天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

イコン最終改造計画

リアクション公開中!

イコン最終改造計画

リアクション

「要様〜、さすがに限界が近いです〜」
「う〜、結構いけてるんだけどなぁ……」
「っていうか、ここまで立ち続けた時点で、奇跡に近いぞ……」
 度重なる模擬戦の影響で、【ドージェ様代理聖像1号】は相当に疲労していた。先ほどのソニックブラスターの一撃は非常に大きく、接合部分はもう少しで完全に破壊されるところまで来ていた。
 その上パイロットたちの疲労も限界に達しようとしていた。イコンは基本的に機械であり、ダメージを受けたところで部品が損壊するだけに終わるが、人はそうはいかない。人というのは精神を持っており、この精神力が無くなるということは、その分肉体へのダメージに影響してくるのである。疲れというのは、非常に侮れない攻撃力を持っているのだ。まして今の出虎斗羅スピンによって全員が遠心力の被害を受けている。これ以上の戦闘続行は不可能であった。
 だが残念ながらこの模擬戦はまだ終わらなかった。
 戦うためにやってきて、しばらくの間「お預け」をくわされた2人の契約者と1体のイコンがまだ残っていたのだ。
「ようやく出番か。待ちわびたぞ!」
 そう、織田信長と桜庭忍、そしてイコン【六天魔王】である。
「久しぶりに他の人たちのイコンとイコン戦を行えるから楽しそうだな信長」
「うむ、皆のイコンがどれほどのものか試してみたくなったのでな! 六天魔王もいい加減戦いたくて唸っておるわ」
「しかも散々お預け状態だったし」
「このまま出番無しで終わるかと思うと気が気でなかったぞ!」
 その鬱憤もまとめて晴らすべく、六天魔王が唸りをあげる。
「さーて、忍よ準備は良いな?」
「ああ、俺の方はもう準備は出来ているから何時でも戦いを始められるぞ」
「それでは行くぞ! イコンファイトレディーゴーなのじゃ!」
 全くの無傷である六天魔王と、ほぼ満身創痍の【ドージェ様代理聖像1号】の戦いが、今始まった。明らかに勝敗が見えている戦いだが……。
「さて、まずはこれでも食らってもらおうか!」
 六天魔王はその場から上空に舞い上がると、背負っていた「第六天魔砲」を構え、そこから魔力の弾を吐き出す。
「うわわわ! あんな遠くから撃ってきたよ!」
「だったらこっちも撃ち返すまでよ!」
 慌てる要を制し、美羽がボタンを連打すると、離偉漸屠が持っていたマジックカノンが弾丸の形をした咆哮を放つ。ついでと言わんばかりにボタンを押すと、上方にあるソニックブラスターがゲブー・オブインの声を飛ばしにかかる。
「ふん、さすがにまだ撃ってくるか。こざかしいわ!」
 忍と共に天御柱学院に留学し、その際にパイロット科でイコン操縦の技術を学んだ。その経験は新たなる戦術を生み出し、それは新たなる力となる。
 信長が今回思いついた作戦は、まず遠距離からの射撃で相手の武装を可能な限り奪い、続いて「機龍の爪」で相手の装甲を攻撃する。それで一定量のダメージを与えたら「嵐の儀式」を行い全体にダメージを与えるというものだった。
 果たしてそれは成功し、信長の射撃はソニックブラスターと外部スピーカーを使用不能にし、さらにマジックカノンと喪悲漢ブーメラン、及び付属していたビームサーベルを落とした。
「しまった、射撃が使えない!」
 これに慌てたのは美羽である。射撃武器を持っていたのは要の離偉漸屠だけであり、他に持っていそうな【雷弩璃暴流破】はそもそも動かない。
「では、次の攻撃じゃ!」
 信長の声と共に、六天魔王は接近戦に移る。
 両手に取り付けられた爪は、まず【ギガキングドリル】の前面を覆っていた同人誌を文字通り紙のように切り裂き――同人誌は紙なのだから紙のように切り裂けるのは当然であるとツッコんではいけない――美羽の全身図が描かれたシールドに損傷を与える。
「こら〜! 私の目立つ部分を攻撃するなんてどういうことよ〜!」
 スピーカーが無いため、その言葉は相手には届かなかった。
「ちくしょう! こっちはもうボロボロだってえのに、本気でかかってきてやがる!」
「まったく、少しくらいは空気読みなよ!」
 六天魔王の容赦の無い攻撃に、運転手2人は不満以外の声を出すことはできなかった。
 そんな時、九十九から通信が流れた。
「皆様、さすがにこの機体は限界のようです」
 それは、この魔改造イコンの最期を告げる死神の言葉だった。続いてキングドリルの声が流れてくる
「これ以上戦ったところで、仮に勝ったところで、接合部分がボロボロである以上、すぐにでも崩壊するのは自明の理であろう……」
「だったら諦めるのかい!?」
 その言葉に反論をもらしたのは知恵子だった。
「せっかくの最後の戦いだってのに、相手に何1つできないでやられるなんて性に合わないよ! あたいは嫌だね!」
「おうよ、同感だぜ!」
 さらにゲブーも応じる。
「俺様たちはここまでやってきた。そりゃ人間なんだから、どこかで諦めるのも大事だろうが、だからってこんな終わり方はお断りってもんだ!」
「確かに皆様のおっしゃる通りです。ですから――」
 その後に聞こえてきた九十九の言葉は、全員の意識に雷を落とすものだった。

