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リアクション
後! 『わたくしはどうしたらいいのでしょう』の章♪ ……あ、これ3ですから
「ポミエラ!? 何があったの?」
「実は……」
帰ってきたポミエラの様子を見て驚いたルカルカに、瑠兎子が説明する。
「そっか。ばれちゃったんだ……」
朔夜は手当のためにアンネリーゼを連れて保健室に向かった。
瑠兎子は喋らなくなったポミエラと、ぼんやりしている夢悠を空いている教室で休ませることにした。
ルカルカは去っていく瑠兎子達の姿を見て歯を強く噛みしめた後、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に頼みをした。
「カルキノス、悪いんだけどポミエラの傍についていてあげられないかな? ルカは出発の準備でここを離れられなんだよ」
「わかった。安心しろ」
悔しそうなルカルカの想いを受け取ったカルキノスは、瑠兎子達の後を追った。
「お願いね」
空から音が降ってくる。
ルカルカが見上げると、大型の飛空艇が蒼空学園の校舎に黒い影を落としていた。
「あの時と一緒だ……」
ポミエラと一緒に空き教室に入った夢悠は、隅で足を抱えて座り込んでいた。
するとポミエラを元気づけようとしていた瑠兎子が、カルキノスにポミエラを任せて、苛立ちながら夢悠の所に近づいてくる。
「ちょっとユッチー。いい加減にぼうっとしてないでポミエラを元気づけるのに協力しなさいよ!」
瑠兎子は立ち上がらせようと夢悠の手を掴み、初めて小刻みに震えていることに気づいた。
「え、ちょっと、なんで震えているのよ」
今日は晴天で薄着でもない限り寒いと感じることはないはずだった。
夢悠は独り言のように呟く。
「……思い出すんだよ。あの時の、オレの……オレの父さんと母さんが亡くなった、あの日のことを……」
夢悠は自分の過去とポミエラの現状を重ねていた。
夢悠は……十歳の時に両親を交通事故で亡くした。
叫んで、泣いて、運命を恨んで、それでも帰ってこない大切だった両親。
幼い夢悠は事故と共に笑うことを忘れた。
生活しているのに、そこには生きている実感がなかった。
そんな日々が続いた。
「きっとポミエラもオレと同じ想いだ。辛くて、哀しくて、生きていくのが嫌になっ――」
バチン!!
瑠兎子に叩かれた夢悠の頬がヒリヒリと痛む。
「瑠兎子……」
瑠兎子は夢悠の襟首を掴み無理やり立たせると、壁に押し付けた。
「あんた、なんて言ってた!? この依頼を受けた時になんて言ってたのよ!?」
「え……」
「あんた言ったわよね。ポミエラに自分と同じ哀しみを味あわせたくないって! なのに今のあんたは何よ! 足を抱えて見ているだけじゃない! あの子は哀しいままじゃない! あんたが先に諦めてどうすんのよ! まだ、何も終わってないし、何も結論してないでしょう!?」
感じたままに、ありったけの気持ちをぶつけた瑠兎子は掴んでいた手を離す。
支えを失い、床に座り込む夢悠。
絶望していた夢悠の目に色が戻っていく。
今の自分を恥じた。
こんな所で座り込む自分が情けなかった。
「そうだ。何も決まってない。まだオレにもやれることがある。その通りだ」
「ユッチー……」
夢悠が瑠兎子に支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。
「夢悠、ありがとう。オレ、大事なことを思い出したよ」
両親を亡くした夢悠の日々は孤独と絶望に塗り染められたものだった。
それが、十二歳の早春に瑠兎子に出会って変わった。
祖父母の提案で瑠兎子と一緒にポラミタに来て、振り回されながらも、家族のように傍で支えてくれる瑠兎子に、少しずつ見えていた世界は本来の色素を取り戻していった。
