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第2章 いつか見た未来のためへ 2

 大戦は、各地に壊滅的な打撃を与えていた。
 戦いにおいて要たる施設でもあった給水施設もまたその例外ではなく、陽光降り注ぐ晴天の最中――目下、七枷 陣(ななかせ・じん)も破壊された給水施設の復旧に努めていた。
「えっちらほっちらやりますかね〜」
「にははっ♪」
 マイペースに瓦礫をどかしたり施設を修理したりしている陣に対し、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は楽しそうに瓦礫を運ぶ手伝いをしていた。
 小柄な身体に似合わない怪力でヒョイヒョイと巨大な瓦礫を運び、復旧にいそしむ町の人々に明るい笑顔を振りまいている。いつの間にか、町の皆にとって娘のような存在になっているのは彼女の明るさの成せる技だった。
「おーい、陣さーん! これはこっちでいいんかい?」
「おけおけ。その辺に置いといてくれたら、問題ねーと思うわ」
 機材を運ぶ陽気なおっさんにそう応じて、陣は修理の続きを行う。
 ふと――頭を過ぎるのは南カナンの再生が遅れていることだった。緑化が遅れてるのは、建設した施設が少ないだけなんだろうか。もっと別の何かが、理由だったりせんのだろうか?
 背中を走る、ぞわりとした嫌な予感。
 陣はぶんぶんと頭を振った。
 いや、思い過ごしやろうきっと……。緑化が思ったより遅れてようと。また嫌な事が起きようと。それに――もし明日世界が滅びるとしても、今日オレらはりんごの樹を植える。
 生きるっつーのはとどのつまり、そういう事なんやから。
 湿っぽいことを考えすぎているな、と思った時、町のほうから騒がしい声が聞こえてきた。
「俺様戦うの専門だっつーの! こーゆーの向いてないっつーの! ムギャアアアアアアア!! ヒャッハーとか言いつつ戦いてえええええ!」
「いいですか、光。現地の住民の本当の戦いはこれからなのです。例えば、戦乱で荒れて治安が悪くなって、野盗くずれになった連中が出没するかも知れません。いつまでも契約者がいて、守ってあげるわけにはいかないのです。これからはカナンの住民達が、彼ら自身の手で自分達の土地や財産を守らなければいけません。これはそのための手伝いなんですよ」
 騒ぎ立てる木崎 光(きさき・こう)に対して、パートナーのラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)がとうとうと言い聞かせていた。
 町の襲撃者対策用として、柵を立てたり罠を作ったりと、簡単な防衛設備の設置を手伝っていた二人。ラデルとしては戦いばかりにしか頭が向かない光へ、『その後』のことも考えてほしいと思った処置であったが――当の本人はブツクサと文句ばかりだった。
「むしろ野盗が来い! 今すぐ来い! 激烈大歓迎!!」
「……光」
 ラデルの目がギロリと光を睨みつけた。さすがの光も呻くような声を洩らす。諦めて、彼はうなだれた。
「……わぁったよー。わかりましたよー。やりますよー、ハイ。ちぇーだ。ぶーぶー」
「それでいいんですよ」
 何のかんのと言いつつ、ちゃんと柵の作成にも真面目に取り組む光を見て、ラデルは優しげにほほ笑んだ。
 ふと、彼は陣の視線に気づく。こちらへと手を振って来た彼に、陣は軽く自分も手を振り返した。
「あちらさんも大変そうやなぁ。……さてと、緑化が不十分な南に給水施設はどこよりも必需なのには変わらんし、こっちもさっさと直しちまおう。ついでにダメになっちまった水脈の代わりになる新しい水脈を探すか!」
 そこで、陣は過去にも同じようなことがあったような、と思った。早速携帯を取り出し、つぶやきサイトにて心境を記す。
『j_magus 南カナンでダメになった水脈の代わりを新たに探すダウジングがまた始まるなう。何というデジャヴに胸が熱くなるな。 ハハッ鬱いorz』
 ブツブツ言いながら携帯をいじる陣は、過去の既視感に苦労を思い出して凹み気味。
「もー、携帯弄ってないで、ちゃんと作業しようよぉ」
 リーズはそんな陣を見て、ぷくっと頬を膨らませていた。



 久我 浩一(くが・こういち)は腕を組み、さてどうしたものかと唸った。
 目の前には崩れきってしまった巨大な建物。そして、その下には井戸である。村人たちのすがるような視線が背後からチクチクと刺さる。期待されていることに、半ばプレッシャーを感じながらも浩一は横にいるパートナーに聞いてみた。
「千里。アレ、壊せないかな?」
「これですね?」
 希龍 千里(きりゅう・ちさと)は前に進み出て、倒壊した建物をぽんぽんと叩いた。こくりと頷いた浩一から建物へと視線を移して、じっと見つめる。
「……やってみます」
 石造りで作られて頑丈な建物なため、そう簡単には破壊出来ないだろう。
 千里は数歩後ろに下がって距離をとった。ザッと足を地に慣らして構えを取り、拳をあげる。神速――目にもとまらぬ速さで一気に踏み込んだ彼女の拳が、建物へと打ち込まれた。炎の残像は鳳凰の翼か。しかも、浩一にしか分からぬことだったが、一撃ではなく二発分を一点に打ち込んでいた。
 一瞬、時が止まる。
 ダメだったか。村人たちの残念そうな表情が形作らようとした。
「ん……?」
 そのとき――建物にひびが入ったかと思うと、それは徐々に広がって大きくなり、やがて建物全体を包み込むようになった。途端、破砕。
「これでいいですか?」
「うおおおおぉぉぉ!」
 目を丸くしていた村人たちの歓喜の声があがった。拍手と歓声が千里を囲む。中には、「天使さんじゃあ!」「べっぴんさんなのに力も強いなんて完璧じゃあ!」などと、テンションのあがったおっさんや老人たちが騒ぎ立てていた。
「あ、いや……そんな、大したこと……」
 慣れない歓声に照れる千里を見て、浩一はどこか嬉しそうにくすっと笑った。