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学食作ろっ

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学食作ろっ
学食作ろっ 学食作ろっ

リアクション

 
 
 
 ■■ ようそこお披露目会へ ■■
 
 
 
「さーて、それじゃみんな元気に『いっただきます!』。ミニコンサートをはじめるよ」
 滝宮沙織の協力もあって出来上がった舞台に上がると、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は元気に歌い始めた。
「カメラの角度はこれくらいで大丈夫かしら?」
「良いと思いますよ。結構周囲の雑音も拾ってしまっていますが、これも臨場感のうちですね」
 セラフが調整したwebカメラからの動画をパソコンで確認し、湯上凶司がオーケーを出す。学食のお披露目会の様子はリアルタイムで流されている。この様子を見て、お披露目会に来てくれる人もいるだろう。
「それって、何かレポートしたら流してくれるー?」
 シヅル・スタトポウロ(しづる・すたとぽうろ)がカメラを指さして凶司に尋ねた。
「ええ、いいですよ」
「よっしゃ、せっかくのお披露目会、オレのレポートで盛り上げてみせるぜ! しっかり映してくれよー」
 シヅルはマイク片手に学食を回り始めた。
「新しくなった学食は、なんと三面ガラス張り。晴れてる日にゃ照明もいらねーくらいだな。けど、紫外線はばっちりカットされてるから、夏だって問題なしだぜ。んで、こっちには写真の展示がされてるから学食に来たら是非見てってくれよな。ここに飾る写真や絵も大募集中〜! なんならオレがモデルになってやってもいいんだぜ」
 面白可笑しく解説しながら、シヅルは食事をしていたニーアの前にマイクを突き出した。
「新メニューの味はどうだ?」
「やっぱ、学食と言えば大盛りカレーだよな!」
 カレーなのにMy箸で器用に食べながらニーアは答えた。
「このドラゴンカレーって奴、何が入ってるのかスパイシーでいいよな。箸も進むぜ」
 まさしく箸を進ませながら、ニーアは豪快にカレーを平らげてゆく。
「美味そうだな。オレも後で食ってみよう」
「食べるんなら、さっき食べたラーメンも美味かったぜ。上に載ってただんごが最高!」
「カレーとラーメンは学食の華だもんなー。他にも美味いもんがたくさんだから、ガッツリ食べてけよー」
 取材協力ありがとうとニーアに礼を言って、シヅルはレポートを続ける。
「ここのコーナーは円テーブルになってるんだぞ。空き時間に仲間で集まるときには、円テーブルっていいよなー。大皿盛りを頼んで分け合って食べたらきっと楽しいぜ」
 目に付いたものすべてを口にしながら、シヅルはどんどん歩いて行く。
「お、あそこに見えるのは執事とメイド……って、学食にかー?」
 デザートを載せたプレートを配っている遠野歌菜と月崎 羽純(つきざき・はすみ)に気づくと、シヅルは今度はそちらに近づいた。
「それも新メニューだったりするー?」
「ああ。提案されたスイーツを洋風と和風に分けて盛ってある。良かったら試食してみないか?」
 執事服を歌菜に着せられた羽純は、シヅルにプレートを差し出した。
「オレも食っていーの? んじゃ遠慮無く、っとー。こっちは洋風かな?」
「ああ。洋風の方が品数が多いな。シャルロット、プチカップケーキ、リンゴのコンポート、野菜ドーナツ、パンプキンプリン、アイスクリーム、シュークリームにバウムクーヘン、あとは歌菜の作ったパウンドケーキといったところだな」
 羽純が答えると、歌菜がもう片方のプレートを見せる。
「ちなみに和風は、お汁粉と芋羊羹、抹茶アイスと黒ごまプリン、抹茶ロールケーキですよっ♪」
「アンケートで好評なものは、新メニューとして学食に登場する可能性もある。意見を言う良いチャンスだから食べに来ると良いだろう」
 掛け合いのように羽純と歌菜が説明している間にシヅルはスイーツをぽいっと口に放り込んで味見する。
「うん、味も上々。これを見てる女子、もちろんスイーツ好きの男子も学食までダッシュだー!」
「待ってまーす♪」
 歌菜はカメラに良く見えるようにプレートを少し傾けて、にっこりと笑顔でアピールした。
 
