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女体化薬を手に入れろ!

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女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

リアクション

「わ、わー。大盛況なのですー」
 連絡をもらったときにはまさかこんな大規模な集まりとは思いもよらず。オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)はちょっと庭に出るのをためらってしまった。
「オルフェ、こっちよ」
 ホワイトベールが手招きをしてくれたことにホッとして、ほかの人たちの後ろを通ってそちらへ向かう。
 しかしたどり着く前に、祥子に呼び止められてしまった。

「こっちへ来てもらえないかしら? ちょっと見てもらいたいものがあるのよ」

 呼ばれるまま、宴会をしているみんなから離れてそちらへ向かうと、アスカと祥子がそれぞれスケッチブックを手に立っていた。
「なんでしょう?」
「あのね、私とアスカでスケッチ対決をしたのよ。それで、どちらが上か、あなたに判定をしてもらおうと思って」
「は、判定ですか? あの、オルフェがですか?」
 そんな大役、とてもできないのです!
 ぷるぷるっと首を振って断ろうとしたとき、祥子が背後を指差した。

「モデルはあの子」

 そこにいたのは……というか、横向きに伏せて眠っていたのは、ベビードールを着た少女だった。
 どうも見覚えがある気がするような…。
 オルフェリアはとことこと近づく。
(見覚えがあるというより、だれかに似ているのです。だれか――)
「って、セルマさん!? ですか!?」
 ぎょっとなって、その枕元にしゃがみ込んだ。

「ぴんぽーん。ご名答。そんなあなたにはこの1杯〜。これで気を確かにもってちょうだい〜」
 ささ、どうぞどうぞ、とアスカが不思議な色をした液体の入ったコップを差し出す。
 オルフェリアは驚きのあまり、渡されるままそれを飲み干してしまった。

「……え!? ええええっ!?」

「ちょっとアスカ。あなた彼女に何を飲ませたの!?」
 毒を含んだように突然目の前で苦しみだしたオルフェリアにあわてる祥子。

「あ、あの〜、うちのラルムが数時間前、笹飾りくんからいただいてきた瓶を〜」
 まさかこんな苦しむとは思わなかったと、あせりつつアスカは答える。
「それ、本当に笹飾りくん?」
「……あの……ボク、お願い事書いた短冊、結びたくて、それで…。ついでに、お薬も、いただいてきたんです…」
 たどたどしく、小さな声でラルムが答える。

「でも笹飾りくんが持っているのは女体化薬でしょう? なぜオルフェが苦しむの?」
 アスカは黙って空き瓶を祥子に差し出した。直接本人に見てもらうのがてっとり早い。

 その瓶には、見落としてしまいそうなほど小さなラベルで『男体化薬』と入っていた。


ううう…………ああああぁぁぁあああぁあーーーっ!


「ちょ、ちょっとちょっとオルフェちゃん! しっかりしてよ!」
 苦しむオルフェリアの姿に取り乱した不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)が、大急ぎ彼女を抱き起こす。
 ひっくり返し、膝に抱いたその人物は、しかしあのか弱くて守ってやりたい衝動を見る者に起こさせるオルフェリアではなかった。
 オルフェリアに似た面差しの、どう見ても男。触れている腕も、足も、それどころか体のいたるところがゴツゴツとして、硬い。

 胸だってぺったんこ。

「うわーーーんっ! こんなのオルフェちゃんじゃなーーーーいっ」

 瞬時に湧き起こった拒絶感に、つい泣きながら膝の上から突き飛ばしてしまう奏戯。

「い、いたた……何をするのですか、不遇さん…」
 ゴロンゴロン転がった先で身を起こしたオルフェは、自分の発した声――それは低く、以前の自分の声とは似ても似つかないものだった――に驚き、のどをパッと押さえた。
「風邪をひいてしまったようなのです。だれか、のど飴か何か、持っていませんか?」

「オルフェちゃん、それ風邪じゃないのよ〜」
 アスカがにこにこ笑顔で説明した。

「え? え? すると……つまりこういうことですか? オルフェがお婿さんで、セルマさんがお嫁さんにならなければいけないのですね?」
「まー、ありていに言っちゃえばそういうことかしらぁ」

  ――いや、全然違うと思いますよ、アスカさん(汗)


 この事実に衝撃を受け、落ち込むかと思いきや。
 意外や意外。オルフェリアは反対に、大いに発奮したようだった。
「頑張るですよー。オルフェ、いっぱいいっぱい頑張って、セルマさんのいいお婿さんになるですっ」
「よかったわね〜、オルフェちゃん。こんなかわいいお嫁さんができて〜」

「はいっ! すごくかわいいお嫁さんなのですっっ。オルフェは幸せ者なのですっ」
 オルフェリアは満面の笑顔で応えた。

  ――その前に、スカートから着替えた方がいいと思いますけど。


  
「と、いうわけで〜。宇都宮お姉さま、第2ラウンド開始ですわぁ」
「え?」
 そんなの初めて聞いたと、訝しげに祥子の片眉が上がる。
 その目が、見透かすようにアスカをじっと見つめた。

「分かったわ。あなた、勝つ自信がないのね?」

 ――ギクッ
「い、いやですわ〜、宇都宮お姉さま。そんなはずないじゃありませんの〜」

  ――って、すっかり目が泳いでますよ、アスカさん。


「ふーん。まぁいいわ。どちらにしても、勝つのは私だもの」
 売られたケンカは受けて立つ。売られた勝負は絶対負けない。

 男体化したオルフェリアをモデルとし、2人は再びデッサン対決に入ったのだった。

☆               ☆               ☆

「こんばんは。お邪魔します…」
 セルマが女体化してしまったという知らせを受け、遠く葦原までやってきた高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は、部屋を通り抜け、宴会場となっている庭を見た瞬間、硬直してしまった。

「え? え? あれは……オルフェさん?」
 オルフェさんが男性になってる?