「それならいっそ、真正面から体当たりしてみようかと思いまして〜」

 それはつまり、

「特攻ってことかよ!!!」

 どうせ最期にはやられるのだから、ならばいっそ体当たりして華々しく散ろうという提案だった。
「それに、まだパイルバンカーやアイアンホーンを使っていません。どうせなら使ってから終わりたいと思いませんか?」
 その言葉に、アレックスとベアトリーチェ以外の全員が賛同するのに、そう時間はかからなかった。
「は、ははは、ははははははは! これだ、これを待ってたんだ俺は!」
 久が思い切り突撃できると叫ぶ。
「いいねぇ、どうせならド派手に玉砕だ!」
 菊が出虎斗羅のアクセルを踏みしめる。
「がははははは! 今は何もできないが根性だけでもぶつけてやるぜ!」
 コクピット席に掴まりながらゲブーが気合を入れる。
「やろうじゃないか……。こんなオチもあったっていいじゃないか! なぁ!」
「ここまで来たら最後までフルスロットルだ!」
 同じくコクピット席にしがみつき、知恵子とフォルテュナが笑みを浮かべる。
「どうせなら派手にぶつかって目立たないとね!」
「何となく予想はしてたんですけどね……」
「だから嫌だったんだ俺は……」
 メインパイロット席の美羽が椅子に体を固定させ、ベアトリーチェとアレックスは衝撃に備える。
 そして、要の号令が響き渡った。
「これが最後! 全力で、ぶっ飛べ〜〜〜!」

「忍、嵐の儀式はまだ完了せんのか?」
「まだだ、もう少し時間が――ん?」
「どうした忍?」
 六天魔王のコクピット席で忍が異変を感じ取る。相手の魔改造イコンが、無抵抗にゆっくりと後退していくのだ。
「ふん、逃げ腰というやつか。あれだけ戦っておいて情けないのう」
「……いや、そうでもないみたいだ」
 次に感じ取った異変は、その魔改造イコンが途中で止まり、六天魔王と正対して足のエンジンをふかし始めたことだった。
「おいおいまさか……」
 雰囲気からわかる。それは、突撃の合図だった。
「ふ、ふふ……、ふ、は、ふははははははは!」
 相手の意図を読み取ったのか、信長が愉快そうに笑う。
「これは楽しいぞ! あやつらめ、最後の突撃を仕掛けてくるつもりじゃぞ!」
「で、そんな相手に俺たちはどう対処する?」
「決まっておろう! その一撃に真正面から応えてやるのみよ! 嵐の儀式が完了せなんだのは残念だが、別に構わん!」
 元々ここには最強のイコンを決めるために来たのだ。ならばあえて正面からぶつかり、勝利することで、それを証明すればいいだけである。
「忍、衝撃に備えよ! かなり痛いのが来るであろうからな!」
「了解」
 シートベルトをしっかりと締め、衝撃に備える。

 そして両者は真正面からぶつかり合った……