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またたび花粉症

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またたび花粉症

リアクション

「同好会で……って、あの胸元開いててミニスカの奴!? それとも猫耳尻尾のあれか!?」
 思わず声を張り上げて土御門雲雀(つちみかど・ひばり)は顔を赤くした。
「あれはだめ!! マジでだめ!! 主にあたしが恥ずかしくて死ぬから!!」
 エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)はそんな彼女へおかしそうに笑ってみせるだけだった。
 むすっとする雲雀だが、前方にショッピングモールが見えてきたことに気づいて気持ちを切り替える……はずだった。
「あれ……や、だ……なにこれ、くらくらする……地面が、揺れ……て……」
 と、ぺたりその場に座り込んでしまった。力が抜けているのか、立ち上がろうとしない。
「……参ったな」
 と、呟くエルザルド。どこか休める場所を探そうと思って周囲を見回すと、よく知る二人らしき姿に気づいた。――しばらく会わない内に進展でもしたのかな?
「つかれた! ヒラニプラから空京遠いんだよ、もーあるけない!」
 雲雀がふいに騒ぎだし、エルザルドははっとした。
「あんた、あたしのパートナーだろー? つーか、元ホストだろー? 抱えて運ぶくらいできねーのかよ?」
「はいはい、分かったから」
 そしてエルザルドは雲雀を抱き上げると、二人の方へ向かって歩き出した。
「久しぶりだね、ヤチェルちゃん、叶月」
 声をかけられた松田ヤチェル(まつだ・やちぇる)は、はっとしてエルザルドへ顔を向ける。
「あら、エル君に雲雀ちゃん……お久しぶり、だけど――」
 と、ヤチェルは自分を抱きしめて離れない由良叶月を見やった。
「何か様子が変なのよ。お酒も飲んでないのに、カナ君、酔っぱらっちゃったみたいで」
 じっとエルザルドを睨む叶月は、彼の存在を認識できていない様子だ。いや、認識した上で睨んでいるのだろうか。
「へぇ、様子がおかしいだけなのかい? ……そりゃ残念」
「残念?」
「いや、何でもないよ。まあ、雲雀も空京に来た途端こんなだし、どっかで休ませようか」
 と、笑うエルザルド。
「そうね、それがいいかも」
 と、ヤチェルは言うと、息を一つついた。

 師王アスカ(しおう・あすか)は気分が良かった。
「ぎゅー」
 と、誰彼構わずハグをしては、すりすりと身体を寄せている。
「こら、アスカ!」
「うーん、まだ足りなぁい……もっと他の人にもー」
 と、後を追ってくるルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)をかわして、別の人へ抱きつくアスカ。
「アスカのやつ……羽目外しすぎだろ。っつか、おかしいな。昼間から酒飲むのは控えてたんだが……」
 わたわたしているルーツの後を追いつつ、蒼灯鴉(そうひ・からす)は頭を振った。
「大丈夫、きっと酔ってない」
 そういう人に限って、酔っているものである。
「ああもう、アスカ! これ以上人に迷惑をかけるなと、何度言えば……!」
「にゃっはははー、あったかーい」
 次々とアスカの犠牲になる市民たち。
「もっと、もっとぎゅーするのー」
 と、ルーツから逃げるアスカは、とても楽しそうだった。

