リアクション
02.オープニング 「まだまだ肌寒い、シャンバラの町々。 でも、つぼみは膨らみ、咲かない花はありません。 今夜あなたが撒いた水は、明日の花となるのかもしれません。 そう星が語りかける夜、あなたはどう過ごしているのでしょうか。 ミッドナイト・シャンバラ、今宵も静かに流れます……。 この番組は、まだまだ雪はたくさんあります、雪だるま王国リゾート。皆様を守るTutelary In Forest自警団。建築ならお任せ、だいこうやのけんちくじむしょ。届けられない荷物などない! ゆる猫パラミタ。その他の提供でお送りいたします」 ★ ★ ★ 「イルミンの森とジャタの森の境界上に存在してる自警団という名目の組織(現状4名)今なら森の幸やら何やらてんこ盛りだぜ!(花粉もてんこ盛りだぜ!)」 リスナーたち 「何だ、ここは……」 真っ暗で狭い場所に閉じ込められて、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は目を覚ました。 いきなり襲われて昏倒してしまい、目が覚めたらこのざまだ。 いったいここはどこなのだろうか。 身体を動かすこともできない場所、どうやら何かの箱に無理やり入れられているらしい。これでは身動きも取れない。 幸い携帯があったのでパートナーたちに電話をかけてみたが、いっこうにでる気配がなかった。他に何かないかと手をのばすと、何かが指先に触れた。 ラジオだ。 スイッチを入れると、ミッドナイト・シャンバラが流れ出した。 「よし、これだ! メール投稿して、助けを呼んでもらおう!」 そう思いつくと、武神牙竜は番組宛てにメールを打ち始めた。聞き慣れたラジオ番組が聞こえたことで、パートナー以外の者や警察に電話するという選択肢がぽっこりと抜け落ちてしまっている。 「ペンネーム、獅子座を想う者っと……」 ペチペチと指先の感覚だけで、武神牙竜がメールを打ち込んでいく。 「シャレードさん。こんばんは 俺の現在置かれてる状態を相談したくて投稿します ある女性とデートが終わって、帰宅途中に突然黒い服を着た人達に抵抗する間もなく縛られて、どこか狭くていところに拘束されているんだ! 何かの犯罪に巻き込まれたかのか俺にはわかりません! それともデーとした相手がお義父さんの手の者でしょうか? 確かに彼女との交際は正式に認められてませんが! それはともかく、たーすーけーてー!」 はたして、このメールは届くのだろうか……。 ★ ★ ★ 「まだまだ時間がかかりそうですから、ちゃんと寝てくださいですぅ」 トラックを改造した汎用移動基地 出動さん一号のトレーラーの中にしつらえた二段ベッドの下の方から、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がシャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)に言った。 微かに、ラジオの音が聞こえてくる。 「はーい」 ちょっと眠そうな声で、シャーロット・スターリングが答えた。 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、運転席の方で交代でトラックを運転している。 「ふぁーあ。でも、メイベルさんたちがよく投稿しているらしい番組ですから、一度ちゃんと聞いてみたい……」 こっくりこっくりしながら、シャーロット・スターリングがつぶやいた。 運転席の方でも、運転しているセシリア・ファフレータの隣で、フィリッパ・アヴェーヌが船を漕いでいる。 こちらでも、ラジオが子守歌代わりに流れていた。 新しく手に入れた汎用移動基地出動さん一号の積載能力はたっぷりだ。これからむかう孤児院の子供たちへのお土産は抜かりがない。けれども、それを配る人間の方が疲れてしまっていては元も子もないだろう。 『北へ南へ東へ西へ。毎日の暮らしを、そしてシャンバラの様々な産業を運んでトラックは休めません。 ブルン、ブロロ……。 気をつけて。 大切な積み荷を運ぶあなたの目的地はどこですか。 お仕事、本当にご苦労様です。空京自動車ではより確かな運転と快適さをお約束するトラック作り、そして車を見守るきめ細かなサービス網を通して皆様のお仕事のお手伝いをしています。 さて、これからは道路もすいてくる時間。スピードもついつい出しがちです。 でも、無理は禁物。安全運転をお願いしますよ。 あなたのお供をするのは楽しいお喋りとお便りでつづる数時間、ミッドナイト・シャンバラ。 さあ、あなたのコックピットへおじゃまします』 ★ ★ ★ 「ふう、やっと梱包が終わったぜ。まったく、手こずらせる荷物だ。どれ、引き取りがくるまでラジオでも聞くか」 目の前でガタガタとゆれている強化段ボール箱を見下ろしながら、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は壁からつる下げられたラジオのスイッチを入れた。 ★ ★ ★ 「遅いなあ……」 空京ホテルのロビーで、ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が、左手の平を返して手首の時計で時間を確かめた。 メールで指定した時間はまだだが、こういうときは先に来ているものだと決めつける。時間に遅れるようでは、今度の男も大したことはなさそうだ。 「あたしのハガキが読まれたら帰っちゃうぞ」 携帯に繋げたイヤホンから、ラジオの音声を聞きながらミネッティ・パーウェイスがつぶやいた。 ★ ★ ★ 「くぴー、すぴー。くぴー、すすすぴー」 ベッドの中で小さな寝息を立てながら、真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)は熟睡していた。 少し離れた机の上で、ラジカセのタイマーが入り、録音が始まる。 ★ ★ ★ 「えい! えい!」 下宿屋のテラスで、音井 博季(おとい・ひろき)は剣の素振りをしていた。 満天の星の下、ラジオの音楽だけが寂しさを紛らすように鳴っている。 音がなければ、静寂は寂しすぎる。まして、彼女はここにはいないのだ。 だが、剣の腕を鍛えるのは、彼女のためでもある。そばに居るため、そばに居られるため、今夜は孤独にも耐えよう。 |
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