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黎明なる神の都(第1回/全3回)

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黎明なる神の都(第1回/全3回)

リアクション

 
 
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、黙々とジャガイモの皮を剥いていた。
 彼は来たくてファリアスに来たのではなかった。
『腕のいい護衛を探しているそうだ』と勝手に依頼を受けた兄の強化人間、佐々木 八雲(ささき・やくも)に、無理矢理連れて来られたのだ。
 嫌々ここへ来たので、仕事をするつもりなど毛頭なく、せめて少しでも気分の晴れるところにいよう、と、厨房に篭っている。
「なるほど、料理人に化けて相手を油断させるのだな。さすがだ」
と八雲は感心していたが、勝手に誤解していてください、といったところである。

 そうこうしている内に、全てのジャガイモを剥き終えてしまい、「黒川大」と偽名を使って下働きに変装している弥十郎は、イライラのあまりに無心で作業をした結果、館の本日の夕食の下ごしらえを、全て終わらせてしまった。
「驚いたな、黒川」
「今日は楽ができるぜ、ありがとよ」
 他の料理人達にばんばんと背中を叩かれ、ようやく我に返る弥十郎だった。

 一方、ノリノリで依頼を受けてきた八雲は、真面目に館内を調査していた。
 過去に荒らされたという部屋を教えて貰い、盗賊が、何を探しているのかを見極めようと試みる。
「……変だな?」
 しかし、調べて行くうちに、どうにも首を傾げてしまった。
 手当たり次第に荒らし回っている、としか思えないのである。
 本棚から引き出しから、大きなものから小さなものから、ベッドのマットレスまで剥がしている。

「……もしかして、盗賊も、自分達が探しているものが何か、知らないんじゃないか?」
 八雲はそう結論づける。何度考え直しても、それは変わらなかった。


「敵は二人らしいな。もっと集団かと思っていたが」
 氷室 カイ(ひむろ・かい)は、予測が外れて肩を竦めた。
「奴等が狙ってるものも、さっぱり解らないしよ……」
「全てから護るしかありませんね」
 パートナーの英霊、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が言う。
 つまり、何一つ盗ませないことだ。
「それしかないか」
と、カイも頷く。
「まあ、そういうことになるなら、相手が二人なのは有り難いぜ。こっちは……結構いるしな」
 はい、とサー・ベディベアは笑みを見せた。



 続々と契約者が護衛として集まった最初の日は何事もなく過ぎ、不審な侵入者があったのは、翌二日後のことだった。
 闇に乗じて敷地内に侵入する二人組の影は、無論、館に辿り着く前に契約者達に捕捉された。

「早い者勝ちっ!」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)のパートナー、強化人間の緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、真っ先に二人組の前に飛び出した。
「――ちっ」
 盗賊の男――キアンは小さく舌を打つ。
「さすがに三度目は、そう簡単にゃ行かねえか――まあいい」
 ブリジット、と呼ぶと、女の方が素早く飛び込んでくる。
「おっとっ!」
 輝王も素早くそれを躱した。
「足を貰うよ!」
 動けなくしてしまえば、生け捕れる。
 輝夜はフラワシをブリジットの足に当てるが、予想していたような反応が返らなかった。
「何!? 固かったの? スカ?」
 ブリジットの足に負傷の様子がない。視界の利かない場所で、外してしまったのだろうか。フラワシが?
 ブリジットが飛び込んで来る。
「しまっ……!」
 懐を取られた。輝夜は身を強張らせる。
 寸前で剣を捨て、ブリジットは素手の両手で衝撃を叩き付けた。
「くうっ……!」
 身に纏っているフラワシを通して、打撃が伝わる。
 輝夜は自らの体を抱えてうずくまった。


 ダークビジョンを使って潜んでいたので、近づいて来る相手の姿がよく見えた。
 ぴく、と、ブリジットが八神 誠一(やがみ・せいいち)の気配に気付く。
 すかさず飛び出して、疾風突きを放ったが、ブリジットはそれを受け止め、押し返した。
「わ、重っ!」
 細身に似合わない怪力である。
 ブリジットはそのまま誠一を叩き伏せると、二人の戦闘に足を止めずに先を走るキアンを追いかけて行く。
「……ちぇー。加速間に合わなかったかあ」
 ふう、と息を吐いてそれを見送り、誠一はやれやれと座り込んだ。


