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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(前編)

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   11

 フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は、【ディテクトエビル】で、魔術師が姿を隠しているのを察知した。
 魔法協会本部の一階は、市役所と同じようにホールになっており、受付の長机が一般人と協会を分けている。その一般人側の堅い長椅子に腰かけていたシューベルトは、指揮者よろしくさっと手を上げた。
 ホールの真ん中にいた讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)は【恐れの歌】を口ずさんだ。内容はともかく、音楽としてはどうだろうとシューベルトは思った。
 シューベルトが腕を下げた。
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は【破邪の刃】を使った。姿を隠していた魔術師の周囲に光の文字列が浮かび上がり、ソードブレイカーを弾き返す。
「噂の自動防御術式やな!」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)がその敵に向けて【火術】を放つ。
 続けてレイチェルは【武器の聖化】を使用、体当たりを食らわせるがこれも自動防御術式で弾き返されてしまった。
【恐れの歌】の影響もあり、ダメージはゼロではないだろう。現にこうして、姿を見せている。だが、魔術師はほとんど堪えていない。
「いきます!」
 レイチェルは魔術師の顔面を狙い、剣を振るった。
「うおおぉぉぉ!」
 一撃、二撃、その合間に泰輔が【火術】や【氷術】を放つ。だが、敵もさすがに饗団の幹部――おそらくシーアルジスト、それも相当の修行を積んでいるだろうとシューベルトは判断した――なかなか攻撃が当たらない。
 自動防御術式で弾き返された剣は、ホールにある机にぶつかり、花瓶を叩き割り、床を抉った。
 魔術師が躱した【火術】は椅子を燃やし、【氷術】で凍った書類は、衝撃で粉々に砕けた。
 シューベルトが手を振る。
「顕仁!」
 泰輔の声に応じて、顕仁が【召喚】される。
 突然人数が増えたことに、魔術師は驚いた。
「ここや!」
 泰輔が用意しておいたトウガラシ入りのパンを魔術師の口にねじ込んだ。
 ――ごくん。
 ほとんど条件反射でそれを飲み込んだ魔術師は、目を白黒させ、「ぎゃあ!」と叫んだ。
 こうなると、自動防御術式はまことに気の毒で、舌を出しながらぴょんぴょん跳ね回る魔術師を気絶させてやろうと思っても、攻撃は全て弾き返されてしまう。生憎、眠らせるための能力は誰も持っておらず、仕方がないので泰輔は更にパンをねじ込み、自動的に気絶するのを待つ他なかった。
 十五分後、シューベルトはホールを見渡した。
「これは少々、酷い有様ですね……」
 三人によって破壊しつくされた受付は、当分、使い物にならなそうであった。


「ねぇ、ゾディ。どうやって防衛計画を立てるわけ?  外からの攻撃を迎え撃つ必要だけ考えれば良いんじゃないの?」
 本部内をあちこち見て回りながら、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に尋ねた。
「いいえ、『獅子身中の虫』というケースを考えるべきかと思いましてね。今回攻撃をかけてきている『イブリス』という方は、元は協会の幹部だったというではありませんか」
「……なるほどね。敵は外から来るとは限らない、そういう訳なのね。」
「ねーねーテッツァ、ハブられたヤツらをあぶり出しするの〜? どうやって、どうやって?」
 アルテッツァの腕に掴まりながら、楽しそうに尋ねたのはパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)だ。
「ぱぴりお、これは遊びじゃないんだから」
「……んもう、魔導書のクセにうるっさ〜い〜!!」
 パピリオはヴェルに向けて、あかんべーをしてみせた。
「……パピリィ、どうあぶり出すかは、限られたスキルで考えてみますよ」
 アルテッツァは、メイザースから貰った本部の見取り図を広げた。
「それなら、街の地図と照らし合わせてみたら?」
 ヴェルは、一階の受付で手に入れた街の観光案内図を出した。
「そうですね……どこが襲撃されやすいか、計算してみましょう。あくまで確率の問題ですが」
 三人は、外から破壊されやすそうな場所――死角になっていたり、壁が薄そうな場所――を探して歩いた。が、結界のおかげで建物を壊すことは出来ない以上、門以外に正攻法で侵入することは不可能である、ということに途中で気が付いた。
 しかしアルテッツァは、一つ、気になる点があった。
 一ヶ所、観光案内図と本部の見取り図で明らかに距離が合わない箇所がある。観光案内図は簡略化されているのかもしれないが、この図はどう見てもおかしい。
「ねーねーテッツァ」
「うるさいわね、ぱぴりおは!」
「魔道書こそ、うっさい」
「どうしました、パピリィ」
「ぱぴちゃんと同じことしてる人間がいる」
 パピリオはずっとビデオカメラを回していた。そのレンズの先に、やはりカメラを弄っている男がいた。
 パラケルスス・ボムバストゥスだ。
 アルテッツァとヴェルは顔を見合わせた。
 無論、パピリオと同じく、記録のために撮影しているのかもしれない――パピリオは単に楽しんでいるだけかもしれないが――しかし、もしかしたら。
「ねーねー、あの人間、ぱぴちゃんが丸焦げにしてい〜い?」
 見ればパピリオの手の平に、炎が上がっている。
「覚えたばっかで使いたかったんだ、これ。それにこの世界だと、魔力が上がるんだよね〜? よ〜し、いっくよー」
 返事も待たずに【火術】を投げつけようとしたパピリオを、「おバカおバカ!」とヴェルが止めた。
 パラケルススが何をしているかは分からない。だが、間違いだとしても謝ればいい。
 アルテッツァは【奈落の鉄鎖】をパラケルススに向けて使用した。