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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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 第4章 
 
 
「帰ってこない人なんか放っておいて智恵の実を探すよ!」
 その頃、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)月美 芽美(つきみ・めいみ)は陽子の記憶を取り戻そう、とアルカディアを探索していた。トレジャーセンスを持つ芽美が先頭を、その後を陽子のレイス【朧】グーラ【美凜】が歩く。
「やっぱり、こういう場所には罠があるのが定番だよね」
 彼女達の中には、うまく罠を解除できる人間がいない。どうせ死んでるし、とアンデッドの美凜が先に行かせて罠対策をしている。実際、美凜はこれまでに何度か罠を踏み、3人はうまくトラップから逃れている。
「智恵の実ですか……。記憶の手掛かりがわからない以上、何であれ頼ってみるしかないですね」
 陽子は透乃の隣でディテクトエビルでの索敵を怠らないようにしながら、2人に話す。
「悪いことであっても、もっと自分のことを思い出したいので」
「透乃ちゃんは、智恵の実を見つけたら食べるのかしら?」
「私? 私は食べないよ!」
 芽美の言葉に、透乃は即答した。迷う必要も無い、というはっきりとした言い方だ。
「ただの食材なら私も食べてみたいけど、噂通りの効果があるとしたら、できるだけ自分の努力でより高みを目指そうという私の志の邪魔になるからね」
「ふふ、透乃ちゃんらしいですね」
 その答えに、陽子は微笑む。逆に、透乃が実を食べると言い出したら驚いてうろたえてしまう。実の効果など必要ない。陽子は、そのままの透乃が好きなのだ。それはきっと、透乃も同じ。
 でも、記憶は取り戻したいから――
 他は変わらなくていい。記憶だけを取り戻せることを願って。
「あら……?」
 そこで、先を進む芽美は自分の胸元に目を落とした。通路の周囲には、照明として白い蛍光灯っぽいものが設置されているのだが――その光の所為だろうか。着ている服が透け、肌が露わになっている。
「……きゃっ!」
 慌てて胸元を隠す陽子とは対照的に、透乃は何だか嬉しそうだ。大きな胸を堂々とさらし、陽子に近付く。とはいえ、一応、周囲に人が居ないか確認はする。
「へえ、なかなかいい罠だね。ちょうど誰もいないし、陽子ちゃん、ちょっと休憩しよっか!」
「え? と、透乃ちゃん……!?」
 抵抗してみようとするが――陽子はそのまま透乃に押し倒された。

              ◇◇◇◇◇◇

「智恵の実とは……見過ごせない情報ですね」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、強盗 ヘル(ごうとう・へる)と下り坂通路を縦に並んで歩きながらそう言った。この配置は、何らかの罠があった時の対策である。
「神話の存在だと思っていましたが、まさか実在するかもしれないとは……。林檎好きとして、何としても探したいものです」
 智恵の実。そうそれは、林檎好きならば1度は興味を示す存在だ。ヘルのトレジャーセンスによると反応は無ではないという事で、少なくとも、それなりに価値がある物が奥にあるのは確かなようだ。
 どんな形かは不明のようだが、やはり推測としては林檎……であって欲しい。
「まあ別に林檎は好きでも嫌いでもないが、価値があるものみたいだし興味はあるよな」
 どことなく、ザカコはいつもより生き生きしていた。その彼に少々呆れた目を向けつつも、ヘルも智恵の実を直接見てみたいという気持ちはある。神殿内を歩きながら、ザカコは嬉しそうに『実』についての推測を話し始める。
「あらゆる知識を得るというのは眉唾だと思いますが、食べた人の逸話が残っているという事は何らかの要因がある筈です。ニューロンの増殖を促し、蓄積された情報を伝達するような効果を持つナノマシンの集合体的な物ではないでしょうか」
「んー? 何だ、よく分かんねえなあ……」
「つまり、『実』をつける『樹』はデータベース、『実』は集めたデータのバックアップであり、摂取によって情報を自分達がフィードバック可能というわけです」
 ――カチッ。
「? 何でしょう、今の音?」
「よく聞く、スイッチを押す音に似てたけどな」
 ザカコとヘルは顔を見合わせ、来た道をほぼ同時に振り返る。結果として目にしたのは、通路に迫り出してくる壁とその中に納まっていた棘つきの巨大なボールだった。
「スパイクボール……ですか」
 棘が少々殺人的だがモヤッとボールに見えなくもない。が、こちらは真に重量がありそうだった。恐らく鉄だろう。
 ボールは、壁の仕掛けに射出されて凄い勢いで転がってくる。ぺちゃんこ防止に急いで逃げるものの、下り坂なこともあり距離は瞬く間に縮んでいった。
「攻撃してみましょう。……駄目です、随分硬いですね」
 バーストダッシュで自ら近付き、カタールを構えたザカコは疾風突きで破壊を試みた。だが、ボールは少し押し返されただけでびくともしない。再び逃げ始めたところで、ヘルが気付いたように天井を見上げた。
「いやまてよ、この通路、やけに天井が高くねぇか? これ、飛び越えられるんじゃ……」
 ――カチッ。
 足を止めてヘルがボールを飛び越えたのと、ザカコの足元が赤く光って床が消失するのはほぼ同時だった。その直後にボールは通路を転がって行き、先の吹き抜けから下に落ちて行く。静かになった通路に、穴あきおせんべいになったザカコの姿は見られなかった。
「……おーい、大丈夫か?」
 底の深い落とし穴にいるザカコに、ヘルが登山用ザイルを垂らして上るように促す。
「ええ、それにしても助かりました」
 罠で命拾いすることもあるらしい。2人はそうして、協力して神殿を進んでいった。