 ベンチに叶月と雲雀を座らせたヤチェルとエルザルドだが、二人の様子は依然、変わらなかった。
「……何してる、ヤチェル」
「おいエルー、ここどこなんだよー? 大体、なんで団長じゃなくてエルなんだよ、ばーか、さいあく……」
 相変わらずヤチェルしか見ていない叶月と、ぶつぶつと文句を言う雲雀。
 ヤチェルは構うことなく、鞄から財布を取り出した。
「こういう時はお水を飲ませるのが良いのよね」
 と、近くの自販機へ行こうとするが、叶月に腕を引かれて動けない。
「ちょっと、カナ君……あたしはどこにも行かないから、離してくれない?」
「やだ」
「……助けて」
 苦い顔で助けを求めると、エルザルドが叶月の腕を掴んでヤチェルを解放してくれた。
「ありがと、エル君」
「いや。それにしても、あの叶月がこんなにもねえ……」
 と、ヤチェルへ視線を向ける叶月を見て、エルザルドが呟く。普段の彼ならこんなこと、死んでもしないだろうに。
 そして自販機へ向かうヤチェルだが、その行く手を何者かが阻んだ。
「まったまた、ぎゅー!」
 アスカだ。ヤチェルを抱きしめて頬を寄せる。
「もうやめるんだ、アスカ! 困ってるだろう?」
 と、息を切らしながらルーツがアスカの腕を引いた。
「えー、まだまだぎゅーしてないよ。それに寒いし」
 追いついた鴉が両目を少し潤ませてアスカへ言う。
「アスカ、もうやめておけ。寒いなら、俺が暖めてやるから……」
「鴉……っ!」
 ぎゅう、と鴉に抱きついたアスカ。
 どう見ても酔っぱらいが抱き合っているだけだったが、ルーツはひとまずほっとした。そして、呆然としているヤチェルへ謝る。
「巻き込んでしまったようで申し訳ない」
「あ、いえ……」
 ヤチェルはルーツに会釈を返すと、そそくさと自販機へ向かい、水を買った。
 嫌な予感を覚えつつすぐにベンチへ戻ると、案の定、叶月に勢いよく抱き寄せられる。
「……俺だって、嫉妬するんだぜ……?」
 と、耳元で囁かれ、先ほどよりも強く抱きしめられる。いい加減、ヤチェルはうんざりしてしまった。
「悪いけどカナ君、あれは事故よ」
 唐突にカシャリ、聞き覚えのある音がした。
「抱き合うほど仲睦つまじくて結構!」
 空京写真館の管理人である尼崎里也(あまがさき・りや)だ。
「里也ちゃん、違うの。一方的に抱きしめられてるだけよ」
 きちんと訂正を入れつつ、ヤチェルは里也の後ろで見慣れた人物が酔っていることに気づく。
「ああ、可愛い……っ」
「ちょ、やめろったら!」
 鬼崎朔(きざき・さく)ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)だ。頭や身体のあちこちを撫で回しては、カリンに抵抗されている。
「朔とカリンに空京写真館の掃除を頼んで、ここで可愛い娘の写真を撮っていたんだが……あの有様でな」
 と、さすがの里也もあきれ顔だ。
 叶月に限らず、今日はいろいろとおかしいようだ。
「まあ、面白いから放置している次第だ」
 と、里也はエルザルドにくっついている雲雀へレンズを向け、いくつかシャッターを切った。
「ああ、あっちにも可愛い子が!」
 と、唐突に、カリンからようやく離れた朔がヤチェルの前へ立った。
 はっとしたカリンが慌てて止めに入る。
「駄目だ、朔ッチ!」
「か、可愛い子……もふもふしたい」
 と、両手をにぎにぎと動かす朔。狙いを定めて腕を伸ばすが、叶月がそれを許さなかった。
 ふいにヤチェルを抱きしめたまま横へ避け、朔はそのままベンチへ突っ込んでしまう。
「!」
「ああ、朔ッチ!」
「…………こ、こっちにも、可愛い子、が……」
 と、朔はヤチェルを諦めると、標的を雲雀へと変えた。
「な、なんだよっ」
 と、身構える雲雀に襲いかかる朔。
「ひゃあ!?」
 抱きつかれ、されるがままになってしまう。
 身体を撫で回されて抵抗する雲雀だが、朔の暴走は一向に収まらなかった。それどころか、里也はその様子を写真に撮っているではないか!
 エルザルドはただ、そんな彼女たちを眺めていた。写真の出来上がりが楽しみだと、言わんばかりの表情で。