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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~ 大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

リアクション

 
 第13章
 
 
「ファーシー!」
 は、行動予測でいち早く機械人形の攻撃に気付いた。ナラカの懐中時計を使う。人形とファーシーの間に割り込んだのは、攻撃が届く瞬間。
「…………!」
 振り向きかけたファーシーの頬に血が跳ねる。斧が自分を真っ二つにする前に、朔は人形を蹴り飛ばした。一拍の後、朔の顔に苦痛の色が浮かぶ。
「…………」
 目を見開いたまま、ファーシーは動く事も彼女に声を掛ける事も出来ない。緩慢に動く時間の中、驚きで呼吸と、そして思考を忘れた。
 機械人形は体勢を整え、2人に再び向かってきた。充分な強さと速さの伴うその攻撃を、朔は今度はティアマトの鱗でそれを防御し、刀形状の光条兵器・月光蝶を取り出してライトブリンガーでなぎ払う。人形は壁に激突して動かなくなり、斧を持っていた手首から先がぽろりと落ちた。
 安全を確認してから、朔は肩を押さえて膝をついた。床に血がぽたぽたと落ちる。
「っ……! 朔さん、どうして……!」
 硬直していたファーシーが我に返る。ショックの残った声でそう言う彼女に、朔は優しく笑いかけた。
「……子供産むんだろ? だったら、何が何でも護んなきゃな?」
「…………っ!!」
 ファーシーは口を片手で覆う。そこにスカサハが駆けつけ、防衛計画を駆使して一緒に来ていた機晶犬のクランとメイドロボのモリガンを配置につかせる。
「大事な施術を行う前にファーシー様に何かあったら大変なのであります! お友達として護るであります! 朔様はその間に回復を!」
「スカサハさん……」
 そう言っている内にも、機械人形はスカサハ目掛け武器を振るう。邪魔だ。だが新しい獲物を見つけた、というように。
「…………!」
 突然の緊迫した状況に驚きつつ、アクアは彼女達の下まで駆け出そうとした。その彼女の額目掛け、1体の機械人形が槍を突き出してきた。咄嗟に反応出来ないでいると、衿栖が人形に体当りして矛先をずらした。たたらを踏んだ人形は他の人形達に受け止められるようにして槍を構えなおす。そこで、衿栖は鬼払いの弓で攻撃した。
 攻撃によって人形達は仰け反り、機械特有のけたたましい音が通路に響いた。
「あなた達……今、アクアを狙ったわね? 私の前で機晶姫を、それも私の親友を狙うなんていい度胸してるじゃない!」
 機晶姫を優先的に狙う機械人形――何かのスイッチが入ったようだ。フラワシの焔の能力を発動して人形達に、主に槍持ちの人形に言い放つ。降霊者以外にフラワシは見えていないから、傍からは焔を背負っているように見える。
「リーズ! ブリストル! 機械人形達の相手を! クローリー、エディンバラはアクア達を守って!」
 衿栖の操る人形がそれぞれに動く。レオンも機晶スナイパーライフルで遠くから機械人形達を攻撃する。
「アクアさんに手は出させないよ!」
 鳳明も中国拳法の構えをとって後の先を使い、襲ってくる相手にカウンター攻撃を仕掛けた。
「…………」
(アクアさん……)
 各所での先頭の最中で、アクアは棒立ちになっていた。戸惑っているようでもある。その近くで機械人形をぶっとばしながらも、ルイは彼女を視界の端に留めていた。神殿に来る前から気になっていたのは、現在のアクアの自衛力。以前、キマクでルイが倒れた時程の力であれば大丈夫と安心出来そうだが――今の彼女はあの時とは姿さえ違う。少なくとも、当時の機械武装だらけだったゴテゴテの身体ではゴスロリ服は着れない。そう、ゴスロリが着れるか着れないかくらいの大きな差があるのだ。
 そして見た限り……、アクアはやはり強い戦闘力は持っていないようだ。
 ルイは彼女の傍に近付き、ついでに機械人形を1体動作不能にしてから元気良く言う。
「アクアさん、私がこの鍛えた拳で護ってみせますよ! 安心してください! ……おや? その表情は……?」
 先程までの緊張はどこへやら、アクアはテンションを1下げたようだ。否、1と言わず5くらい下げたようだ。
「いえ。何でもありませんが?」
 この男を見ていると複雑に色々考えているのが阿呆らしくなるのは何故だろう。
「全力でいきますよ! ライナスさん達を無事救出出来ても、アクアさん、貴女が傷ついたらファーシーさんも責任を感じるでしょうし、私も傷つくのは嫌ですから!」
「…………」
 それでいてたまに思慮深いことも言ったりする。本当に理解不能だ。
「驚いたり怖かったりしたら、私にしがみついても良いですからね!」
「…………」
 アクアのテンションが10下がった。後少しでスーパーローテンションである。
「何を言って……」
「アクアさん、危ない!」
「!?」
 そこでいきなり、アクアは強引に腕を引き寄せられた。驚き抗議する間も無く、直前まで彼女が居た場所に尖りまくった矢が飛んできた。矢はそのまま直進し、後方の機械人形の後頭部を貫通する。倒れていく人形を見てアクアは絶句した。「……ありがとうございます……」という言葉が自然と出てくる。そして返ってきたのは。
「いえいえ、どういたしまして!!」
 という若干照れ気味のハイテンションな声だった。ルイの声にはたと我に返り、アクアは改めて現状を認識する。腕を引き寄せられ、がっちりと背を抱かれ……抱かれ……。
「…………!!!!」
 エクスクラメーションマークが何個あっても足りない。即座に彼女はルイにボディブローを叩き込んだ。同時に、拳を媒介にアルティマ・トゥーレを使う。ゴムのような彼の腹筋に物理ダメージは与えられないだろうが、冷気ならば――
 結果、ルイは頭の先から足の先まで氷漬けになって超笑顔のままごとんと倒れた。
「拳も武器になるんですよね? 武装が無くてもこれくらいは出来るんですよ?」
 氷の塊を見下ろして言うアクアの息は、若干荒い。
「全く……ルイも懲りないやつなのだ」
 一連のやりとりを見て、自分を狙う機械人形にレーザーガトリングを掃射していたリアが溜息を吐いて近付いてきた。敵に背は向けられないので少しずつ後退しての接近だ。
「ルイも丸い球体も気にしなくていいぞ、アクア。だが……」
 向かってくる人形達を攻撃しながら、リアは言う。
「助けが必要な時は、いつでも遠慮なく呼んでくれ。すぐ駆けつけるよ」
「…………」
 アクアはしばしリアの横顔を見つめ、何やら口元をもごもごとさせる。それから視線を逸らして小声で。
「……では貴女だけ、呼びます」
 この喧騒だから聞こえているか分からないけれど、分からない方が良い、とアクアは思った。
「なんですの!? この状況は……! ……ぐう。」
 その頃、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は室内の罠を踏みまくって様々な罠を発動させていた。ちなみに、今踏んだ罠は眠りガスである。
「……はっ!?」
 数ターンの後、ノートはぱちっ、と目を覚まして納得いかないと先に進む。
「さっきからカチカチカチカチうっとうしいですわね。……あっ、また!」
 カチッ。……………………。
「? 何も起きませんわね」
 起きていないわけではない。リアルタイムで見られる地図があれば判ったであろう。通路のそこここから、敵を示す赤いマークが増えている。ノートが踏んだのは、モンスター召還の罠だった。

