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咆哮する黒船

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咆哮する黒船
咆哮する黒船 咆哮する黒船

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 その頃――機晶都市ヒラニプラの郊外にあるシャンバラ教導団の校内では。
 沙 鈴(しゃ・りん)が、呟いていた。
 いち早く地上の異変を察知していたシャンバラ教導団のお偉方は、そこに居合わせた彼女に使命を下したのである。
「船酔いの酷いこのわたくしには酷な任務……けれど軍人として、命令された以上は全力で持って事に当たります!」
 鈴は、懸命に想像しただけでおとずれる船酔いがもたらす嘔吐感を抑えながら、口元に手を添えて呟いた。
 彼女は、子供の頃から船酔いが酷かった故、どうにも艦艇勤務は無理と思い、シャンバラに新天地を求めてこの地へと訪れたのである。
 その様子を見据えながら、パートナーの秦 良玉(しん・りょうぎょく)は目を細めた。
 中国は四川の忠州に生まれた彼女は、500の兵を指揮し、南川においては戦功一等とされたこともある有能な女性で、石?を統治したこともある。
「命令は命令じゃ。行こうかのう」
 そんな事を呟いた良玉に、鈴はおずおずと頷いたのだった。


 一方の魔族の都タシガンにある薔薇の学舎では、その時も、平時と相も変わらず柚木 瀬伊(ゆのき・せい)がPCを始めとした電子機器へと向かっていた。二十世紀や二十一世紀初頭と比べるならば、大分先進的になっているとはいえ、パソコンへと向かうその姿は、どこか畏怖を感じさせる。
 瀬伊の後ろ姿を一瞥しながら、パートナーの柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は歴史書を読んでいた。
「文献で読んだ小早川隆景の活躍を実際に目にしてみたいな」
 小早川隆景の英霊である瀬伊には聞こえぬように、ひっそりと彼が呟いたその時、柚木 郁(ゆのき・いく)が奇しくも学食界隈で受け取った広告を手に部屋へと戻ってきたのだった。
 それは単なるマグロ丼のチラシだったが、彼らをこの動乱へと巻き込む契機となったのは間違いがない。

 彼らはそうして、久方ぶりに地球へと降りる事になった。
 その帰郷の光景を見守っていたのは、永倉 八重(ながくら・やえ)である。

 魔法少女ヤエ 第16話 「黒船ときどき流れ弾」


 ――果たして何が起こるのか。
「三崎港で水揚げされた――マグロ丼、食べたいですね」
 クロス・クロノス(くろす・くろのす)が、空京大学の学食で受け取ったチラシを一瞥しながら呟いた。
 普段は中々日本に来られないという事情も手伝って、懐かしい地球の思いでが、脳裏を過ぎる。
「あたしも、ままといっしょにみさき? に、まぐろをたべにいく」
 そこへ、月下 香(つきのした・こう)が歩み寄ってきて、フライヤーを覗き込んだ。
「一緒に? 流石にそれはちょっと――」
「いきたい」
 クロスの背中の衣を、愛らしい両手でぎゅっと握りしめ、香は訴えた。
「今回はお留守番を――」
「いく」
「……そんなに食べたい?」
 一人で日本へ降りることを考えていたクロスだったが、何度も頷いている香を見て、御持たず溜息をついた。額に手を当てる。
「じゃあ、一緒に行きましょうか」


 そのようにして、皆はこの騒動に巻き込まれる事と相成ったのである。