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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

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「……あっ」
 少女がふいに声を上げた。
 ここは戦場となっている村から離れた場所。パッフェル・シャウラたちが陣取る本陣……よりもさらに後方。最初にパッフェルが少女の霊魂と出会った、あの場所である。
 そして声を上げたのは、まさにその少女の霊だった。
「……どうした?」
 問いかけたのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。少女のボディガードのためにこの場に残っていたのだ。
「……何だか、嫌な感じがしたの。変な感じ……」
「それって、まさか……」
 アネイリン・ゴドディン(あねいりん・ごどでぃん)が牙竜を見やる。牙竜は小さく頷いて答えた。十中八九、彼女の「体」に何かあったのだろう。
「何も言うな。それが彼女のためだ」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が、少女に聞こえないように小さくささやく。アネイリンはぐっと頷いた。
「き、きっと今頃、みんなが村のために戦ってくれてるよ!」
「ああ。頼りになるやつばかりさ。きっと、大丈夫」
 アネイリンに合わせて、レンが言う。その様を、牙竜はじっと見ていた。
(ヒーローが子供を守るのは当然だからな。アネイリン、お前も英雄になるつもりだったら、泣かすんじゃねえぞ)
 そう、考えていた。
「そ、そうだ、名前まだ聞いてなかったよね。ボク、アネイリン。君は?」
 子供っぽくはしゃぐ……ような仕草で、アネイリンは無理に明るく振る舞っている。少女はしばらくはにかむようにしてから、
「……ススキ」
 と、短く答えた。
「ススキちゃんか。いい名前だね」
 アネイリンが言うと、少女はますますはにかむように頷いた。
「俺も、聞いていいか?」
 大柄なレンが少女と目線を合わせるため、身をかがめている。
「ネックレスっていうのは、大事なものなのかい?」
 問う。少女はこくん、と小さく頷いてから、
「おかーさんが、おたんじょうびに買ってくれたの」
「そうか。お母さんのこと、好きか?」
「うん」
「お父さんは?」
「すき。むらのみんなも、すごくすきだよ」
 少女は無邪気な……邪気だけでなく、悲しみも知らない笑みで答える。レンはそっとほほえんでいたが、アネイリンは思わず泣きそうになっていた。
「お、おい、ちょっとこっち来い」
 牙竜が裾を引っ張って、アネイリンを連れて行く。
「オマエが泣いてどうするんだよ」
「だ、だって。あんまりにもかわいそうで……」
「だから、最後までそばに居てやるって決めたんだろ? レンだって、あの子に良い想い出を作ってやりたいからって、一緒に居るんだ。あいつの気持ちまでムダにするんじゃない」
「う、うん……」
 目元をぬぐい、アネイリンが再び少女の下へ向かう。と、そこへ、
「あっそびーましょー!」
 新たな人影が現れ、少女の手を取った。ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)だ。
「はりゃっ?」
 勢い込んだアネイリンが思わず妙な声を漏らす。
「ルルール、そりゃあひどいよ。その子も仲間に入れてやりな」
 その後ろから、楽しげに肩を震わせアンガラ佐野 豊実(さの・とよみ)が声をかける。
「あらまあ、ごめんなさい。じゃっ、あなたも一緒にイイコトしましょ」
「な、なんか変な意味に聞こえるんだけど……」
 ルルールが別の手でアネイリンの手を取り、輪に加える。ふたりは並んでルルールの提案する遊びの中からこの場で遊べそうなものを選びはじめる。
「あいつが、あんなに乗り気とはな」
 夢野 久(ゆめの・ひさし)が腕を組んで呟いた。
「おや、私としては、君が着いてきたことにも驚いてるんだけどね」
 三人の様子をスケッチしながら、豊実が飄々とした様子で言う。
「おまえたちが会いたいと言うから……」
「何も、君まで付き合うことはないじゃないか?」
「弱肉強食が合い言葉の大荒野で、誰が誰を襲おうが、誰が復讐しようが、そりゃあ自由だ。……こういうのは、気分よかぁねぇがな」
「同感だ」
 久の答えに同調したのは、レンである。
「自由も無法も大歓迎だが、だからって女の子が死んで気分が良いってことじゃない。もし俺がその場に居れば助けてやったんだが……」
 レンがゆっくりと肩をすくめる。
「まあ、間に合わなかったんだ。せめて、彼女ができるだけ辛くないように見送ってやりたいよな」
「おやおや。すっかり代弁されてしまったみたいだな」
 豊実はからかうように久を見やる。
「だ、誰が。俺はな、そういう面倒なのは嫌ぇなんだ。だいたい……」
「静かにしてくれよ。ただでさえ怖い顔なんだ、子供がおびえちまうだろ?」
 素直な反応を見せる久の様子に、レンも悪戯っぽく言う。
「……分かってるよ」
