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リミット~Birthday~

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リミット~Birthday~

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第2章、後! 『お母様をお願しますのぉ』のぉ〜♪


「よし、ここから中の様子が見えそうだ」
「和輝、気を付けて」
「わかってる」
 山小屋の裏手の窓から内部を覗き込む佐野 和輝(さの・かずき)を、魔鎧になったスノー・クライム(すのー・くらいむ)が注意する。
 仕事の依頼で和輝達とは違い、別の位置で待機している冴弥 永夜(さえわたり・とおや)アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)は≪シャドウビースト≫を調べにきていた。
 だが、人質がいると知り、協力を申し出てくれたのだった。
 和輝が覗き込んだ山小屋内部は、お世辞にも清潔とは言い難く、荒れ果てていた。
 室内には三人の男女がいる。
 山賊の頭と思われる大柄で小汚い印象を受ける男。
 反対にこの場にふさわしくない清楚な印象服装に身を包んだ男。
 そして、その男に首を掴まれたポミエラの母親と思わる女性。
 清楚な服装の男は女性に何事か問いかけると、喉元にナイフを向けた。
 男から伝わってくる殺気。
 こいつは危険だと和輝の直感が告げている。
 ポミエラの母親は男の問いかけに答えようとしない。
 男は手に力を込め、母親が苦しそうにもがく。
 和輝は慌てて銃で窓を叩き割った。
「動くな! 観念しろ!」
 和輝は窓から銃でポミエラの母親の首を掴まえている男を狙う。
 にらみ合う和輝と男。
 すると、緊迫の空気の中、アニス・パラス(あにす・ぱらす)の明るい声が和輝の背後から聞こえてきた。
「そうだそうだ、観念するんだぁ♪」
 緊迫した空気が妙な空気になった。
「アニス、少し黙ってなさい」
「はぁい……」
 スノーに叱られ、しょげるアニスをルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)がそっと慰めていた。
 和輝が咳払いして勧告を続ける。
「今すぐその人を離して投降しろ。さもなくば怪我では済まないぞ」
 男は和輝の言葉を聞くとおかしそうに笑った。
 そして、自身が≪アヴェス≫の構成員であり、≪不浄なる冷手―ジルド≫と呼ばれていることを語った。
 ジルドによって口にハンカチを押し当てられた母親が気を失う。
「ちょっと和輝――」
「大丈夫だ。今の状況ならアイテムの保管場所を聞くまで、殺しはしないはず。おそらくただの睡眠薬だ」
 慌てるスノーに和輝は冷静に答えた。
 ジルドは投降する気がないらしい。
「あくまで抵抗するか。ならば――」
「やっちゃうよ!」
 和輝の声に重ねてアニスの言葉が重なる。
 和輝は気にせず、ジルドに向けて発砲した。
 だが、弾丸はジルドには届かなかった。
 代わりに間に割って入ったジルドの紙の式神によって止められてしまう。
「こいつ、陰陽師か!」
 その隙にジルドとポミエラの母親を肩に抱いた山賊の頭が表の扉に向かった。
 すると、いきなり扉が開かれ永夜とアンヴェリュグが現れた。
「おっと、この先は通行止めだよ」
 後ずさるジルド達。
 外部に出るには玄関以外に窓しかない。しかし、その窓では和輝が式神と交戦中だった。
 これで完全に追い詰めた。
 誰もがそう思った時だった。
 永夜達の後方で轟音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
「眩ちぃぃ――!!」
 眩い閃光が室内に満ちる。
 振り返った永夜は、まるで太陽を直接みたように視界に真っ白になった。
 すると、出入り口を封鎖されたジルド達が壁を壊して脱出してしまう。
「くっそ、追うぞ、アンヴェル!」
「当然!」
 目をやられた永夜はアンヴェリュグに支えられながら、濃い霧が覆う森の中へと逃げようジルド達を追いかけた。
「俺達も――」
「和輝、避けて!」
「――!?」
 追いかけようとした和輝はスノーの指示で横に飛び退くと、ナイフが頬を掠めて抜けていった。
「ここは通さないのじゃ」
 山小屋の裏手に古代中国の貴族のような服装をした辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)と、山賊の手下達が集まってきていた。