「やれやれ、来るのが遅いから煙草の火が切れそうだぜ。
 てめえを倒して、早く次のに火をつけないとな」
 半分程に短くなった煙草を咥えて、棗絃弥が盗賊達の前に立ち塞がる。
「次から次へとよく出て来やがるぜ」
「そうさ。いい加減観念しな!」
 絃弥の声に逆らうように、ブリジットが飛び込んで来た。
 接近戦を仕掛けられ、その連続攻撃を、絃弥は両手に持った小太刀で受け止めつつ、飛び退いて距離を置く。
 小刻みに立ち位置を変えながら、ブリジットを翻弄しようとした。
 機を見て再び飛び込んで来るブリジットに、絃弥は小太刀を一本投げ付ける。
 ふい、と顔をずらしてブリジットはそれを避けるが、その瞬間に今度は、絃弥の方が飛び込んだ。
 至近距離に近付いて、その顔に、咥えていた煙草を飛ばす。
 だが、それにブリジットは全く怯まなかった。
 避けようとも、目を閉じようとすらせず、隙を作ろうとした絃弥の思惑は外れた。
 横薙ぎした攻撃に吹き飛ばされて、絃弥は地を転がる。
「行くぞ、ブリジット!」
 そして二人はそのまま走り去った。

「ち……手加減かよ……」
 とどめも刺さずに去られ、絃弥は顔を歪める。
 殺す気は、端から無かったのだろう。どんな武器を使っていたのか、腹部も痛むだけだ。
 起き上がりながら、絃弥はもう一度悪態をついた。


 盗賊の狙いはこれではないかと、予測を立てていたのは、氷室カイだけではなかった。
 ゲドーが、少ない照明の中、夜の闇に不気味に浮かび上がる障害物を置いていたりとか、日中メイドの仕事に精を出しながら、館内部の把握に努めていたとか、盗賊の行く先の予測を立てていたりと地道な努力が功を奏して、彼女達の待ち受けるそこへ、二人分の足音が近付いてくる。
 角を曲がり、そこに葉月可憐とパートナーの剣の花嫁、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)の姿を見て、盗賊二人は足を止めた。
 向き合って、可憐は、正面から盗賊にカマをかけてみる。

「もしかして、結界を解く為のアイテムを探してます?」

 男の表情が、ピクリと歪んだ。やはりだ。
「てめえ、知ってんのか」
「生憎です」
 ですが、と可憐は言い放つ。
「どちらにしても、ここから先には行かせません!」
 お帰りください、と、ティアマトの鱗を投げ付けて盗賊を追い払おうとした。
 そしてその横で、アリスが弓を引く。
「えっと……逃げないでくださいね」
「どっちだよ!」
 突っ込みながら、盗賊は走り去って行く。
「……あ、そうか。追い払うんでしたぁ」
 アリスはその言葉に少し考えて、はたと思い出したように言った。


「――ったく、てめえら、何人いやがる!」
 現れた真司達の姿を見て、キアンはあからさまに嫌悪の表情を表した。
「ここまでよ!」
 口の中で呟きつつ、如意棒を手に、ブリジットの死角から回り込もうとしたリーラ・タイルヒュンは、しかしあっさりと投げ飛ばされる。
「くそ、面倒だ、逃げるぞ、ブリジット!」
「逃がすかっ」
 真司の声と同時、そのまま走り出そうとする二人に向けて、真司のパートナー、強化人間のヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が、光術を放って周囲を明るく照らした。
 真司が、闇に浮かび上がる二人の背後に、魔道銃を撃つ。
 最初から、盗賊を捕らえるのが目的だったので、威力は弱めてある。
 それはブリジットに命中し、びくん、と彼女は痙攣した。
「ブリジット!?」
 キアンが振り返る。
 ブリジットは二、三歩よろめき、しかしすぐに走り出した。
「足りないか……!」
 威力を弱めすぎたか。もしくはブリジットの耐久力が予想より上だったのか。
 真司はもう一度、今度はキアンに向けて撃とうとしたが、だが故意なのか、その軌道上にブリジットがいる。
 躊躇った一瞬、光術の効果が消えた。
 リーラはすぐさまもう一度光術を放ったが、既に二人の姿は見えなくなっていた。
「くっ。わらわのイコプラ達の出番が無かったわ」
 まさか逃げ出すとはの。
と、後方にいたアレーティアが歩み寄る。
「すみません……」
「仕方がない」
 謝るリーラに、真司は気にするな、と返した。
「それに、確かあっちにも……」