 そう答えると少女に同情していることを認めているようなものだが、久はそこまで思い至らず、素直に答えてしまったのだった。



 パッフェル・シャウラは本陣で各部への連絡・指揮を行っている。元々、彼女の発案で始まった戦いだ。もし失敗したときの責任はパッフェル自身が取らなければならない……そう考えていた。
「敵ネクロマンサーの拠点へ侵攻が始まったわ。村に向かって、村人の確保と、村の包囲を」
 指示を飛ばす。レオンらが一斉に答え、村へと駆けだしていった。
「ふっ……」
 ほぼ、チェックメイト……あとは、相手のキングを追い詰めて落とすだけだ。パッフェルにも、一瞬、気の緩みが生まれた。
 まさにそのとき。
「はっはぁー! 大将をがら空きにするとはな!」
 異常な高鳴りのエキゾーストノート。かと思った直後には、1人乗りの飛空挺が異様な速度で突っ込んできていた。
「なっ……!? 正気!?」
 パッフェルは驚き、身をかわす。直後、飛空挺は速度を緩めることなく、パッフェルの居た場所へと突進し、砂煙をまき散らした。
「何を考えて……まさか、私が狙い?」
「その通り! 俺はな、強いやつと戦えればそれで良いんだ。てめえの実力を見せてみろ!」
 砂煙の中から、白い外套に身を包んだ白津 竜造が現れる。魔鎧と化したアユナ・レッケスが、激突の勢いから竜造を守ったらしい。にしたって、無茶な作戦だ。
 竜造の刀が走る。放たれた衝撃が、パッフェルの眼帯を弾き飛ばした。
「っ……!?」
 パッフェルが眼帯の代わりに手で右目を覆う。竜造はにやりと笑った。
「おいおい、てめえだって、本当は戦う相手が欲しかったんだろうが? 死んだガキの言うことを聞くためにこれだけの人数を動かしやがって」
 挑発だ。もう少しで乗って来る。竜造は確信した。
「大体てめえだって小娘みたいなの生んだ側、つまり同じ穴のムジナだろうが!」
「……! この……っ!」
 パッフェルが武器を抜きかけたとき。
「パッフェルの邪魔をしないで!」
 高く、声が響いた。小柄な影が2人の間に割ってはいる。桐生 円その人だ。
「好きな人の前だから、張り切っちゃってるの? 可愛いわねぇ」
 その後ろには、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が。
「ようやく楽しい楽しい戦闘だー!」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が。
「円様のお友達のため、あたしも頑張ります!」
 アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が並ぶ。
「ここはボクが引き受ける。パッフェルは先に行って」
「でも……」
「後で追いかけるから、早く行きなよ」
 円が背を押す。パッフェルは浮かんだ迷いをすぐに捨て、駆けだしていく。
「ほーぉ……てめえらが相手になるってのか?」
 竜造はパッフェルを追わず、円に向き直った。
「そうだよ。キミみたいなやつからパッフェルを守るためにボクは来たんだ。……アリウム」
「はいっ!」
 円の呼びかけに答え、アリウムが魔鎧へと姿を変える。ロリィタ衣装となったアリウムを着た円が、銃を両手に構えた。
「くくく……てめえのほうが強そうだな。相手にとって不足なし、ってやつだ」
 竜造が向かい合って剣を構える。応じるように、オリヴィアとミネルバも構えた。
「だが、3対1……いや、この場合は4対2ってのか? ともかく、そういうのは感心しない……なあ!」
 竜造が何かの合図を出すかのように手を振り上げる。そしてそれは、実際に合図だった。
 シュウウウウッ!
 大量の煙幕が竜造の背から噴き上がり、周囲を包む。
「なっ……!?」
「だからこっちの数が増えたって、卑怯とは言わないよなあ!」
 2つの影が、煙幕に包まれる円たちへ向かう。1つは竜造。もう一つは竜造の合図に答えた松岡 徹雄(まつおか・てつお)だ。
 煙の中、竜造の刀が振るわれる。ミネルバは勘を頼りに、その刃を受け止めた。
「うおー、強烈だー!」
 その衝撃に脚を踏ん張って耐えながら、ミネルバが声を上げる。その声を頼りに、徹雄が低い位置から刀を跳ね上げる。
「……くうっ!」
 が、ミネルバたちを守るために円が銃弾を放つ。狙いを定めてはいないが、徹雄の手を鈍らせるには十分な威嚇射撃だ。
「下がって!」
「下がれ!」
 円と竜造が、同時に同じ指示を飛ばす。オリヴィアと徹雄は、晴れはじめた煙幕の中から飛び退いた。
「ははは! こうでないとな! 今のでやられちまったらどうしようかと思ったぜ!」
「そっちこそ、もっと楽しませてよねー!」
 互いに笑みを浮かべた竜造とミネルバが、武器を打ち付け合う。何合も何合も。
「ミネルバ、悪いけど、あんまり楽しませてあげられないよ!」
 数の利は円たちにある。円の光の弾丸が、あるいはオリヴィアの闇の魔法が竜造を狙う。しかし魔鎧の装甲を楽には貫くことはできない。さらには、
「……」
 声も漏らさぬ掃除屋……徹雄が、煙幕の中で仕込んだ爆薬を弾けさせる。勢い、オリヴィアやミネルバの体勢が崩れる。
「勝負はこっからだ! 行くぞ!」
「パッフェル、しっかりね……!」
 戦いはさらに激しさを増していく……。