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昼食黙示録

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昼食黙示録

リアクション

 購買というものはどこもかしこも混むようだ。
 ここイルミンスール学院でも、購買は人混みで溢れている。
 そのためか食堂などは比較的空いている方のようだ。
 意外な狙い目を見計らって本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が一人、食事をするためにある場所へと向かっていた。
 『宿り木に果実』と書かれているカフェに到着すると、店内へと入室する。
 カウンターにはミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が来店したお客様に第一声を上げた。
「いらっしゃいませ……涼介くん、いらっしゃい」
「こんにちは。 今日はやっぱり予想通り空いているね」
「えぇ、何でもコロッケパンが出るとかなんとかって言っていましたよ?」
「コロッケパン、あの幻のか……なる程通りで……」
 店内にお客さんは一組もなく、二人とも普段の調子で会話をする。
 涼介はミリアと直接話ができるようにとカウンターに腰掛けて、帽子を脱いだ。
「いつもので良いんですか?」
「あぁ、クラブサンドセット。 ミリアの作るサンドイッチは最高だからな」
「褒めても何にも出ませんよ」
 注文する前にミリアはすでに調理を始めていく。
 どうやら何を食べるかは最初から決まっているようで、涼介もミリアの後ろ姿をじっと見つめていた。
 柔らかくふわふわとした髪、可愛らしい容姿はいつ見ても見入ってしまう。
 自分にはもったいない恋人だ、そう改めて感じていた。
 すると、店内に来店を告げるベル音が響き渡る。
 二人は入口に目をやると、音井 博季(おとい・ひろき)リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)が仲良く登場した。
「ん? 涼介くん来ていたのか。 お邪魔だったかな?」
「やっほう、ミリアちゃん! それから涼介ちゃんも、相変わらず仲良さそうにしているね」
「こんにちは博季、リンネさん」
「いらっしゃいませ。 どうぞ、お好きな席へ」
「そうだなぁ、せっかくだからカウンターで!」
「おいおい、二人の邪魔をしたらいけないよ」
「そんなことはない、せっかくだから一緒に食べよう」
「……じゃあ、お言葉に甘えるかな」
 恋人繋ぎをしたまま、二人は涼介たちに挨拶をする。
 そんな二人を見て涼介とミリアも、何となく自分たちも手を繋いでみたいなと思ってしまう。
「リンネさん、今日はその、食べてほしいと思ったのでお弁当を作ってきました」
「ホント? ありがとう、博季くん!」
「いえ、重箱になってしまいまして……。 中身は和洋折衷で構成してみました」
「凄いな、それだけ作れるなら大したものだ」
「はい、お待ちどうさま。 クラブサンドとコーヒーのセットお待たせしました」
 一緒の時間を過ごしているように見えて、実はそれぞれの時間を堪能している。
 幸せな空間に包まれている中、カフェにお客さんが来店してきた。
「いらっしゃいませ」
「……あれ? あの、ここにフィリップくん来てませんか?」
「フィリップ? えっと、フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)くんの事ですか? 今日は見ていないですね……」
「そう、ですか……」
「とりあえず、中へどうぞ」
 店内を覗き込むように現れたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)は店内を見てミリアに訪ねる。
 どうやら待ち合わせをしていたようで、まだその目的のフィリップが来ていないことを知って悲しげな顔を浮かべる。
 ミリアは彼女を店内に誘導すると、レヴィは空いているテーブル席に腰かけた。
 寂しそうな顔を浮かべるレヴィの下へミリアはお冷を出すが、彼女は何の反応も見せない。
 どうしたことか、不安そうに見ている涼介たちだが、そこへドアを思い切り開けてやってきた人影。
「はぁ、はぁ……ご、ごめんなさいフリッカさん。 待ちましたか?」
「い、いいえ!! 私も今来たばかりですから!!」
「そうか、良かった……待ち合わせの場所にいなかったから、もしかしたらもう先に向かっちゃったのかなぁって……本当にごめんなさい!」
「う、ううん!! ちゃんと待っていなかった私が悪いんだから気にしないで!」
 息を切らして現れたのは、レヴィが待っていたフィリップ・ベレッタだった。
 どうやらすれ違いがあったらしく、お互いに謝罪をしている。
 息を整えてフィリップはレヴィの顔を見つめる。
 その顔を直視できないレヴィは、顔を赤らめながらフィリップに話しかけた。
「あ、あの……いつもいつも、こうしてお昼に呼び出すの、迷惑だったりしない?」
「そ、そんなことないよ! そんな風には一度も考えたことはない!」
「そっか……あの、さ……。 実は今日少し多めにお弁当作ったから、その……半分こにして食べない?」
「良いの?」
「うん、平気……」
「ーーありがとう」
「……! うん!!」
 フィリップの言葉を聞いてレヴィは一段と嬉しそうな顔をする。
 その時、横から視線を感じたので見ると、満面の笑みでこちらを見ている涼介たちが彼女たちを眺めていた。
 人目を気にせずの行動というより、本当に気付かなかったようで顔を真っ赤にしてしまうレヴィ。
 そんなレヴィの様子にフィリップはどうしたものかと困ってしまう。
「どうかしたのフリッカさん、顔真っ赤だけど……」
「フリッカ、良かったら一緒に食べないか?」
「そうそう、食事は皆で食べたほうが楽しいよ!」
「そうですね、こればっかりは仕方がありませんね」
「どうぞ、何か飲みますか?」
「はい、フリッカさん。 行こう」
「……はい」
 涼介たちの言葉を聞いて、フィリップとレヴィも彼らと合流する。
 仲良し空気というわけにもいかなくなってしまったので、ここは皆で仲良くモードに移ろうと暗黙で成立した。
 ミリアはそんな配慮として、お店の札を『CLOSE』へとこっそり変えて、カーテンも閉めて中から見えないようにする。
 今日の『宿り木に果実』、店内からは楽しげな笑い声が昼休み終了間際まで響いていたのであった。