「来たか」
と、待ち構えていた三道六黒は剣を抜いた。
 ちっ、とキアンが顔をしかめる。
 生け捕りなど、生易しいことをするつもりはなかった。
 六黒は、先手を打って、溜めも無く、素早く飛び込んで来たブリジットの攻めの剣を受け止めた。
「どうした、剣先が鈍っておるぞ」
 その言葉には、キアンが眉を寄せる。
 ブリジットは拮抗する剣を押し返し、再び攻めようとするが、それよりも先に六黒が素早く間合いを詰めると、一瞬で剣を薙ぎ払った。
 斬った、という手応えを感じる。
「ブリジット!」
 ぎょっとした、キアンの叫び。
 ブリジットの腕が、ぼとりと地に落ちる。
「――くそ!」
 キアンは大振りのナイフを抜いて身構えた。
 だが向かう先は六黒ではなかった。
「!」
 はっとしたのは、側にいた、パートナーのヘキサデだ。
 すぐさま身構えるが、それより先にキアンが斬り込んで来て、一旦飛び退く。
 飛び退きながら、舌打ちを漏らした。
 キアンの目的は、攻撃ではなく退路を開くことだ。
 キアンはそのまま走り出し、それにブリジットも続く。
 その姿はあっという間に闇に紛れた。
「――逃がしてしまいましたな」
 ヘキサデは肩を竦めた。
「逃げ足の判断力だけは冷静な者共よ」
 六黒は剣を収めた。


「やっぱり、結界関係だったのかあ」
 八神誠一は、盗賊が探しているものを知って、そう言った。
 もしかしたらと予想はしていたのだ。だが
「もしそうだったら、僕には関係ないか」
と思ったので、気にしなかったのである。
 盗賊相手に訓練できればいいか、と、軽い気持ちでいた。

 結界を解くアイテムだったのか、と、後でそれを知って思ったのは氷室カイだ。
 だが、それを知ったとしても、問題は解決しなかった。
「……で、それはどんなもので、何処にあるんだ?」
 それは誰も知らなかった。


◇ ◇ ◇


 荒い呼吸を何とか整えて、キアンは周囲の安全を確認すると、疲れ果てたようにその場に座り込んだ。
 傍らに、無言でブリジットが佇む。
「……ブリジット。平気か」
 機嫌悪く訊ねると、黙って彼女は頷く。
 けっ、とキアンは吐き捨てた。

「やあ」

 突然声がして、キアンはびくりと身構えながら顔を上げ――そして顔色を変えた。
「……てッめえ!」
「久しぶり。随分ボロボロになってるねえ」
「余計な世話だ!
 てめえ、十年もこの俺をこんなところに閉じこめやがって……!」
 罵倒の言葉に、その男は小さく肩を竦めたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

トオル「初めましてオーア久しぶりだな! ウェルカム!!」
シキ「テンション高いな、トオル……」
トオル「ふっふっふ、やっと俺の時代が来たんだぜ」
シキ「どこに」
トオル「すっげえ冷静に突っ込むな!」
シキ「まあ、とにかく、久しぶりの冒険だな。皆、集まってくれてありがとう」
トオル「そうそう、何かエリュシオンの方まで行っちゃってるんだけど、皆大丈夫か?
 ちゃんと帰って来いよなー
 土産も待ってるからなー」
シキ「次回も出られたらいいな、トオル」
トオル「そーゆーこと言うな!」
シキ「連載物なのに、登場が綱渡り状態なNPCって他にいないだろうなあ」
トオル「朗らかな顔して言うな! いつか俺が主役のシナリオだって出てくるんだからな!」
シキ「いつ」
トオル「ちっくしょー覚えてろ――!!!」