 
「お待たせ」
 お披露目会の様子を写真に撮ってきた柚木貴瀬は席に戻ると、きょろきょろと周囲を見回している柚木 郁(ゆのき・いく)を見て笑みをこぼした。
「郁、学食が珍しい?」
「がくしょく……いく、はじめてきたけれど、きれいできらきらで、とってもすてきなところなの!」
「綺麗なだけではなくて、美味しいものもいっぱいだよ。今日はおなかいっぱい色々と食べて帰ろうね」
「うん! いくもいっぱいたべるのー」
 にぱーと良い笑顔の郁と、一緒に来た柚木 瀬伊(ゆのき・せい)と共に貴瀬は料理を取りにいった。
「ふふ、こういうのは端から端まで全種類全メニュー制覇しないとね」
 料理を撮るときにメニューは確認済み。貴瀬は取り皿に順に料理を載せてゆく。
「いつも夜食まで作ってやっているというのに……どこにそんな量が収まるんだ?」
 見ている自分の方が満腹しそうだと、瀬伊は若干胸焼けを感じつつ、貴瀬の取りっぷりを眺めた。そんなに食べなさそうな外見をしているのに、貴瀬はよく食べる。それも、いつの間にか大量に食べているのでたちが悪い。
「ふふ、食べ盛りの伸び盛りだもの。仕方ないと思わない?」
「思わない」
 考える間もなく即答すると、瀬伊は貴瀬に釘を刺しておいた。
「他の人間の分まで食べてしまうなよ?」
 料理は大量にあるからそんなことはあり得ない、と思うのだが、あり得なくもないのが貴瀬の食欲の怖いところだ。
「さすがに全部食べるのは申し訳ないから、全部はとらないよ?」
「……食べられないからじゃなく、申し訳ないからとらないのか……」
 立ち居振る舞いも外見も楚々としているのにと、瀬伊は大量の料理を取る貴瀬に呆れ混じりの視線を向けた。
「いくね、いちごのあまあまさんがほしいのー」
 郁はデザートコーナーに突撃すると、背伸びしてスイーツを眺め……そしてしょんぼりと肩を落とした。
「いちごさん……」
「今は季節じゃないからね」
 うなだれる郁の頭に手を置いて、貴瀬は他のスイーツを指す。
「けど、いちごさん以外にもおいしいスイーツはあるんだよ。おいもさんとか、ドーナツ、それからあっちにはアイスクリームもあるからね」
「あいすくりーむ!」
「盛り合わせのプレートをもらってあげるね。そしたらいろいろ食べて好きなのを探せるだろうから」
「あまあまさん〜♪」
 元気を取り戻した郁と一緒に、貴瀬と瀬伊は新メニューを味わった。
「フィッシュアンドチップスって、美味しいともまずいとも聞くけど、こうやって食べてみると結構いけるね」
 貴瀬はビュッフェだけでなく、セットメニューもカウンターで頼んできてそちらもぺろりと平らげている。がつがつと頬張るのではなく、味わうように行儀良く食べているのに、入ってゆく量だけが尋常でない。
 見ているだけで満腹になりそうだと瀬伊が思っていると。
「おいもさんー、瀬伊おにいちゃんにもおすそわけなの。あーん♪」
 郁に芋羊羹を口元に差し出され、瀬伊は固まった。
「ほら、早く口開けて」
 貴瀬にせっつかれ、ままよと開けた口に郁が芋羊羹を入れてくれる。
「……ありがとう」
 照れて口元を押さえる瀬伊を貴瀬がからかう。
「瀬伊も最近ブラコン気味じゃない?」
「むしろ貴瀬の教育方針に問題がある気がするが……あ、郁、とりあえずじっとしていろ」
「みゅ?」
 瀬伊はハンカチを取り出して、アイスのついた郁の口元を拭いてやった。
「おくちについてた、の? えへへーありがとうなの」
「アイスを食べるのもいいが、甘いものばかりでは大きくなれないのだから、きちんとご飯も食べるんだぞ」
 瀬伊に注意され、郁は上目遣いにじっと見上げる。
「……いく、おかずさんよりも、あまあまさんがたべたいなぁ……だめ?」
「そんな顔しても……」
 駄目だ、と言おうとした瀬伊は、郁のきらきらじーっとした目に捕らえられ、その先を言えなくなってしまう。
「……全く仕方ないな。今日だけだからな」
「瀬伊おにいちゃんありがとー。あまあまさーん、あまあまさん、うれしいなっ」
 郁の目に負けてしまった瀬伊が情けない顔つきになるのに貴瀬はカメラのシャッターを切った。自分たちのテーブルだけでなく、周囲で試食をしている他の生徒たちの様子も、カメラに収める。宣伝のお手伝い、という名目で来ていることだし、何よりも。
 皆が思い思いに楽しんでいる光景を撮るのは、とても楽しいことだから。
 
