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なし

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すいーと☆ぱっしょん

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すいーと☆ぱっしょん

リアクション

 同じ頃、百合園女学園の寮内にいた桐生 円(きりゅう・まどか)は首を傾げながら、自室から顔を出した。
「なんだろ、何か凄い音がするんだけど…」
 沢山の生徒がいるのは普段の事であり、当然人間が多ければ賑やかなのは不思議ではないのだが、この時は賑やかと言う雰囲気ではなかった。どちらかと言うと、慌しいと言う言葉の方が当てはまるそれだった。
 故に彼女は、恐る恐る自室から出て、音源を探る事にした様だ。
「もしかして…泥棒か何かかな…」
 やや緊張した面持ちで歩みを進める彼女の両手には、彼女の使用する銃『曙光銃エルドオリッチ』が握られていた。
 円は慎重に階段を下り、目の前にある廊下の壁から顔だけを出して様子を探る。と――

「でぇぇやぁああぁ!」

 突然の声。
 敵を一撃で無力化する事を主眼に置いた、どうしようもない程に正確な正拳突きが、円の眉間へと飛んでくる。
「わわっ!?」
 慌てて身を屈め、頭を抱えて床にしゃがんだ円。が、それ以上の追撃はない。彼女が恐る恐る顔を上げると、そこにはセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)がいた。何かを警戒しているような表情で、円を見下ろしている。
「あんたもパッフェルが狙いなのかしら?」
 随分とぶっきら棒な口調で、円に言葉を発するセイニィ。
「…へ?」
 驚きのあまり声がひっくり返る円。
「セイニィ?どうしたのさ」
 ゆっくり立ち上がりながら、円が尋ねた。
「うん?あ、円…ごめっ…」
「いいんだけどね。別に」
 ぽんぽん、と、埃を払う仕草をしてから、再びセイニィの顔を見る。
「それで、何をそんなに焦ってるのかな?」
「うっ…その…ええい!悩んでもしょうがないか!実はね、パッフェルが大変なのよ」
 同寮内にあるパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の部屋の前に来ていた二人。不安げに扉へと目線を戻すセイニィを見て、円は疑問を解消すべく、扉のノブに手をかける。すると、今まで心配そうに扉を見つめていたセイニィが慌ててそれを制止した。
「ちょっと待って!」
「???」
「その扉、開けちゃ駄目」
 どうにもセイニィが言っている意味がわからない円は小首を傾げ、セイニィの言葉を待った。
「あのさ、円。バレンタイン、何があったか覚えるわよね」
「うん、そりゃあまぁ…」
「またよ」
「へ?何が…?」
「パッフェルったら、また呪いのかかった食べ物食べちゃったみたいで、今度はキャンディになっちゃったのよ!」
「…え?」
 後半はほぼまくし立てる様に話していたセイニィに対し、まだ事態が把握できていない様なリアクションを返す円。
 暫くの沈黙の後、今度は円が大声を上げる。隣にいたセイニィが、思わず両耳を塞ぐ程の大きな声で、驚きの意を表した。
「えええええええぇっ!?」
「う、煩いわね!もう少し小さく叫びなさいよ…まぁいいわ。それで今、パッフェルを元に戻す為にどうすれば良いかを考えてたのよ。円も一緒に考えてくれると助かるんだけど…」
 円は慌てて頷いた。
「とりあえず知り合いには片っ端から連絡したの。みんなが集まり始めるのもそんなに時間、掛からないと思うし、集まったらみんなで話し合おうかなって思うんだよね」
 気を取り直し、セイニィが言った。円は返事をしながら暫く考え込み、何かを決意した様に頷く。
「ねぇセイニィ。ボク、心配だからパッフェルの様子を見てみようと思うんだ。」
「うん、お願いしていいかな。あとさ、あたしさっき、匂いに負けてパッフェルの髪、少し舐めちゃったのよね…直しておいてくれると助かるんだけど…」
「…わかった。そしたら、ボク部屋に戻ってこの前使ったマスク持ってくるから。取ってきたら、パッフェルの様子を見て見る。他には何かあるかな?」
「今のところは平気。円、いい?しっかり意識を持たないと、結構まずいからね。あと、換気はしない方がいいかもしれない。極力部屋を閉めきっておいて」
「わかった、行って来るよ」
 円は力強く頷くと、一路自分の部屋へと戻って言った。その様子を見送るセイニィは、突如として何かの気配を隣から感じ、身構えた。
「何だよ、急に呼び出したりして」
 セイニィの横から不意に声がした。
「ひゃっ!?…もう!なんなのよ、次から次へとぉ!」
「随分な言い草だな、俺を呼んだのは貴女だろうに」
 誰もいなかったはずのセイニィの隣には、可憐な少女が立っている。現在地、百合園女学院の制服を身に纏った可憐な少女は、その姿に不釣合いなほど平坦な声である。
「それにしても…あんた相変わらずその格好、違和感ないわね」
「褒め言葉には、聞こえないんだけど?」
「どっちに取るかは、刀真に任せるわよ」
 刀真。それがセイニィの隣に佇む少女の名前である。樹月 刀真(きづき・とうま)。可憐なこの少女は、正真正銘の男である。
「ふぅん、まぁいい。それで?本題ってのは?」
 相も変わらず、随分と平坦な声で話題を変える。セイニィも彼のニュートラルがそれである事を知っている所為か、特に何と言った様子もなく、「あぁ」と思い出したかの様に切り出した。
「実はさ、今円とも話をしてたんだけど、パッフェルが今度はキャンディになっちゃったのよ。それで、みんなの力を借りたくて声をかけたって訳」
「なんだ、またか。まぁいいよ。問題ない」
 と、そこまで言うと刀真は不思議そうな顔でセイニィと、目の前にあるパッフェルの部屋の扉を見つめた。
「…何よ」
「いや、セイニィ。同でも良いけど、何でこんなところで立ってるんだ?」
「前と同じ、匂いにも呪いの効力があるから、無防備なまま、キャンディになったパッフェルと一緒にはいれないし、随分と匂いも広範囲だから、ドアもおちおち開けてられないの。おまけに寒いし。まだ冷房って季節じゃないのに、解けない様に冷房ガンガンなのよね」
「…」
 暫く、二人で沈黙した。が、ふっと息を抜いたセイニィが呟く。
「そろそろロビーにでも下りてみようかな」
「ん?此処で待たないのか?どうせなら部屋の前にいた方が、何かと対応できると思うんだけど」
「みんながみんな、刀真みたいに可愛らしくなるわけじゃないんだし、此処は男子禁制。協力してくれる人がみんな女子とは限らないじゃない?」
 今度は刀真だけが沈黙した。僅かに頬が赤らんでいるのは、恥じらいから、なのだろう。
「べ、別に俺だって、好き好んでこんな格好してるんじゃないからな。それはわかっとけよ」
「知ってるわよ。ただ、着てても違和感がないって話ー。よしっ!行きましょ!」
 と、歩みを進める二人のもとに、セイニィが呼んだ協力者がまた一人現れる。
「セイニィ!私をお呼びの様ですねっ!」
「シャーロット!来てくれたのね!」
 セイニィは声のする方へと視線を向ける。階段の下、セイニィと刀真がいる場所から降りた一番近い踊り場で、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が両手を目一杯に広げて笑顔を浮かべていた。
「協力するのは当然ですよ、私が来たからには優雅に、華麗に事件解決です!」
 シャーロットが合流し、彼女達は一路、ロビーへと向かう。他の協力者たちと合流する為に。


