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●監視つきの客人

 鋭鋒は、一人、意外な存在を連れてきていた。
「ここに座るがいい」
 女性だ。少女、ではあるのだが、どこか幸薄い印象を抱かせる。
「はい……」
 か細い声で応じて、ルカルカに手を引かれ彼女はしずしずとまかり出た。
 さすがにこれには驚きの声が上がった。その声は一瞬だったが、その後も囁きがさざ波のように続いていた。
 鋭鋒が呼んだのはクランジΥ(ユプシロン)こと、現在教導団預かりになっているユマ・ユウヅキだった。
 菫色の髪はおかっぱ程度に切り揃えられている。
 きりっとした印象の一重瞼の目は下向き気味だ。
 表情そのものからして、うなだれているかのようではないか。
 ユマは教導団の制服姿だった。野点に参加する大半の者が和装なのに比べると、やや特殊な出で立ちである。
 七夕祭で暴走した(参照) 罰として監禁状態におかれていた彼女だが、ルカルカらの熱心な働きかけもあって、この日、七夕以来初めて外出が認められたのである。
 しかし、晴れて放免となったわけではない。
 彼女の二の腕には、痛々しいくらい巨大な白い輪が填められていた。発信器であろう、小さなランプが取り付けられており、ちろちろと赤い光を明滅していた。
 ユプシロンが現れるや、ダリルが彼女の真後ろに回っていた。本日、ユマの行くところには必ず、団員の誰かが監視役として付くという決まりなのである。
 教導団でユマを預かるリュシュトマ少佐はこの日、別件で不在だ。同様に少佐の補佐官もいない。それだけに、ルカルカが担う責任も重大であった。
 何か間違いがあれば、ユマはおろかルカルカの教導団での立場すら危うくなろう。
 されどそれを告げず、厳とした口調でルカルカは告げた。静香やラズィーヤのみならず、この場にいるすべての人に聞こえるように。
「ユマの謹慎は解けました。彼女の社会経験のため、今日は同行してもらっています」
 つい表情が硬くなる。人々が何かと噂するのは仕方がない……そう思っているが、打ち消したいという気持ちもあった。
「彼女の安全の証明にもなると考えている。同席を許して頂きたい」
 ダリルも言い加えた。しかし、これを静香ないしラズィーヤが却下すればすべておしまいだ。いまだユマは、針山の上で綱渡りするような危うい状況にある。暴走しないという保証はどこにもないのだ。
 生徒の安全を考えれば、百合園側が拒否する可能性は少なくない。
 拒否されたとして仕方がないとはルカルカも思う。……しかし……。
 このとき、
「私からも、願い出たい」
 この場の何人かは、まず間違いなく自分の目を疑ったであろう。
 金鋭鋒が、父母の墓にぬかずく以外膝を屈することのない言われたあの男が、静香に頭を下げたのだ。
 ラズィーヤは静香を見た。まずラズィーヤがが返答しようというのだろう。しかし、
「僕は、いいと思うよ」
 それを制して静香が答えた。
 反対するかと思いきや、ラズィーヤはふふ、と微笑んで頷いた。
 静香は改めてユマに話しかける。
「よろしく、ユマ・ユウヅキさん。以前のことは以前のこと、僕は気にしない。みんな仲良く、ね?」
「ありがとう……ございます……」
 感極まったか、ユマは小刻みに体を震わせていた。
 その振動にあわせ、発信器の赤い光が揺れた。

 かくて緊張状態は解け、ふたたび穏やかな野点がはじまったのだった。