              ◇◇◇◇◇◇

 その少し前に、若松 未散(わかまつ・みちる)ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)は吹き抜けを通りかかっていた。ハルが火術で下方に別の通路があるのを確認し、魔法のはしごを使って移動する。無事に降りると火術に加えて未散は焔のフラワシを出し、暗い中を進んでいく。
「よし、これでまた一歩智恵の実に近付いたな。聞いた所によると、食べると仕事が大成するって話じゃないか。面白そうだし食べてみるしかないよな! ……うわっ!」
 面白そうな事や噺のネタになりそうな事には全力で首を突っ込む。
 ということで、どこからか噂を聞きつけてやってきた未散は元気よく地下2階を歩き始めた。カチッと罠を踏んだのはその矢先。彼女は足を滑らせて尻餅をついた。それこそ漫画みたいに、思いっきり。
「み、未散くん!」
「いたたた……何だあ?」
 途端に大慌てするハルは置いておいて、お尻をさすりながら頭に手をやる。滑った拍子のその犯物(はんにん)が宙に舞って未散の頭にぽてっ、と乗っかったのだ。
「なんで古代の遺跡に林檎の皮?」
 しかも、剥きたてのように新鮮だ。そこで、未散は何かをひらめく。
「きっとこれが智恵の実の皮なんだぜ! やっぱり、智恵の実っていったら林檎の形だもんな! あ、でもドリアンみたいな形でも面白いかも〜!」
 歩みを再開しながら『実』の形をあれこれと想像して楽しそうな表情を浮かべる未散。そこで、彼女は危険を感じて頭上を見上げた。イナンナの加護を使い、危機に対する感覚が鋭くなっていたからこそ気付いたとも言える。
「……え、でっかい鉄のドリアン?」
「言ってる場合ではないですぞ!!」
 直撃を受ける直前、ハルが彼女の腕を引っ張った。ギリギリで2人は鉄球を避けたが、通路を破壊せんばかりに着地した鉄球はあろうことか彼女達の方へと転がってくる。
「え、ええーーーーっ!?」
 ゴロゴロゴロゴロ……と襲ってくる鉄球から全速力で逃げる。幸いにもその先に曲がり角があり、寸での所で逃げ切ることが出来た。
「こ、こんな罠があるとは……! 未散くんはわたくしがしっかりお守りいたします!」
 そう言って、ハルは率先して前を歩き出す。心配で心配で仕方なかったから護衛として同行してきたが正解だったようだ。
「……おや?」
 新たな地図を記録していこうと銃型HCを覗くと、そこでは神殿の情報を求める呼びかけがなされていた。他で集められた情報も載っている。
「わたくしも協力いたしましょうか」
 そうして、ハルは遭遇した罠の種類と、神殿に地下2階が存在することを書き込んだ。