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嬉し恥ずかし身体測定

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嬉し恥ずかし身体測定
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「女子のぞき部の部長を舐めないで頂きたいわ」
 この程度のトラップ、のぞきへの情熱を前には粘度細工のようなものだ。
 仕掛けられたトラップを解除しながら、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は体育館2階へと忍び寄っていた。ベルフラマントでしっかり姿も消してある。万が一見つかったとしてもつかさは正真正銘女子なのだから、言い訳さえ上手くすれば誤魔化すことは可能だ。
 目的はただ一つ。
加能シズルをあますとこなく隅々までのぞくことだ。
のぞきは漢の浪漫? 馬鹿いってはいけない。女の浪漫でもあるのだ。
とはいえ、他の人には迷惑をかけないとシズルと約束してしまった。だったらシズルに責任とって、全てをさらけ出してもらおうではないか! シズルのことは隅々まで、それはもう完璧に、あますことなく全て知って置かなければ。教え子の成長を見守るのは「師」としての責任だ。

 女子なのだから堂々と測定を受けて見てしまえば良い、などという突っ込みは論外だ。
こっそりのぞくからこそののぞき! スリルが何よりも「のぞき」と言う行為をぐっと刺激的なものへ味を変えてくれる。そして姿を消して正面から堂々とのぞく。小細工は無しだ。これがつかさのこだわりであり、ある種の堅持とも呼べる情熱の結晶だ。
「さて……シズルはと……一応成長はしているようですね」
細く開けた扉から覗いていると、お目当ての人物はちょうど体操着へと着替えるところだった。
「今度揉んでもっと大きくして差し上げませんと……それにお尻も……手取り足取り腰取り……ふふ、ふふふっ」
 こちらの気配に気付かず、無防備に下着姿を晒すシズル。しかし、段々と雲行きが怪しくなって来た。近くにいた――ちょうどつかさに背を向けて起っているので顔は見えない――女子がなにやらシズルに声を掛けている。やけに親しげな態度だ。シズルもまんざらでは無さそうに微笑んでいる。いや、僅かに上気した頬に照れたような笑み。
「だ、誰なのあの女は……シズル……え、駄目よ、そんな! 何してるの! 誰の許可を得てシズルと……」
すると、不意にシズルがこちらを見た。
「なんでこっち向いて、え?声洩れてた……や、やってしまいましたわ、私がこんな初歩的なミスをするなんて」
驚いた顔をするでもなく、シズルはすっと目を細める。そして顔の見えない女の耳元へ唇を寄せ、何やら囁いている。耐え切れなかった。ドアを開け、マントも脱ぎ捨て、シズルの元へ駆け寄った。ようやく目を丸くしたシズルを抱きしめる。
「シズル、違うんです! 他の人はのぞいてないから……私にはシズルだけなのよ、知ってるでしょう」
 もちろん返事はない。怒っているのだろうか。勘違いさせてしまった。誤解を解かなければと思考を巡らせているうちに、あることに気付いた。
「し、シズル? どうしたの? とっても体が硬くって冷たいわ――まるで鉄板みたいよ?」
 やけに硬く冷たいものが頬に押し当てられている。おかしい。シズルがこんなにまな板のような体のわけはない。手で撫でて見るとつるつるとすべりがいい。揉むものなどどこにもない。
「はっ!?」
 我に返ってまっさきに見えたのは誰のものかわからない靴の先だった。
「おはよう。悪夢(ユメ)は見られました?」
 頭上から降ってきた声に顔を上げようとして、体が上手く動かないことに気付く。よく見れば床に転がされ、後手にしばられているではないか。坂上 来栖(さかがみ・くるす)はもぞもぞと毛虫の様にうごめくつかさを見下ろしながら、銜えていた煙草を唇から離す。
「ここまでたどり着いた事は褒めてあげたいところですが――」
ふうっと紫煙を吐きだす仕草は、外見の幼さとちぐはぐだ。そのくせ煙草を挟む指先は慣れや癖が染み付いている。まだ現状を掴みきれて居ないつかさは顎を上げながら訝しげに10をすぎたばかりの少女を訝しげに眺める。その心中を容易に見抜いた。来栖は大して気にするでもなく先を続けた。
「どうしても見たいって言うならね、姑息な手を使わずに、本人に頼みなさい」
「なんてことなの――」
 つかさはがっくりと項垂れた。そして同時に安堵していた。
シズルが顔も分からぬ女と――なんて考えたくもなかった。
 