誰かが傍にいてくれることで癒せる心があることをあの時の夢悠は知った。
「ポミエラさんは、大丈夫ですの?」
教室に手当を終えたアンネリーゼと朔夜がやってきた。
夢悠は首を振って答える。
そして、ポミエラを彼らに任せて教室を出ていこうとする夢悠を、瑠兎子は慌てて追いかけた。
「ユッチー、どこに行くの?」
「オレにできることをするんだ」
そう言って夢悠がやってきたの家庭科室だった。
周囲では誕生日パーティーの準備が最終段階に入っていた。
冷蔵庫からゼリーを取り出して飾りつけを始める。
そこへ雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がやってきた。
「ポミエラの話、聞いたわよ。私にも何か手伝わせてくれないかしら?」
雅羅も混ざって三人で改良した『たま☆るコーヒーゼリー』を作り上げることになった。
不安と緊張が入り交ざる夢悠に雅羅が声をかける。
「大丈夫よ。こんな素敵なプレゼントをもらったらポミエラも元気になるわよ」
三人はポミエラが元気になるように願いながら作業を完遂させた。
「瑠兎子。今更だけど……ありがとう」
「え? なんなの急に」
「オレ、改めて思ったんだ。瑠兎子がいたからやってこれたんだって、だから「ありがとう」って伝えたくなったんだ」
夢悠の言葉に瑠兎子が耳まで赤くしていた。
「そ、そっか。……どういたしまして。……後、これからもよろしくね」
夢悠と瑠兎子はニッコリ笑いあっていた。
「よし、超特大ケーキの完成よ!」
「やりましたね!」
歓声あげる白波 理沙(しらなみ・りさ)にノア・リヴァル(のあ・りう゛ぁる)が拍手をする。
理沙達の目の前には結婚式で見るような巨大なケーキが存在していた。
力作の完成に満足そうな理沙。するとノアが声をあげる。
「あ……」
「どうしたのノア?」
「理沙さん。これ教室までどうやって運びましょうか?」
「……」
理沙は焦った表情で、ケーキの周囲を回りながら考える。
……どうやら気合を入れて作りすぎたようだ。
「横幅は扉を外せば通せるとおもうけど、高さが問題ね」
「一端上の方だけ外してみましょうか?」
「……そうね。外して持って行ってから教室で完成させるしかないわね」
理沙は肩を落としながら、ノアと協力してどうにかこうにか引っかかってしまう部分だけ取り外そうとしていた。
理沙達がケーキ作りをしているすぐ近くではクッキーが終了を間近に控えていた。
「これだけあれば十分ね。手伝ってくれてありがとう、姫乃」
「いえ、私も一緒にクッキー作りができて楽しかったです」
優しく微笑むセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に、早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)ははにかみながら笑っていた。
「あ、もうこんな時間。クッキー、運んでおきますね」
「私は片づけをしておくから、お願いね」
「はい」
壁掛け時計を見た姫乃が慌てて皿にクッキーを盛り付けて、出口に向かっていく。
「なんだよ。姫乃ばっかり……」
調理中、楽しそうな二人の姿を見せつけられたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、常にブツブツと不平を漏らしながら、現在洗い物をさせられていた。
「セレンフィリティ、何をいじけてるの?」
「別に……いじけてなんかないわよ」
「そう、ならいいわ」
あっさり話を終わらせてしまうセレアナに、セレンフィリティはムスッとした。
「何よ。もっと気にしてくれてもいいのに。いいよ、いいよ。だったらあたしも今日はそっけない態度をしてやるんだからっ」
小声でブツブツ呟くセレンフィリティ。
すると、セレアナが近づいてきて声をかけてきた。
