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ティーカップパンダを探せ!

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ティーカップパンダを探せ!

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【4・残り28時間】

2日目 A.M.05:00

 ようやく朝日が顔を出しはじめようかという空の下、なななはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)のワイバーンりゅ〜ちゃんに乗せてもらいながらティーカップパンダ探しをはじめていた。
「ふわ……それにしても大変だね。こんな朝からおしごとなんて」
「ごめんね。無理になななにつきあわせちゃって」
「ううん、いいよ。ふたりで朝のフライトっていうのもそれはそれで楽しいし」
 会話だけ聞けば平穏なものだが。
 現在捜索しているのはトゲのような岩がところどころに突き出ている断崖絶壁。しかもその崖下あたりだったりする。
 風景として眺める限りなら、それなりに興味もわく場所なのだが。捜索にあたるとなればたとえ命綱ありでも、なんのはずみでロープが切れるか知れないので。こうして協力を求めたという次第だった。
「おふたりとも! あまり気を抜かず、十分にお気をつけて!」
 崖の上から戦部小次郎の声が届く。
 じっさいなぜこんな過酷な場所にいるかと言えば。なななの電波と、戦部小次郎が連れてきたペットのティーカップパンダが向かっていく方向を頼りに移動していった結果。このようなところに行き着いたのである。
「うんー、わかってるよー。さてと……たしかにこのあたりから、かなり強い電波を感じるんだけどなあ」
「そうなんだ。あたしにはさっぱりだけど、なななが言うならもうちょっと調べてみようか? りゅ〜ちゃん、いけそう?」
 なななはさきほどから身体を震わせているものの、どうにも場所を絞りこめないのか何度もこの一角を旋回しつづけている。
 おかげでワイバーンのりゅ〜ちゃんも、かなり疲弊しはじめているのか翼のはばたきが若干遅くなっていた。
「ううん、この場所では無理しないほうがいいよ。一旦上にあがろう」
「そう? わかった、りゅ〜ちゃんお願い」
 ミルディアがそう言うと、気流にのって一気に崖上へと舞いあがった。
「ご苦労さま。りゅ〜ちゃん」
「でもあたしたちのことより、なななこそ大丈夫なの? 宇宙のことがどうこうっていうのは」
「うーん。宇宙警察は、もう海王星あたりには着いてるかな……。でも安心して。まだ時間はあるから。それまでに軍の任務を終えて、連絡をとれば万事解決だもん!」
 なななとミルディアの会話を聞き、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はおもわず苦笑していた。
「相変わらずなななは電波なこと言ってるみたいね」
「そうみたいね」
 少なからず興味を抱きはじめているセレンフィリティことセレンは、
 なななへと近寄って問いかけてみる。
「ねえ、ななな。その宇宙警察の大艦隊ってさ。結局どういう規模のものなの?」
「え? えーとね。地球でいうところの超弩級戦艦に近いかな。でも最近は数を増やすために小型戦艦も増産されてるらしいけど。平均すれば全長は200mくらいだと思う。どの艦にも基本的には艦体上部に司令塔があってそのメインブリッジの下にはサポートのためのサブブリッジがあってね。あっ、先に武装のほうが知りたいかな。主砲の大きさはすごいよー。地球にあるイタリア戦艦の32cm主砲やドイツ戦艦の30.5cm主砲に負けず劣らずでね。ん、待ってよ……武装の説明をするなら、やっぱりまず機関部の説明をしてから」
「長いわよ! そして説明ヘタ!」
 しばらく耳を傾けていたものの、すぐに聞くに堪えなくなった。
「え? これからが面白いところなのに。それにそっちが聞いてきたんじゃない」
「だったらもっとわかりやすくかいつまんでよ! そもそも話が何度もいきなり飛んだりするから、頭が追いつかないじゃない!」
「そう言われても。ななな、そういうの苦手なんだもん」
「ああもう……だいたい任務とはいえ、こんなアホなことマトモにやってらんないわよ!」
 思わず本音が飛び出すセレンだったが。
 ふとなにかろくでもないことを思いついたように口を笑みの形にした……ようにセレアナには見えた。
「ねえななな。あたし、あるスジから聞いたんだけど。宇宙警察の大艦隊って最近規模を拡大して、艦の種類も一新しはじめたらしいわよ」
 もちろんセレンにそんなスジに心当たりがないことは、決まりきっている。
 要するにいまのは嘘っぱちだ。しかしなななは、
「な、なんですってーっ!」
 と、しっかり真に受けていた。
「しかも、ついに変形してロボットにもなれるようになったとか」
「ええーっ!!」
 あからさまな冗談にもいちいち反応するなななが、なんだかおかしかわいくてけらけらと笑うセレン。
 それを見かねて注意を呼びかけるセレアナ。
「ちょっとセレン。悪ふざけが過ぎるわよ」
「あは、ごめんごめん」
 もうすこしなななの言動を楽しみたいセレンではあったが、繁殖期のパンダを見つけてやらないとなななが壊れてしまうかもだし。発見できなければ任務がいつ終わるか知れないので。
 パンダ探し自体は、きっちりやるつもりではあった。
「えっと。崖下にいないとしたら、むしろこの近くに隠れてるんじゃないかな」
