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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

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第3章

 蛮族の多くは陽動につられ、村を飛び出していた。
「ヒャッハーーーッ!」
 まるでそれが号令であるかのように、蛮族たちは手に手に武器を構え、バイクを駆って一斉に突っ込んでくる。
 それはそれで、野生動物の駆除にも似たやっかいな仕事だ。とはいえ……
「救出班から入電! 人質救出はほぼ遂行された! これから、反撃に移る!」
「では、まずは私の出番ですね」
 陽動班と合流し、けん制しながら逃げていたグループの中から、白河 淋(しらかわ・りん)が振り返る。そして、その手を一振り。
 ゴオオオッ!
 荒野に炎の壁が立ちのぼり、蛮族たちの目の前を真っ赤に染めた。パイロキネシスである。
「何だっ!?」
「うわあああっ!」
 突然目の前で上がった炎の壁。蛮族たちは驚いてバイクを止める。
「作戦を次のステップに移行するぞ。迅速に制圧する!」
 パワードアーマーに身を包んだ三船 敬一(みふね・けいいち)が小銃を手に飛び出していく。急ブレーキで体勢を崩した蛮族たちめがけて銃弾を放ち、まずは脚を止める。
「これ以上、好きにはさせん!」
 敬一の砲火は蛮族たちの脚を浮き立たせ、出鼻をくじく。
 その中に、ひときわ勇ましいバイクのエンジン音が轟いた。
「俺も、全力を尽くす。おおおおっ!」
 エンジン音に引けを取らない、勇猛な声。突撃をかけたのは、大岡 永谷(おおおか・とと)だ。
 槍を手に、蛮族たちのまっただ中へ突っ込んでいく。一気にその中を駆け抜けると、反転してもう一度。
 武器を手にした蛮族たちの中にあっても、バイクの速度は落とさない。バイクが、槍が触れるのに任せてひたすら突っ込む。
 とはいえ、これが有効だった。
 蛮族らの戦いにおいてもっとも重要なものは、勢いだ。攻めるときは徹底的に攻め、逃げるときにはさっさと逃げる。それが無法者の戦い方である。その蛮族と戦うには、真正面からぶつけるよりも、横を突いてその勢いを殺すことが重要なのである。
「だから、それは騎兵である俺の役目だ」
 そう、永谷は考えていた。実際、数の多い蛮族相手には、突撃して抜けるのが精一杯で、とてもひとりひとり倒していく余裕はなかった。
「お前ら、ひるむな! こんなのはこけおどしだ!」
 蛮族の中から、ひときわ立派なモヒカンが叫ぶ。銃士と騎兵、シャンバラ教導団員によってかき乱された戦況を立て直すためだ。
「そうはさせない。やれ、ノーレ」
「……はい」
 マクスウェル・ウォーバーグの指示に応え、ノーレ・シュトゥルム(のーれ・しゅとぅるむ)が機晶キャノンを起動する。ノーレは急速に出力を上げ、顔にある機晶回路が炎のように光を漏らした。
「……蛮族、許さない……」
 ドンッ!
「ぎゃあああ!?」
 ノーレの放った機晶キャノンは、再び集合しようとした蛮族たちを弾き飛ばし、ばらばらに追い散らす。
「よくやった、後は任せろ!」
 マクスウェルは流れるような動作で2挺の銃を手に構え、敵の中へ突っ込んでいく。
「フォローするよ」
 トミーガンを手にその後を追うのは笹奈 紅鵡。マクスウェルは頷き、ふたりは並んで蛮族の背後を突いた。
 永谷の突撃のたびに乱れる蛮族を、ひとりずつ、確実に仕留めていく。紅鵡の銃撃が追い散らし、マクスウェルの弾丸がその戦闘力を奪っていく。
「さすがに、数が多いな」
「最初よりは、だいぶ減ったよ」
 ふたりは背を向け合って話し、それぞれが向かってくる蛮族を迎え撃つ。
 絶え間なく銃声が響き、そのたび、蛮族たちがひとり、またひとりと倒される。
 が、それでも蛮族の数はまだ多い。獣の群れのように、手当たり次第に襲いかかってくる。
「くっ、手が足りん!」
「それじゃあ、お助け!」
 思わず漏らすマクスウェルに、別の声が答えた。
 同時、魔鎧と化したドール・ゴールド(どーる・ごーるど)に身を包み、さらに蒼い何かに包み込まれた鳴神 裁(なるかみ・さい)が飛び出る。
「ひいいっ!?」
 反射的に、蛮族がショットガンを構え、引き金を引いた。至近距離からの弾丸は、そのほとんどが裁の体に命中したが……
「ボクは風。風に銃は効かないよ」
 弾丸のほとんどは蒼い何か……表面を包む蒼汁に阻まれ、あるいはドールの変化した衣装に防がれて弾かれていた。
「いや、風と言うよりは……」
「スライム、というか」
 頼りになる仲間にもかかわらず、マクスウェルと紅鵡は思わず突っ込まずには居られなかった。
「ごにゃ〜ぽ」
 裁がごそりと服の間から格闘新体操用クラブ……と裁は呼んでいる、鈍器のようなものを取り出した。その迫力に飲まれ、誰も言葉の意味など聞かなかった。
「女の子を手をかけたこと、後悔させてあげるよ!」
 構えたクラブから猛烈な風が吹き上げる。銃弾が効かない裁からは、逃げるのが精一杯である。
 そこへ、再び炎が吹き荒れる。今度は、アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)のファイアストームだ。
「ひいいいいいっ!?」
 熱風に追い散らされ、思わず地面に伏せた蛮族へ、アリスは手を触れた。
「ふふ、魂まで吸い尽くしてあ・げ・る♪」
 一気にその血が吸い上げられる。顔面蒼白となった蛮族が倒れると、また次の標的を探すのだ。
 まるで玩具を好きにしていいと言われた子供のように……いや、アリスにとってはまさに同じ状況だ。彼女の影から、一斉にコウモリの使い魔が表れ、蛮族に覆い被さっていく」
「自分たちが蹂躙される側にまわった気分はどう? アリスはね、わりとサイコーって感じ!」
「調子に乗るな、ガキがっ!」
 激しいエンジン音。スパイクバイクを狩るモヒカンが、そのバイクに取り付けられた機関銃でアリスを狙っていたのだ。
「……っ、アリスを守って!」
「おおっ!」
 後藤 山田(ごとう・さんだ)が威勢良く答え、一気に踏み込んで雷を放つ剣でその機関銃を斬り飛ばした。
「てめぇらは俺を怒らせた。後悔してももう遅いぜ!」
 機関銃の爆発でずたずたになるバイクから飛び降り、モヒカンは血煙爪を構える。
「舐めやがって! 全員肉塊に変えてやる!」
「それはこっちのセリフだ! このサンダー様がてめぇらの性根を叩きなおしてやるぜ!」
 山田は相当頭に来ていたらしく、剣だけでなく自らに雷を纏わせて突っ込んでいく。その電撃は血煙爪の駆動部を破壊し、モヒカンを地に倒した。
 戦いはすでにして、形勢逆転の様相を呈していた。