風森 望(かぜもり・のぞみ)もまた身体測定の連絡が届いた日から覗きの準備を進めていた。
「ふふふ、のぞき部を甘く見ないで頂きたいですわね。通路の閉鎖? 窓の遮蔽? そんな対策、事前に予想済みです!」
体育館2階の床の一枚をはがすと、1階と2階の隙間に入れるように改造していたのだ。それこそ身体測定が行われると知った日から計画を立て、着実に今日という日のためにたゆまぬ努力をしてきた。そして部長ともども前日夜から予め潜んでおいたのだ。
待ちに待った今日この時。思わず拳を握り、望は噛み締めるように口を開く。
「艶姿がみたいのではないんですっ! 背徳感! スリル! その中で目的を達成する事に意味があるのです! 可愛いは正義! 女の子が女の子を愛でて何が悪い! 愛・LOVE・のぞき! お仕置きを受ける事も!自分が逆にのぞかれる事も!覚悟の上です!
そう、のぞきとは覚悟の証!」
ちなみに今日、風森望は熱を出して欠席ということになっている。電話口でゼエハアと呼吸を乱し、苦しげな演技で体調不良を告げると、教師も友人もとても心配してくれた。
全ては抜かりなく「そんな所まで!?」と驚かれるところまでしっかりと交錯の網を張る必要がある。
 唯一の光源は2階床と1階天井に開けた穴だ。暗所恐怖症ではあるが、のぞきの前にしては小さな問題だ。頭上では足音や雑談する声が聞こえている。
しかし、直接覗き込むのは危険だ。のぞき穴に何を突き込まれるか解らない。そこで思いついた方法は『氷術』を使用して、鏡状にした氷を利用して、反射させると言うものだった。
 ――のぞく為なら、どんな困難だって乗り越えられます!
 望は意気込みもあらたに氷の手鏡を覗き込んだ。