 
「メニュー開発なんて聞いてたから、どんなものが出てくるかと思ってたけど……」
 案外普通のものが多くて良かった、と東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)はだんごラーメンをすすった。
「うん、やっぱりこれぞ学食! って料理はいいよね」
 珍しいものも良いけれど、学食で食べるならそんなに奇抜じゃないものの方が秋日子は好きだ。
「あ、でもこっちの焼き鳥ピラフもいいな。定番の中にちょっと和のテイストって、心惹かれるよね。デザートもいろいろあるみたいだから楽しみだな〜」
 どれも美味しいと、秋日子は試食を満喫する。
「作る方は苦手けれど、味音痴ってわけじゃないはず! ……だから試食だってちゃんと出来……てるよね?」
 まずいと感じるものが無いことに逆に不安になってきて、秋日子は一緒にきたパートナーの奈月 真尋(なつき・まひろ)に聞いてみた。
「ウチも秋日子さんと同じで、料理はあんまし得意じゃねぇけんど味音痴じゃないですから。まともな評価はできるっち思いまっせ」
 相変わらずいろんな地方の方言が混ざった謎の訛りでそう言うと、真尋は食べたものの評価をアンケートに書き込んでいった。
「うどんは美味いけんど、ラーメンは男が作ったと思うと美味しさも半減するっちゅうもんです」
「ちょっと真尋ちゃん、なんか評価が偏ってない?」
「問題ないとです。こっちの地祇カレーは、もうちっと調味料とかで味足したら、更に美味しくなるんじゃねですかね? カレーには隠し味がつきものどすし。ウチは日本人やし、ここは醤油をちょべっと入れて……」
 どぼぼぼぼ、と真尋は大量の醤油を地祇カレーに注ぐと、ぐりぐりとスプーンでかき混ぜた。
「隠し味っていうか……それだけ入れたら全然隠れない味になると思うんだけど」
「こんなもん入れんと、味に変化ばつけられまへんえ」
「でも入れすぎじゃないのかな? ……いや、逆に少なすぎ? ……ん、よくわかんなくなってきた」
 少し入れる、とか適量とかいうのに弱い秋日子は混乱する。
「まぁ、見た目はアレですけど、味はどげんなっとるかわがんねです」
「あは、あはは……そうだよね、見た目より味だもんね。……でも味はどう、なのかな?」
 秋日子は不気味に醤油がマーブル模様を描いているカレーを、引きつった顔で見た。何かが間違っている気がひしひしするのだけれど、何が違うのか秋日子には指摘できない。
「カレーに醤油かけて食べる人もいるから……いいのかな?」
「その通りどす。まずは食べてみんしゃい」
「う……それ食べるのはちょっと遠慮したいかも」
 あははと秋日子が乾いた笑いで拒否すると、真尋はきょろきょろと見回して近くを通りかかったシヅルに醤油だばだば地祇カレーを突きつける。
「ちょいそこん人、これ食べてくんなし!」
「味見か、よし、じゃあオレが自らレポートを……ってなんだコレ、メシまで真っ黒じゃねーか。罰ゲームかっ?」
「ごちゃごちゃ言っとるかいで、はよぅ食べとおせ」
「…………。よし、火傷を恐れぬオレの芸人魂を見ろ! って芸人じゃねーけどなっ!」
 カレーと醤油のまだらルーを醤油ごはんと共にスプーンで掬うと、シヅルはぐっと息を呑んで口をがばっと開けた……。
 
