天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

女体化薬を手に入れろ!

リアクション公開中!

女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

リアクション

(さあ、これ、どうしましょうかね)
 笹飾りくんと町でバッタリ行きあい、なんとなくその場のいきおいで女体化薬をもらったものの、水橋 エリス(みずばし・えりす)はその扱いに困っていた。
 女である自分が飲んでも意味がないのは分かりきっているが、さりとてこれを飲ませて女に変えてやりたいほど憎いやつもいない。
 いっそ、だれかにあげるか、とも思ったけれど、それでいたずらか何かに使われないという保証もないし。
 そうなったらさすがにエリスも寝覚めが悪い。

(まぁ、腐る物でなし。ひと晩ゆっくり考えてみましょう)
「ただいま」
 玄関をくぐった直後。

「エリス! 避けろ!」
「お姉ちゃん、避けてっ!」
 夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)ニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)の声がするとほぼ同時に、何かがバチッと額にぶつかった。
 それほど痛みはない。
 ただ、足元に転がり落ちたそれが、台所などでよく見かける黒光りするアイツであることに気付いた瞬間、カチッと体が固まった。

 黒光りするイヤなヤツ――Gは、ひっくり返ってバタバタ足を動かしていたが、やがてもう一度ひっくり返って元の体勢に戻るやいなや、靴箱と床の隙間にカサカサカサッと逃げ込んで見えなくなった。

「大丈夫か? エリス。すまない、殺虫剤は一応吹きつけたんだが、耐性があるのかなかなか弱らなくて」
「ううん、惇姐さんのせいじゃないの、あたしが悪いの。つい避けて、廊下に逃がしちゃったから」
「それは仕方ない。ニーナは私がしていることを知らずに入ってきたのだからな」
 などなど。硬直してしまっているエリスを気遣う2人の後ろでは。

「ぎゃーーーはっはっは!! 超ダッセー! どこまでニブいんだよ! あれっくらい避けろよなぁ、マスター!」
 リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)が腹を抱えて大爆笑していた。

 ――いたな。飲ませたあとでもすっきり眠れる、平気なヤツが。



「リッシュ」
 洗顔のあと、場をリビングへ移したエリスは例の薬を取り出して、テーブルにことりと乗せた。
「すっかり忘れていましたが、実は帰り道にとある方から総合EXP錠をいただいたんです。リッシュ、良かったらどうぞ?」
「え? でもこれ、錠剤じゃなくて液体じゃん」
 いくらバカでもさすがにそれには気がつくか。

 だがエリスに抜かりはなかった。

「なんだ、知らなかったのかリッシュ。先月新商品として液体タイプも出たんだぞ」
 エリスの話に乗った元譲が、口裏を合わせる。
「へー、そうなんだ」
 あっさり信じたリッシュは瓶を持ち上げしげしげと見た。
 何のラベルも貼られてないことをうさんくさがるか?(もちろんこれにもエリスは対処法を考慮ずみである)
 と思いきや、笑顔でふたを開け、アッサリ飲んだ。

「じゃあいただくぜぇ」

 うーん……この忠誠心、褒めるべきなのかそれとも苦言を呈するべきなのか。
 ちょっと悩んでしまうエリスの前、リッシュはのどを押さえて突然立ち上がった。
 ガタンッとイスが後ろに倒れる。

「ぐ……はぁ……っ」
「リッシュ!?」
 さすがにこれにはあわてる元譲。
「静かに」
 近寄らせまいとエリスが制止の手を上げる。
 2人の前、シュウシュウと白い湯気が立ち上ぼり、リッシュの姿を覆い隠してしまう。やがて湯気が薄れたとき、そこには、ふた回りほど小柄になった女版・リッシュが立っていた。

「惇……マスター……俺、どうなったんだ…?」
 なんか、声もおかしいみたいだ。
 俯いてけほけほせき込むリッシュの視界に、丸く盛り上がった自分の胸が入る。
「なんでこんなとこに女の胸――って、コレ俺のかっ!? わーっ! 本物っ!?」
 つい持ち上げて、その触感と、今まで感じたことのない胸が持ち上げられるという感覚に、リッシュはパニックを起こした。
「――はっ。まさかっ!!」
 そろーっとズボンの中に手を突っ込んで、その感触に……というか、感触がないことに、絶句してしまう。

「……ま、マスター……これって…」
 すっかり涙目のリッシュ。
 まるで伏せ耳・尾隠ししてキューンキューン鳴く犬のようななさけない表情に、さすがのエリスも吹き出さずにはいられなかった。