 そんなことは梅雨知らず、体育館の2階――いや、秘密の花園と言おうか、男子禁制の楽園では霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は何やら不安そうに眉を曇らせる女子生徒の会話を耳にした。
「なんか、のぞき部のやつらが動いてるらしいよー」
「やだなあ」
こそこそと着替えをしている女子が居ると思えば、そういう事だったのか、と透乃は納得した。廊下や入り口に立っていたり、見回りをしている教導団の生徒が居るから何かと思えば――。
「ま、見られて恥ずかしい体でもないし、気にしなくていっか」
「その下着、素敵ね」
あっさりチューブトップを脱ぎ捨てた所で、そっと隣に来た人物が声を掛けてきた。
薔薇柄の赤い下着に目を留めた神皇 魅華星(しんおう・みかほ)だ。魅華星自身は黒の上品なレースとガーターで、大人の雰囲気を醸し出している。コスプレの経験もあるので下着姿で居ることは全く恥ずかしくない。むしろバランスの取れた姿態は自慢でもある。もちろん、無許可で覗いたりするような輩には神罰を落としてやるつもりだけれど。
「やっぱりこういう時ってちょっと気合はいっちゃうんだよ。おまえのもかっこいいな。黒のガーター」
 カガセ・ミレニアム(かがせ・みれにあむ)はその様子を半歩後ろで眺めていた。魅華星の着替えを手伝い、今は金糸のような銀の髪へブラシをかけている。その口元は淡く微笑していた。
(お嬢様にステキな友人が見つかるとよいのですが)
透乃と楽しげに離している表情はとても好ましい。こうして仲の良い友人が増えて言ってくれると良い。ふいに透乃の瞳がぎらりと光った。獲物を見つけたライオンのような顔をしている。
「おまえもなかなかダイタンな下着だな!」
「ひゃわあぁあ!?」
背中をなぞられたサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は驚いた声をあげた。透乃を振り返り恨めしげに見上げる。
「……洗濯が間に合わなくって、これしか無かったんスよ〜」
魅華星に負けず劣らず黒いセクシーな下着だ。レースで縁取られたブラからこぼれ落ちんばかりの胸が覗いている。ぎらりと目を光らせたのはパートナーのヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)だ。背後から忍び寄り、徐にセレンの胸をわしづかむ。
「ふふふ、サッちゃん測定を使わなくても、成長具合ぐらい私がこの手で調べてあげるわよ!」
「ひゃっ!? よ、ヨーさん……いきなり何をするんスかぁ!」
「あらあら、サッちゃん。また大きくなったみたいね?」
「ちょっ……ダメ……みんな見てるのに……っ」
「あらそう?  じゃあこっちはどうかしらね」
「お尻も駄目っすよおおおおお!」
 目の前で繰り広げられるセクハラまがいに、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は恥ずかしくなって顔を背けた。着替えようと手にしていた体操服に顔を埋める。透乃と恋人になっていわゆるあんな事やらそんな事もしている仲ではあるが、冗談とは言え他人のそんな場面を目にするのはやはり恥ずかしいし、色々と思い出してしまって気まずい。
周囲の目がサレンとヨーフィアへ向かっている隙に、陽子はそそくさと体操服に着替えた。女同士であっても下着姿を見られるのには抵抗がある。さらに言えば、陽子は大きい胸も恥ずかしく思っている。なるべく大きさが分からないような服を選びたいし、話題にされたくもないのだ。
「もっと堂々としていなさいよ」
陽子が背中を丸める一方で、月美 芽美(つきみ・めいみ)は堂々たる態度だった。下着は黒い布地の少ないものだ。自分に自信がある芽美だからこそのチョイスだ。バツグンのスタイルを生かせるものを選んだ。

スタイルが良いといえば朱野 芹香(あけの・せりか)だ。長身でプロポーションの良い芹香はどんな下着なのだろう。透乃はじめ興味を持っていると、スカートを下ろした。現われたのはレースでもTバックでも紐パンでもなく、ファンシーな兎の顔だった。
思わず「こんにちは」と挨拶してしまいそうだ。
しばらくバックプリントのうさぎと見詰め合うという奇妙な図になった。
「ちょ、芹香……」
「え?」
「ぶはっ! ず、ずいぶん可愛らしいものを……履いてるのね」
「大事な日だから一番お気に入りのうさちゃんを選んだんだよ」
 可愛いでしょ? と芹香は無邪気に笑った。

そんなやり取りを横目で追っていたシア・メリシャルア(しあ・めりしゃるあ)は火照る頬を押さえた。
シアは“愛しのお姉さま探し”もかねて測定を受けに来ていた。全校合同と言う事は、きっと素敵な出会いの1つや2つあるに違いない。素敵な人が居たら声を掛けてみようかな、ぐらいの軽い気持ちだったのだが――いい意味で期待を裏切られた。周りには魅力的な女性ばかりだ。
(ど、どうしよう緊張してきた……)
女子ばかりの空間ですっかり気を許しているのか、下着姿でのまま談笑しているものも入る。バツグンのプロポーションに可愛らしい下着。「あんたまたおっぱいおっきくなたんじゃないの〜! ちょっと分けなさいよ!」「ちょっとやめてよ〜」なんてきゃっきゃとじゃれ合う生徒もいる。
どこへ視線を向けたものか、ドギマギしてしまい着替えどころではなかった。息が苦しい。頭がぐるぐるする。胸の音が耳元で聞こえてくる。
「大丈夫? 顔色悪いけど」
「えっあ、大丈夫! だいじょう――ぶ、だ、よ……あれ……?」 
 近くに居た生徒が肩に手を置いて顔を覗き込んできた。そこでシアの記憶は途絶え、気付いたときには保健室のベッド上だった。