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【新米少尉奮闘記】テストフライト

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【新米少尉奮闘記】テストフライト

リアクション

「小暮少尉、残念ですが、このままでは墜落します。一度着陸し、体勢を立て直す許可を頂きたい」
 操舵室に駆け戻ったクレーメック・ジーベックは、悔しそうに小暮に告げた。
 その報告を聞いた小暮は一瞬驚いた様子だったが、
「一度着陸すれば、また飛べる、そうですね?」
信頼の眼差しで、ジーベックに問いかけた。
「……ああ。間違いない」
 その問いに、ジーベックは自身をもって頷いた。それに納得したのだろう、小暮は頷くと、出発前に用意した地図を広げる。
 不時着が可能なポイントが記入されている為、どこへ着陸するかはすんなり決まった。
「……大きくなったな、小暮少尉」
 突然のトラブルにも動じずに指揮を取る小暮の様子に、クレア・シュミットはフッと微笑んだ。

「緊急着陸態勢に入る! 衝撃に備えてください!」

 小暮の声が船内に伝達されると、機関室にはいよいよ緊張が溢れる。
 エールヴァント・フォルケンとアルフ・シュライアが必死にエンジンの冷却を行っては居るが、エンジンの出力はどんどん落ちている。なによりも、二人の精神力が底を尽きかけている。
「このままじゃ墜落する……それだけは避けたい」
 ダリル・ガイザックの顔に厳しい表情が浮かぶ。何とか少しでも、浮力を得たい。
「あの、僕、サイコキネシス使えます! 一人の力じゃ、飛空艇を浮かせることはとても出来ないけど、みんなの力を合わせれば、不時着させることくらいは、できるかもしれない!」
 おずおずと手を挙げたファーニナルの提案に、私も、俺も、とミカエラ・ウォーレンシュタットと高嶋梓、それから世羅儀の手が挙がる。僕を入れて四人か、と不安そうな顔をするファーニナルに、高嶋が
「外で護衛に着いてる人たちにも手伝って貰えないでしょうか」
と提案した。それだ、と手を打ったファーニナルの背後で、機関室の扉が開いた。
「話は聞いた。私も手伝おう」
 そこには、操舵室から戻ってきたジーベックの姿。
 ジーベックは通信回線を開くと、周囲を飛んでいる面々へ向かって作戦を伝える。
「飛空艇を緊急着陸させたいが、浮力が足りない。サイコキネシス、あるいはカタクリズム、空飛ぶ魔法の類を使える者の協力を願う!」
 緊急の通信に、周囲を飛んでいた三船敬一、相沢洋、清泉北都、讃岐院顕仁、エヴァルト・マトリッツ、それから操舵室に居た叶白竜が答えた。
「小暮少尉、合図と誘導を頼む」
 回線越しのジーベックの声に、小暮ははい、と緊張の面持ちで頷く。

「――行きます!」

 小暮の合図で、十一人の力が一つになる。
 すると、フラフラと飛んでいた飛空艇が安定し、ふわりと一瞬浮き上がる。
 が、質量が大きいため、このままサイコキネシスだけで飛ばし続けることはできない。徐々に高度が下がっていく。
「前方二時の方向へ!」
 小暮が地図と照らし合わせながら飛空艇の進路を告げる。ゆっくりと少しずつ高度を下げながら、飛空艇は不時着が可能な平らな地形へと移動していく。
「距離千、五百、三百、二百、百、停止! そのまま降下……」
 ゆっくりと飛空艇が地面へと降りていく。
 そしてやがて、音もなく静かに着地した。

「着地、成功です!」

 飛空艇内外に歓喜の声がわき起こる。
 力を振り絞っていた十一人は、深い溜息を吐く者あり、その場で倒れ込む者ありだったが、各々近くにいた人々に介抱される。
「さあ、大急ぎで修復を!」
 飛行場に帰り着くまでがテストフライトだ。
 小暮の指示を受け、機工士達は慌ただしく作業を再開する。
 止まったとは言えエンジンはまだ熱い。冷却を待つ間に緩んだバルブの点検・補修を行う。
「よく、頑張りましたね」
 少し時間をおいて冷えたエンジンを、一条アリーセがしっかりと点検する。
 バルブが緩んだ以外には大きなトラブルは起こっていない。蒸発して減ってしまった冷却水を補給し、再びしっかり密閉してやれば、すぐにまた飛べる状態に戻る。
「でも、バルブの構造は見直さないといけませんわね」
 バルブが内部からの圧に耐えられなかったらしい。その上、何か有ったときにすぐに補修ができない構造では、今後の運用に問題がありそうだ。
 三田麗子はそのことを後で報告書に纏めるため、メモを取る。

「さあ、飛行場へ帰ろう!」

 整備がすっかり終わる頃には、辺りは夕日に包まれて居た。
 点検を全て終えた小暮が号令を掛けると、一同の明るい声が答える。
「図らずも、不整地離陸能力も確かめられるな」
 離陸準備を進めながら、ジーベックが苦笑した。
「不整地着陸能力は、また今度の課題ですね」
 その声を聞いた小暮も苦笑してみせる。まだまだ課題は残っているが、後少し整備を重ねてやれば、充分実戦に投入できるだろうという手応えは感じている。
 滑走路のように整備された道ではないため、走り出した飛空艇はガタガタと揺れた。
 しかしそれでも、予想以上にスムーズに空へと飛び出した。
「機関室、異常なしです」
 飛空艇はすっかり航路に戻った。直したエンジンにはトラブルもなく、航行は順調だ。
 報告に来た湊川亮一の顔も晴れやかだ。
「おお、すげー夕日」
 ブリッジの窓からは、真っ赤な夕日が燦然と輝いていた。


 後日、小暮はテストフライトの結果を報告するため、団長金 鋭峰(じん・るいふぉん)の元を訪れていた。
「こちらが報告書です。まだ改良の余地はありますが、実戦でも充分に働いてくれました」
「ふむ……そのようだな。しかし、出力を上げただけでトラブルが起こるようではまだ、作戦に投入する訳にはいかん。一層の改良を期待して居るぞ」
「はっ!」
 小暮は背筋を正して敬礼の格好を取る。
「それから、あの地点に生息していたレッサードラゴン、及びワイバーンに関する報告書です」
「ほう」
 小暮が差し出したもう一冊の報告書に、金の目がちらりと光る。
「縄張りを荒らされて気が立っていたようです。殺害はしていません。どうも、飛空艇に対して敵意を持っていたようです」
「なるほど。よし、これは預かろう。ご苦労だった」
 これで話は終わりだ、と言わんばかりに金はトントンと受け取った書類を揃えて机の引き出しへとしまい込んだ。
 小暮はまたひとつ敬礼をして、そのまま退出した。

 飛空艇が完成する日までは、まだもう少し、掛かりそうだ。

――了――

担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

ご参加頂いた皆様、有り難う御座いました。
皆さんのお力で、無事にテストフライトを終了することが出来ました。
飛空艇完成のその日まではもう少し掛かりそうですが、完成へ大きく一歩を踏み出しました。
飛空艇はもう少し改良の余地が有りそうですねぇ。あと、ドラゴンはどうして怒っていたのか……?
その辺りは次回作に譲ると致しましょう。
おつき合い頂きました皆様、本当に有り難う御座いました!