 つぶやき、セレンはティーカップパンダが身を潜められそうな大岩にあいた穴や、地割れになっているところを覗き込んでみるが。ざっくり調べた限りでは、とくに見当たらないのでさくさく次を求めて移動していく。
 そんなアバウトなパートナーに嘆息しつつ、セレアナは彼女に見落としがないか岩穴や地割れの奥深くまでじっくり捜索の手をのばし、本当にいないのか再確認するが。
 見つかるのは昆虫やネズミくらいのものだった。
「ねえ、ななな。もうちょっと居場所を絞り込めないかな」
「え? あ、ごめん。いまそれどころじゃなくて。……うーん。それにしても、宇宙警察の技術力がなななのいた頃より飛躍的に進歩してたのね……」
 なななはあまり集中して聞いてくれてないようだった。
 これは今更ウソでしたと言っても意味がなさそうで。悪いことしたなぁと思いながら、せめて早くパンダを見つけてあげようと捜索を再開させる。
「さあ、なななちゃんのためにティーカップパンダを探すよ!」
 と、そんななか。やる気に満ちた言葉とともに新たに姿をみせたのは。
 小型飛空挺オイレに乗った影野 陽太(かげの・ようた)と、
 ガーゴイルに乗ったノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だった。
 もっとも、やる気に満ちているのは主にノーンで、陽太はメール打つのに忙しいようだった。
 ただ陽太としてもサポートする気がないわけではなく、事前に根回しで国軍と連絡をとり。藩大佐から捜索人員として承認を得ている。ノーンがやる気オンリーなので、代わりにわざわざ雑事を片づけてあげたわけなのだが。
「なななちゃん、手伝いに来たよー!」
 当のノーンは、そんな彼の気遣いを知らずに無邪気になななへ抱きついていた。
「わきゃ! あ、ありがとう。わざわざ」
「んー? なんだかテンション低めだよね。よぉし。わたしにまかせて!」
「え? ちょっ」
「ほら、気合い入れて! ぼぉっとしててもしょうがないでしょっ!」 
 激励にはじまり、震える魂、さらに幸せの歌のスキルを活用して。なななの気持ちを盛り上げ、そこからサーチの性能アップへと繋げようと試みるノーン。
「うん、わかった! よーし、なななにお任せだよ!」
 そして根が単純ななななは、ほどなくしてあっさり悩むのも忘れていつもの調子を取り戻していた。
 更に気合いをいれてアホ毛による電波探知に集中していく。やりすぎでなんだか顔が赤くなりはじめたところで、
「むむむむ……北北西から、電波がきてる、かも」
「北北西だね! よーし、えーと…………それってどっち?」
「こっちですよ」
 どうにも勢いばっかりの両者に、やれやれといった調子で陽太はケータイを閉じ、かわりにテクノコンピュータを両手にサポートにつとめることにする。
「ティーカップパンダから発する電波があったとして、それを受信可能なのかどうか、かなり疑問ですが……一応、出来る前提でなななさんの反応をデータ化して、捜索成果の上がりやすいポイント、方法を算出してみます」
「うん! まかせるよ、おにーちゃん!」
 ムツかしいことは本気で丸投げするつもりのノーンに苦笑いし、北北西に進路をとっていくと陽太は崖のほうへと辿りつく。
 小型飛空挺オイレに乗っているものの、やはり手がふさがっているままだと不安なので覗き込むことはせずに一旦停止する。
「やはりこの下……でしょうか。こんなところに隠れているのなら探すだけでも一苦労ですが、これまで人目についていないとなると可能性はあるはず……」
 特技の捜索や、スキルの博識やトレジャーセンスを生かしてじっくり分析する陽太。
「だいじょうぶ、いまのわたしにはツキがあるからね!」
 そしてガーゴイル乗りのノーンは。持ってきたウサギの足、鈴なりティーカップパンダ、御藝神社のお守り、などの幸運グッズの力をたよりに崖下へと降り。ひびわれた壁穴をくまなく探していく。
 なんとも対極な精神でなななを手伝うふたりだったが。
「あれ?」
 やがて穴のひとつで、ティーカップパンダらしき人影……もといパンダ影が動くのを、ノーンは目撃する。
 しかもカップの色は赤に染まって見える。朝焼けのせいでそう見えるだけとか、目の錯覚ではなさそうだった。
「ちょ、ちょっと! いた! いたよ!」
「えっ! いましたか?」「ほんとっ!? ほんとにいたの?」
 興奮する陽太となななが見守るなか。
 ノーンはゆっくりと、決して逃がさないようにそっとカップの部分を両手で持ち。穴の外へと出してあげる。
 そして現れたティーカップパンダの姿は、紛れもなく繁殖期のメスのものであった。
「やったぁ! とうとう見つけたよ!」
「驚きましたね。本当に、金元なななのアホ毛は電波を受信できるんでしょうか」
 他の捜索メンバーも集まってきて、わーいわーいと盛り上がる一同だったが。
 ふっと、とつぜん太陽からの光に影がさした。
 雲? という疑問にはすぐ否定がきた。

「きたわ……おそらく龍騎士!」

 誰かの叫びがなななたちに届いたときには、すでに四方八方から連中は姿をみせていた。
「お疲れさんだったな。さあ、おとなしくそのパンダと娘をよこしやがれ!」
 今時マンガでもないようなセリフを平然と吐きながら、上空に陣取るのはクィントゥス。
 いつのまにここまで接近していたのか、仲間も含めてその数はゆうに十五はいる。
「ノーン!」
「わかってる!」
 すぐさまノーンは『捕らわれざるもの』のスキルを行使し、なななを抱えて逃走を図った。それに逆につられる形で飛空船もすぐさま旋回し、移動を開始する。
「ふん、逃げられると思うなよ!」