 ラナ・リゼット(らな・りぜっと)は、ふと聞き慣れた声に足を止めた。
「ラナさん?」
「正悟さん、何故此処に?」
 彼女に声をかけたのは、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だった。
 ラナは自宅を出て、ヴァイシャリー一帯を彷徨い、協力者を探していた。そこに偶然通りかかった正悟が、声をかけたきたわけである。随分と慌てた様子のラナを見て、正悟は不安げに彼女へと近付いた。
「どうしたのさ?そんなに慌てて」
「あ、あの…事情はご説明します。だからどうか…お力貸して戴けませんか?」
 話の前後が見えない正悟だが、ラナの尋常ではない慌てようを前に、彼は力強く頷き、ラナと共に彼女の家へと向かう事にした。当然、何が何だか全く見当がつかない正悟は、道すがらにラナから事情を聞く事にする。
「ラナさん、急いでて焦ってるのはわかるんだけど、一体何があったのさ?」
「あの、私が今日、家に帰ったら美緒が…その…」
「美緒さんが、どうしたの?」
 ラナは言い淀んだ。暫くの沈黙は、恐らく話を自分自身で話を整理しているからだろう。意を決して、不思議そうな顔でラナの言葉を待つ正悟に言った。
「今度はキャンディになっていたんです」
「…!?今度はキャンディ…?」
 正悟は驚いた様な顔になってそう言った。ラナは何も言わず、ただこくり、と頷くだけである。
 何を言おうか迷う正悟と、申し訳なさそうな、心配そうな表情を浮かべるラナ。必然、彼らの間に会話はない。
「まぁ、でもさ。この前チョコになっちゃった時だって、みんなで協力して呪いをといたじゃん!今回だって、きっと何とかなるって。
だからそんなに落ち込まないで、一緒に頑張ろうよ!な?」
 正悟は笑顔でラナを元気付けた。今の自分には、そのくらいしか出来そうにないから。それを痛いほどに、自覚しているから。
 ラナは彼の心遣いを察してか、殆ど作り笑いに近い笑顔で答えた。
「それにしても、よくもまぁ次から次へと、そんな事考える奴もいたもんだよね。チョコになる呪いとか、キャンディになる呪いとか、さ」
「ええ」
「まぁ…犯人なんて大体見当が付きそうだけど、ね。それで?ラナさん、他には誰かにその事話したの?」
「えっと…正悟さんに会う前に数名の方に声をおかけしましたけど、実際に来てくれるかどうか…」
 すると、正悟はラナの肩に手を置いた。
「大丈夫、きっとみんな、また協力してくれるって!俺たちは、今俺たちが出来る事をやれば良いんだよ」
「…そうですよね、はい!」
 ようやっと、ラナは憂いのない笑顔を正悟に見せた。彼はそれを見て内心ほっとし、力強く頷く。と、二人はそこで足を止めた。
「着きました」
「此処かぁ…なんだろう、心なしか、やっぱり良い匂いがするけど」
「今度の呪いは更に効果が増しているんでしょうか。私、驚いてしまってすぐさま家を飛び出したのでわからないのですが…」
「どうだろうなぁ、匂いはするけど、チョコの時と何が違うのか、今はまだ何とも言えないよね」
 正悟が先頭となり、美緒が待つ部屋のドアを慎重に開ける。すると――。
「…まずくないか、これ?」
「???」
 恐らく、家の外へ匂いが出ていたからだろう。キャンディになってしまった美緒に、見ず知らずの数人が群がり、キャンディになってしまった美緒を舐めているではないか。
「と、兎に角、あの連中を美緒さんから引き離さなきゃ!」
「え?あ、はい!」
 二人は群がっている人々を強引に美緒から引き離すと、手刀でもって彼らの意識を断ち切り、正悟が全員を家の外に出した。
「…ふぅ、これでまぁまずは、何とかなったかな」
 キャンディの呪いが一味も二味も、前回とは違う事を実感しながら、苦笑を浮かべて正悟がそう、呟いた。