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嬉し恥ずかし身体測定

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嬉し恥ずかし身体測定
嬉し恥ずかし身体測定 嬉し恥ずかし身体測定

リアクション

「次は胸囲測定だね」
 久世沙幸(くぜ・さゆき)は列に並びながら緊張していた。人数が多いため、それぞれ複数の担当者が居る。胸囲は3列で行われていた。
「やっぱり体操服は脱ぐのかなあ……あ、ブラもとらなきゃダメなのかな? 女の子しかいないけど、ちょっと恥ずかしいなあ……」
列の先にはつい立のようなもので仕切られていて、呼ばれたらその向こうへ進むようだ。次の人どうぞ、と向こうから声を掛けられ心の準備も出来ぬまま慌てて奥へ進んだ。
「お願いしまーす」
「待ってたよー! 沙幸さん!」
 メジャーを持ってにっこり笑う未沙は沙幸の姿を見るなり手を引っ張った。
「バストは未沙が測ってくれるんだ」
「そうだよ。はい、ブラ脱いでね」
「やっぱり……?」
「不正があったら困るからね。まあ、パッド入れてるかどうかは見れば分かるけど」
 にぎにぎと手を不穏な形で動かしている。しぶしぶ体操着の中から下着を取り去ると未沙は沙幸よりもはやく体操着をめくりあげ、「はいバンザイしてー」と脱がせてしまった。
 満足げに頷いた未沙は慣れた手つきでくるりとメジャーを周わした。
「じっとしててねー」
「く、くすぐったいんだもん……」
「はーい、終わり。トップが85cm、アンダーは65cm。トップだけ2センチのプラスだね。なかなか良い成長してるね!」
 未沙は唐突に胸を掴んだ。
 
 ついたての奥から笑い声が聞こえてくる。記録用紙を見つめていた月島悠(つきしま・ゆう)はちらりと視線をそちらへむけ、すぐにまた手元へと戻す。
「身体測定かぁ…憂鬱だなー……」
 悠は溜息をつきながら各測定を受けていた。特に気にしている部分はやはり胸だ。後回しにしても結局は受けないわけには行かず、その分憂鬱が沈殿して何だか溜息まで重ったるくなってしまった。
「身体測定が健康管理の上で重要なのは解ってるんだけど――」
着替えの時に視界に入った、スタイルの良い女の子達。スレンダーだったり胸が大きかったり、バランスの取れたプロポーションだったり。思わず自分と比べては凹んでいた。
中でも2階で見張りをしている梅琳の抜群のスタイルはやはり憧れだ。普段は男の格好をしているため、目が合っても悠だと気付かれなかった。擦れ違いざまに挨拶をすると、ちょっと不思議そうな顔をしていた。見覚えはあるけど誰だか分からないと言った所だろうか。
「それに比べて私……胸も大きくならないし」
「どうしたんですか~ 元気ないですけど」
 心配そうに顔を覗き込んできたのは麻上 翼(まがみ・つばさ)だ。体操着のおかげで体型がはっきりと分かる。外見年齢と身長の割りにスタイルがいい。出るところはしっかり出ている。視線はどうしてもバストへ向かってしまう。
「うわあああああん!!」
 沙幸が体操着を抱えたまま走り出してきた。
「え……? さ、沙幸?」
「次の人どうぞー!」
 確かめる間もなく次を促され、胸囲測定のブースへ入ると、未沙がにこにこと手を降ってきた。 
 言われるまま服と下着を脱ぎながらも、どこか釈然としない。
「……前のとき全部ぬいだかなあ」
「不正防止のためだよ」
「ちょ、ちょっと、未沙、ど、どこ触ってるの?!」
「ただ測ってるだけですー。トップが74、アンダーが70ね」
「去年と同じ……」
 本日何度目か分からないため息をつくと、未沙の視線が鋭く光った。
「大きくしたいならやっぱりマッサージしなきゃね」
「い、良いからそういうのは……!」
 身を捩って何とか未沙の魔の手から逃れると、急いで下着と服を身につけた。詰まらなそうな未沙は次の生徒に入ってくるよう促す。
「ボクのもお願いしまーす!」
「どれどれ~」
「アンダーが57」
「きゃっ、く、くすぐったいですよー!」
きゅっと胸の下でメジャーを締められて思わず身をよじった。
「トップが75。翼のも触り心地良さそ――」
「こら」
鈴が未沙を咎めた。
「ちゃんとやって下さいね?」
「は、はーい」
猫咲 ヒカル(ねこさき・ひかる)は落ち着き無い様子で未沙の前に立った。
「あ、あの…よろしくおねがいしますっ」
「そんな緊張しなくって良いんだよー」
 元からブラジャーはしていないので、体操服を脱ぐだけだ。ぺたんこな胸にメジャーが巻かれる。たまに触れる指がくすぐったくて笑い出しそうなのをこらえるために唇を噛む。
 測定結果は去年と変わらずだ。
まあ、当たり前といえば当たり前なのだが……。
「ボクこの年なのに全然おっきくならないのっておかしいよね……あは、あはは」
誤魔化すためにと吐いた自虐ネタと空笑いはつるりと滑ってしまった。

