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ティーカップパンダを探せ!

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ティーカップパンダを探せ!

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【5・残り27時間】

2日目 A.M.06:00

 捜索組と、傭兵龍騎士たちが接触したのを、遠目に確認する者がいた。
「まさかティーカップパンダを探しにきたら龍騎士と出会うとはな」
 それはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。彼としては、戦闘においては神の域とも名高い龍騎士を目にした時点で。パンダ探しはすっかり二の次になってしまっていた。
 拳が震えてくるのがラルクは自分でもわかり。そうなれば、することは決まっている。
「そんじゃあ、俺はこのまま行かせてもらうぜ!」
 ラルクは足に装備したプロミネンストリックで空中を駆け、そのまま連中の輪のなかへと直行する。
「神の力をこの手で超えてやんよ!」
 彼が求めるのは、彼らを統べるボスのみ。
 取り巻きの連中が気づいて、攻撃の構えをとろうとしたが。先んじて龍の波動で牽制してやる。
 軽く怯んでいる隙にひときわ凶暴そうな顔つきのワイバーンの背に、堂々と乗っているクィントゥスの正面へと到達する。
「お前が一番強そうだな? 俺と一手相手になってくれねぇか?」
「なんだよ。俺とサシでやろうってのか」
 そこまで接近されてもクィントゥスは動じた様子もなく、腰にさしたバスタードソードの柄に手をかけながら不敵に笑みを浮かべる。
「どうする、クィントゥス」
「おまえらは先に行ってろ。俺はこいつを片づけてから行く」
 一斉にかかってくるか、騙まし討ちでもしてくるかとも思ったが。本当に全員が行ってしまったので、ラルクは安心する。もちろん相手がこざかしい手を必要としないほど強さに自信があるのがわかったことに、だ。
「受けてくれるのか。ありがたいな、龍騎士さんよ」
「そう呼ばれるとむずがゆいな。傭兵の俺ごときが『騎士』なんてのは、どうにも性にあわないぜ」
「でも『龍傭兵』じゃなんだか語呂が悪いだろ」
「まあそうだな。お前を倒したあとで、いい呼ばれ方を考えてみるか」
「俺にやられたあとで、の間違いじゃないのか」
 軽く挑発しあったところで、ラルクは文字通り空を跳ねるように跳躍し、クィントゥスもワイバーンを操り空を駆ける。
 そのまま互いに高速飛行で牽制しあい、攻撃の機会を伺いあっていたが。
 先にクィントゥスが突然上昇すると腰の革袋をひっくり返し、中の石やら砂やらをラルクにむかってぶちまける。一見地味でしょぼすぎるが、コストがゼロである点で傭兵にとっては馬鹿にできない攻撃なのだった。
 ラルクとてくらってやるつもりはなく。行動予測によってどうするかを先読みしていたので、すばやく回避することができていた。
「こんなチマチマした攻撃は無駄だぜ。今度は俺からいくぞおらぁっ!」
 ラルクは龍の波動で闘気を上空に発する。
「ぐっ……」
 もろにそれを浴びたクィントゥスはわずかに表情を歪める。
 生まれたその隙をついて、ラルクは一気に距離をつめ。ドラゴンアーツを駆使し、鳳凰の拳による攻撃を繰り出そうと腕をふりかぶった。
「人間が神に勝てないって思ってるのが……間違いなんだよ!」
 二度の衝撃音と、手ごたえがラルクの耳と拳に伝わってきて。
 思わず口元がゆるみかけたが、
「!」
 クィントゥスは倒れることなく、仁王立ちで立ち続けていた。
 相手が装備している鎧は砕けていたが、全身が龍鱗化のスキルで硬質化していたせいだとわかった。寸前で身を守るのとともに、龍の波動の効果で落ちた防御力をあげていたようだ。
 もっとも、それでもかなりのダメージになっていた筈なのだが。
「うっへぇ、やっぱ強いな」
「俺だって伊達に大将を気取ってるわけじゃない。打たれ強さにも自信があるんでな」
 ラルクはすぐに距離をはかろうとしたが、ズキリと足首に痛みを感じる。
 見れば足元にいるワイバーンが、逃がさぬように右足に噛み付いてきていた。
「くそ、この……!」
「おいおい。チマチマしたやりかたは嫌なんだろう? このまま存分にやりあおう、ぜ!」
 と、クィントゥスは硬質化した頭で頭突きをくらわせてきた。
「ぐあっ……!」
 衝撃で頭がくらりとしてくるが、呆けている暇はない。
 クィントゥスは続いてバスタードソードを構えてきており、このまま畳み掛けるつもりらしかった。
「くそっ。上等だ、この野郎!」
 ラルクとしてももう退くつもりはなく、接近戦ならこちらの得意分野だと。先にこちらから相手のこめかみを鳳凰の拳で思いっきりぶん殴ってやった。

