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第五章:私たちの望むものは
 コクピットの三月が捉えたイコンの影は、朝シフトの警備員である辻永 翔(つじなが・しょう)アリサ・ダリン(ありさ・だりん)のイーグリット。鳴神 裁(なるかみ・さい)ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)後藤 山田(ごとう・さんだ)ゴッドサンダー.。桐生 理知(きりゅう・りち)北月 智緒(きげつ・ちお)グリフォン小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)グラディウスである。
 皆、出勤途中に一緒になっていたのだ。
 翔がモニターに映ったコンビニを見て呟く。
「うわぁ……何か酷い事になってるぜ?」
「そなた? 何か楽しんでないか?」
 翔のやや上ずった声を聞き、すかさずアリサが突っ込む。
「別に。朝いちで起きて眠いところに、この非常事態はいい目覚ましになるって思っただけだ!」
「何故、そこでテンションが上がる……? ちょっと待て。夜勤の海からメールによる通信が入った」
「何だって?」
 メールを読み上げるアリサ。
「あとは任せた、オレはもう眠い。だそうだ」
「任されたぜ!! アリサ、みんなの機体と通信を繋いで、各個撃破の指示を出すんだ!!」
 翔はそう言って操縦桿を思いっきり前に倒し、イーグリットの速度をあげるのであった。


「ふぅ……やってきたはいいものの。これじゃ、黎明華がお店に出勤出来ないのだ〜!?」
 店の付近で朝シフトの店員である屋良 黎明華(やら・れめか)が唸っていると、同じく店員である二日連続出勤のなななと小次郎が正木 エステル(まさき・えすてる)と共にがやって来る。
「おはようございます。黎明華さん。どうしました?」
「タイムカードが遅れたら、どうしようと頭を悩ましているところなのだ〜」
 エステルが店の状況に気付き、「まぁ!」と短く言う。
「平気よ!! なななが突破口を開くわ!! ……小次郎? ちょ、放しなさいよ!?」
 小次郎が黙ってなななをガッチリ拘束する。
 もがくなななだが、小次郎の力には勝てない。
「……私は人生初のアルバイトですけど、緊張しますね……」
「別の意味で、ですね?」
 小次郎が突っ込む。
「おや? 向こうからイコンがやって来るのだ〜」
「本当ですね。きっと警備員のですよ」
「頑張るのだ〜!!」
 黎明華達が手を振る。
「なななも……」
「ななな殿は頑張らなくてもよいのです」
「小次郎ー! なななを離してー!!」


ズズンッ!!
 ソードで串刺しにされたシュメッターリングが崩れ落ちると同時に、グレイヴストーンが遂に片膝をつく。
「はぁ……はぁ」
 アッシュが荒い息をつき、モニターに映る敵影を睨む。
「ワハハハ、随分手こずらせてくれたが、ここまでじゃな?」
 アポロトスが高笑いを見せる。
「何を……!」
 アッシュが操縦桿を握るが、既に殆どのパラメーターがアンダーになったグレイヴストーンは、軋んだ音を立てるだけであった。
 シュラウドがアッシュを心配そうな顔で見る。
「もう、限界(と、書く)」
「……ここまでですか。!?」
 言いかけて、遠くに光るものを見つけるアッシュ。
 そこに、トドメとばかり、アポロトスのシュバルツ・フリーゲがソードを構える。
「たーーーーッ!!」

ドゴォォォ!! と天から舞い降り、強烈なキックをかましたのはゴッドサンダーに乗る裁である。
「頭領!!」
 ずざざざーっと、転がるシュバルツ・フリーゲ。
「ふふん、いっちばーん!! 機動力は目一杯強化してあるんだもん!」
 指をビシリと天にかざすゴッドサンダー。
「あああぁぁぁぁー!! 裁ちゃん、私より目立つなんて許さないんだからね!」
 金色に塗装された、肩にロイヤルガードエンブレムが描かれている美羽のイコン、グラディウスがその傍に降り立つ。
 そして、やや遅れてグリフォンと翔のイーグリットが降りる。
「理知? 機動力なら智緒達のグリフォンの方が速……」
と言いかけ、理知を見る智緒。
 だが、理知はどこか嬉しそうなまま、隣を飛ぶ翔のイーグリットをチラ見してはエヘヘと笑っている。
「(あっ、翔くん発見。なるほど、そういう事ね〜)」
「おのれ、増援か!」
「いえ、朝シフトです」
 アポロトスの叫びにクールに返すアリサ。
「さぁ、これでイコンは4対4だ! 正々堂々とやろうせ!!」
 翔がそう言い、イコン同士の戦いが始まった。



 裁の乗るゴッドサンダーは、イーグリットの機動力を活かしたヒット&アウェイ戦法での戦いを展開する。
 華麗なステップとボクシングの技術でもあるスウェーを取り入れた裁の操縦に、賊のイコンは間合いを掴めず、空振りばかりしてしまう。
「ボクは風、キミは風(ボク)の動きを捉えきれるかな?」
 挑発するかの如く蛇腹の剣を振るゴッドサンダー。
 シュメッターリングは腰のアサルトライフルに手を伸ばすが、そこを見逃す裁ではない。
「コンビニの安定運営のため、覚悟してね!!」
 機動力を生かして一気に間合いを詰めると、実践的錯覚で射程を誤認させておいた蛇腹の剣を使って、一気にシュメッターリングの両腕を断ち切る。
「まだまだぁぁ!」
と、ゴッドサンダーの腰を落とし、流れるような動作で相手の足元を狙った足払いをかける。
 見事に倒れるシュメッターリングに、ゴッドサンダーがとどめとばかりのフットスタンプ(所謂、踏みつけ)をする。
ドズンッッ!!
 賊のイコンの上で腕を組むゴッドサンダー。中の裁が笑顔で「よしっ!」と笑う。
 裁の普段着兼パイロットスーツの魔鎧のドールが呟く。
「裁さんは、本能の人なんですね〜? 通りでイコンのプログラムとか疎いはずですよ〜?」
 サブパイロットとしてゴッドサンダーに搭乗し、通信、レーダーによる索敵などを受け持っていた山田が同意する。
「こうも結果を出されては、理論派はもう黙るしかないぜ」
 そう言った山田が、モニターで他のパイロット達の様子を見つつ、首を傾げる。
「何やってんだ? 翔は?」