「はぁ……大変な目にあったぁ」
 沙幸がブースを抜け、下着をつけ体操着を被る。
 待ち構えていた藍玉 美海(あいだま・みうみ)が沙幸から記録表をと取り上げる。
「ふむ。アンダー65のトップ85ですか」
「ね、ねーさま!?」
記録用紙と胸を見比べて、小さく頷く。
「お疲れ様ですわ。去年より大きくなっていますがFまでは一歩及ばずですね」
「記録表返してほしいんだもん。測定結果を大声で言わなくていいからー!」
「もう少しですし、今から豊胸マッサージをして差し上げますわ」
 美海の視線が明らかに自分の胸へロックオンしている。こんな大勢の生徒が居る前で胸をもまれるなんて恥ずかしすぎる。逃げようと後ずさった所で、ちょうど後に人が居たらしく背中から誰かにぶつかってしまった。謝ろうと振り返る前にぐわしと胸を鷲津かまれる。
「測定結果どうだった? それにしても君、いいおっぱいしてるね? さ・ゆ・き・ちゃん?」
「ひゃっ……巧珠……さん?」
 耳元で息を吹きかけるように囁いたのは吉良 巧珠(きら・たくみ)だ。ヒカルより早く胸囲の測定が終わり暇を持て余していたところだった。ちょうどそこへお眼鏡にかなうおっぱい――もとい沙幸がやって来たのだ。揉みしだこうとする手からおっぱいが消えた。
「あら、やめて頂けるからしら。わたくしの許可なく沙幸さんに触らないで頂きたいわ」
 見れば美海が
「良いだろ、ちょっとぐらい! 私にもアンダー65のトップ85を揉ませてくれよ」
「駄目ですわ。このアンダー65のトップ85はわたくしの物ですから」
「人の結果を何度も大声で言わないで下さいー!」
 美海と巧珠に二重の意味で揉まれながら、沙幸は泣きたい気持ちでいっぱいだった。

刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)はパートナーのアレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)遊馬 澪(あすま・みお)と一緒に測定を受けていた。始めに測定を受けた身長は、刹那が去年の+2cm、アレットは165cmと去年のまま変化が無かった。まあこんなものかなと記録用紙を眺めながら、いよいよ3サイズの測定となった。
80・57・80(Cカップ)と、バストは去年より4センチ増えた。確実に成長している。少し嬉しくなってアレットの診断結果を覗き込み、つかの間の幸せは息を潜めてしまった。96・62・91(Hカップ)。しかも去年と比べるとBが+6cm・Hが+4cmとますますナイスバディへの道をまっしぐらである。
さらに予想外だったのは澪だ。
「胸、大きかったのね……」
「澪もびっくりしたよぉ~」
澪にとっては人生初となる身体測定だ。測定値だけを見れば、アレットと負けず劣らずの豊満さだ。着やせするタイプなのだろうか。思わぬ伏兵が現われたものだ。2人の胸と自分の胸を見比べ、刹那は軽い嫉妬を覚えた。
アレットは自分でも胸は大きいほうだと思っていたのだが、上には上が居ることを改めて思い知らされた。離れたところで師王 アスカ(しおう・あすか)が美緒の胸にじゃれついているところを目にしたのだ。
「あ、美緒ちゃんだ~♪ バストどれくらいだったぁ? Qカップ!? すごい……いいなぁ……どんなの食べたらこんな大きくなるのよ~? やっぱり年齢の差なのかしらねぇ」
 Qカップ!? とその場に居た澪も驚きを隠せないようだった。美緒はアスカにがっちり捕まって胸を揉まれ逃げられない。会話の全ては聞こえなかったが、驚かされるにはそれだけで十分だ。自分も胸が大きいほうだと思っていたアレットは、呆然とつぶやく。
「世界って広いんですね――」

