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ブラッドレイ海賊団2~その男、ワイバーンを駆る者なり~

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ブラッドレイ海賊団2~その男、ワイバーンを駆る者なり~

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●第2章 それぞれの接近

 “黒髭”が呼び出された場所に向かって出航した後、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)は港を駆け回って、“黒髭”や空賊の動向について、自分で情報を集めていた。
「えっと……今回は黒髭さん依頼受けて動いているみたいですけど……和輝さん」
 ラズィーヤからの依頼で動いているという話を聞いたパートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が話しかけるけれど、自分で情報を集めたいのか、和輝は変わらず、己で港を駆け回る。
「全く……アポも取らないで黒髭追尾ですか……」
 もう1人のパートナー、安芸宮 稔(あきみや・みのる)もやや呆れつつ、和輝の後を着いて回った。
「それだ!」
 話を聞き回っていた和輝は、黒髭の海賊船が最近、港に立ち寄って補給をしていた話を聞きつける。
 それを詳しく聞きいた和輝は、クレアと稔と共に、小型飛空艇に乗り、港を飛び立ち、黒髭の海賊船の後を追った。



 特殊メイクの技術と素材で作られた、人の顔を象った超精巧なマスク――スパイマスクαと晒しを用いて、顔と体型を変えたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、単身、小型飛空艇に乗り、上空をブラッドレイ海賊団の船を捜して、駆っていた。
「見つけたわ……!」
 ブラッドレイ海賊団の船を見つけたローザマリアは、小型飛空艇の高度を少し落として、海へと飛び込んだ。
 そして、まるで長いこと漂流していて助けを待っていたかのように、ぐったりとした様子で、船へと近付いていく。
「あれは……?」
 辺りの海へ、空へと気を配っていたブラッドレイ海賊団の一員が、彼女の姿を見つけると、共に見張りをしていたもう1人の団員へと声を掛けた。
「漂流者か!?」
 もう1人の団員もそれに気付き、ローザマリアを見る。
 波間に見え隠れする顔立ちから女性ではないかと考えた2人は嬉々として、小型ボートを下ろし、彼女を救い上げた。
「大丈夫か?」
「……はい……」
「とりあえずは船に戻って……だな」
 2人はローザマリアを船へと連れて帰り、一室へと導くと、ぐったりとした様子を見て逃げない、暴れないとでも思ったのか、ロープで縛るなどはせず、外から鍵を掛けるだけに留めて、一旦、持ち場へと戻っていった。
「……引っかかってくれて、ありがとう」
 扉の内側から外の様子を窺ったローザマリアは2人の海賊たちに感謝して、時が来るのを待った。



「人型で主をお守りし、共に戦うのもいいが、魔鎧として主に纏われ鍛えた技を使っていただけるのもまた至福……!」
 魔鎧であるアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は、銀の装飾が施された黒いロングコートへと姿を変え、パートナーであるグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に纏われる。
「ガディ、今日は思い切り暴れていいぞ」
 グラキエスは、ガディと名付けた黒色のレッサーワイバーンの背を軽く叩きながら、声を掛け、ブラッドレイ海賊団の船へと向かう。
「うむ、グラキエスもガディも楽しそうで何より。ガディほど気性の荒い個体となれば頻繁に発散させてやらねばならんが、暴れ回って問題ない場所ばかりでもないからな。今回の依頼はまさに渡りに船。存分に暴れ回らせてやろう」
 ハヤブサの名を持つ小型飛空艇、ヘリファルテに乗り、グラキエスの横を飛びながら、ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は2人――1人と1頭の様子を見て、頷くように首を縦に振る。
 アウレウスの力を借りて、グラキエスは龍の鱗をイメージすることで皮膚を硬質化し、自身の防御力を大幅に上げる他、ゴルガイスも含めた全員の防御が上がる力も用いて準備を整えた彼らは、見えてきたブラッドレイ海賊団の船へと降下していくと、船の方からレッサーワイバーンに乗った海賊が、飛び出して来た。
「近付けさせねえぜ?」
「望むところだ」
 向かい合いながら笑う海賊に、グラキエスもまた笑って対峙する。



