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春一番!

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春一番!
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公園にて


 霧島 玖朔(きりしま・くざく)ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)を連れ、イングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)とデートの待ち合わせをしている公園へと向かう途中、メクリと出会ったのであった。

「アレコレ手を尽くして来た甲斐あって漸くデートに漕ぎ着けたぜ。
 ……よくあるナンパが此処まで上手く行くと思ってなかったけどな。しかしいいパワーを貰ったぜ」

「……いいんですけどね。リンクス。今度はなにをたくらんでいるんですか?」

「とりあえずだな、彼女と密着できるチャンスを作ってくれ。それでだな……」

「……了解」

 一方イングリッドは妹でありパートナーでもあるキャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)から、デートについて散々あれこれアドバイスをされたあと、一人、公園へと向かっていた。

「霧島にデートに誘われはいいが、こういうこととは無縁だったし、何をしたらいいのか……
 キャロにはこういう時は下着にも気を配れ! と言われたが……
 そもそも霧島とはそういう関係ではないんだし、そこまではな」

一方キャロラインは、どうにもイングリッドが気になり、先回りして公園へとやってきており、霧島とメクリの会話を偶然耳にしたのであった。霧島が去ったあと、キャロラインはメクリに声をかけてみた。

「お姉ちゃんのデートが気になって来てみましたけどぉ。
 ……メクリさんはなんだかおかしな力配って回ってるんですねぇ」

「おかしな力で悪かったな」

「あ、ごめんなさいぃ。あの、キャロにもそのパワー分けてもらえませんかぁ?」

キャロラインは直感的にこのパワーは何かの際に使える、と思ったのである。パワーを分けてもらうと、デートの様子をこっそり見るべく、公園の片隅の藪へ潜りこもうとした。しかしそこには先客がいた。

「あ。ごめんなさい、って、あれ?ハヅキさん?? やっぱりデートがうまく行くようにって?」

「……そのようなものです」

「じゃあ、ご一緒しましょ。キャロもおねえちゃんがなんだか心配で」

「……そ……うですね」

イングリッドは公園の噴水そばで待っていた霧島に声を掛けた。

「待たせたな」

「お、素敵な服装だな。似合ってるぜ」

「……そ、そうか。ありがとう」

「天気もいいし、ゆっくり散歩しようぜ」

 天気のいい休日とあって、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は黒のジャケットに白のYシャツ紺のジーンズといういでたちで、珍しくべージュのコートに白のブラウス、ボックスプリーツの膝上のスカート姿の橘 瑠架(たちばな・るか)、白のブラウスにべージュのロングのフレアスカートレラージュ・サルタガナス(れら・るなす)を伴って、公園に散歩に来ていた。

「良い天気です ……二人共、良く似合って ……しかしいつもと雰囲気違いますねえ」

「ねえ、もの凄く恥ずかしいんだけど ……なんで、こんな姿なわけ? 私」

瑠架は居心地悪そうにスカートの裾をしきりに引っ張っている。レラージュは嫣然と微笑み、
 
「たまには、女らしい姿も良いと思いますわ ……やはり背の高さありますから、モデルみたいですわ」

「そ、それにしてもこの下着はちょっと ……やりすぎじゃないの」

瑠架が小声でレラージュに向かって言う。

「あらぁ、ストリングは下着のラインがアウターに響かなくてよろしいんですよ」

「ん? ……なにやらお二人で ……楽しそうですねぇ」

ニコニコと紫翠が微笑みかけ、瑠架は赤くなった。
 
 公園の片隅。シャンバラ宮殿から吹き飛ばされてきたゲブーは、日差しを受けてようやく解凍していた。

「お、公園にもなかなかいい感じのターゲットがいるじゃねえか。
 すっかり冷えちまったし、ちと運動でもして体をあっためるとするか」

この男、まっ……たく懲りてなどいない。
一気にパワーを集め、公園内に力を解き放った。突風が巻き起こる。

「おらおらおら〜〜〜舞い上がれ〜〜!! がははははは!!!」

「わっ!」

巻き起こる風に、イングリッドがスカートをおさえる。

(ん? なんか予定よりちょっと早いがまあ良いや)

霧島はハヅキにもパワーを発揮するよう、あらかじめ決めておいた合図を送った。すかさずハヅキがさらに風を送る。一緒にいたキャロラインも一緒だ。
イングリッドのスカートが大きくめくれ、すかさず霧島は彼女のスカートをおさえるフリをして、ヒップを掴もうとした。

「ちょ、何をするっ!」

「いや、スカートがめくれそうだし、押さえないと、な?」

「……何かが違う気がする」

「……ま、ま、良いじゃないか。ささ、デートの続き、行こうぜ」

藪影からキャロラインがつぶやく。

「ううーん。大丈夫なのかなぁ」

ハヅキも首をかしげ、

「これが俗に言う計画通り ……になったんでしょうか ……相変わらず判りません」

とつぶやいた。

 たまたま霧島らのそばにいた紫翠達もまた、連合突風の巻き添えを食う形となった。

「うわ風が……」

紫翠の髪が解けて風に乱され、ジャケットの前がはだける。紫翠は何故か顔を赤らめて赤くなりながら、乱れた服とか髪押えた。女性顔負けの色っぽさだ。
瑠架もスカートがまくれ上がり、真っ赤になってスカートを押さえる。

「ちょ、ちょっと!!! いやぁ」

「あらぁ」

レラージュもフレアスカートが大きくめくれ、色っぽいしぐさでスカートを抑えた。

「がはははは!! いい眺めじゃねーか」

ゲブーが喚く。瑠架が目を吊り上げた。

「み、見ては、いけない物を ……見た ……わね」

「……そうですわねぇ? なんと言ってもレディに恥かかせたんですから、お仕置きですわね」

叫んだ二人が、ゲブーに蹴りを入れる。紫翠が痛ましげな顔で彼を見る。

「自業自得だと ……思いますが ……痛そうですね」

そこへエヴァルトが飛び出してきた。

「貴様ぁあああ!! 女性に対する何たる不埒! 特訓の成果を見ろぉお!!」

「……特訓って、10分くらい枯葉と戯れてただけじゃ」

ベルトラムが突っ込みを入れる。それをスルーしてエヴァルトはゲブーに向き直るや、メクリパワーを注ぎ込み、上昇気流と龍の波動を併せ持つアッパーカットを炸裂させた。

「こん……のスケベ野郎めぇえ!
 女性に無礼を働いた報いを存分に受け、空の彼方で反省するがいいぃい!
 必殺!ドラゴンハリケェェーン!!」

全身全霊を以て打ち上げられたゲブーは、空高く舞い上がって見えなくなった。それを見た紫翠が一人ごちた。

「痛い目見たんですから ……次からは ……諦めて自重してくれれば ……良いのですが」

紫翠に腕をからませ、レラージュは、

「いきましょ」

「わ、私だって」

瑠架は紫翠と手を繋ぎ、真っ赤になった。

「レラージュ、くっつきすぎでしょう? 私なんか手がやっとなのに ……負けない」

「甘いですわ。積極的に攻めるのも有効なんですよ」

メクリの姿は、いつの間にか公園から消えていた。
春をきざす日差しが、噴水をきらきらと反射していた。