 その間にも、整然と並んでいた機械人形達は動き出して皆に鈍色の武器を向けていた。動きは皆俊敏で、何故か連携が取れている。明日香はそんな状況を見て、口を開く。
「どうやら、分断されてしまったみたいですね〜」
「……そういう大事な事をのんびりと言うなよ。本当緊張感無いのな、お前……」
「そんなことありませんよ?」
 緊張感が必要な時はちゃんと真面目だ。今は――少なくともこちら側はまだ余裕があるわけで。明日香は、ノルニルとエイムの近くに来た人形だけに魔導銃で対処していた。確かに彼女自身は余裕がありそうだ。まだ片手しか使っていない。
「ピノちゃんもこちらに来てください〜。危ないですから〜」
「うん! 明日香ちゃん!」
「ちょっ……、こっちにも対処しろよ! 何ガン無視してんだ!」
「うう……大丈夫ですよラスさん、俺が守ります……うう……」
 全身ヤケドにつきハロウィン関係無くにミイラ男となった大地が言う。大地に巻かれた包帯は何だかとても下手くそで、だからなのかミイラ男としてのリアリティ抜群だ。
「……いや、お前は下がってていいから……」
 つい半眼になって言うと、そこでエースとエオリアが前に出てきた。エースは我は射す光の閃刃を放ち、機械人形達を退ける。
「ラスさんも下がってた方がいいよ。怪我したらピノちゃんが大変だからね」
「ここからもまだ何があるか分かりません。『いのちだいじに』で行きましょう」
「…………。お前ら……、どいつもこいつもピノの為ピノの為って……」
 何やら間接的な理由で前に立たれ、気分は微妙に複雑である。
「あ、勿論ラスさん自身も心配だよ?」
「……いや、まあいいけど……『いのちだいじに』じゃあ決着がつくまで時間が掛からないか?」
「それなら、ラスさんがこの人形やモンスター達を退治してください〜。ピノちゃんとファーシーさんを守る為に来たんですよね〜。さっき言ってましたよね〜。ほら、ピノちゃんにいい所見せるチャンスですよ〜」
「いい所って……」
「だから、邪魔しちゃいけませんよね〜」
 困惑するラスを余所に、期待に満ちた眼差しで周囲に呼びかける。ものすごくわざとらしい。期待自体は本物らしいが、それは逆の意味での期待だろう。
「ほらほら、遠慮しないでいいんですよ〜、ほらほら〜」
「…………」
 何か、プチッと来た。誰がそう情けないところばかり見せるものか。
「分かったよ……、殺りゃーいいんだろ? 殺りゃー」
「! エース、今の台詞……」
「うん、漢字が変だけど……ラスさん、落ち着いて?」
「……落ち着け? だからあれだよな。『ガンガンいこうぜ』ってやつでいーんだよな」
 そうして、ホルダーから出したナイフを何本か指の間に挟みこむ。無防備に前に出て、殺る気満々で襲ってくる魔物の喉元に突き刺――
「おにいちゃん、あぶない!」
 その時、ピノの声が耳に刺さって我に返る。殺気に気付いて振り返るのと、機械人形の鋭い刃が脇を掠めるのは同時だった。直後、魔物と機械人形は電撃を受けてその場に倒れた。サンダーブラストを放ったピノは、駆けつけてきてラスを叱りつける。
「もう! もっとちゃんと周り見なきゃダメだよ! 前だけ見てたら横や斜めからやられちゃうんだからね!」
「……………………」
 返す言葉もない。そしてとても情けない。だが、凹んでいる場合では無かった。魔物同士仲間意識でもあるのか、ピノに対して機械人形と魔物が5、6体、牙と刃を持って襲ってくる。
「きゃっ……!!」
「ピノちゃん!」
 迷っている暇は無い。そこで彼女を護ろうと動いたのは薄青 諒(うすあお・まこと)だった。諒は咄嗟に完全獣化し、敵意現す人形達を蹴散らしていく。
「ま、諒くん……?」
 人の姿だった時の耳と同じ、薄茶色の豊かな体毛。ふっさふさの尻尾。そして、普段とは違う切れ長の目。何気に本邦初公開なその姿は――ピノが言葉を失うほどの巨大な姿だった。“ピノちゃんにケガはさせないよ!”とでも言うかのように、諒は唸る。それは中々に格好良い勇姿とも呼べるものだったが――
「か、可愛い……」
 ピノは、自然とそう言っていた。

