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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

リアクション

 襲い来る蛮族を吹き飛ばす勢いで夢野 久(ゆめの・ひさし)は砦の中へ攻め込んだ。
「うおおおおおおおおお! よっしゃあ行くぜお前等! 真正面から突っ込め!」
 野性の蹂躙で呼び出した魔獣を引き連れ、久は走った。
 修行にもなると思って受けた依頼だ。正直、報酬には期待できないが、それでも良いっちゃ良い。少なくとも鍛錬にはなるだろう。久はそう考えていた。
 何より、不慣れなガキ共相手に用意周到な仕込みっていうやり口は良い気分じゃない。大荒野は弱肉強食。だからと言って弱い奴ばっかり狙って食ってる奴も好きになれない。
潜入みたいに器用な真似は苦手だ。明子にどうしたら良いかと指示を仰がれたが、散々悩んだ挙句「任せる!」という指示を出したぐらいに、作戦やら何やら、細かい事で頭をひねるのは苦手だ。ここは一つ囮として真っ向から突撃して大暴れしてやる。
 砦の内部は吹き抜けの2階建てだ。足元には入り口から紅い絨毯がしかれ、ずっと先にある階段へと続いている。2階部分は他の部屋よりも立派な作りのドアが階段の先にあり、階下を囲むように左右にいくつもの部屋が並んでいる。蛮族がショットガンやクロスボウなど遠距離から攻められる武器を持ち、一斉に攻撃の雨を降らせてくる。
 だったら自分は一階の広間で暴れよう。
 走り回っていると、ちょうど階段の下あたりに他の部屋よりも小さな、質素な作りの扉があった。「ただいま使用中☆」とまるっこい字で書かれた張り紙がしてある。怪しい気配がする。蛮族が中に居るのなら攻めるだけだ。
「ここかあ!!」
 ドアを開けると、真っ先に見えたのが、やけにごつく引き締まった――尻だった。
「あら?」
 恐る恐る顔を上げると、そこに居たのは、たいそう逞しい女性……のような男だった。どぎつい化粧。ぴたぴたしたタンクトップから零れるはじけそうな肉の詰まった腕。どこで手に入れたのかどでかい真っ赤なハイヒール。そして内股。
「な、な……な――!?」
「あなた、見ない顔ねえ。しかも中々いいオトコじゃないの。嫌いじゃないわよ、アタシ、そういう積極的なオ・ト・コ」
 近寄ろうとする相手へショットランサーを向け、振り回す。なぜか「きゃーっ!あっぶないじゃな〜い」と嬉しそうな悲鳴を上げている。久はぞわっと全身に鳥肌が立つのを感じた。
「アタシ、全部脱がないとトイレできない性質なの〜。これ可愛いでしょ〜勝負パンツなの。アタシのオ・キ・ニ! 今日は何だか良い出会いがありそうな気がしてたのよ〜あなただったのねえ」
 バチコーンと音が聞こえそうなウインクを投げられた久が突撃したのは、トイレだった。

 空気を裂くと同時に立ち上る呻き。崩れ落ちた蛮族の男を見、このレベルなら経験値はどれぐらいだろうか、…などと葉月 ショウ(はづき・しょう)は考えていた。マイペースだといわれる原因だろうか。真面目にやるときは真面目にやる。それを証明するように、足元には数人の蛮族が倒れ込んでいる。無光剣を構えたときには馬鹿にするような笑みを浮かべていたが、結果はこの有様だ。
 人の気配に振り向けば、ショットガンを構えてはいるものの、その男はすっかり怯えきった表情をしている。
「そんな所で何してんだ」
「ヒッ……!」
 ショウが近づこうときびすを返すと腰を抜かし座り込んでしまった。この男ひとりに構っているわけにも行かない。自分の役目はあくまでも囮であり陽動班だ。派手に動いて蛮族の気を引き、人数を減らしてライルと理子の潜入を楽にしてやらなければならない。銃口を向けられているが全く恐怖が無い。ガチガチと定まらない手元を蹴り上げると、あっさりショットガンは弧を描いてショウの掌へ収まった。銃口を額へ向けてやる。
「お前にばっかり時間は取ってられないんだ。あとで向かって来られたら困るからな」
 男は半狂乱で首を横に振り続ける。
「しない? 絶対に?」
「し、しない! そ、そん、そんなことしないから、殺さないでくれ……!」
「ふーん。分かった。じゃあ止めてやるよ」
 ほっと表情を弛めたところで、首の後を銃身で叩きつけた。わずかに呻いたのを最後に、その体はぐらりと傾く。しばらくは昏倒したままだろう。男が使っていたショットガンを無光剣で真っ二つに切り捨てる。
 さて、と息を吐いたところで今までとは全く異なる気配が膨れ上がるように近づいてくる。振り返り身構えたその先に居た人物に、ショウは目を見開いた。