 ふたりが互いに譲らぬ攻防を繰り広げていく一方。
 なななを追う他の傭兵連中の前には、
 立ち塞がるリネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)
 そして朝野未沙(あさの・みさ)朝野 未羅(あさの・みら)
 月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)たちが対峙していた。
 リネンはワイルドペガサス、
 ヘイリーはワイバーンのデファイアント
 未沙と未羅はコームラントAFI−04Cに乗って上空で。
 悠と翼は鋼竜のテュルキスレーゲンで地上より戦闘の態勢をとっているが。
 対する傭兵たちはさほど脅威に考えていないようだった。
「貴様様。我我の邪魔をするするというなら、早早に潰し潰すがいいかいいか?」
「えー、イコンだからって、えー、優位にいるとは、えー、考えないように」
「おれっらは戦闘に慣れとっからな。容赦もしねっから。そのっつもりで」
「Zzzz……Zzzz……」
 なんだかふざけたしゃべりかたをする男たち。なかには居眠りこいている男もいた。
 一応龍騎士と呼ばれてはいるが、ワイバーンのほかにもヒポグリフ、グリフォン、ペガサスなどに乗っているヤツもいる。個人的な趣味なのか単にワイバーンを乗りこなせないのかは不明だが。全員好戦的なのは確実なようだった(居眠り男は除いて)。
 現に、飛空船を追うよりもこちらとの戦闘をさっさとすませようという構えらしい。
 といっても。ヘイリーは負けるつもりは毛頭なく、高速起動で回り込むように動き、
「いくわよ、野郎ども!」
 リネンがその後ろにつづき、未沙たちのコームラントも動き出した。
「さて。龍騎士の力はイコン並……なら、イコンと戦うヒントになるはず」
 リネンはまず牽制として、ハイランダーズブーツで空を駆け回り。それにバーストダッシュを付加させて相手の動きを制限していく。
 そこへ、未沙たちのプラズマライフルと悠たちのマシンガンによる射撃が襲いかかる。
「仕掛けるわ、援護してちょうだい!」
 直撃こそしていないが、隙が生まれはじめた傭兵連中に、ヘイリーはまずペガサスに乗った男の背後へと回りデファイアントのドラゴンブレスをくらわせてやる。
「えー、まだこれで、えー、倒せるほど、えー、甘くはないわけで」
 それでも相手はまだ余裕を持ちつつ、炎と逆方向へ転換して逃げに走りはじめたが。
「いえ、実際甘いと思いますよ」「ええ。まったくです」
 悠たちはそこをきっちり狙っていた。
 テュルキスレーゲンの左肩にかつがせたバズーカの砲撃が、容赦なくペガサス乗りの男にまで迫って。
「えー!?」
 早速、撃墜1。