「……どうやら、機晶姫が狙われているようだな」
 戦況を見て、エヴァルトはそう判断した。ファーシーも言っていたが、これはただの人形だ。倒れた人形を見ても、1体として機晶石を転がしている者はいない。機械の獣は石を動力にしているようだが――
「こっちに機械人形が来たのはロートラウトがいたからか」
「えっ!? ボク!?」
「ロートラウト、ミュリエルを頼む」
 エヴァルトはくっついていたミュリエルをそっと離すと、驚くロートラウトに預けた。ミュリエルは、どこか不安そうだ。
「お、お兄ちゃん……?」
 敵を分断して戦力を削ごうとする人形達の動きは、多少の小賢しさを感じさせる。だが――
「アクセルギアの速度に追いつけることはあるまいッ!」
 引き伸ばされた体感時間の中で、エヴァルトは周囲の機械人形の動きを止めていった。

「…………」
 1体、1体と少しずつ、だが確実に機能停止していく機械人形。その中で、朔は自身に命のうねりをかけていた。傷は、確実に塞がっていっている。
「ファーシー、朔……大丈夫ですか?」
「う、うん……、わたしは無事よ……」
 ショックから抜けきれていないようで、ファーシーは茫然としていた。彼女達が気になり、戦いの間を縫ってアクアは近付く。そこで、朱里がレプリカ・ビックディッパーを構えて傍に来た。
「アクア、ファーシー、朱里の側なら安全だから離れないでね?」
 戦線は徐々に前に出て行っている。衿栖やレオン、鳳明達の間を縫って討ちもらされた機械人形が来た時の為に、朱里は衿栖達の戦いから目を離さなかった。絶対に2人を傷つけさせないという気概が感じられる。
「……朱里……」
 そこで、朔が口を開く。
「ファーシー……私は大丈夫だ。動くのにも問題は無い。だから、笑ってくれ」
「……で、でも……」
 未だ笑顔の戻らないファーシーに、彼女は続ける。
「確か、面白そうな機械を受け取っていただろう? ゲームのコントローラーのような……。せっかくの機会だ。使ってみたらどうだ?」
「コントローラー? ……あ、そうだ」
 ファーシーは風祭 隼人(かざまつり・はやと)から渡されたコントローラーを取り出す。
「隼人さんは……あ、あそこね。よ、よし……」
 隼人の姿を見つけ、ファーシーは早速ボタンに指をかける。いつの間にか彼女は、操作に夢中になっていて――
「お、やっと来たか」
 籠手型HCに信号が届き、隼人はほっと一安心した。一時はどうなるかとも思ったが、少し元気を取り戻してきたようだ。早速信号の通りに動いてみるが、それからしばし――
「ファーシー、絶対に格ゲー苦手だろ!!」
 割とぼこぼこになった隼人は心の底からそう叫んだ。
「あれ? あれ? おかしいなあ……」
 コントローラーを握って、ファーシーは首を傾げながらボタンを押し続けている。もう何だか、下手な鉄砲も数打てば当たる状態だ。……当たらないが。
「あ、そうだ、リセット!」
 ――そんな機能あるか!
 内心でそう突っ込み、隼人はオートモードに切り替えることにした。


