天御柱学院へ

なし

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蒼空学園へ

学食作ろっ

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学食作ろっ
学食作ろっ 学食作ろっ

リアクション

 
 
 
 ■■ お披露目会の彩り ■■
 
 
 
「学園に来るのも久しぶりだな」
 今は空京大学に通っているアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)だが、一時とはいえ、蒼空学園に所属していたことがある。新学食に新メニュー目白押しとくれば見逃せぬと、久しぶりに蒼空学園に足を踏み入れた。
 1人でゆっくりと新メニューの試食をするつもり……で来たのだけれど、ふとコートの裾の違和感に気づいて見れば、そこにはパートナーのペト・ペト(ぺと・ぺと)がくっついていた。
「何やってるんだ? ペト」
「くっついたのです」
 てへっ、とペトは笑った。
 ナガバノモウセンゴケの花妖精であるペトは、何かにつけてペトペトと何にでもくっついてしまう。
「くっついたのはいつものことだが、ここまで黙ってたってことは故意犯じゃねえか」
 コートの裾にくっついたのはもしかしたら偶然なのかも知れないが、何も言わずそのまま運ばれてきたのはわざととしか思えない、とアキュートに言われると、ペトは悪びれずに言い返した。
「アキュートだけ試食会なんて、ずるっこなのですよ〜」
 ぐっ、とアキュートは返す言葉を失った。ペトには内緒で出てきたつもりだけれど、お見通しだったということか。どうりで無言で運ばれてきたわけだ。
「仕方ねえ、一緒に食うか?」
「わ〜い。一杯食べるのですよ〜」
 アキュートがコートの裾から引きはがしてやると、ペトはアキュートの肩に登って、ぴょんぴょんと跳ねた。
「あんまりはしゃいでると、またどっかにくっつくぞ。皿にでもくっついたら試食と間違われて食われちまうかもな」
「ペトを食べたらダメなのです〜」
 肩の上で少しだけ大人しくなったペトだけれど、料理のところまで来るとまたはしゃぎだす。
「ペトはあの鮭とキノコのホイル蒸しとお芋さんの天ぷらとリンゴのコンポートが食べたいです」
 ペトはあれもこれもと少しずつ料理を取って、小さな身体のどこに入るのかと思うくらい旺盛な食欲で食べた。
「本当に良く食うな」
「おいしさが止まらないのです。秋の味覚がペトに語りかけてくるのですよ〜。よーし、ペト、歌っちゃうのです」
 どこからか小さなギターを取り出すと、ペトは歌い出した。

『♪
  ふ〜ゆ〜の〜 あしお〜と きこえ〜そう
  り〜す〜の〜 おやこ〜が あせり〜だす〜
  そんな〜に〜 ぱんぱ〜ん つめこ〜んで〜
  ほっぺ〜が〜 いまに〜も はじけ〜そう〜
 
  くりいもりんご〜 まだは〜い〜る〜?
  かあさ〜ん いがぐ〜り むりす〜ぎ〜る〜
  なししゃけぎんな〜ん まだは〜い〜る〜?
  かあさ〜ん ぎんな〜ん くさす〜ぎ〜る〜
 
  みんな〜の〜 おなか〜も〜 はじけ〜そ〜う〜〜〜 ♪』
 
 独特なセンスではあったけれど、ペトは心から楽しそうに歌った。
 ペトの歌を聴いて、それまで学食の舞台でミニコンサートを行っていた綾原さゆみが、食事をしているアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の席までやってきて、
「アディ、一緒に歌お☆」
 と笑顔でアデリーヌの腕を取った。
 料理の試食をしていたアデリーヌは、いきなりのことに驚いた。
「でもわたくし、ちゃんと歌えるのかどうか……」
「大丈夫。楽しく歌えばそれでいいのよ。そしたらきっと、聞いてる人も楽しんでくれるから」
「で、でも……」
 アデリーヌは元々引っ込み思案で人前に立つのは苦手だ。パートナーの歌を聴きながら試食をするだけのつもりだったのに、不意打ちに舞台に出され、戸惑ってしまう。
 そんなアデリーヌに心配ないよと笑顔で言うと、さゆみは即興で歌を歌い出した。
 歌詞の内容は学校でよくあるような日常の1コマ。
 友だちと学食にやってきて、賑やかにバカ話。普段は大人しい子がはじめた恋バナに、固唾を呑んで聞き入ったり。突如勃発した早食い競争に巻き込まれたり。
 そんな歌をその場のノリと気分で即興でさゆみは歌った。
「どうしたの? アディも歌ってよ」
 さゆみに促されたけれど、混乱している中で即興歌にあわせて歌うのはかなり難しい。
「だったら、この間歌った歌にするね。ほら、あの宿題で焦る歌……」
「はい、それでしたら記憶していますわ」
 少しだけ安心した様子のアデリーヌに、いくよ、と声をかけ、さゆみは歌いだした。
 寝坊して大慌てでやってきた教室。間に合ったとほっとしているところに、宿題やってきた、と友だちの声。今日の日付と出席番号を比べてみれば、自分が当てられることは必至。冷や汗を流しながら宿題をやっていると、無情にも鳴り響くチャイムの音……。
 明るいアップテンポの歌がどこかアニメソング風になるのは、元々さゆみがコスプレイヤーをしているせいもあるかもしれない。
 可愛い系の声で明るく歌うさゆみに対し、アデリーヌは綺麗な声でデュエットする。
 内心冷や汗を流しながらも、アデリーヌは何曲かをさゆみと共に歌うと、まだ上気した頬で席に戻った。
「急にごめんね。でもどうしてもアディと歌いたかったの」
 謝るさゆみにいいえとアデリーヌは首を振る。
「緊張はしましたけれど、悪い気分ではありませんわ」
 何処か充実感のようなものを感じながら、アデリーヌとさゆみは2人で食事をしたのだった。