天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション公開中!

暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 ――海京、天御柱学院の何処か、
 
「そもそも、なんで今頃になってアリサの回収なんぞ命じたんよ……」
 研究者である和泉 猛(いずみ・たける)がカプセルの前で愚痴った。
 目の前に成るのは猛の師が研究し、関わっていたとされる結果であり遺産でもある。しかし、そのカプセルの中に眠るアリサ・アレンスキーはコールドスリープを解いてなお目覚めようとはしない。
 肉体の解凍は既に終わっており、肉体や脳の働きを促すためのブドウ糖注射も行われた。いつ目覚めても可笑しくはない。
 しかし、問題もある。アリサの解離性同一性障害。つまりは多重人格であり、アリスという凶暴な別人格を持つということだ。
 アリスは嘗ての極東新大陸研究所ツァンダ支部を破壊し、蒼空学園と天御柱の研究所調査の際にも精神体のみで生徒たちを襲った。特に、自身を実験体として扱っていた研究者と天御柱への憎悪があるらしく、彼女の攻撃性には手を余す所がある。
 今はアリス人格よりもアリサ本人格の優位性により、大人しくはあるが、アリサ自身が肉体的に目覚めないのは気がかりではある。
 そんなおりに、極東新大陸研究所の本部からアリサの回収が来るという。間接的ではあるが、猛も関係者と言う事で、回収の立会いをする事となった。彼は今その為のアリサの容態やカプセルの状態をチェックしている。
 それとともに、アリサの生体データを元に師のラクガキのようなメモの解読をしていた。師とアリサの関わっていた『α計画』に関しては不可解な箇所があり、それを解くためにもアリサの詳しい検診とメモの解読が必要だった。
 手伝いとして、ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)ベネトナーシュ・マイティバイン(べねとなーしゅ・まいてぃばいん)を連れ、参考となる資料を読ませていた。
「ん?」
 資料の一篇を読みながら疑問符を浮かべたベネトナーシュに「どうした?」と猛が訊いた。
「いや、この『α計画』の事でな――」
 『α計画』――、それは『αネット計画』の通称であり、アリサ・アレンスキーの強い《精神感応》を利用し、《精神感応》を持つ者同士で精神のネットワークを構築する実験であり、その実証実験の計画。アリサが被験体αと呼ばれていたことからこの計画名が付けられた。しかし、その用途、最終目的に関しては一切の記述がされていない。レポートにあるのは実験結果の報告と、この計画がアリサによって実現可能と言うことだけだ。
「《精神感応》に長けて精神攻撃ができる強化人間であれば、それを応用して機晶姫や強化人間、もしくは《精神感応》や《テレパシー》持つ者たちの強化を促せるのではないかと」
 アリサの能力として、《精神感応》による精神攻撃がある。《精神感応》を持つ相手に対して強制的に複数人の思考を流し込むことで苦痛を与えるというものだ。
「なるほど、脳に直接刺激を与えるという観点からなら、そういった使い方も有るだろう」
 脳神経を刺激して集中力を高める方法としては十分な利用価値がある。
「師もその辺の構想があったか見てみるよう」
 猛は師の書き残したメモの束を捲る。だが、雑誌の文字に重ねて綴られた文字を読みその記述を見つけるのは一苦労だ。
「でも、見た目普通の女の子だよ。変な改造とかされているようには見えないです」
 カプセルの中を覗いてルネが言う。白磁の人形のように眠るアリサの体に違和感は見て取れない。強化人間としてはルネと変わりない。いや普通の人間としても見て取れる。
 ルネが思うのはそれだけではない。カプセルに入った少女の姿は定期調整で培養槽に入る自分に似ている。と――。
 と、ルネの指がカプセルのロック解除ボタンに触れた。偶然触ってしまったようだ。
「よし、粗方の生体データは取れたであろう。後は回収しに来る奴らとの立会いだな」
 ノートパソコンを閉じて、猛が一息ついた。
 が、その暇は一瞬だった。

「「そんな無駄なことしなくていいぜ」」

 耳と頭の両方から聞こえる言葉に猛は戦慄した。
 勝手に開いたカプセルの中からアリサは立ち上がり、ルネを《サイコキネシス》で拘束した。
「え? ど、どういことです?」
 体の自由が利かなくなったルネが慌てる。
「テメ! ルネに何を!」
 ベネトナーシュが怒りに任せ、アリサを攻撃しようとする。
 が、アリサはルネを盾にする。ベネトナーシュの動きが止まる。
「「コイツを傷物にされたくなけりゃ、大人しくしとけよ。まあ、裸のワタシに欲情したってんなら、襲いかかってきたのもわからなくもないけどよ? ケダモノ」」
 口悪くアリサが挑発してくる。ベネトナーシュは今にも彼女を殴りたかったが、《サイコキネシス》で苦しめられているルネを見せられると、そうはいかない。
「お前さん、アリサではないであろう……」
 レポートにあったアリサの別人格、『アリス』ではないかと猛は思う。研究所で対峙した者たちからは彼女は相当口が悪かったと聞いている。
「「ご明察っだデカブツ。ワタシはアリスさ。テメーの連れのおかげでやっと自由になれたぜ。カプセルのロックを内側から開けられねえからどうしよかと思ったぜ」」
 アリス暴走を阻止する為に、カプセル内では能力を使用できないよう処置がされていたのだが、ルネがロックを外したことによりそれも解除されてしまったようだ。
 しかも、よりによってルネを人質にされてしまった。
「「ああ、でもこのままじゃストリップキングもいいところだな……、それ借りるぜ」」
 と言って、アリサはルネの上着を《サイコキネシス》で脱がせて、自らの身体に羽織った。
「アリサの人格はどうしたのだ?」
 猛が訊く。本来ならアリスよりもアリサの人格が体の主導権を獲得しているはずだ。精神的外部刺激を与えたわけでもないのに、目覚めた瞬間からアリスの人格が主導権を握っているのは可笑しい。
「「体の主導権をあいつから奪ったんだよ。だから、今の優位人格はワタシってワケさ。大分かかっちまった様だけどよ」」
「なかなか目覚めなかったのはそのせいなのか」
 アリサの中で二つの人格の精神闘争が会っていたのだろう。一度はアリサが勝利したものの、再び体の主導権はアリスへと傾いたのだ。
「「さて、体も自由になったことだし、テメエら天御柱の糞野郎を皆殺しにしねぇとな。でも、その前に……」」
 アリサの能力が室内を荒らす。《カタクリズム》によって天井に風穴が開いた。
「「優先順位ってのがあるからよぉ。約束通り、アイツラは真っ先にワタシの手で殺してやんねーとなァ!」」
「待て!」
 猛がアリサを捕まえようとするが、彼女はルネと共に《レビテート》で飛び去ってしまった。猛とベネトナーシュが残される。
「猛、どうする!?」
「コリマ校長に伝えるのだよ。……“キケンブツ”が逃げ出したと」