「何か先程から、人形達に紛れて魔物が増えてきていますね」
 ブリザードで魔物を足止めし、人形達は魔砲ステッキのレーザーで打ち抜く。そうして望は、衿栖や朱里、リアと共にアクアを狙う機械達を牽制する。この魔物達がノートの踏んだ罠によって湧き出てきているなど、望にとって想像の埒外であった。
 そして、原因の一端となったノートは張り切った様子で胸を張っていた。後方に立つアクアをちらりと見る。
 ――なんだかんだで、この娘には軽視されっぱなしですからね。ここらでわたくしの華麗なる活躍を見せて、認識を改めさせませんと!
「さぁ、歴戦の立ち回りというものを魅せて差し上げますわ」
 そう宣言するノートの前に立ったのは、他の人形とは趣きの違う機械人形。鉄の扇子を持ち、ならばやってみなさいと高笑いするように堂々とした仕草でノートに迫る。
「そんな攻撃は当たりませんわ!」
 余裕で避けようとしたが、そこで機械人形は鉄扇を持った手を高々と上げた。くねくねと、膝まで手を振り下ろした瞬間、その姿を消す。まるで、瞬間移動でもしたかのようだ。
「!? 何処に……いえ、何処にいようとわたくしのホークアイの前ではまるっとお見通しですわ!」
 混戦に紛れている機械人形を見つけ、ノートはゴッドスピードで素早さを上げて七輝剣を手にアルティマ・トゥーレを使う。
“……!?”
 と、機械人形が驚いた気がした。
「剣の乙女、シュヴェルトライテの剣の冴え、とくと御覧なさい!」
 御覧する間もなく、人形は倒れた。見事な腕前である。だが
「ふふん、これがわたくしの真の実力ですわ」
 金髪をなびかせて格好をつけた瞬間、カチッ、と何かを踏んだ。その直後、“彼女達”は――

『どうした? 随分と騒がしいな。何かあったのか』
『い、いえ、今、ちょっと交戦中でして……』
 戦闘直前にライナスとテレパシーを通じて繋がった優斗は、若干慌てたように報告する。そして、早口でライナスに確認する。
『今、どの辺りです? トルネさんも一緒ですか?』
『ああ、トルネも元気にしている。ただ、今少し動けなくてな……』
 そうして、ライナスは今、どういう状況にいるのか優斗に詳しく話した。
『……なるほど、分かりました。では、みなさんにもそう状況を伝えますね』……「ファーシーさん」
「え、え? 何?」
 コントローラーが効かなくなって混乱しているファーシーに、優斗は現状を説明する。
「……という経緯で、ライナスさん達は外に出られない状態になっているようです」
「壁? 壁を攻撃したらライナスさん達がいるの?」
「はい。ですから今戦っている皆にも……って、ファーシーさん?」
 “皆にも伝えて壁を攻撃しないように”と続けようとした優斗は、彼女の言い方に引っ掛かりを覚えた。何だろうその“良い事聞いた”みたいな反応は。
 そんな事を思っている間に、ファーシーは戦線に突っ込んでいっていた。そして、隼人の耳に声が届きそうな位置まで行って、叫ぶ。
「隼人さん! どこでもいいから壁を攻撃して! 早く!」
「!? 壁? その先に何かあるのか!?」
 指示を聞き、隼人は近くの壁に一瞬目を遣る。有益な情報でも手に入れたのか、ファーシーの声は何か自信に満ちている。今の状況はあまり芳しくなく、もしそれで何か現状が変わるのなら――
 隼人は、壁に対して魔道銃の引き金を引いた。