今回も派手に暴れまわるだろう。しかも“永遠のライバル”と認め合う理子が居る。お忍びのようで、蒼空学園の一生徒として動いているとは言え「いざ戦闘!」となったら。光景が目に浮かぶようだ。
 ロイヤルガードの一員として、美羽のパートナーとして2人の護衛をしよう。どちらかというと蛮族側のほうに護衛が必要な気がしなくもないが。
「美羽も理子さんも、怒ると怖いからなあ……」
 かつての2人の姿を思い出し、コハクは小さくぼやいた。

 ちょうどその頃、ライルは、思い出せる限りで構わないと求められた積み荷や護衛として雇った男の様子、奇襲にあった際の手口などをぽつぽつと語っている所だった。怒りや悲しみや、苛立ちでぐちゃぐちゃな頭から何とか当時の事を引きずり出す。
 大荒野は危ないからと声を掛けられ、安全だと教えられた道へ馬を向かわせた。景色が荒れた地へと移ろうにつれ、不安になっていたライルは、正直なところ、護衛を申し出てくれた彼らに感謝すらしていたのだ。
 他にも姉妹の外見などを尋ねられ、ようやく全員がHCを仕舞った時には、質問が終わったのだとライルはホッと肩の力を抜いた。尋問や詰問の類ではなかったが、複数人からの質問や機械的な口調はゆるゆるとライルの首を絞めていたのだ。中でも叶白竜と名乗った男は、一層、機械的だった。そして自分に対して酷く冷たい。
「1つ言っておくが、教団としては君を連れていくことは反対だ」
「何でだよ! オレだって戦える!」
 厳しい表情で吐かれた台詞はライルを逆撫でるものだった。空をつんざく激昂は、乾いた空間に虚しく響いた。
「そういう態度が問題だと言っている。見た限り、君がまともに戦えるとは思えない。訓練を受けているようにも見えない」
「――足手まといって・・・・・・言いたいのかよ」
「君がそう聞こえたのなら、そうなんだろう」
 白竜はライルを一瞥し、目を伏せる。
「それと聞いておきたい。あくまで最悪の場合を想定しての事として答えて欲しい。積み荷か姉妹か、どちらか一方しか取り戻せない可能性もあります。その場合、私達はどちらを優先すれば良いのでしょうか」
「アンタ――」
「積み荷かきょうだいの命か、なんて白竜も酷なこと聞くよねえ」
 世 羅儀(せい・らぎ)が割って入る。掴みかかり兼ねないライルの肩を抱き、落ち着かせようと何度か叩いてやる。馴れ馴れしさに怪訝な顔を隠しもし無い少年へ、それでも羅儀はにこやかな笑みを崩さない。
「まあまあ、何とかなるって。没問題没問題(大丈夫、問題ない)」
「よしわかった! 積み荷の奪還は任せな! あたい達がきっちり回収してやるよ」
 マリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)が身を乗り出す。きらきら目を輝かせるマリィに気圧されたライルへ、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が安心させようと笑いかける。
「マリィはローグなんですの。だから安心して任せていただいて大丈夫ですわ。適材適所。得意分野を活かした方が成功率もあがりますもの」
「そうそう、あたいに任せておきゃ良いんだって! 全部取り返して、あんたの所に持ってってやるからさ」
 からから笑うマリィの魂胆は別のところにあった。砦まで構えた蛮族の戦利品が、ライルの積み荷だけという可能性は低い。他の行商人も襲っていると考えるのが妥当だ。もしかすると金目のものもあるかも知れない。盗賊としてのカンが訴えている。これは金になるはずだ、と。適当に詰め込んだら砦から逃げ出せば良い。リリィという囮も居る。
「マリィ?」
「な、なんだよリリィ」
「言っておきますけど、これはあくまで依頼、お仕事ですわ。積み荷を手に入れた後、勝手にどこかへ行ったりしないで下さいね」
「あ、あはは、そんなことするはずないだろー! やっだなあ!」
 ――バレてんじゃん。
 小声で嗜めると、マリィは咄嗟に作り笑いをした。それを見てリリィはため息をつく。
 しかし、そんなリリィもライルには悪いがやはり興味はマリィと同じ様に積み荷にある。それに、さっき白竜が言っていたように、おそらく姉妹はよっぽど時間をかけない限り最悪の事態は免れるはずだ。リリィはそう思っている。
 この世界は奪い奪われ。
 そうだと言うのなら。
「奪い返されても、文句はありませんわね」
 マリィはすっかり火事場泥棒が出来ると浮かれている。みんなが騒いでいる間にパパッと探してこそっと頂いてしまおう。ライルの積荷はきちんと返してやれば文句は無いはずだ。リリィは気付かれぬよう、唇にほのかな笑みを灯した。
 羅儀はライルへ気付かれぬよう、こっそり白竜へ笑って見せた。無感動に眺めた後、白竜は背を向ける。頼りなく、しかし尖った視線がちくちくと突き刺さるのを感じていた。そのまま理子の元へ向かい1つ提案した。
「侵入は夕方がベストだと思います。ここは見晴らしが良すぎる」
 ぐるりと辺りを見渡す。砦からこの雑木林の間、身を隠せるものは1つもない。
「あたしもそう思うんだけど――なるべく早い方がいいと思う。ライルには、ああ言ったけどさ……」
 理子の横顔を見、白竜はちらつく雑念に眉をひそめる。どこかで見たことのある顔だ。記憶をさらい、まさかと掴んだひらめきを、まず自分で一度切り捨てる。視線に気づいた理子が首をひねった。
「なに?」
「――いえ。何でもありません。それなら姿を隠せる者か、物音を立てずに動ける者をまず向かわせて、見張りと物見櫨を攻略しましょう」
「わかった。唯斗が向かってくれるから――」
 例えそうだったとしても、関与するところのものではない。“理子”の言葉へ耳を傾けながら、白竜は芽生え始めた好奇心へ蓋をし、堅くねじを締める。