「いいかげん手を出せ。みっともない」
 後ろに回った元譲が、突然両脇に腕を差し込んで羽交い絞めた。
「なっ? 惇!?」
「服のサイズが全然合っていませんね。これは着替えた方がいいでしょう。
 ニーナ、何か適当な着替えを貸してあげてください。私たちの中であなたが一番サイズが近いようです」
「はーーーーいっ」
 嬉々としてイルミンスールの新制服を手にしたニーナが飛び込んでくる。

「は、早い! 早いぞおまえっ!! さてはそこで待機してたなっ」
 ようやく女3人に謀られたことに気が付いたリッシュは逃げ出そうとじたばたするが、元譲の腕はしっかり決まっていて、びくともしなかった。
「暴れるな。今のおまえの姿では、暴れるだけ無駄だ」
「ううっ…」
 と、そこに、ウエットティッシュに化粧水、下地クリーム、液体ファンデーションに粉タイプのファンデーション、頬紅、口紅、グロス、マスカラ、つけまつげ等々、両手にじゃらりと持ったエリスが近づいてくる。
「まっ、マスター、何を!?」
 そう言いつつも、そういった品を見れば彼女の目的が何かは一目瞭然なわけで。

「ふふふっ。あなたが悪いんですよ、いっつもいっつも私たちを騒ぎに巻き込んで…」
 だから今日はお返しに、あなたを騒ぎに巻き込んであげることにしたんです。

「とっ惇! 頼む! 一生のお願いだ! 逃がしてくれっっ」
 恋人だろ!? 俺たち! なあっ!

「ククッ。安心しろ、命までは取らん。ただし、一生の恥はかくかもしれんがな?」
 意地の悪い笑みを浮かべ、元譲はますます締め付けを強化する。

「ニーナっ!?」
「このほかにも、あたしいろんなお洋服持ってるんだよ? メイドさんとか、チャイナとか。あとネコミミも!
 時間はたっぷりあるんだし。い〜〜〜っぱいお着替えして写真取ろうね、リッシュお姉ちゃんっ」
 イルミンスール新制服を持って、にっこり笑っているニーナ。


「うっ……うわあああああああああああっ!!」


 ……こうしてここに、1人の元男性イルミンスール女生徒が誕生した。

☆               ☆               ☆

「ハーコー! ただいまー!!」
「あ、お帰りなさい、ソラ――ぅごぼぼっ!?

 玄関をくぐった直後。
 ソランは廊下をモップで拭き掃除していた竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)の口に、いきなり女体化薬を突っ込んだ。

 どうやってだまして飲まそうか? などと策を弄したりはしない。
 いつだってド真ん中、直球勝負な女、それがソラン・ジーバルスである。

「飲んだ? ねぇ、全部飲んだ? ハコ」
 ニコニコ笑って空き瓶を口からはずすソラン。
 ハイコドはといえば、いきなり瓶を突っ込まれるわ、しかもその中身を一気飲みさせられるわで、すっかり青ざめてフラフラしている。
 げほがほごほっとせき込んだが、すでに腹の中に収まった液体は一滴も出てはくれなかった。
「もう……なんなの、ソラ。一体何を飲ませたの?」
「おいしくなかった?」
「いや、まずくはなかったけど」
 しまった、先に少し味見をしておくべきだったか、とちょっともったいなく思う。
 何しろ非合法のなぞの薬。どんな味なんだろう? そんなことを考えて手の中の空き瓶を見ていたら。

「く……っ、うううううーーーーっ!!」
 ハイコドが苦しみ始めた。
 自らを抱き締めるように腕を回し、よろめいて壁に当たる。そのまま、ずるずると床にへたり込んでしまった。

 普段ならこんなハイコドを見れば心配に青ざめ、傍らにつくソランだが、今回ばかりはつい、期待の目で見てしまう。
 どきどき、わくわく。
(どんなかわいい子に変わるのかなー? もちろんハコのことだから、かわいいに決まってるんだけどっ!)
「あっ……あああああーっ!!」
 虹色の輝きに包まれ、シュワシュワ白い湯気に包まれるハイコド。
 光が治まり、湯気が消えたとき、そこにいたのは――ハイコドだった。

