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占拠された新聞社を解放せよ!

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占拠された新聞社を解放せよ!

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 (コラム)作戦直前、契約者たちの準備とは
 あらゆることにおいて、事前の準備は極めて重要なものだ。ここでは、今回の蒼空新聞社解放作戦における契約者たちが、戦いに望むに当たって、いかなる準備をしたかを紹介した上で、その重要性を、連載コラムでも取り上げた孫子の兵法書の記述と比較して検討していきたい。
 まず、地形の把握であるが……


「結局、突入して人質を確保、連中を撃退するしかなさそうだな」
 レンは蒼空新聞社ビルの見取り図を前に、いくつかの侵入経路を確かめている。
「どこに人質が監禁されているか分からないから、何組かに別れて突入すべきだな。気づかれないように、何か手を打つべきか……?」
「それなら、任せてもらいましょうか」
 レンに声をかけたのは水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)
「何か、考えがあるのか?」
「まあね。目には目を、というやつ。敵がテクノクラートなら、私たちも技術で対抗すべきよ」
 いぶかしげなレンに向かって、緋雨は堂々と胸を張って見せる。
「情報処理を機械に頼っているはずでしょう? そこにノイズやブラフをたたきつけて、奴らを混乱させるのよ」
「情報戦略……というわけか」
「ええ、そうよ」
 レンに向かって大きく頷いて見せる緋雨。レンはしばし考えて、
「よし、やってみよう。頼んだ」
「任せて! まずは、敵の情報を仕入れないとね……」
 緋雨が駆けだしていく。入れ替わりに、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がレンの元へ近づいてきた。
「確認したいんだけど、デカ長!」
「その呼び方はやめろ。俺はもう刑事じゃない」
「えっ、昔は刑事だったんだ! それで泪さんがデカ長って呼んでたのね……」
「分からずに言っていたのか。……で、なんだ」
 頭を抱えそうになるレンを意に介さず、歩は状況を示す資料を指さした。
「印刷所を占拠しているグループは、士気が低いというのは……」
「ああ、こういう直接的なわりにまどろっこしいやり方が、寺院の質に合わないんだろうな。リーダーの目が届かないからか、新聞社の連中ほどの統制は見られないらしい」
「それって、リーダーさんと違って話を聞いてくれるかも知れないってことかな?」
「かも、知れないな。……行く気か?」
 レンの問いかけに、歩は大きく頷いた。
「はい。説得してみたいんです」
「……好きにしろ」
「はい!」
 答えて、歩は飛び出していった。その出口にほど近い場所で、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)がマーゼンと話し込んでいた。
「……という作戦で、人質の救出に当たろうかと。協力して頂けませんか?」
「なるほど。大がかりですが、決まれば効果は高そうですな」
「大がかりだから、あなたたちの力が必要なんですよ。統制されたソルジャー相手に正攻法では被害が増すかもしれません」
 ゴットリープがささやくように声を抑えている。味方にも、あまり聞かせたくない作戦なのだ。
「分かった。その作戦、乗りましょう。みんなにも準備させておきますよ」
 マーゼンが答える。二人は頷きあった。



 (ミステリー?)すき焼きの謎!
 事件後、蒼空新聞社の社員食堂には、ひとつの鍋が残されていた。
 その中にはすき焼きが煮込まれており、冷え切ってはいたものの、完全に調理されていた状態だったという。
「MOTTAINAI」の精神を貴ぶ記者がこれを口にしたところ、不調を訴え、病院に運ばれることとなった。このすき焼きが一体何者によって何のために作られたかは、いまだもって謎である……。


 同じ頃、蒼空新聞社ビル内部。
「我々に協力したい、という契約者は君か?」
 ライフルを抱えた部下を引き連れた、中年の男……蒼空新聞社を占拠した鏖殺寺院のリーダーの視線の先には、堂々と鍋をつついているふたりの男の姿があった。
 ジープ・ケネス(じーぷ・けねす)エドマンド・ブロスナン(えどまんど・ぶろすなん)である。
「そうさ。腹が減っては戦はできぬ、って言うだろう?」
「すでに、配備命令を出してある。君が本当に我々に協力する気があるのなら、私の命令に従ってもらおう」
「おい、ジープ。これはさすがに、まずいのではないか?」
 エドマンドが額に汗をにじませて囁く。が、ジープは軽く肩をすくめた。
「手伝ってあげるけど、戦闘はしたくないんだ。それよりご覧よ、山形牛だよ。知ってるかい、濃厚な油はしつこくなくて、赤身の確かな味わいが……」
「そんなことを聞いているんじゃない」
 ぴしゃりと、リーダーは告げた。
「作戦に協力する気があるのか?」
「だから、言ってるだろ? ボクは、ボクなりのやり方で協力させてもらうよ」
 リーダーがいかめしくジープをにらみつける。が、ジープはにこやかに視線を返すだけだ。
「今回は、全て私の指揮にしたがってもらわなければ意味がない。したがうつもりがないのなら、君を作戦に組み込むわけにはいかない」
 リーダーはそう告げ、ふたりに背を向けた。
「なに? ち、ちょっと……」
 思わず追いかけようとするエドマンド。が、そのとき、彼の体を猛烈な腹痛が襲った!
「ぐうっ!?」
 腹を押さえてかがみ込むエドマンドの横で、ジープがリーダーに向かって八重歯を除かせる。
「そっちが、ボクの力を必要としないって言うなら構わないけど。いいの? もうすぐ契約者たちが、ここを掃討しに来るよ」
「それでいいんだ」
 リーダーは答え、部下に指示を飛ばした。
 程なく、食堂は鏖殺寺院の手によって封鎖された。やれやれと肩をすくめるジープの横で、エドマンドが苦悶の声を上げている。
「じ、ジープ。体の調子がおかしいのだが……」
「そりゃあ、まあ、そういう成分がいろいろ入ってるからね。あーあ、本当は敵に食べさせて戦力ダウンさせるつもりだったのになあ」
「こ、これでは、私の腹が下っただけじゃないか?」
「敵を欺くには、まず味方からってね」
「おまえ……ううっ!」
 飄々と言ってみせるジープに拳を握るエドマンドだが、いよいよ大きな波がやってきた。トイレに駆け込んでいくその背を見ながら、ジープは小さくため息を吐いた。
「まあ、味方から断れたんじゃ仕方ないね。行方を見守るとするか」