 唯一男であるセファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)はパートナー達から離れ、1階で測定を受けていた。魔導書であるセファーにとっては澪と同様、人生(本生?)初の身体測定だ。勝手が分からず息を止めたり顎を上げてしまったりと、妙な緊張と共に終えた身長の測定。結果は180センチと高身長の部類だ。
「結構、私も身長があったんですね――」
「その身長を活かせる良い部活があるんだ、バスケ部どうだ? やらないか?」
 感心したように呟いたところで、海に肩を叩かれた。

 落ち着きなく辺りをきょろきょろと見回している人物が居た。イルミンスール魔法学校から単身で蒼空学園に乗り込んだ白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)は、知っている顔を見つけることが出来ずに戸惑っているところだった。一人で海の中へ放り込まれた気分だ。
「周り知らない子ばかりだ……あ、アゾートちゃん居ないかなあ……一緒に身体測定受けさせてもらおうかな」
 ちょこちょこと歩きながら見知った顔を捜す。
 身長が低いために爪先立ちになっていると思わずよろめいた。
「わっ! ご、ごめんなさい……!」
「大丈夫だよ」
咄嗟に支えて微笑んで見せたのは七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だった。歩夢の手から落ちた診断書を拾って、目に付いたのは名前だった。
「歩夢で――あゆむって読むの?」
「う、うん……」
「あたしもね、歩っていうの。字は“歩”だけなんだけど。誰か探してたの?」
「アゾートちゃんが見つからなくって」
「そっか……」
 この人数だ、人を探すのは確かに難しいかも知れない。
 沈んだ顔の歩夢を見ていると、とても他人事には思えなかった。名前だけでなく苗字も似ているし、身長も同じぐらいだ。思い切って歩は提案してみた。
「もし良かったら、あたしも手伝おうか? 1人より2人の方が見つけやすいかも」
測定より色んな生徒が集まっている状況に歩は興味を持っていた。せっかくの全校の生徒が集まっているのだから、色々な子と仲良くなりたい。歩夢は戸惑いながらも頷いてくれた。

「見つからないね」
「うん……」
 体育館の一角は舞台になっている。舞台の上からなら見つかるかも知れないと腰を下ろし、先ほどから視線を走らせているのだが未だに見つけることが出来なかった。
どうしたものかと辺りを見渡していると、何かがもぞもぞと動いた。
隅に寄せられた暗幕。誰か居るのだろうか。歩が近づいていくと、そのもぞもそは一瞬大きくなったかと思えばぴたりと止んでしまう。思い切ってめくってみると、そこには託の姿があった。
覗きだと思って居ない歩はとぼけた質問をした。
「こんな所で何やってるの? 男子は1階だよ?」
「え、いや――あ――」
「あ、警備なのかな? お疲れ様。でもこんな所に居なくっても――」 
「な・に・し・て・る・の・か・し・ら」
ふっと陰が落ち、託と歩は同時に顔を上げた。
セイニィと美羽が爽快な笑顔で、指をぼきぼきと鳴らしている。。

「あっ! ノルンちゃん、踵浮かせて背伸びしちゃいけませんよ~」
神代 明日香(かみしろ・あすか)は隣で身長を測ってもらっているノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)へ注意をした。小さな踵を上げて、背伸びをしている。ぷるぷると足が震えている。測定を担当している教師は苦笑していた。
「だって、去年からちっとも変わっていないんですよ? 計測の仕方間違ってませんか?」
 ノルは身長体重スリーサイズ、去年からこれっぽっちも変わっていないことが不満だった。実は数千年前から体の大きさは変化していないのだが、本人は日々成長しているつもりなのだ。
「身体測定は発育状況や健康状態を記録するもの、見栄を張る場じゃありません」
 そう言いつつも、明日香は診断書を手にどこか嬉しそうだ。実はバストが少しだけ大きくなっていたのだ。トップが71から72に増えただけなので依然Aカップのままだが、だからこそささやかな成長がとても嬉しい。ヒップも2センチ増えた。体重に変化は無く、身長も2センチ伸びたのだ。
「……納得いかないです」
 ふてくされたノルンの頭へふたたび測定器が宛がわれた。