「セレンフィリティ、ちょっとこっち向いてくれるかしら」
「今、忙しいから無理」
「いいから早くしてよ」
「無理」
「いいから、ほら」
無理だと言ってるのにセレアナが強引に、セレンフィリティの肩を掴んで振り向かせる。
「あぁ、もう、だから無理だって言って――ん?」
セレンフィリティの口が甘くて暖かい物に塞がれた。
セレンフィリティは突然の出来事に心臓が跳ねるように高鳴るのを感じた。
しきりに瞬きをするセレンフィリティにセレアナは微笑みかけている。
「おいしい?」
セレアナに押し込められて、セレンフィリティは唇で止めていたクッキーを口の中へと含んだ。
出来立てのクッキーは甘くてサクサクして、とてもおいしかった。
「う、うん。おいしい……」
「もう一つ味見しとく?」
「じゃ、じゃあ……」
セレアナがつまんだクッキーをセレンフィリティの口に運ぼうとして、手を止めた。
「私の指まで食べないでよ」
「ど、どうしようかなぁ〜」
セレンフィリティは照れながらも嬉しそうに笑っていた。
歩きだした姫乃は足を止めると、セレンフィリティ達を見て嬉しそうに呟く。
「やっぱりあの人達、とても幸せそう」
「きゃああああ!?」
その時突如、雅羅が悲鳴を上げた。
悲鳴に反応して振り返った姫乃に、大量の水が襲いかかる。
「きゃっ」
一瞬でびしょ濡れになる姫乃。
雅羅が回した蛇口の水が、大量に水を放出し、辺りに飛び散ったのだ。
水は他の作業中の生徒にも襲いかかる。
「やっぱり来た! ノア、シールド!」
「了解しました!」
事前に雅羅の不幸体質への警戒をしていた理沙は、すぐさまノアにケーキを守らせた。
瞬時に判断した瑠兎子もゼリーを守るべく盾を構える。
「こっちも!! 夢悠でガード!」
「え? ぐぎやぁぁ!?」
瑠兎子は夢悠の顔面で放水を防いだ。
「み、皆さんごめんなさい、ごめんなさい!!」
ようやく水が止まり、びしょ濡れになった雅羅が何度も頭を下げた。
「別にこっちも大した被害がなかったし、気にしなくていいよ」
理沙はケーキの状態を確認し、苦笑いを浮かべて言った。
「こっちもゼリーは大丈夫だから、問題ないわ」
瑠兎子が笑って答える。
すると、夢悠が暗い表情しながら抗議する。
「オレはびしょ濡れなんだが……」
「そのままだと風邪をひくわよ。着替えなよ。代わりの服は……一応、メイド服があるけどどうする?」
「なんでメイド服!? 普通に制服でいいよ!!」
「そう、嫌かぁ。しょうがないわね。じゃあ、はい。これ予備のやつ」
「いや、なんでまた執事服? 学校の制服は?」
「持ってきてないわよ」
瑠兎子の発言に疑問を持ちながらも、夢悠は仕方なく、家庭科準備室でまたしても執事服に着替えることにした。
一方、一番被害にあったのは姫乃だった。
全身びしょ濡れになっただけでなく、クッキーが駄目になってしまったのだ
「ご、ごめんなさい」
何度も謝る雅羅。
姫乃はまだまだ作ったクッキーがあるからと笑って許した。
すると家庭科室の扉を開いてルカルカが入ってきた。
「チョコレートがあったらもらおうかと思って来たんだけど……大変なことになってるみたいね」
ルカルカは水浸しになった家庭室を見て困ったように笑う。
「お菓子だったら用意あるけど、いる?」
ルカルカは持ち込んだ荷物にお菓子があることを説明し、パーティーに運んでおくと生徒達に話した。
着替え終わった夢悠は瑠兎子と一緒に『たま☆るコーヒーゼリー』を持ってポミエラの元を訪れた。
「ポミエラの様子はどう?」
夢悠が尋ねると朔夜が首を横に振って返事した。
夢悠はポミエラに近づく。
「ポミエラ、これはオレ達からのプレゼント。食べてみな、元気が出るからさ」
夢悠がポミエラの前に『たま☆るコーヒーゼリー』を出すが、お腹が空いてないからと断られてしまう。
