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嬉し恥ずかし身体測定

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嬉し恥ずかし身体測定
嬉し恥ずかし身体測定 嬉し恥ずかし身体測定

リアクション

「面倒くさいなぁ。どうせ測定の時に脱ぐんやったら、脱いだままでええのに」
 穂波 妙子(ほなみ・たえこ)は服をぬぎぬぎ唇を尖らせる。「身体測定時の注意」とやらによると体操服に着替えろと言いつつ、測定時には脱ぐようにとの一文がその後に続けられているのだ。「だったら最初から脱いでいれば良いのでは?」と、妙子は思ったのだ。当たり前の疑問と言えばそうだし、効率的な意見とも言えるであろうし、爆弾発言だと言われればそれもまたそうである。
 身体測定を受けるのは初めてだ。こんなに面倒くさいものだったとは。
 同じように着替えている女子生徒はこんな二度手間が煩わしくはないのだろうか。測定だって女子は1階、男子は2階と階数事体が分けられており、厳戒態勢もしかれている。いわば隔離されている状態だ。仮に覗かれたとしても減るものではない――妙子にとっては、の話であるが。
 体操着とにらみ合った末、うん、と一つ頷くと配られた記録用紙を手に更衣室の出口へと向かう。
「妙子様! 何をしてらっしゃるんですか!」
 ちょうど更衣室の見回りをしていたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は、思わず妙子の腕を引っ張った。廊下や階段はもちろんだが、体育館にも隠れられる場所はいくらでもある。スキルを使えば身を潜める事も容易いだろう。そう考えたセシルは幸田 恋(こうだ・れん)を連れ、更衣室や測定会場内部のノゾキ警戒にあたっていた。
あっけらかんとする妙子は下着姿のまま測定へ向かおうとしていたのだ。下着とは言っても、下半身のきわどい部分が隠れているのみだ。妙子はノーブラ派だった。全く隠す気もないらしく、腰に手を当ててセシルへ向け首を傾げる。
「え? いや、男いないんならこのままでもええかなあと」
「駄目ですわ! 危険すぎます! ただでさえのぞき部が動いているというのに――」
「のぞき部なあ――本当に覗きに来る挑戦者なんて居るん?」
 かなり堅牢な警備がなされている。見張りや警備に協力している教師も見かけた。セシルのように生徒が見回りもしてくれている。ここまでたどり着いたのぞき者が居たらその根性だけは褒めてやりたいぐらいだ。
「ぶっほぉ」
「――え?」
「なに?」
 妙な物音と言おう――呻き声のようなものが聞こえた。
 しかし周りには怪しいものは何も無い。壁があるだけだ。目を眇めた恋はずかずかと歩を進めた。緊張感が走った。鞭を手に、じいっと壁をにらむ。何も無い。何も無いはずだが――なにか淀んだ気配がする。
 それもそのはずだ。その正体は壁と同化している弥涼だった。
 前日から忍びこんでいただけあって、誰にも気付かれることなく2階で待機していた。やっぱり着替えシーンは外せないだろうと、まずはじめに更衣室へお邪魔したのだ。
 無防備にはしゃぐ女子を前に私服のひとときを過ごそうと思っていたのだが――。
「何を、していらっしゃるんでしょう?」
 どうしてこうなった。
 目の前にはにっこりと愛らしい笑みを浮かべているセシル。笑っているのに妙な迫力がある。その隣では鞭を構えている恋の姿がある。箒と思っていた穂先はいつのまにか鋭い槍へと変化していた。
 まずい。これはまずい。弥涼の全身から汗が噴出した。体に描いた絵が汗と共に流れていく。
 ただでさえ身包みをはいで乗り込んだのだ。碌な武器を持っていない。
「は、話をしよう!」
「仕方ありませんわね……」
 突きつけられた槍が引っ込められた。ほっと息と吐いたのもつかの間だ。箒と呼ぶにはあまりにまがまがしい武器を手にしたセシルは、満面の笑顔で箒をふりかぶっていた。咄嗟に身を縮める。間一髪、すれすれの所に振り下ろされた箒は、ズドン、とやけに重い音がした。床もわずかにへこんでいる。
「あ、あの、セシルさん? その箒……」
「何でしょう? ただ『お掃除』しようと思っただけですわ」
「ちょっわ、ま、待て」
「問答無用です!」

 伸されて連行される弥涼を眺めながら、妙子は肩をすくめた。仕方なく身に付けた体操着の襟をのばし、服の隙間から自分の胸へ視線を落とす。
「私のでええなら存分に眺めさせてやるんやけどなあ」
「人気者は辛いワネ〜。でもこれもファンサービス、ミーだって覗かれてア ゲ ル ワ」
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)の呟きは虚しく宙を舞った。