 水着――パートナーが用意してくれた女性もの――を着用し、少し季節はずれではあるが、海水浴に向かうつもりのロン・ネーダー(ろん・ねーだー)は、それが海賊船であることに気付かないままだった。
 海水浴場はまだかと水着姿のまま、海を眺めようと甲板に出ようとしたところで、外から中に入ってこようとした男と肩をぶつける。
「ああ、ごめんなさい」
「ん? 見ない顔だな? それに水着姿とは……何処から、入った!?」
 ロンの顔と姿を見て、男は眉を顰め、彼の腕を掴もうとした。
「っ!」
 咄嗟に腕を引っ込めて避けたロンは男の脇をすり抜けて、船に乗った際、外側に停めていた小型飛空艇に向かう。
「待てコラ!!」
「待てと言われて待つ人は居ないよ!」
 応えつつ、辿り着いた小型飛空艇に飛び乗ると、急いで起動させて飛び立った。
「……あれ? 雅羅?」
 飛び立ちながら、ふと視線を上げると、甲板より上部にある船室の窓から雅羅の姿を見つけた。
「捕まって、る……? 助けないと!」
 小さな窓から詳細な様子は見えないけれど、一瞬見えた表情は曇っていた。彼女が楽しんでその場にいるワケではないようだ。
 船から距離を取りつつ、小型飛空艇の上から機関銃を構え、追って来ていた男を狙う。
「お嬢ちゃん、楽しそうなことしてんのな」
「!?」
 声を掛けられ振り向くと、レッサーワイバーンに乗った男がロンを見下ろしていた。彼の纏う服は、先ほど追って来た男と同じもの――仲間のようだ。
 海賊だとばかり思っていたために、敵は船の上だけだと思っていたが、空にも敵が居たらしい。
(挟み撃ち!?)
 男を狙っている場合ではない、と機関銃を下ろし、小型飛空艇を素早く操縦し、レッサーワイバーンから距離を取る。
「雅羅は返してもらう!」
 船とレッサーワイバーン、それぞれから距離を取りつつ、ロンは大きな声でそう告げた。



 顔の半分を覆い隠す大きなゴーグルを掛け、魔鎧であるパートナーの四谷 七乃(しや・ななの)が姿を変えた全身を口元まで覆う漆黒のコートを纏った四谷 大助(しや・だいすけ)は、ローラーブレードのような形状をした装備――プロミネンストリックを用いて、空中を素早く移動していた。
「マスター……」
 いつになく、言葉少ない大助の様子に、七乃が不安そうに声を掛ける。
 その一言にすら彼は応えることなく、真っ直ぐと、ブラッドレイ海賊団の船へと向かう。
 次第に、視界の先に“黒髭”の船が見え、その先に目標となる相手の船が見えると、大助は海上を走るかのように、高度を落とした。
 彼が駆けると海水が飛沫を上げ、その軌跡を描く。
「何者かが来るぞっ!」
 彼に気付いた海賊団員たちはいくつかの砲台の先を向け、砲弾を放ってきた。
 その砲弾を交わすように海上を走る大助は、身を守ることを捨てて、尋常ならざる速度を得ると、自らの拳を振るって、船体を殴りつけた。
 一撃では、穴は開くことはないけれど、大きく凹む。
「こいつっ!」
 近すぎるため砲弾を向けることが出来ず、海賊たちは銃や弓を用意し、大助を狙った。それらが放たれる前に、大助は再び拳を振るう。
「マスター、あんまり無理はしないでください……」
 コートとなっている七乃が闇の化身となり、闇に対する耐性や物理的な攻撃力を増大させた。
 凹んだ船体に再び拳が放たれ、一部に人1人が通れるほどの穴が開く。
「迎え撃て!!」
 その穴から入っていく大助に、それまで彼を狙っていた海賊たちが内側から迎撃するよう、駆け出した。



(まぁ、雅羅のカラミティっぷりには若干ながら哀れ過ぎる所があるが、よもや人質使って黒髭呼んで復讐しようとは黒髭が原因だって分かるが性質が悪すぎる……人質の有無、安否は問わず思いっきり奇襲をかけさせてもらおう)
 “黒髭”海賊団より先に、単身、小型飛空艇ヘリファルテを駆り、ブラッドレイ海賊団の船へと向かった試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)は、そう思いつつ、見えてきた船に向かって、小型飛空艇を降下させた。
 六連ミサイルポットの先を船に向けると、奇襲に対して、騒がしくなりつつある甲板に向かって、ミサイルを乱射する。
 甲板上に、今のところ、雅羅の姿は見えないようだが、出て来ようが知ったことではない。
(雅羅だし自分の身は自分で何とかするでしょう)
 そう考えるルレーブは、甲板に出ている海賊たちの戦力を削ぐように、ミサイルを乱射する手を止めない。
 そうしているうちに“黒髭”海賊団の船が近付いてきた。
(……相手のお目当て黒髭だし全部相手にするの面倒だし)
 ミサイルの攻撃に巻き込まれ、倒れた者たちや怪我を負った者たちを見回すと、ルレーブは小型飛空艇を操縦し、高度を上げ、その場から離脱する。