 
 緑ヶ丘キャンパス学食が新しくなったと聞いて、伏見 明子(ふしみ・めいこ)はモヒカンたちを連れて偵察にやってきた。
 安価で腹を満たせる学食は、学生のお財布に易しい貴重な存在だ。蒼空学園の食堂にまで出張してくるのもどうかと思ったが、波羅蜜多実業高等学校の仲間を連れて入っても問題ない所なのかどうか、ちょっとチェックしておこうと思ったのだ。
「ヒャッハー! 折角のうどんに普通の食材とか面白くねえぜ! ここは俺様が丹誠込めてカツアゲしてきた自称小麦粉を……」
「よしおまえらそこになおれ♪」
 テンションの高いモヒカンを前に並ばせると、明子は腕まくりをし。
「荒野の基準で街で振る舞うんじゃないこのばかちん! つーかカツアゲかせめて自分で育てろ!」
 ドカバキゴキッ。
 とりあえず聞き分けのない子に身体に躾を教え込んでおいて、明子は行くわよと食堂に向かった。
「やっぱり新しいとキレイね。アンタたち、ビュッフェって分かる? 要するにまあ、食べ放題ってとこかしら」
 明子はモヒカンたちに説明してやった。とりあえずTPOをわきまえさせる程度には教育しているから、回りへの迷惑については大丈夫。大丈夫……?
「ヒャッハー! 水と食料をよこ……」
「普通に食べろ奪わんでも普通に出てるわそこ不思議そうな顔しない!」
 一息に怒鳴って、明子は肩で息をつく。
「ったくもう……」
 他の試食客に迷惑をかけぬように目を光らせながら、明子はモヒカンと共に円テーブルを囲んだ。
 鮭とキノコのホイル包み焼きを食べつつモヒカンたちを眺めてみれば、とり丼を書き込んでいる子、焼き鳥ピラフを取るのに焼き鳥ばかりを集めて来た子、ハンバーガーの肉のうまみに涙を流している子……。
(環境が環境だかしやっぱり肉が好きな子が多いわねー。普段は弱肉強食でロクに食べられてないのもいるからなあ。なんかこっちが恥ずかしくなってくるくらいに嬉しそうだわ)
 普段から使うというわけにはいかないけれど、たまに食いっぱぐれた子を連れてくるぐらいの使い方は有りかも知れない。
 十分にモヒカンたちに食べさせた後、明子は席を立つ。
「もう帰るっスか?」
「うどんが人気そうだから、最後に一杯食べてご馳走様にしようかと思って。ああきっとあそこでうどん食べてるのは、陽子さんのファン軍団ね。このへんP−kO信者は多そうだわ」
「ヒャッハー! オレもうどん食うぜー」
 オレもオレもと立ち上がったモヒカンをぞろぞろつれて、明子はカウンターでうどんを注文する。
「えっと……ぶふぅ、干し首うどんだとう!?」
 さくらんぼ冷やしうどんの文字に、明子は思わず声を挙げる。
「大人気のうどんですがいかがでしょうか?」
 藤原優梨子が意味ありげに微笑む。
「パラ実だったらこっちの麺を試してみてよ。パラミタ伝統自称小麦粉手打ち麺! ヒャッハー!」
 湯島茜の呼びかけに、モヒカンがつられてヒャッハーと返す。
「い、いいわ……それをもらうわ」
 明子は覚悟を決めると、自称小麦粉麺のさくらんぼ冷やしうどんを人数分注文したのだった……ヒャッハー。