天御柱学院へ

なし

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暗がりに響く嘆き声

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暗がりに響く嘆き声
暗がりに響く嘆き声 暗がりに響く嘆き声

リアクション


【事務室】
 
「やっぱ電気通ってないかー」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が整列するパソコンの一台の電源ボタンを押す。ディスプレイも反応が無い。長らく放置されている場所だ。電力会社からの供給が今尚あるはずない。
 部屋の電気もつかなくて暗いが、暗視眼鏡で視界は良好。ルカルカは非常用の予備電源を立ち上げる。これで室内のPCが使える。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が一台のPCを立ち上げ始める。PCは二世代前のものだが、事務管理をするだけの代物としては十分か。
「当時のデータが残っているといいが――」
「さあどうだろうね。重要なのは削除されていると思うけど」
 そう言って、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)が室内の灯りを一箇所だけつける。書類棚のチェックのためだが、予備電源の蓄電量を考えて部屋の明かりを全てはつけない。
 手にとった業務日誌を見る。
「特に変哲もないけど、日付が途中で切れている」
「こっちも……」
 刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)の見ていた日誌も同じ日付で更新が止まっている。ティト・アロ(てぃと・あろ)のもそうだ。出勤記録も途切れている。
「この日に何かあったのだろうか?」
 智宏の予想。止まった日付。閉鎖された研究所。
「お化けの仕業かな?」
 ルカルカの安直な予想。
「何が有ったかはこっちでわかるだろう」
 ダリルが事務所のPCを操る。内部破棄されているかと思ったが、OSはフォーマットされておらずまだ生きていた。
「管理データは消えているみたいだね……」
 ルカルカが画面を残念そうに見る。
「なに、ハードディスクをサルベージすれば詳しいことはわかるだろう。それよりも――、ルカ、サーバー機の電源を入れてくれ」
 ダリルに言われて、ルカルカが部屋の隅にあるサーバーコンピューターを起動させる。この研究所の全データが管理されているはずだ。
「あった。研究レポートだ」
 ウィンドに研究レポートの一覧が表示される。どれもこれも強化人間に関する実験レポートだ。初期実験の開始時期は現在の天御柱が開校する以前の物もある。
 そしてやはり目に付く『α計画』の文字。
『第7次強化人間実験レポート。詳細及び参考資料は書庫の“い−106”を参照。ここでは『α計画』の進行状況を記載する』
「なにその『α計画』って? キケンブツとなにか関係あるの?」
 刹那が問いにダリルが首を横に振る。
「さあな。読み進めれば何かわかるかもだ」
「参考資料は書庫に居る面々に伝えておくね」
 ルカルカに頷き、ダリルは再びレポートを読み進めていく。

『『α計画』及び、被験体αの経過状況。計画の進行は遅れて入るもののなおも順調。被験体の状態はパラミタ化による拒絶反応があるものの、良好と言える。
 数値的には次期の実験に置いて、進展を期待できるだろう。
 ただし、本所の強化人間研究おいての唯一、貴重なサンプルである被験体αの容態に注意すべし。実験による精神疾患の恐れがある。
 
           記述:天御柱学院研究員 一口A太郎(いもあらい えいたろう)』

「おいおい! これ書いたのうちの生徒か!?」
 智宏が怪訝に顔を歪める。彼自身、強化人間の実験について不信感を抱いていたが、ここで所属校の名がでるとは思っていなかった。
「大東亜と天御柱は協力関係にあるんだ。天御柱の一部が実験に加担していたとしても可笑しくはないだろう?」
「名前には突っ込まないのね……」
 ルカルカをよそに冷静に分析するダリルだった。
「じゃあ、実験の最終レポートはどうなってるの?」
「それは今表示する」
 刹那の要望に答え、最終記録を表示する。
『第8次強化人間実験レポート――』
「……」
「どうしたのダリル?」
 【籠手型HC】での通信を終えたルカルカが黙るパートナーに尋ねる。

『実験失敗。 Human is dead 
 研究員5名余 死亡。
 以後本実験及び被験体αの凍結を決定。関係書類を全て破棄する』

 最終レポートの内容を確認した瞬間、室内の電気が落ちた。予備電源の残量が尽きたようだ。
 いや違う。消えたはずのディスプレイが再び点く。それだけではない。部屋中のPCモニターが一斉に光を放ち始める。
「何だ何だ?!」
 慌てふためくティト。点滅するディスプレイの光に不安感を覚える。
「なになにこの怪現象!」
 好奇心を煽られたルカルカが写真を撮りまくる。
「そんな事をしている場合か! 一旦逃げるぞ!」
 ここに居るのは危険と判断した智宏がドアへと向かう。しかし、開かない。銃を発砲し、ノブを破壊する。
「開かない!」
「こっちも駄目!」
 刹那の方も開かない。
 どうやら閉じこめられてしまったようだ。この怪現象が収まるまで事務室からは出られそうにない。
 チカ、チカ、チカ、チカ――、ディスプレイが不気味に血色に点滅する。