 はじめ、他人の空似、いとことか生き別れの双子のきょうだいとか思いついたが、その男性は周囲から「オルフェさん」と呼ばれていた。

「セルマさんが女性になってるんじゃ…?」
 私の聞き間違い?

「どれ。私の出番のようだな」
 ひょこっと隣を抜けて、アヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)が庭に進み出た。
 もちろんその肩には例の施術道具・バールがかつがれている。

 ――ひいっ!

「あ、アヴドーチカさん!? なんでここに…!」
「ああ、うん。おまえさんが出て行くのが見えたからな。夜道の1人歩きは危ないだろうと、あとをつけていたんだ」
「……なぜつけたんですか? 声をかけてくれれば――」
「2人で歩きたいなら最初に声をかけたはず。1人で歩きたいから出たんだろう? 何もないなら、邪魔をしては悪いと思ったんだ」

(この人が来たらどうなるか分かりきっていたから、こそっと家を抜け出してきたのにーっ)

「今朝感じた変な予感は、このことだったんだな」
 と、独り言をつぶやきながらアヴドーチカはずんずん庭を横切って、木の根元で眠っているセルマにまず近づく。
「で、でも……その……えええっとー。体が女になっちゃった……の、なんて、さすがに治せません……よねー、そうですよねー?」

「何を言うか。私の治療法に不可能などあるはずない!」

  ――うわー、言ったー、言い切っちゃったよ、この人ー。


 あっけにとられている結和の前、アヴドーチカは周囲の者に指示をして眠っているセルマの身を起こさせると、そのぐったりした背中に向かってバールをフルスイングした。

 これぞアヴドーチカ流施術! [医学]と[生物学]に基づきツボを刺激し気を整え、ただの疲労から歯並びの矯正まであらゆる不調を回復させる独自の治療法……らしい。 ※あくまで自説、あくまで主張です。自分の身がかわいいのであれば、決して鵜呑みにして施術してもらおうなどとは間違っても考えないようにしましょう。

「はうっ!?」
 まさに容赦ない一撃。
 セルマは激痛に背をピーンと伸ばし、目を覚ます。しかし次の瞬間、目はぐるんとひっくり返って、白目をむいて倒れてしまった。

 それを見た全員が硬直し、動きを止める。

「これでよし。目が覚めたときには体調も元に戻っているだろう。さて、次はだれだ? この際だ、まとめて面倒を見てやろう。夏バテの疲労回復にもよく効くぞ」

 バールをかつぎ、歩き出したアヴドーチカに合わせて、まるで引き潮のようにみんなが退いていくのを結和はただ見ているしかなかった。

(皆さん、アヴドーチカさんを止められなくてごめんなさい)
 と、心の中で謝罪しながら…。



 混乱しきった篠宮邸にやってきたのは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)

「すっかり遅くなってしまったわね」
「ねーさまが悪いんですよ。まだ時間があるから、なんておっしゃるから…」
「まぁ。沙幸さんがあんなにかわいいお顔でお眠りになるのが悪いんですわ。時間がきても、起こすにしのびなくて」
 そっと耳元でささやかれた言葉に、昼間の出来事を思い出した沙幸の顔がかあぁと赤く染まる。

「それにしても、どうしましょうか。セルマさんは、女体化されてらっしゃるようですし」
 であれば、もうこの薬は不要ということか。
「ねーさま? どこへ行かれるの?」

 美海は、自分のいる位置から一番近い男性の元へ歩み寄ると、その肩をとんとんと叩いた。

「ねえ、そこのあなた」
「はい?」
 振り返った奏戯の口に、いきなり瓶をねじ込んだ。

「!!」

「ねーさま!?」
「さぁ、ご用事はおしまい。帰りましょう、沙幸さん」
「え? ええ? でも、ねーさま。あの人、なんだか苦しんでるみたいよ?」

 沙幸は美海の手に引っ張られながら、元来た道を帰って行った。



「……い、一体、なんだったんだ、あれ…」
 げほげほげほげほっ。
 その場に四つん這いになって咳込む奏戯。
 当然その体は女体化している。

「あら。あなたも女になったの?」
 隣に立っていたホワイトベールがかがんで、くいっとそのあごを上げさせた。

「今のあなたなら、私のスールにしてあげてもよくってよ?」
「……え?」
「私のスールになったなら、とってもかわいがってあげる。あなたが悲鳴をあげそうになるまでね……ふふ」
 笑うホワイトベールの目は、なんだかイッちゃってるようにも見える。

 ……えーと。考えさせてクダサイ。