「あのばっか。なに油断しまくってっんだっ!」
 煙をあげて落下していく男のことは、それ以降もう誰も気にとめず戦闘を再開させる。
 たとえ仲間であれ弱いやつははやばやと見捨てる彼らの方針に、ヘイリーはお腹が熱くなるのを感じながら。近づいてくるワイバーンに意識を集中させる。
「気をつけて、ヘイリー。あっちの龍騎士はすこし手強そうよ」
「うん。わかってるって!」
 リネンとヘイリーは、互いに互いの背を守るような位置取りになって。奇襲を受けないように気を配る。喰いつかれれば一発でアウトにもなりかねない相手である以上、なによりも警戒しなくてはいけないのはあの翼を駆使したスピード。
 それを承知しているふたりは、他のみんなからの援護を受けながら、牽制と回避でヘタに接近戦にならないよう距離をとって飛び続ける。
「ちっ……なんっだよ。戦うつもりっならもっと近づけってんだっ!」
「負けるとわかって真っ向勝負なんかしないわよ、バーカ! アウトローにはアウトローの戦い方があるのよっ!」
「アウトローの象徴にっも近い傭兵相手にそんっな発言をするっとは、いい度胸だなっ。こうなったらっ、奥の手でまとめて木っ端微塵にしてっやるっぜっ!」
 ヘイリーの挑発に、わずかづつ苛立ちがピークに近づいてきた男は。
 腕に装着させた滅竜砲を構え、狙いをリネンとヘイリーに定める。
 破壊力の高い武器を目にし、ふたりはすぐさま急上昇して回避をはかったが。
 放たれた砲撃による爆風だけで身体をかるく焼かれ、空のなかで投げ出されそうになる。どうにかさほどダメージを負わずには済んだが。連発されては叶わないと、焦りの汗がじわりとにじんでくる。
「はっはぁっ! 大金はたいて手に入れった武器だっ。いくらっ逃げても逃げっつづけられると思うなっ……うっ?」
 だが。いまの攻撃の反動で、男が一瞬意識を外した未沙のプラズマライフルが、まさにそこを狙ってワイバーンの左翼を打ち抜いた。
 軽くバランスを崩した男を見て。
「いまだわ!」
 この瞬間を逃してはいけないと、リネンは方向転換してワイバーンへ向かって落下する。そして両手に掴んだ光条兵器のブライトシャムシール……魔剣ユーベルキャリバー(L)を、重力加速度をプラスさせた勢いのまま振りぬいた。
 狙った右翼からはすこし目測がずれたが、その太刀はワイバーンの身体を鱗ごと切り裂いた。
「なっ、なっにぃぃぃぃぃっっ!」
 絶叫をむなしく響かせながら、傷ついたワイバーンもろとも男は落下していき、一同の視界から消えていった。
 これで、撃墜2。

「やったみたいね。ヘタに強力な武器に頼るからこうなるんだよ!」
「私たちもまだまだ、がんばらないといけないの!」
 喜び勇む未沙と未羅のコームラントに向かって、一匹のヒポグリフ乗りが近づいてきた。
「いいいい加減にして貰おうおう。さっきからいちいちいちいち、目障りなんだだだだ!」
「いけない。こっちに狙いを定めてきたみたい」
「それにしても、くどい喋り方の人なの」
 未沙も未羅も慌てずに、接近してきたところを左腕のガトリングで牽制し。
 その射撃を避けたところを狙って右手に構えたソードで斬りかかっていく。
 しかしヒポグリフのほうも、イコン相手ではかなり警戒しているようで。興奮状態の男の意思とは裏腹にかなり消極的に、避け、逃げ、隙を伺おうとしていたが。
 男のほうはヒポグリフをダンダンと蹴飛ばし、もっと突っ込んでいけと合図しはじめ。
 おかげで渋々といった感じが満載のまま突っ込んでくる。
「未羅ちゃん」
「わかってるの」
 おもいきり隙だらけの突進に、左腕によるパンチを繰り出し、そこに装備させたパイルバンカーでヒポグリフの『腰』めがけて一撃をお見舞いしてやった。
 その衝撃で男は振り落とされた。
 追撃すれば決着はたやすくついただろうが。未沙も未羅も、それ以上はもう何もしなかった。
 なぜなら、どのみち結果は同じだとわかったからである。
「くそくそくそ! オレは負けん負けん負けん! おいおいクソヒポグリフ! さっさとオレを救い助けろ!」
 男はおっこちながら叫んでいたが。
 ヒポグリフは、わずかに一瞥しただけでさっさと逃げていき。
「お、おいおいヒポグリフ! なになにしてる! オレをオレを助けろ助けろ助けろ!」
 ペットに見捨てられた男は、そのまままっさかさまに落下して近くの池へとダイブしていった。
「まったく。なんてひどい人だったのかしら」
「悪い人は、そこでずっと頭を冷やしてればいいの」
 こうして撃墜3。

