天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

昼食黙示録

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昼食黙示録

リアクション

「そういえば、料理の話がどうとかいってたよね?」
「うん、まぁ……」
「そういう割にはシズルは学食なんだねー?」
「失礼ね、人並みには出来るわよ?」
「ちょっと、それでは私が平均以下ということですか?」
「あなたの場合は色んな意味で論外よ」
「えー? 本当に出来るのー?」
「論外とは何ですの!? ちょっとたまたま失敗が連続しているだけですわ!!」
 隣から菫、正面からレティーシア、二方向からの同時会話に少し面倒臭くなるシズル。
 菫はともかく、正面の行かれる少女には地雷を踏んでしまったらしい。
 どうしたものかと考えていると、つかさが喋っていないことに気づく。
 こういうことになら喜んで首を突っ込みそうなものを、と思って彼女を見る。
 すると、何処かに視線を向けているようで、とある対象物に声を掛けた。
「あら、つぐむさんではありませんか?」
 名前を読んだので、シズルとレティーシア、菫が振り返ると、突然呼ばれた男子生徒がびくっと体を震わせながらゆっくりとこちらに顔を向ける。
 十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)、彼もまたつかさと同じ葦原明倫館の生徒だ。
 当然顔見知りの二人なのだが、つぐむは何故か浮かない表情を浮かべていた。
「まぁ、今日は顔を見ないと思いましたらこんなところにいましたの」
「あ、あぁ。 ちょっと用事があってな」
「良ければご一緒しませんか? 偶然にもここは私たちしかいませんし。 お二人は平気ですか?」
「別に構わないわよ」
「私も、断る理由がありませんわ」
 これだけの混雑、つぐむは空席を探している最中だった。
 つかさの誘いに戸惑っていると、シズル達は快く相席を認めてくれた。
 その時何故だかつぐむは心底安心したような表情を浮かべている。
 だが彼のそんな安堵はすぐに儚く消えるのであった。
「何ですの? その麺は? 灰色、みたいな色ですわね……」
「あぁ、これは蕎麦っていうんだ。」
「でも、少し季節外れじゃないかしら? まだそこまで暖かいわけではないから……」
「いや、ちょっとあってな……。 大好物でも食べなきゃやってられなくて……」
「えっ?」
「ということは、やはりあの噂は本当でしたのね??」
 少女たちの質問に答えながら蕎麦をすするつぐむ。
 その雰囲気につかさが口をはさむと、つぐむはむせてしまった。
 何事ことかと思いながら三人はつかさとつぐむのやり取りを見守る。
「ほ、本当も何もない!! あんなの根も葉もない噂だ!!」
「とはいいましても、今すごいんですのよ? つぐむさんの隠れファンがそれはもう急上昇中で……」
「止めてくれ!! ただでさえ今は皆から変な目で見られるし、おまけにやたらとそういった類の連中に声を掛けられるわで大変なんだよ!!」
「別に私は気にしませんわよ? 趣味嗜好、各々自由ですものね」
「それって完全にこっちの話信じてないよね!? 頼むから話を……」
「嫌ですわ、それとも私にそのようなことをしたいのですか? まぁ、どうしてもっていうのでしたら構いませんが……」
「……もういい」
 つぐむの話を何処か聞いていないようにつかさの行動に三人は疑問の文字が頭の中によぎる。
 話を聞いてもらえなかった少年は涙目で再び蕎麦をすすり始める。
 さすがにこれはひどいではないか、とシズルは感じた。
 そして彼女はつかさに物申す態度を見せるが、この後それが誤りだったと気付くことになるのだった。
「ちょっとつかさ、人の話ぐらい聞いてあげなさいよ。 さすがに、今のはあなたが悪いわ」
「そうですわ、私も今のは見て見ぬふりは出来ませんことよ」
「あら、すみません。 お二人は事情を知らないものですものね。 仕方ありませんわ、実は……」
「ーー!! 待て秋葉……!」
「実はこの方、十田島つぐむ様はパートナーを『自分の玩具として弄んでいるという』噂が、葦原では流れていますの」
 つかさの発言に女子三人の空気が凍る。
 シズル、レティーシア、菫は言葉を失い、顔から表情というものが消えうせていた。
 つぐむにはまずい事態だった。
 事の発端は先月の葦原で起きた保健室の出来事。
 そこでパートナーの一人、ミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)の発言がいろんな方向でねじ曲がった形で広がってしまったのだ。
 そのため、つぐむは学内では肩身の狭い思いをしながら生活している。
 わざわざ蒼空学園に来たのも、そんな噂が流れていないためだ。
 だがそんな彼の安寧な時間も、秋葉つかさに壊されてしまう。
 しかしまだ諦めていなかった。
 話せば分かってもらえる、そう思い、誤解を解こうと動くが、そこへ拍車を掛けるような事態が起こる。
「待ってくれ、頼む! 俺の話を……」
「つぐむ様、やっと見つけました。 もう、一人行くなんてひどいです」
「探すのに苦労しましたぞ」
「つぐむちゃん、今日はつぐむちゃんのために大好物たくさん作ってきたんだよ〜!」
 つぐむの言葉を遮るようにして現れたのは彼のパートナー達だ。
 ミゼ、ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)の三人だ。
 ガランは食堂で買った定食、ミゼと真珠は弁当持参で早々につぐむを囲むように席に着く。
 だがこれではつぐむが言葉を切り出せない。
 そんな彼の姿を見てシズル達三人の視線が、段々と冷たくなっていく。
「……つかぬ事をお伺いしますが、こちらのパートナーの方たちですか?」
「ええ、そうですよ」
「初対面なのですが質問いたします。 私たち、先程この殿方の葦原での噂をつかささんからお伺いしたのですが……」
「まぁ、お聞きになられたのですか? 嫌ですわつぐむ様。 もう、ミゼは恥ずかしいのであります」
 その言葉はつぐむの中で、そしてシズル達三人の中でそれぞれ決定を告げた。
 つぐむの中では終焉、シズル達の中では侮蔑、決してしまった。
「それよりも、お腹が空きましたわ。 さぁ、お食事にいたしましょう」
 ミゼはそんな様子に気づくことなく、持って来た弁当の蓋を開ける。
 現れた中身に一同驚愕してしまう。
 それは言葉でも、表現できない弁当だった。
 その場にいた全員の食欲を一気に削ぎ、さすがにつかさも予想以上の行動に度肝を抜かれていた。
 まさかここまでとは、とつかさの中で驚嘆に近い感嘆が湧きあがっていく。
「皆の食欲係数が著しく下がっている。 やはりその中身が効いたのだろう」
「(……つぐむちゃんに迷惑ばかりかけて、この露出狂女。 いっそヤっちまいますか……)」
 このテーブルだけでなく、近場の会話が聞こえた生徒たちも何だか消沈していく。
 それを冷静に分析しながらも、口元のマスクを開けながら平然と食事をしていくガラン。
 一方の真珠は自らの行いでこの場の空気が異常に下がっていることに気づかないミゼにふつふつと殺意が込み上げていく。
 ミゼに至っては持って来た表現できない中身をパクパクと美味しそうに頬張っていた。
 この日、十田島つぐむの噂がここ、蒼空学園にも広がることになる。
 『パートナーに変態行動を強要している狂人』と、あらぬ誤解が広まってしまうのだった。