 同様に、身長が伸びていないことに火村 加夜(ひむら・かや)は溜息をついた。体重はちょっとだけ増えていた。それと同時に胸が3センチ大きくなった。服を着たときに胸が少しきつくなってきた気がしてたから、これは予想通りだった。やはり胸が大きくなったのはやっぱり嬉しい。しかし最重要項目は身長なのだ。
「152センチのままですか……はあ……まだ26センチ差ですね……」
 涼司との身長差が縮まるのはまだ先のようだ。
身長が伸びると思ってたくさん牛乳も飲んでいたのに。少しぐらい努力の成果が出るのではないかと期待していた。今まで背が低いことは気にしてなかった。しかし、最近になって不安になって来たのだ。なぜなら、
(キスの時、背伸びしても届かないし、涼司くんにちょっと屈んでもらわないといけないから……)
 空想の世界へ入り込んだ加夜は思わず顔を隠した。にやつく頬を押さえられない。
「涼司くんは伸びたのかな?」
 あとで聞きに行ってみよう。測定が終わったので着替えようと体操着を脱いだところで、ふと辺りを見渡した。視線を感じる気がする。しかし周りには怪しい気配も無い。
「――気のせいだよね……」
「あ、やっぱり……何か気になりますよね」
ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)は測定を手伝う猛と離れ、身体測定を受けていた。
胸が大きくなったぐらいで、他は微々たる変化だった。身長がやや低くなっているのが気がかりではあるが。
「さっき捕まってた人がいるみたいですし、もう大丈夫だとは思うんですけど」
 加夜は眉を下げた。ルネはちょっとほっとしたように肩の力を抜く。
「ですよね、ちょっと過敏になっているのかも知れないですね、私たち」
「ですね」

リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は顔を上げられずに体育館の隅にしゃがみこみ、服を握り締めていた。着替えも済んでいない。体操服になど着替えたらバレてしまう。そもそも更衣室へなんて申し訳なくて入れるわけが無かった。
 女性と間違えられ2階に押し込められてしまったのだが、男だと申し出るタイミングを逃してしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。せめて視界に入らないようにと俯いてみたり顔をそむけて見たりと必死だった。
「大丈夫ですか? 調子が悪いのなら、保健室まで付き添います」
誰かが呼んできてくれたのだろうか、綺羅 瑠璃(きら・るー)が声を掛けた。
 もうこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「あ、あの……僕――男なんです……」
「え?」
 自体が飲み込めないのか、瑠璃はリアトリスの顔を見つめる。
「ごめんなさい! のぞくつもりじゃなくって、あの、女の子と間違われてしまって……言い出すタイミングを……逃してしまったんです……」
 
「わ、わかったわ、とりあえず――」
「男!?」
「――え?」
 瑠璃とリアトリスは互いに顔を見合わせたが、どちらの声でもない。
声は足元から聞こえた。よく見ると小さな穴のようなものが空いている。
しまった! と床下で望は咄嗟に口を押さえたが、もう遅かった。



 スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)は2階につれて行かれたリアトリスを心配して、階段の折り返しのところで帰りを待っていた。狼姿で体育館内に入ることはさすがに出来ないだろうし、そもそもリングロンドも男である。
「あ、おっきな犬~」
「なにこれ可愛い」
「毛並みも良いよ~抱き心地さいこー!」
「写メ撮ろうよ写メ!」
測定の終わった女子に撫でられて複雑な心境だった。 
とりあえず犬のフリをしようと、なでられたり抱きつかれたら尻尾を左右に振りながら嬉しそうな顔をしておいたら、次から次へと女子が群がってきた。
じゃあね~と手を降って階段を下りていく女子生徒がすっかり姿を消した所をで、スプリングロンドはため息をついた。
「楽しそうだな」
「楽しくなどない」
見張り役のカオルは羨ましいような何ともつかない表情をしている。
すると突然悲鳴が2階から聞こえてきた。
「何があった!」
 メイリンにもしものことがあったら――!
 木刀を手に階段を駆け上がると、すぐそこにいたメイリンがカオルの姿に目を丸くした。
 良かった。無事だった。名前を呼ぼうと口を開きかけ――それは叶わなかった。
「男子禁制!」
「すみません!
 銃口を向けられ、カオルは思わず両手を挙げた。