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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

リアクション

 たき火がぱちぱちと音を立てている。
 その火を何人もの男が囲んでいる。多くはスキンヘッドやモヒカン頭に、革の服をスパイクの着いた金属で補強している。「パラ実生です!」と看板を立てているような格好である。
 肉やスープを貪る男たちが、不意にその手を止めて振り返った。足音に気づいたからだ。
 背の高い女……ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、近づいてきている。
「止まれ」
 コンバットスーツに身を包み、顔までも隠したハンス・ベルンハルト(はんす・べるんはると)が銃を向けた。しかし、ガートルードはひるまず、その場で立ち止まって両手を軽く挙げる。
「私は敵じゃありません。自由無法者同盟の盟主、ガートルード・ハーレックです」
「何……ということは、あの!?」
 ざわざわと男たちが囁き合うのを平然と流し、ガートルードは一歩、前に出た。
「どの、かは知らないけど、たぶん、そのガートルードです。ここのリーダーと話がしたくて来ました。一番強いのは、誰?」
 無法者どもを相手にするには、こう聞くのが都合が良いのだ。案の定、ひとりの男が立ち上がった。革のベルトを全身にぐるぐると巻き付け、まるで黒い包帯で全身を包んでいるかのようだ。やけにぎらついた目と、色の薄い唇だけがベルトの間から覗いている。
「俺か僕か私だ」
 男は、低い、耳元にささやくような声で答えた。
「魔力と引き替えに記憶や人格の一部を捧げていてね。自分をなんと呼んでいいのか分からないんだ」
 いぶかしげなガートルードに、男は平坦な調子で告げる。
「そうですか。……とにかく、私はあなたたちに警告しに来ました」
 ハンスはガートルードの背中に銃を向けたままだ。さすがと感服しながら、彼女は続ける。
「十二星華のひとりが呼びかけて、契約者たちがここを襲撃しようとしています。『正義』を掲げてあなたたちの自由を奪おうとしています」
 無法者たちがざわめく。
「なるほど。いつか来るだろうとは思っていたが、案外に早いな」
 蛮族の頭……ネクロマンサーが呟く。
「だ〜ひゃっはっは!」
 突然、異様な哄笑が上がった。そのもとは、イルミンスールの制服を着た少年……ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)である。
「いいじゃねえか。そいつら全員追い散らして、不幸にしてやりゃあいい!」
 心の底から楽しげに笑うゲドー。その隣で、ネクロマンサーも大きく頷いた。
「こうなるだろうとは思っていた。野郎ども、全員血祭りに上げてやれ」
「ヒャッハー!」
 ネクロマンサーの言葉に応え、蛮族たちが一斉に拳を振り上げた。そして武器を掲げ、あるいはバイクに跨がって駆けだしていく。
「油断しないでください。数だって、決してあなたたちより少なくはないですよ」
 ガートルードの忠告に、ネクロマンサーが肩をすくめた。
「何、このための準備はしておいたんだ。傭兵も雇ってね」
 ネクロマンサーの視線の先にはハンス。そして、袍に身を包んだ辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が頷く。
「わらわは、仕事をこなすだけじゃ」
 刹那が呟き、立ち上がる。
「警告だけ、しに来たんじゃないだろうな?」
「当然です」
 ゲドーの問いかけにガートルードが答え、白い杖を手に構えた。



 村の一角に、黒づくめの影がみっつ。
「ひゃっは〜♪」
「ひ、ひゃっはー」
「……ヒャッハー……」
 ひとつの影が声を上げるのに合わせて、ふたつの影が答える。皆、女の声だ。
「ぜんぜん元気が足りない。そんなんじゃまた怪しまれるよ」
 黒装束のフードを外して、ロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)が二人をいさめる。
「そ、そういわれても、蛮族のふりなんてできないですよ」
 困った様子で姿を現すルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)
「……でも、うまく潜り込めたな」
「こういうの、うまくっていうんでしょうか……」
 二人の契約者である銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が呟く。いかにも怪しげな黒装束で蛮族の中に潜り込むなり、蛮族たちが襲撃だと騒ぎ出し、走り出していったのである。
「このままここに居たら、結局怪しまれるんじゃない?」
「ですけど、やっぱり本来は味方である生徒さんたちに手を出すのはちょっと、気が引けます」
 ロンドの提案に、ルクシィが困惑した様子で眉を寄せる。
「……敵を騙すには、味方から……。時期を見計らおう」
 七緒が意見をまとめた。二人はそっと頷き、共に蛮族たちが向かった方向に歩きだそう……と、したとき。
「あのう、私の、トモちゃん知りませんか?」
 不意に小柄な女の子が、不安げだがはっきりと七緒に声をかけた。
「……何?」
「だから無駄だって言ってるだろ、アユナ。見つかりっこねえよ」
 いぶかる七緒の向かいで、新しい人影。白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)だ。声をかけた女の子は、アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)である。
「でも、トモちゃんがいるかも知れないじゃないですか」
 アユナの主張に、七緒は首を振る。
「俺は、通りすがりの……」
「ナオ君」
 ルクシィが七緒にとがめるように声をかける。七緒は「分かっている」と言うように頷いて、
「通りすがりの、蛮族だ……」
 と答えた。
「そうですか……」
 かなり無理のある回答だったが、アユナは信じたらしい。はぅ、と息を吐き出して、竜造に向き直った。
「もう分かっただろ。早く行かないと獲物が逃げちまうぜ」
 好戦的な笑みを浮かべる竜造に干渉され、アユナが外套へと変化し、その体を包んだ。
「お前らも、とっとと来いよ。楽しい闘争が終わっちまうぜ」
 魔鎧……アユナに身を包み、にやりと笑った竜造が歩き始める。どうやら彼も信じてくれたらしい。
「行くっきゃないわね」
 ロンドが肩をすくめる。七緒とルクシィが頷き、三人は戦場へ向かった。