「あれ?」
 思わず目がテンになるソラン。
「もしかしてあの薬、不良品だった?」
「……薬って何? 一体何を飲ませたわけ…っ」
 ようやく体の痛みが治まったハイコドは、ほっとするあまり涙ぐんでしまった。
「あれ? ハコ…?」
 膝の間に両手をついた彼の左肩が、襟から出ている。ずり落ちたそれを無意識に引き上げるハイコドを見て、ソランは気付いた。
「ハコ、縮んだ?」
「え? 何言ってるの、ソラ」
「ちょっと立って」
「えっ、えっ?」
 とまどっているハイコドを強引に立たせると、分かった。やっぱり目線がいつもより下だ。
 ハイコドはひと周り小さくなっていた。

「分かりにくいなぁ。んー、ちょっとまつげが濃くなって、なで肩になったくらい?」
 胸、絶壁だし。
(まぁ、これはハコのお母さんもそうだから、予想できてたことではあるよね)
「じゃあこっちは?」
「あっ…」
 細くなったウエストから、ズボンの中に手を入れる。
「やっ……ちょ、ソ、ソラ!?」
「あー、やっぱりない」
 ってことは、だ。
 キラーン。ソランの目が光った。


「レッツ・トラーイ!」

 やっぱりコスプレの定番といえばこれ! メイド服を筆頭に、ワンピースにゴスロリにアイドル服! ソランは次々とハイコドに着せては記念写真を撮っていく。当然ペチコートの下の下着も女物である。フリフリレースの中から男物のパンツが見えていたりしたら興ざめだ。

 ハイコドも、最初のうちは女の体にとまどって抵抗していたが、ソランの選択した下着をつけ、化粧をほどこされて鏡の前に立っていると、だんだんその気になってきた。
 ムードマジックというか、部屋中フリフリの洋服だらけで、ソランしかいなくて、そのソランも一緒に着替えて「かわいー」とか「きれいー」とか言われながらコスプレの合わせなんかしていると、もうガーターを止めることにも抵抗が全くなくなってる自分に気付いたりして、我ながらコワイ。
 実際、鏡の中の自分って、客観的に見て、かわいい女の子だと思うし。この服に合う口紅の色は何かなー? とか考えてたりして…。

「……もう少し胸があったらなぁ…」
 ソランに髪を整えてもらいながら、ハイコドはこぼした。
「どうして?」
「だって、ソラ大きいし……そうしたら、ソラの気持ちが……もっと分かるかな、って思って…」
 かあぁっと赤く染まった頬を見て、ソランはたまらずギュッとハイコドの頭を抱き締めた。
「ハコったらかわいーーーっ!!」
「……ひゃんっ」
 次のコスプレ用にと出してあった獣耳を甘噛みされて、一気に脱力するハイコド。そのまま、ぽすん、と腰かけていたベッドに仰向けに押し倒された。

「……ソラ?」
「ハコ、ほんとにかわいい。もうガマンできないよ」
 ちゅっちゅとあごを吸い、のどに触れるようなキスをした唇が、鎖骨に舌を這わせる。
「え? あ、あの……ソラ? 僕、今女の子だよ?」
「胸ないの、いつもじゃん」
 いや、そこはそうだけど……肝心のところがオンナノコになってるわけで。
「ひゃっ…」
 つつーーっとソランの舌が胸の真ん中を滑り降り、へそに触れた。
「ソラ、くすぐったいよ。……ソラ?」
 舌の動きは止まらない。
「そ、ソラ!」
「もう無理。我慢できない。ハコがこんなにカワイイからいけないんだよ? だからこれは、おしおきなの」
 戻ってきたソランが、熱い息を吹き込みながら耳元でささやく。
「ハコは絶対動いちゃダメ。耐えるだけね。だって、おしおきだから」
 ソランの頭が再び沈んでいく。

「ん…っ、く……んんん…っ」
 全身を伸びきらせ、ソランからの甘い拷問に耐えるハイコドは、切れ切れの浅い息を吐き出しながら訊いた。
「そ、ソラン…」
「んー? なぁに?」
「今、思いあたったんだけど……これって、時間経ったらちゃんと僕、男に戻れるよね……ね?」
「うーんー……ま、いいじゃん、戻らなくても。今だって胸ないからこれまでと変わんないって」

 ソランのあっけらかんとした答えに先からの何もかもが吹っ飛んで、夢から覚めた思いでハイコドは身を起こした。
「変わってるよ! 大事なとこが変わってる!」

「だーいじょーぶ。そこは手術でつけたりとったりできるんだからっ」
 だから今はこっちに集中集中。
 ソランは再びハイコドを押し倒した。

  ――ソランさん、それヒドイです。