「ひいいいぃいい! にげ、逃げろ! 悪魔が! 悪魔がああ!」
「おい、おい、落ち着け! 何もいねえって! なあ!」
「俺が、俺が悪かったんだ! だから、たのむ! こっちに来るな!!」
 青ざめ、のた打ち回る蛮族をマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は、その瞳に憐憫とも取れる感情を浮かべ、見下ろしていた。その身を蝕む妄執。男達は幻覚を見ている。敵は外ではなく内にある。己自身だ。そう易々と逃れられまい。突然狂ったように叫び、腰を抜かした仲間の姿に、共に奇襲をかけて来た男は困惑していた。
 ウィルは彼らがどんな幻覚を見、怯えているのかまでは関知していない。蛮族などやっている人間だ。ずっと抱えてきた闇の一つや二つあって当然だ。汚いことに手を染もしただろう。なけなしの良心で懺悔でもしていれば良い。
 2階からロングボウやアーミショットガンが降り注ぐと、踊るように銃弾を避け、柱に身を寄せる。階上へ魔銃カルネイジを構え、クロスファイアを放つ。威嚇としては十分だ。悲痛な絶叫が聞こえる。
 ライル姉妹の命が掛かっている以上、砦の攻略に時間は掛けられない。可能な限り蛮族側の戦力をそぎ、注意を引き付けて置きたい所だ。戦うばかりだった自分に何ができるかと、ウィルはずっと考えている。ライルが無事に姉妹を救出できたら、何か得るものがあるだろうか。自分の掌を見詰め、銃を握りなおし、ウィルは地を蹴った。

 慌てふためいて武器を取った蛮族は、どれも弱い相手ばかりだった。それもそうだろう。この程度で取り乱す輩など高が知れている。左右のランサーを振るい、多少余計な動きを織り交ぜてもエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は造作なく1人1人を片付けられる。
「しかし、あの女性、見覚えがあるような……」
「ボクも見覚えあるんだよねー」
 呟きへ同意をかぶせたのはロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)だ。
 フェンリルの名の依頼だったが、先ほどの作戦会議などを見ていると、『理子っち』と呼ばれていた生徒が主軸に思われた。出撃前に気になってろくりんピック時の写真と見比べて見たりもしたのだが……(何故持っているのかというと、金欠のために、ファンに高値で売りつ……おっと誰か来たようだ)どちらにせよ、今は囮として全力を尽くそう。パワードスーツをまとい『蒼空の騎士パラミティール・ネクサー』としてとことん相手の目を引いてやるつもりだ。囮だと気取られないのが理想だが、気付かれたとしてもこちらに戦力を割かなければと思わせてやれば良い。
「無様だな、盗賊ども! ここは腰抜けの仲良しクラブか! お前等が持っているのは玩具か何かか!」
 大抵の蛮族が顔をゆがめる中、頭に血が上った単純な男が血煙爪を手に突っ込んでくる。意気込みは認めよう。だが――使い慣れていない武器なのだろうか。闇雲に振り回すせいで軌道が甘い。
「隙だらけだ」
 体を開いて刃先を交わし、繰り出した拳は男の横腹へめりこんだ。
 エヴァルドの呟きに思い当たる節があったロートラウトは、即座に思いついた人物と“理子っち”を並べて照合してみようとも思ったが、今回は思いとどまった。それはまたの機会でも良いだろう。
「本当に理子ちゃんだったとしてもさ、隠居しているでもなし、従者もなし、ジャスティシアでもなし、演説の特技も無い、なんてのじゃ格好付かないよねー」
 ただちょっと騒ぎになる程度だろう。もっと面白いことが起こるなら皆の前で暴いてやっても楽しいだろうけれど。つらつら考えているとフッと影が落ちた。トマホークを脳天からお見舞いしてくれるらしい。ニヤつく顔にすぐさま肘を食らわせてやった。動きが鈍いと思ったら大間違いだ。
「見た目で判断すると痛い目にあうよ?」