 ――ああそうですか、そうですか! 嫌ならそのぶんあたしにくれればいいじゃない!
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は酷くイライラしていた。さきほど胸囲の測定をしたら去年からほとんど胸が成長していなかったのだ。「やだー、また大きくなっちゃった!」「運動するのに邪魔だよね〜揺れると痛いし〜」と全く困って無さそうな顔ではしゃぐ生徒を何度も目にした。

「セイニィ! のぞき部をぼこぼこにしよう!」
 同じAAカップとして巨乳を憎む同志、きっと乗ってくれるはずだ。対のぞき部のスペシャリスト『パンダ隊』の一員としても、みすみすのぞきを見逃すわけにも行かない。
「のぞきなんて女の敵だよ、女の敵! 許せないよね! 何が巨乳よ! あんなの脂肪の塊だよね!」
 後半は何だか矛先が別の方向へ向いていたが、同じく目の前でちちでか自慢(にセイニィには見えた)をされたばかりだ。
「私も一緒に行きます」
 シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が進み出た。
 ただ、シャーロットが警戒しているのは覗きする不埒者を成敗する部活【あつい部】の男子生徒だった。覗きする不埒者を成敗するという大義名分を名目に体育館に踏み込んで、結果として堂々と覗くという非常にたちの悪い輩がいるかも知れない。
 そして測定の結果にいらいらしているセイニィの気晴らしにもなるはずだ。
「セイニィに一芝居打ってもらって、囮捜査のようにすれば、そういった人も炙りだせると思うんです」
 我ながら名案だと思ったのだが、セイニィの表情は芳しくなかった。ふっと色を消した瞳でシャーロットを見つめている。ふうん、と素っ気無い返事をし、顔をそらす。
「シャーロットもそういうこと言うんだ。あんたがあたしのことをどう考えてるか分かったわ」
 そしてセイニィはどこか残念そうに呟いた。

 同じ様に村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)も測定結果で内心穏やかではなかった。ささくれ立っていた。身長は伸びなくても、胸は少しくらいは膨らんでいるかも。期待をして望んだ測定結果は言うまでもない。
「あたしのおムネも変わらずぺたんこだけど気にしてないよ?」
控えめの方が可愛いよね、と無邪気にリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)は蛇々の腕をひいた。リュナの胸へ視線を滑らせる。シャンバラ東の体操服は隆起もなく、陰を落とすこともなく、すとんと滑らかなラインを描いている。分かりやすく言えばつるぺたである。
リュナの言葉に肩を震わせたのは近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)だ。ぐしゃりと記録用紙が握りつぶされた。怒りで震えているのには訳がある。去年の測定結果からまるで変化がなかったのだ。
 身長は全く変わらず142cm。
 バストも65cmのAカップ。
 成長のきざしすら見えない数字の羅列に、ヴィクトリカは行き場の無い苛立ちを感じていた。ぷるぷると震えているヴィクトリカに気付きリュナは顔を覗き込んだ。
「どうしたの? あ、去年といっしょだったんだね! あたしも身長あんまり伸びて無かったけど、気にしてないよ? 小さいほうが可愛いもんね!」
「誰が小学生よ! あたしは17歳よっ!」
 リュナはそこまで言って居ないのだが、ぐらぐら煮え立つ腸へ煮え湯を注いでしまい、いまやはヴィクトリカの頭は完全に沸騰している。小学生体型の上に沸点が低いため、どうしても幼く見られてしまう。それが悔しくてたまらなかった。分かってはいるけれど気にしている分、指摘されると過剰に反応してしまうのだ。
「ぺたんこ同士、仲良くしようよ〜! セイニィちゃんに、美羽ちゃんに、ヴィクトリカちゃんに、蛇々おねえちゃん。それであたし! みんなでぺたんこ同盟だね!」
 セイニィに美羽、蛇々とヴィクトリカは思わず顔を見合わせた。リュナは自分の思い付きが気に入ったのか、「ぺたんこ同盟〜ぺたんこ同盟〜」と歌まで歌っている。「怖いもの知らず……!」と周囲は固唾をのんだ。
一番初めに口を開いたのはパートナーである蛇々だった。
「うん……うん、知ってるわよ……バストアップイラストの見た目通り万年まな板よっ! リュナも私もサイズはAAよぉっ!!!! セイニィさんと一緒よ!! おそろよ!!! 羨ましいでしょう!!! なれるもんならなってみなさいよ! AAカップに!!!!」
 胸の重みで肩凝りになれば良いのよおおおおおおおおお!!!!と呪詛を撒き散らす蛇々に続いて美羽が
「この服かわいい〜あ、でも胸が入らないや>< 他のサイズないし>< って好きな洋服も諦めなくって良いんだよ! 私たち勝ち組じゃないの!?!?!」
 と乗っかった。思い思いの
「でも、小さい人は……貧乳はステータスって、言われるじゃないですか」
 レジーナは思わず呟いていた。体重の測定を終えたばかりのレジーナは、足場が歪んだような錯覚を覚えた。以前はかった時よりも体重が0.5キロ増えていた。身長の変化は無かった。体型は全く崩れることなくスレンダーなままだが、本人からすれば重大問題だった。さらに言えば胸のサイズもコンプレックスだ。大きくも無く小さくも無い。
 大きければ注目もされるだろうが、普通、と言うのは一番目立たないポジションだ。
 そんなレジーナの呟きに、はっと4人の間に閃光が走る。雷に打たれたかのように。
互いに目配せをする。奇妙な緊張が「つるぺた同盟」(内リュナを除く)の間に張り巡らされた。
「……貧乳は?」
 セイニィが口を開く。
「ステータスだ!」
「貧乳は!?」
「「ステータスだ!!」」
「貧乳は!?」
「「「ステータスだ!!!!!」」」」
「さあ、行くわよ、のぞき部をたいじするために!!!」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はそんな美羽を刺激しないようにそっと離れたところで見守っていた。出るところは出る! と言うプロポーションのベアトリーチェは、しっかりと胸も成長していた。あの美羽達を見ていると、とてもではないが口に出来ない。
(このことは秘密にしたほうが良さそうです……)
 ベアトリーチェは怒り心頭の美羽の姿を思い返し身を縮めた。
 