「Zzzzzzz……」
 さきほどの主従関係は、男のほうが好戦的だったが。
 こっちの男はいびきをかいたまま、グリフォンのほうだけが好戦的に戦っていた。
「なんなんですアレは。この状況で寝ているなんて、どれだけ寝ぼすけなんですか」
「それとも、もしかして狸寝入りなんでしょうか」
 対する悠と翼は、右手に装備させたマシンガンと、左腕のガトリングで弾幕を張り続けていたが。相手のグリフォンは相当に素早く、一発すら弾丸が命中していなかった。
 バズーカもすでに撃ちつくしてしまい、これではらちがあかないとして。
「しかたないですね。少々危険ですが、接近戦に持ち込んでみましょう」
「了解! ボクに任せておいて!」
 ふたりは、鋼竜のテュルキスレーゲンを棒立ちの状態にして待ちに徹する。
 すると空を駆けていたグリフォンが急降下しはじめ、一気にこちらに迫ってくる。どこからでも来いと操縦桿を握りしめるふたりだったが。そのとき、
「Zzzz……むにゃ……さて、いくか……」
 ふねをこいでいた男が、いきなりぱっちり目を開けて黄昏の星輝銃を構え、連射してきたのだ。
「な!?」
「くっ、やっぱり嘘寝だったんだ!」
 慌てるふたりだったが、翼はすぐさま操縦桿をひねり。弾道を予測して回避をはかる。
 銃撃はそのまま避けられたものの、グリフォンはすぐに回り込んできてテュルキスレーゲンの眼前にまで再び迫ってくる。
 しかも今度は男の両手に、ヴォルケーノ・ハンマーが握られていた。たとえイコンといえど、あの勢いのまま巨大な炎熱ハンマーで衝撃を加えられればどうなるか。
「どうするんです? 弾幕を張りますか、それともシールドを展開させて……」
「ううん。それじゃ、またかわされて同じことの繰り返しになる。こうなったら、カウンターで攻撃するしかない!」
 翼は、右腕に備えてあるパイルバンカーに望みを託すことを決め。
 悠としても、他に方法が思いつかなかったのか黙って操縦桿を握りしめる。
 やがてこちらと交差するグリフォンの背に乗る男は、ハンマーを横から薙ぐように振りまわしてきた。
(さあ、どうカウンターをあわせるか――)
 そして。
 悠と翼は、テュルキスレーゲンの右腕を突き出させた。
 グリフォンの『下』から。思い切り突き上げるように。
 パイルバンカーによって打ち出された、杭による1点集中打撃はグリフォンの腹に深々と突き刺さり。
 その衝撃は乗っていた男にも連動して伝わって、振るおうとしていたハンマーもろともに上空へと高く跳ね上げられた。
「……ま、まさか……あそこで、アッパーでくる……とは……な……」
 吹っ飛ばされた男とグリフォンは、そのままさっきの池へと落下していって。
 どうにか撃墜4となるのだった。

 成り行きを見守っていた残る傭兵龍騎士たちは、
 次々撃墜されていく仲間を目の当たりにして、徐々に怖気づきはじめていた。