――数十分前
 山小屋から少し離れた木の陰で、生徒達は救出作戦の算段を立てていた。
「なんだかこのまま進むのは厳しそうですねぇ」
「だな、小屋の前にまだこんなに残ってるとは予想外だったぜ」
 のんびりした口調の清泉 北都(いずみ・ほくと)の頭を押さえつけながら、白銀 昶(しろがね・あきら)が山小屋周辺の様子を見つめる。
 山小屋の前には山賊の手下達が周囲を警戒している。
 正面突破は厳しいと判断した白星 切札(しらほし・きりふだ)が、娘の白星 カルテ(しらほし・かるて)の頭を撫でながら提案する。
「では、手間ですが回り込んで裏から攻め込んでみましょうか。私的にはこの子の安全のためにもその方がありがたいですね」
 カルテが嬉しそうに目を細めて微笑んでいた。
「でも、急いだ方がいいんじゃないでしょうか……」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の言う通りでもある。
 ポミエラの母親が誘拐されてからそれなりに時間が経っている。
 安否の心配もあったが、誘拐犯と一緒にいるという精神的な所からくる衰弱が懸念された。
 なにより犯人の目的がわからない以上、無駄に時間をかけるのは得策ではない。
 とはいえ、正面から突撃するわけにもいかなかった。
 答えがでず、黙り込む生徒達。
 すると、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)がため息を吐いて言った。
「しょうがないなぁ。だったら、私達が囮役を引き受けるよ。いいよね、陽子ちゃん」
「透乃ちゃんがそうしたいというなら、私はどこまでもついて行きます……」
 陽子が少し頬を染めながら微笑んでいた。
「よぉし、さっきから我慢してたんだもん。たっぷり暴れさせて――」
 透乃が元気よく腕を回し始めた時、鼓膜を突き破るような轟音と共に、青い閃光が周囲に満ち溢れた。
「な、なんだ!?」
「あのシスターみたいな棺を背負った人の砲撃みたいですよぉ」
 昶は指の隙間から北都の指さす人物を探した。
 そこには確かに修道服に身を包み、棺を担いだ女性シスタ・バルドロウ(しすた・ばるどろう)が、空中に向かって巨大なビーム砲を放っていた。
「なんだかあの人、怖そうですねぇ」
 シスタは山賊達の中にいながらも、誰よりも濃い悪人面をしていた。
 シスタは『悪人商会』から山賊の元へ斡旋されてきたのだった。
「なんですか急に……」
 眩しい光が途絶え、切札がようやく目が開ける。
 すると、カルテが切札の服の裾を引っ張りながら、空を指さしていった。
「ママ、ママ、空から人が降ってきたよ」
「え?」

「うわぁぁぁぁぁ――!!」

 空からクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が降ってきた。
 透乃達から離れた位置に突然墜落してきたクド。驚く山賊達。
 唯一、シスタだけが迅速に対応し、応戦を初めた。
 クドはパートナーの攻撃を回避するべく木の陰に一端身を隠す。
 透乃が呆気にとられていると、陽子が腕を引っ張りながら山小屋を指さした。
「と、透乃ちゃん、あの人たち!」
「今度はなに……?」
 透乃が目撃したのはジルドと山賊の頭がポミエラの母親を連れて、破壊した山小屋の壁から逃走する所だった。
 続いて永夜達が追いかけようとするが、山賊達に足止めされてしまう。
 和輝達も刹那と山賊達の妨害にあって追いかけられない。
 透乃は瞬時に担がれた女性がポミエラの母親だと理解し、そして自分達以外がジルドを追いかけられないと判断した。
「しょうがないなぁ。みんな、私達はポミエラのお母さんを助けにいくよ!」
 透乃達は急いでジルド達の後を追いかけて行った。