すると、ポミエラのお腹が怪獣のうめき声のような大きな音がならせた。
「やっぱりお腹が空いてんじゃん。食べなよ」
ポミエラが頬を赤く染める。
夢悠はポミエラから母親が午前中に帰る予定だから、昼ごはんを食べていないのだという話を聞かされていた。
ポミエラは弱々しくスプーンを手に持つと、夢悠が持った皿から『たま☆るコーヒーゼリー』をすくって口に運んだ。
「……おいしい」
ポミエラが言葉を漏らす。
夢悠がポミエラの手を掴んで皿ごと渡す。
ポミエラはゆっくりだったが、味わって綺麗に食べきった。
夢悠は皿とスプーンを受け取ると、俯いているポミエラに笑いかける。
「ちゃんと食べてもらえて、よかった」
「ポミエラちゃん、食べ終わったらいうことがあるでしょう」
「……」
瑠兎子に言われてポミエラは小さい声で「ごちそうさま」と言っていた。
「よくできました」
瑠兎子がよしよしと頭を撫でる。
「……お母様」
すると、ポミエラはポロポロと涙を流し始めた。
「おい、瑠兎子」
「ご、ごめん」
予想外のことに慌てる瑠兎子。
そんな中、朔夜がアンネリーゼに買ってきた花束を渡す。
「アンネリーゼさん。これをポミエラさんに」
アンネリーゼは朔夜から花束を受け取ると、ポミエラに贈った。
「ポミエラさん。パーティーはまだ始まっていませんが、わたくし達からプレゼントですわ」
アンネリーゼはポミエラに花束を渡すと、重ねるようにして手を握りしめた。
「黄色のカーベラの花言葉は究極愛。白いガーベラには希望の意味が込められていますの」
ポミエラは涙を止めて花束の中央に飾られたガーベラの花を見つめる。
「ポミエラさんにはどんな時でも、わたくし達がいますわ。お母様もきっと大丈夫ですの。なぜなら助けにいった人たちは、とってもお強いのですわ」
アンネリーゼはニッコリと笑いかけると、ポミエラにも笑うように訴えた。
「なぁ、ポミエラ。少し空を飛ばないか?」
すると、壁にもたれ掛って様子を伺っていたカルキノスが近づいてきて言った。
「少しは気分が晴れるかもしれないぞ」
ポミエラは少し考えた後、こくりと頷いた。
「では、行こうか」
カルキノスはポミエラを大きな背中に乗せて空を飛んだ。
気持ちのいい空だった。
なのにポミエラはカルキノスにしがみついて背中しか見ていない。
「ポミエラ、母親のどこが好きなんだ?」
心地よい風に乗りながらカルキノスの声がポミエラに届く。
カルキノスの質問にポミエラは暫く考えた。
そしてカルキノスの背中に頬を押し付けて寂しそうに話し始めた。
「お母様は全然お家に帰ってきませんの。だからわたくし。お母様のことはあまりわかりませんの……」
「そうか。悪い」
カルキノスが謝罪すると、ポミエラは背中に顔を擦り付けたまま首を振った。
「でも、毎日お手紙が送られて来ますの。その日のお仕事やちょっとしたこと。たまに写真やプレゼントもついてきますの。だからわたくしいつもお母様の帰りが待ち遠しかったのです」
ポミエラの声に少し元気が戻ったようだった。
カルキノスには言葉に乗せて、ポミエラの母親に対する強い想いが伝わってくるようだった。
カルキノスはポミエラの力になりたいと考え、ひとつ提案した。
「……なら今度は自分から迎えに行ってはどうだ?」
カルキノスが眼下を指さす。
そこには蒼空学校傍に停泊する飛空艇の姿があった。
「どうする?」
「……」
カルキノスの背中からポミエラの体温共に、身体が震えているのが伝わってきた。
カルキノスの肩に置かれた小さな手に力が入る。カルキノスはその手を沿って握りしめてあげた。
「わたくし、行きますの。お母様に早く会いたいですの!」
カルキノスはきっと、この日の出来事はポミエラが大人になるための大きな礎になるだろうと感じた。
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