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いけないご主人様・お嬢様をねじ伏せろ!

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第四章 千客万来・メイド喫茶 2

「記念撮影ですか? かしこまりましたっ!」
 もともとがコスプレイヤーということもあり、こうしたノリにも客あしらいにも長けているさゆみにとって、メイド喫茶での接客はそう難しいものではない。
 しかし、そのパートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ) はと言えば、こちらは正直接客には向いていないと言わざるを得なかった。
「お、お待たせいたしました……」
 緊張でコチコチになりながら、どうにかこうにか注文の品を運んできた……はずが。
「え? 俺、こんなの頼んでないけど……?」
「えっ? ……あっ! も、申し訳ございませんっ!」
 と、緊張し過ぎで品物を間違ってしまったり。
「ご、ご注文の方はもうお決まりですの?」
 注文を聞きに行ってみると、なぜか妙にツンデレ風になってしまったり。
「お、お待たせいたし……きゃっ!?」
 あげくには、途中でこぼしそうになってしまったり。
「も、申し訳ございません……」
 もともと内気で引っ込み思案なアデリーヌが、だいぶ無理して接客に挑戦しているのである。
 それでこれだけ立て続けにミスが出れば、泣きたくなるのも無理はない……が。
「ああ、いいよいいよ。次、頑張ってね?」
 意外なことに、多くの「ご主人様」は機嫌を損ねるどころか、逆に彼女を応援してくれた。
 そしてさらに意外なことに、必ずしも接客が得意でないはずのアデリーヌを目当てに何度も通ってくるお客さんまで現れたのである。
 アデリーヌ自身には知る由もなかったことだが、「ドジっ子メイド」の需要は安定して存在しているし、一見すると美形でスタイルもいいアデリーヌだけに「ギャップ萌え」の要素も加わって、予期せぬ人気を構築していたのである。
 人間万事塞翁が馬。何がうまくいくかわからないものである。

 ツンデレといえば、もっと大変なことになっているのがライオルドである。
 見た目上は全く問題なく、どうにか笑顔を作ることまではできても、愛想良く振る舞うというのがとにかく苦手なのである。
「お待たせ。じゃ、また何かあれば呼んでくれ」
 ちょっと気を抜いてしまったのか、完全に男言葉に戻っている。
「……え?」
「何か?」
 あっけに取られるお客さんに、つい鋭い視線を向けてしまうライオルド。
「あははは……えーと、今流行のツンデレってやつです、ご主人様。それではごゆっくりどうぞー」
 微妙な空気を察して、すかさずエイミルがフォローに入り、ライオルドを回収する。
 というか、フォローが必要な回数が多すぎて、この二人はすでに二人一組である。
「……だから向いてないと言ったろう」
 ため息をつくライオルドに、ちょっとだけ悪いことをしたかなぁと反省するエイミルであった。

「メインディッシュはお肉にしますか? お魚にしますか? それとも、カレーうどんにしますかー?」
 どさくさにまぎれてカレーうどんを売り込んでいるのはもちろん蓮である。
「か、カレーうどん? そんなのメニューにあったっけ……」
「いわゆる裏メニューです! 丹誠込めてお作りしました!」
 裏メニューというか、蓮がいつのまにか勝手に作ってねじ込んだメニューであり、蓮と厨房の数人以外は存在すら知らない。
 蓮が接客担当になった時以外ほぼ食べることができないという意味では、まさにレア度ナンバーワンのメニューである。
「えーと……じゃ、それお願い」
「かしこまりましたっ! 少々お待ちくださいねー☆」
 キラキラ瞳を輝かせて猛プッシュされては、カレーうどん以外を選ぶのは難しい。
 かくして、ネオ秋葉原でもカレーうどんの布教が着々と進行していくのであった。

「ちょっと待て。俺は執事喫茶だとばかり」
「だって執事喫茶は別のお店なんだもん」
 そんなやり取りをしているのは、夏侯 淵(かこう・えん)とパートナーのルカルカ・ルー(るかるか・るー)
「で、百歩譲ってメイドはわかったとして、なんで俺までネコミミメイドなんだ」
「似合うから」
 淵の抗議にも、ルカは全く取り合わない。
 もっとも、淵もすでにネコミミメイドの服に着替えている辺り、そこまで本気で抗議する気はないのかもしれないが。
 そしてその隣にはもう一人、全く同じ「執事喫茶のはずが……」という手でころっと騙されてネコミミメイド隊入りさせられてしまった高峰 雫澄(たかみね・なすみ)の姿があった。
「何で僕はメイドの格好をしてるんだ……おまけにネコミミだなんて!」
 まあ、着替えてからそんなことを言ってもすでに手遅れである。
 さらに、「ただ接客業とだけ聞いてきた」というツンデレ落語アイドル、若松 未散(わかまつ・みちる)も成り行きでネコ耳メイド隊入りである。
「たまには普通のバイトもしてみたかったのに……どうしてこうなった!」
「どうしても」
 さすがはルカ、これも一言でバッサリである。
「まあ、引き受けたからにはやるけどなー」
 そう言いながら、しげしげとルカを眺めて、にやりと笑う。
「それにしても。ルカ、胸のあたりきつそうだな?」
「うん、ちょっとね」
 あっさりと認めるルカ。
「否定しないんだ」
「うん」
 これではいじっても面白くない、ということで未散は雫澄の方にターゲットを移す。
「なすみん、もう男の娘でいいんじゃないの?」
 これは狙い通り、真っ赤になって否定する雫澄。
「いやいやいやっ、僕なんて! 未散さんとルカルカさんは綺麗だし、淵さんは可愛いし。男の僕が、何でこんな格好を……」
 その言葉に、今度は淵が慌てて反応する。
「いや。俺は男だから! 外見は一寸女の子に見えなくもないが男だからな?」
「そ、そうなの?」
 演技ではなく本気で驚いた様子の雫澄に続けて、未散がからかうように言う。
「違和感仕事しろ、って感じだな」
 と、そこへ予期せぬ方向からカウンターが飛んできた。
「未散はスカートずいぶん短いよね。それで平気なの?」
「うっ! ま、まあアイドルの仕事じゃこれくらい……」
 やはり未散をもってしても、口ではルカには敵わないようであった。