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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
魂の器・第3章~3Girls end roll~ 魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション

 
 番外編 人間兵器フェンリルの完成
 
「…………」
 アシャンテ達と別れ、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)リリア・フェンネス(りりあ・ふぇんねす)は帰還を決めて小型飛空艇で移動していた。結局バズーカは手に入らなかった。寺院の内情に詳しいらしい男に、自分が失敗作ではなく成功作だと知られた以上は寺院メンバーとしてのチェリー達を殺す意味も最早無い。彼だけでは無く、寺院全体がこの事実を知るのもそう遅くはないだろう。そういう、確信めいた何かがある。
 ――チェリーの事は許していない。彼女自ら過ちを反省し、謝罪するまでは決して許さない。空京の診療所で気を失って以来彼女と顔を合わせていないクルードは、現在のチェリーがどう変化しているのか知らなかった。
『アクア』という機晶姫の事も気になるが、それよりも、今は一刻も早く被害に遭ったユニを戻して来る寺院との決戦に向けて準備を整えなくてはならない。
 その道中。
「……何だ……」
「イィーヤッハ〜! 満を持して、俺! 登場!」
 テンション高い台詞と共に自分達の行く手を妨害するように立つ男が、1人。
「…………」
 リリアは、小型飛空艇を空中で止めた。高度を上げて無視する事も出来たが――男には、それを許さないものがあった。リリアは、彼を――
「……お前は……見た事があるな……だが、何故お前がここに?」
 そうだ。記憶がある。自分が寺院に居た頃の記憶。
「そんなん、抜け出してきたに決まってんだろぉ?」
 スポットライトを浴びた舞台役者のように大げさに言う男に、リリアはどこか焦りを覚えた。背に感じる気配から、クルードも同様なのだと分かる。彼も、やはり男に見覚えがあるのか――
「……抜け出して来ただと?」
「はっはっは! そう慌てるなよセニョール&セニョリータ! 俺のカッコヨサに見とれるのは分かるが落ち着きたまえ。ふっ、俺を縛る事は誰にもできねえのさ。寺院にもな」
 何をカッコつけてるんだろう……。『ふっ』て、何だろう……。しかし、最後だけ微妙に真面目っぽかったような気がしたが気のせいかそれとも演出か。
 ツッコミどころは多分にあったが、とりあえず、精神的に起こる頭痛に対応する為、リリアはこれだけ言った。
「……どうでもいいが、少し静かにしてくれ……」
「それは無理な注文ってやつだなあ!」
 そして男は、リリアの後ろのクルードに視線を据える。あくまでも軽い口調で。
「よう、フェンリル。取り敢えず降りて来いよ。ここからは俺様オンステージだぜ!」
「……ここでいい……」
 戦闘と暴走の傷が癒えていないクルードは、感情の読み取れない声でそう答える。
「ふ〜ん、まあいいや。よ〜く聞きな。じゃないと後悔するぜ?」
「…………」
「俺はジークヴァルト・グラムザンバー(じーくう゛ぁると・ぐらむざんばー)、魔鎧だ。俺と契約しねえか?」
「…………」
 突然現れて契約と言われても、首肯出来るわけがない。黙っていると、ジークヴァルトは勝手にぺらぺらとしゃべり始めた。
「俺を纏えば、お前の暴走の力を制御できるぜ? 寺院の排除命令にも逆らえるようになる。その代わり、高いリスクもあんだけどな。どうだ?」
「……暴走を抑えられる……だと……? ……リスクとは何だ……」
「纏う時には『アクセス!』て言ってくれよ。それが音声入力コードだ」
「…………」
 さらりと流された。リスクを説明する気はないらしい。
「……お前は……なぜ契約を持ちかける……?」
「ん? ……それが俺の意味だからさ」
 ぼそっ、と、クルード達に聞き取れない声でそう言い、ジークヴァルトは直ぐに言葉を継ぐ。
「いや、俺の時代にする為だ」
「…………」
 お互いに視線を逸らさぬままに十数秒が過ぎ、それから、クルードは口を開いた。
「……降ろしてくれ……」
「……分かった……注意しろ……」
 それだけ言って、リリアは飛空艇の高度を下げた。警戒の必要はある。だがジークヴァルトは敵ではない。彼女の直感が、そう告げていた。これは改造された兵士・超兵であるリリアの感覚であり、彼女がもっとも信頼している人間判断能力だ。普段はこれで寺院の人間かどうかを見極めている。
 それ以前に、クルードの決定を覆すなどリリアからすれば考えられない事なのだが。
 その為、彼が契約を決めたのなら注意を促す以外に言う事も無い。もしもクルードに危険があったのなら、リリアが始末をつければいいことだ。
「アクセス!」
 地に足をつけてジークヴァルトと対峙し、クルードは音声入力コードを叫ぶ。リスクが何か判らずとも、暴走、そして排除命令による意思の消失は現在の一番の問題だ。背に腹は変えられない。
 ジークヴァルトを纏った瞬間、クルードの髪と瞳の色が漆黒に染まった。力を使いこなした状態であり、同時に暴走時の状態でもある。深い闇を発したその姿からは、危険性が窺えた。
 ――人間兵器フェンリルの完成である。
 纏われた状態のまま、ジークヴァルトは言う。
「契約完了だな! これからは、俺を纏わなくてもその力が使えるぜ! 不安定にもなるけどな! あ、あと、1度俺と契約したらもう取り消せねえから」

 こうして敵か味方かも判らないまま、クルード・フォルスマイヤーはジークヴァルト・グラムザンバーと契約した。
 寺院のデータ――失敗作であるというデータが既に書き換えられていて、それをこの魔鎧が行ったことだと知らないままに。