 同じ様にぷりぷり怒ったセイニィの背中を追って、ヴィクトリカがのぞき部撃退へ同行しようと体育館を出ると、踊り場に見慣れた姿があった。
「やっぱり、ご機嫌ななめだったか」
「あ、アーサー……!」 
 見越していたアーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)が階段下でヴィクトリカを待ち構えていた。彼女が小学生体型を気にしている事を知っているので、今回も測定結果後に荒れるだろうなと予測しての行動だ。徐に歩み寄り、ヴィクトリカが身構える前にその膝裏を掬い上げる。
「きゃっ!? な、なな、なに…!?」
「このまま私めにお付き合い下さいませんか」
「何言って……ちょ、ちょっと、お、下ろしなさいよ……恥ずかしいじゃない――」
 口先では突っぱねても、その口調は頼りない。目許はうっすらと赤身を帯び、それを自覚しているのかアーサーと視線を合わせようとしなかった。
「そろそろ機嫌を直してくれませか、可愛いお姫様」
「なっ……」
 恋愛沙汰に疎いヴィクトリカだ。気障なふるまいをサラリとこなすアーサーに、二の句を告げない。口をぱくぱくさせ、ついには真っ赤になって俯いてしまった。

その頃、アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)は体育館1階で胸囲の測定を受けていた。メジャーを巻かれ、測定値を読み上げられる。背丈が1、2cm程伸びた位で他は余り変わりばえはしなかった。栄養面も偏食気味ながら、まずまずと言ったところだ。聴力や視力も例年並みで特に変化は無い。
 書き込まれる数値を眺めながら、蛇々がやたらと胸の事を気にしていたことを思い出す。
――胸の膨らみを気にするなんて馬鹿だな。
アールからすれば大した問題ではないと思うのだが、当人には重大問題らしい。それこそ1日の気分を左右するほどの。
「検査が終わったら、からかいに行ってやるか」
 その時の蛇々を想像すると、思わず笑みが浮かぶ。
残るは問診だけだ。強化人間は身体と精神面がより強く直結しがちだ。担当教員には念入りに診てもらうとしよう。測定用紙を受け取り、アールはその場を後にした。


茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は百合学から出ることなく、自室から何とはなしに窓の外を眺めていた。今日は蒼空学園で合同の身体測定があるらしい。男性が苦手な清音はもちろん不参加だ。共学と言うことは、うじゃうじゃと男子生徒が闊歩しているのだろう。考えただけで不安に襲われる。
「……」
身体測定。と聞いてまっさきに思い浮かべるのは体重だ。そういえばこの所体重計に乗っていない。気になり始めるとそわそわしてしまい、清音は体重計を引っ張り出し、こっそりと乗ってみてた。
「……1kgふえてる……」
 しゃがんでみても、1度降りてもう1回のってみても数字に変化は無い。
 段々と数字に笑われている気さえして来た。清音はがっくりと項垂れた。